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第1章
第17話 神聖魔法 対 闇魔法
しおりを挟む魔法を受けて、マントの毛並みが若干くすんじゃったような気がする。
「……、そういうことか」
一瞬、目を見開いた漆黒の魔王は、なにかに納得したようだ。なんのことかさっぱり分からないけど、気にしてもしょうがない。
聖霊騎士の1体が聖剣で斬りかかった。刀身の光が増し、斜めに虹色の軌跡が残る。
魔王はバックステップで斬撃を難なく避けると、背後に収めていた大剣を手に取り頭上に掲げた。
聖剣による一撃を躱されバランスを崩した聖霊騎士に大剣が振り下ろされようとしたとき、背後に続いていたもう1体の聖霊騎士が聖槍を突き出した。
穂先に押され、先行する衝撃波のような光の波がはっきりと見える。
「なかなかやる…」
攻撃から防御に構えを変えた魔王の大剣をすり抜け、漆黒の兜に聖槍が命中する。
「小賢しい!」
頭を振って槍をいなすと、2体まとめて葬ろうとでもしたのだろう。大きく横薙ぎに大剣を振るった。
前のめりに倒れそうになっていた聖槍の聖霊騎士はそのままの勢いで上空に、聖剣の聖霊騎士は後方に飛んで身を躱した。
『ごめん。だけど頑張って!』心の中で聖霊騎士を応援しながら、理希は急いで魔法一覧を確認し直す。
威力も攻撃範囲も分からないけれど、やはり対魔王に一番効果がありそうな、ホーリー・アローと同じ『神聖』魔法を選び、詠唱を始めた。
「イン・デウム・ウィデビムス・ルーメン」神の中に光を見るだろう
「我が名の前に平伏し、懇願することを赦そう」同時に漆黒の魔王も詠唱を始めた。
2体の聖霊騎士は崩れた体勢を立て直している。
「トゥム・クム・スプレンデト・フランギトゥル」それは輝きと共に砕け散る
「蒙昧な愚者に相応しい死を与えん」
「クラウド・オブ・デス」
漆黒の魔王の方が先に詠唱を完了した。黒い雲のようなものが湧き出し、聖霊騎士2体を一瞬でのみ込む。
「セレスチアル・ピルム」
遅れて理希の魔法が完成した。まばゆい光を発しながら長大な神槍が頭上に出現する。
漂っている雲の中から、輝きを失った聖槍と聖剣だけが地面へと落ちるのが見えた。
「ウィータント!」
無駄だとは分かっていたけど、理希は雲に向かって聖霊騎士に避けるように命じた。
続けて魔王に狙いを定め、神槍の投擲をイメージすると、アローとは比べものにならないくらい長い光の軌跡を残して山なり飛んだ。
神槍は軌道上にあった黒い雲を引き裂いて霧散させる。もうすでに倒され消滅してしまったのだろう、そこに聖霊騎士の姿はなかった。
魔王は大剣を盾のようにして斜めに構えている。正面から受けるつもりのようだ。
初めて使う魔法だからホーミングの効果があるのか、理希自身まだ知らない。アローを見た魔王はピルムにも『ある』と判断したのだろう。
残っていた8枚の魔法壁をあっさり貫通すると、魔王の大剣の一番厚い腹の部分に衝突した。砕け散った魔法壁に反射した聖なる光が、花火のように綺麗だった。
「ムオオオオォォォ!!!!!」漆黒の魔王が咆哮した。
地面を削り取りながら、後方へと押されていく。矛先から放たれる白い光が闇を圧倒し、姿が見えなくなる。
『間に合わなくてごめん。だけどこれで倒せるかも…』
ジリジリとした時間が過ぎ、激しく輝いていた光が消えた。
背景の色が元に戻り、視界が晴れる。
威力は地面の跡をみれば一目瞭然で、かなり後方まで押し込まれたみたいだけど、漆黒の魔王は何事もなかったように無傷で立っていた。
剣や鎧にもダメージはないようだ。
「くそぉ、全く効いてないじゃん」
魔法壁を簡単に突破したときにイケると期待しちゃった分、落胆する気持ちは大きかった。
聖霊騎士にも申し訳ないし、ちょっと立ち直れないかもしれない。
「解せぬ。これほどの魔法センスを持ちながら、何故障壁を使わぬのか…」
剣を下ろすと、魔王が口を開いた。
『障壁なんて存在を知ったのは今ちょっと前なんだから、無茶なことばかり言うな!』と、反論したかったけどグッと我慢した。自ら魔法歴が浅いって弱点を教える必要はないしね。
「我の相手を傀儡にさせたのは呪文詠唱のためか」
「クグツって…」少し腹が立った。
「あぁ、これは礼を欠いたな。これまで勇者とやらを何人も相手にしてきたが、貴様が召喚した神の使いの方がよほどの強者であった」
「はぁ…、そうですか…」
その聖霊騎士に完勝した自分はとんでもなく強いと、暗に誇示したいのだろうか。
「レジェンド・クラスの武器を惜しみもなく配下に手渡した、貴様の度量も気に入った」
「ど、どうも…」
「だが、分不相応な武器は身を亡ぼす。御使い共は武器に振り回されていたようだ」
「……」
神に祝福された聖霊騎士にも使いこなせない?
じゃあ、いったい誰が扱えるのだろうか? いくら希少な武器でも使える人がいなきゃ意味はない。
「コトキよ。我は愉快だ。そろそろ戦いの続きといこうではないか」
魔王は大剣を軽く一振りして、構え直した。
「え、ちょ、ちょっと待って」
次の手を何も考えていなかった。聖霊騎士を呼び出しても無駄死にさせてしまうだけだし…。
「待てだと?」
魔王は剣を肩に乗せ、担ぐようにして構えを解いた。
「…よかろう、再開最初の一撃は貴様に譲ろうではないか」
「ど、どういうこと?」
「詠唱中は攻撃せぬ。貴様の本当の実力を見せてみよ」
「え? 本当に? 攻撃しない?」
予想外の提案に理希は驚いた。普通の人だったらどんだけ尊大なんだよと嫌われそうだけど、魔王なのだから自信があって当然だよね。
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