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第1章
第16話 漆黒の魔王
しおりを挟む「ま、魔王だって?」
ただ者ではないとは思っていたけど、ちょっといくらなんでも急展開すぎるだろう。フクの奴、魔界にでも転生させたのだろうか。
「名を聞いたのなら、自らも名乗るのが礼儀だろう?」
「あっ、そか。ぼ、僕は理希といいます」
「ではコトキとやら、そろそろ決闘といこうか」
漆黒の魔王は大剣を片手で軽々と持ち上げると、正面に構えた。
「……」
これはもう何を言っても戦いを避けるのは無理そうだ。
なんでこんなに不幸なことばかりが続くのかと、嘆いている暇もない。
「どうした? その腰の物は飾りか?」
レイピアを抜こうとして、理希は考え直した。あの大剣をさばくのは到底無理だろう。
ジリジリと後ずさりながら、必死に思考を巡らす。
使い慣れている召喚系の魔法を使って、まずは時間を稼ぐことぐらいしか思いつかない。
「エスト・デウス・イン・コル・ムンドゥム。コジェト…」穢れない心に宿る神よ。召喚…
「変わった詠唱だな。古代語を使うか」
古代語? 気になるけど今はそれどころじゃない。
「ナイト・オブ・ディバイン」
光り輝く鎧を纏った聖霊騎士を3体召喚した。ストーンゴーレムとは違い、空中に浮いている。スラリとしたシルエットで、身長は高く、魔王と比較しても見劣りはしていない。
もっと数を増やしたいところだけど、まったく相手にならない可能性もあるから様子を見たほうがいいと判断した。
「……、我を愚弄するか?」
魔王の目が赤く光った。なにを怒っているのか意味が分からい。
「ユーディコ・ホスティス」
理希は構わず右手で魔王を指さし、『敵に神の裁きを』と命じた。
ロングソードを引き抜き、中央の聖霊騎士が魔王に向かって飛翔して突っ込む。残り2体は左右から挟み込むようにして距離を縮めている。
「アルクム・マヌ・コリプイト・デウム…」神弓を手に…
続けて別の魔法の詠唱を始めた。
敵との距離が近いので、魔法の威力があり過ぎるとこちらも巻き込まれる可能性が高い。理希はアロー系で属性が『神聖』のものを選んだ。
「アウラ・サンクタ・ルークス」聖光よ来い
「ムンッ!」
聖霊騎士による長剣の一撃を、魔王は大剣を横に構えて正面から受け止めた。同時に魔王の足元の地面が衝撃でへこむ。
「意外とやる…、だが!」
聖霊騎士の剣を軽く上に弾くと、魔王は真っすぐ縦に大剣を振り下ろした。
「!!!」
咄嗟に長剣で受けた聖霊騎士は、剣ごと真っ二つにされる。
音もなく光の粒子と化すと、掻き消えた。
やっぱり全然ダメだ。さすが魔王と言うべきなのかもしれないけど、数を増やしてどうにかなるような相手ではない。
「ウィータント・シニストラ、デクステラ」
焦る気持ちを抑え、残り2体の聖霊騎士に対して理希は左右に避けるように命じた。
「ホーリー・アロー」
多数の白い光の矢が上空に出現する。ファイア・アローのときと同等の数はありそうだ。
「これは面白い」
漆黒の魔王は大剣を背にある鞘に収めると、嬉しそうに身構えた。
柔らかい光の尾を引きながら、数百の光の矢が魔王に向かって殺到する。
上空からの矢を躱すつもりなのか、魔王は後方に跳躍した。
理希はその様子を横目で見ながら、異空間収納の取り出し口を開いた。
「な…、に?」
狙いを定めたアロー系の魔法には、ホーミングの効果がある。魔王に向かって矢は自ら進路を修正した。
先頭の矢が見事に命中すると思った瞬間、何もない空間で矢が弾けた。後続の矢も連続で弾けていく。
「プロペ・ウェニト」
理希は2体の聖霊騎士を呼び戻すと、異空間収納から聖槍『ヴェリタス』と聖剣『コンコルディア』を取り出した。
「お、重い…」
聖霊騎士に伝説級の武器をそれぞれ手渡す。
光の矢を受け、漆黒の魔王の前に展開されている、不可視だった魔法陣の姿が見えた。
200本近くの矢を受けると、ガラスが砕けるような硬質な音が響き、魔法陣が破れた。
『いけるのか?』少し期待したけど、すぐに落胆へと変わる。
2枚目の魔法陣に…、魔法壁とでも言うのだろうか。わずかに前進してすぐに阻まれた。
「クラウデ」
異空間収納の穴を急いで閉じる。聖霊騎士には新たな命令は出さず、一旦待機させることにした。
「アルクム・マヌ・コリプイト・デウム。アウラ・サンクタ・ルークス」
魔法壁を4枚まで打ち破ると、全ての光の矢が尽きた。
「ホーリー・アロー」
理希は続けざまに同じ魔法を唱えた。
漆黒の魔王には届かなかったけど、魔法壁は砕ける。それなら全ての壁を壊すまで何度でも放てばいい。
「短詠唱の魔法にしては、なかなかの威力だ」
魔王はやけに楽しそうだけど、こっちは生きた心地がしない。
光の矢が次々と魔法壁に衝突しては霧散して消えていく。
「愚劣で無能な者よ。我が力の片鱗に触れる栄誉を与えよう」
大剣を背負ったまま、漆黒の魔王は詠唱を始めた。
「煉獄の深淵を開き、冷徹なる破壊を。残酷な破滅を…」
恐ろしいその内容に、理希は最初、呪文の詠唱だと気が付かなかった。
「ユ、ユーディコ・ホスティス」
震えそうになる気持ちを抑え込み、聖霊騎士に再び攻撃するように命じた。
光の矢は1枚目、通算5枚目の魔法壁を突破した。
「ダークネス・アロー」
無数の黒い矢が魔王の周囲に出現した。理希が出した光の矢よりも明らかに本数は少ないけど…
「た、足りないっぽい」
魔法壁を壊すのに、既に200本以上消耗してしまっている。
黒い矢が放たれると、光と闇の打ち消し合いが至るところで始まった。そのほとんどが相殺され消滅する。
「アロー系はもうダメか…」
魔王に迫っていた聖霊騎士の横を通り抜け、10数本の黒い矢が理希に向かって飛んでくる。
「ええいっ!」
理希は飛び込み前転の要領で右横に跳躍して半数以上を躱すと、ラタトスク・マントをつかみ、残りの黒い矢を払い除けた。
『ホーリー・アロー』に対応したときの魔王の反応から、僕の魔法と違いホーミング能力はないと踏んでいた。
「あ、危なかった…」
予想通りとは言うものの絶対の自信があった訳ではないから、ホッと胸を撫で下ろした。
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