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第1章
第24話 女神再び
しおりを挟む理希は目を開いた。どうやら冷たい床の上で仰向けの状態で寝ていたらしい。
半身を起こして周囲を見渡す。
壁も床も天井も、全てが白い。窓もない。目の前には見覚えのある白い台が置かれている。
『戻っちゃったか…』
いつ死んでもいいやって感じの(仮)な転生だったのに、思いのほかガッカリしている自分に少しビックリした。
『それにしても自爆で死ぬとは情けない…』
拠点造りが上手くいったので完全に油断していた。
『どうせ死ぬなら魔王に殺された方がまだ格好がついたのに…』
拳を握ってワナワナと震える。
『フクに一生笑われるじゃないか…』
理希は頭を抱えてうずくまった。
『……』
どのくらいの時間が過ぎたのだろうか、誰かが部屋の中に入ってくる気配を感じて慌てて台の陰に隠れた。
気配は一人分しかないのに、ぶつぶつとなにかしゃべっている。
台の上から少しだけ顔を出して様子を伺うと、椅子に座っているフクの背中が見えた。
「昨日の夜から、なんか調子悪いわね…」
フクは文句を言いながら、中空に浮いた四角い枠を乱暴に叩いている。
「まぁいいわ。お茶会お茶会」
枠を消すと、手をすり合わせて、いそいそと準備を始めた。
『なんだよ。こっちは大変な目にあってるというのに、贅沢してるなぁ…』
以前はなかったテーブルの上にティーポットとソーサー+カップのセット、スコーンなどのスイーツが載せられたケーキスタンドが並んでいる。
「プリンキピアには聖女が誕生したし」
鼻歌をうたいながら、フクはポットの紅茶をカップに注いでいる。
「予想の上をいく成果だわ…」
『独り言か?』
「理希もね…。どうしてああなったのか謎だけど、結果オーライね」
スコーンを手に取り、噛り付いた。
『女神なんだから、せめてちぎって食べろよ…』
「飛んでグビッ、火にいるグビグビ、なんとやらねプハー」
逆の手でカップを手に取り、紅茶を一気に飲み干した。
『夏の虫だろ…』
スコーンを食べきると、ポットを手に取り、再びカップに紅茶を注いだ。
「はぁ~、それにしても心臓に悪いわよね。あそこまで考えなしだったとは…」
盛大なため息を吐いた。カップの紅茶が波打っている。
「あんなの見せられたら世界終わったって普通思うじゃない?ムグムグ」
大きなクッキーを1枚取り、紅茶に浸けて食べ始めた。
『なんか行儀悪いなぁ…、いや、これは英国式なのか?』
「確かに世界の運命を変えてって言ったけどさ。ホントマヌケよねゴックン」
半分ほど残っていたクッキーを噛まずに飲み込んだようだ。
『わ、悪かったな』
自分でもそう思うけど、フクに言われると無性に腹が立つ。
「まぁそれはいいとして、遠見窓をそっ閉じしてなかったことにしたのは失敗だったわ…。どうやって切り抜けたのかしらパクッ」
角砂糖を一つ摘み上げると、そのまま口に入れた。片方の頬が膨らんでいる。
『いいかげんだなぁ…』
「気が付いたら全部終わってたけどガリガリ、まさか仲間にしちゃうとはね…。斜め上をいくにもほどがあるムシャア」
角砂糖を噛み砕く音を響かせながら小さなカップケーキを手に取った。投げるようにして一口で頬張る。
理希は台の陰から出ると、足音を殺しながら近づき、フクの背後に立った。
フクはショートケーキを皿に載せ、テーブルに置いた。クッキーで濁った紅茶の入ったカップに手を伸ばす。
「だけどこれで姉さまにも…、あーはっはっはっ…ギャフン!!」
理希は無言でフクの頭をはたいていた。
「な、ちょっと誰よ」
紅茶とケーキに塗れた顔を上げると、フクは振り返った。
「僕だよ」
理希はフクの両頬を掴み引っ張った。
「う、ウソでしょ…」
「随分と楽しそうじゃないか」
両手に力を籠め、さらに頬を引っ張る。
「ひ…、ひたい、ひょっとやめ…」
手足をバタバタとさせ、フクは抵抗を始めた。
理希は手を離し、フクの蹴りを躱す。
「なんで…、なんで貴方がここにいるのよ!!」
「死んだからだろ」
「ま、魔王を倒したほどの貴方が、し、死んだの? ど、どうして?」
「なんだよ。知らなかったのか?」
「ずっと観察していられるほど、私は暇じゃないのよ」
「お茶してたのにか?」
「こ、これは前祝というか…、頑張った自分へのご褒美に…」
隠そうとしているのだろうか、フクはそう言いながら両腕を広げた。
「頑張った?」
「な、なによ…」
「いや、まぁ、めんどくさいからもういいや」
「なんだか凄く失礼なこと言われている気がする」
フクは布で顔を拭いながら口を尖らせた。
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