26 / 35
第1章
第25話 種族と職業と勘違い
しおりを挟む
「それにしても……、独り言をしゃべりながらの一人お茶会か……。寂し…」
「ちょ、やめて! 同情しないで!!」
哀れみの目で見ている理希の前に手の平を突き出して言葉を遮り、フクは頑なに拒絶した。
「そんなことより、色々と聞きたいことがあったんだった」
手を払い除け、理希は真面目な顔に戻った。
「待ちなさい。私が先よ。質問の答えをまだ聞いてない。なんで…、どうやって死んだのよ!」
「いや、その…、ちょっとした手違いで…」
わざわざマヌケな死に方を教えて笑われるほどバカではない。墓までもっていくことにしよう。
「そんなハズないわ! 貴方が死ぬなんて信じられない!!」
「なんだよ。なんでそんなこと言いきれるんだよ」
「あ、えっと…、そうね。そうよね…。死ぬことだってあるわよね…」
しどろもどろになりながら、フクは目を逸らした。
あからさまに怪しい。
「もう誤魔化されないぞ。とことん理由を聞こうじゃないか」
フクの襟元を掴むと、顔を睨みつけて声を強めた。
「ちょ、近い、近いから!」
フクは両手で理希の顔を押さえ、思いっきり引き離した。
「あ、この!」
襟を掴んだ手に力を籠める。
「ちょっと離してよ。破けちゃうじゃない!!」
「や、やめ…、ふ、ふがっ」
顔を押しているフクの指が、理希の鼻の穴に突き刺さった。
「●×▼!!」
「◇〇■!!」
しばらく時間を忘れて、不毛な争いが続いた。
「信じられない…、絶対にバチが当たるから覚悟しなさい」
「なんだこれ、デジャブか?」
「デジャブなんて別に珍しくもないわ」
「女神が言うならそうなんだろうな…」
「と、とにかくちょっと落ち着いて」
フクはそう言うと、さっきまで自分が座っていた椅子に理希を座らせた。
「フクよりは僕の方が落ち着いていたと思うけど?」
「そんなことはありません。引き分けよ引き分け」
倒れていたカップを手に取ると、ポットの紅茶を注いで理希に手渡した。
「……、美味いなこれ」
久しぶりに水以外のものを飲んだからかもしれないけど、これまでの人生で一番美味しい気がした。
「へそくりをはたいて買った高い紅茶だから、味わって飲んでね」
「……」
「それで聞きたいことってなに?」
「あぁ…、そうだった。転生した僕の種族はなんだったんだ?」
「なんだ。そんなことも知らなかったの?」
「誰のせいだと思ってるんだよ」
「コダイジンよ」
「え?」
「こ・だ・い・じ・ん」
「いや、そんなゆっくり言わなくても分かってるから」
「あら、そう?」
「あらそう?じゃなくて、なんだよ。古代人って! 普通は『ヒト』や『エルフ』、『ドワーフ』とかじゃないのか?」
「普通じゃ面白くないじゃない」
「お、面白いとか面白くないとかで種族を決めるなよ!」
「な、なによ。他の種族と比べても遜色ないどころか、とんでもなくハイスペックなのよ!」
「……そうなのか?」
「天佑神助はまだ弱いみたいだけど…」
「え?」
「なんでもない。なんでもない。そだ、スイーツもあるわよ」
「あ、ども…」
ケーキも久しぶりだ。生前もあまり食べなかったから、どんだけぶりなのか思い出せない。
「……甘いな」
食べ物の好みというのは死んでもそうそう変わるものではないらしい。
「ケーキなんだから甘いのは当たり前でしょ」
「それで職業は?」
「無職よ」
理希はもう一度フクの頬を引っ張った。
「ちょ、やめ、冗談よ。冗談」
今度はあっさりと手を離した。フクとくだらない争いをする気力が出てこない。
「場を和ませようとしただけなのに」
頬をさすりながらぶつぶつと呟いている。
「ゴホン。ややこしくて説明が難しいのよね…。称号がいっぱいあるし」
「……、それで?」
なんだか頭がクラクラする。首を左右に振ってみたけど、症状が改善するどころか悪化した。
「旧世界の元か…、ど、どうしたのよ!」
力が抜け、理希はバタリとテーブルの上に突っ伏した。
「フ、フク…、お前…」
眠気に似た感覚に襲われ、意識が薄らいでいく。
「な、なに?」
「一服盛ったな…」
「ち、違っ、私はなにも…」
フクの声が急速に遠くなっていった。
「ちょ、やめて! 同情しないで!!」
哀れみの目で見ている理希の前に手の平を突き出して言葉を遮り、フクは頑なに拒絶した。
「そんなことより、色々と聞きたいことがあったんだった」
手を払い除け、理希は真面目な顔に戻った。
「待ちなさい。私が先よ。質問の答えをまだ聞いてない。なんで…、どうやって死んだのよ!」
「いや、その…、ちょっとした手違いで…」
わざわざマヌケな死に方を教えて笑われるほどバカではない。墓までもっていくことにしよう。
「そんなハズないわ! 貴方が死ぬなんて信じられない!!」
「なんだよ。なんでそんなこと言いきれるんだよ」
「あ、えっと…、そうね。そうよね…。死ぬことだってあるわよね…」
しどろもどろになりながら、フクは目を逸らした。
あからさまに怪しい。
「もう誤魔化されないぞ。とことん理由を聞こうじゃないか」
フクの襟元を掴むと、顔を睨みつけて声を強めた。
「ちょ、近い、近いから!」
フクは両手で理希の顔を押さえ、思いっきり引き離した。
「あ、この!」
襟を掴んだ手に力を籠める。
「ちょっと離してよ。破けちゃうじゃない!!」
「や、やめ…、ふ、ふがっ」
顔を押しているフクの指が、理希の鼻の穴に突き刺さった。
「●×▼!!」
「◇〇■!!」
しばらく時間を忘れて、不毛な争いが続いた。
「信じられない…、絶対にバチが当たるから覚悟しなさい」
「なんだこれ、デジャブか?」
「デジャブなんて別に珍しくもないわ」
「女神が言うならそうなんだろうな…」
「と、とにかくちょっと落ち着いて」
フクはそう言うと、さっきまで自分が座っていた椅子に理希を座らせた。
「フクよりは僕の方が落ち着いていたと思うけど?」
「そんなことはありません。引き分けよ引き分け」
倒れていたカップを手に取ると、ポットの紅茶を注いで理希に手渡した。
「……、美味いなこれ」
久しぶりに水以外のものを飲んだからかもしれないけど、これまでの人生で一番美味しい気がした。
「へそくりをはたいて買った高い紅茶だから、味わって飲んでね」
「……」
「それで聞きたいことってなに?」
「あぁ…、そうだった。転生した僕の種族はなんだったんだ?」
「なんだ。そんなことも知らなかったの?」
「誰のせいだと思ってるんだよ」
「コダイジンよ」
「え?」
「こ・だ・い・じ・ん」
「いや、そんなゆっくり言わなくても分かってるから」
「あら、そう?」
「あらそう?じゃなくて、なんだよ。古代人って! 普通は『ヒト』や『エルフ』、『ドワーフ』とかじゃないのか?」
「普通じゃ面白くないじゃない」
「お、面白いとか面白くないとかで種族を決めるなよ!」
「な、なによ。他の種族と比べても遜色ないどころか、とんでもなくハイスペックなのよ!」
「……そうなのか?」
「天佑神助はまだ弱いみたいだけど…」
「え?」
「なんでもない。なんでもない。そだ、スイーツもあるわよ」
「あ、ども…」
ケーキも久しぶりだ。生前もあまり食べなかったから、どんだけぶりなのか思い出せない。
「……甘いな」
食べ物の好みというのは死んでもそうそう変わるものではないらしい。
「ケーキなんだから甘いのは当たり前でしょ」
「それで職業は?」
「無職よ」
理希はもう一度フクの頬を引っ張った。
「ちょ、やめ、冗談よ。冗談」
今度はあっさりと手を離した。フクとくだらない争いをする気力が出てこない。
「場を和ませようとしただけなのに」
頬をさすりながらぶつぶつと呟いている。
「ゴホン。ややこしくて説明が難しいのよね…。称号がいっぱいあるし」
「……、それで?」
なんだか頭がクラクラする。首を左右に振ってみたけど、症状が改善するどころか悪化した。
「旧世界の元か…、ど、どうしたのよ!」
力が抜け、理希はバタリとテーブルの上に突っ伏した。
「フ、フク…、お前…」
眠気に似た感覚に襲われ、意識が薄らいでいく。
「な、なに?」
「一服盛ったな…」
「ち、違っ、私はなにも…」
フクの声が急速に遠くなっていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる