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第1章
第5話 転生門
しおりを挟む「神の存在理由と、世界は並行していることを考えれば簡単に理…」
「いや、もういいよ」
長くなりそうなので、理希は言葉を遮った。
「ところで転生するのがファンタジーの世界なら、死者復活は当たり前なのか?」
「そ、そうね。当たり前ではないけど。高位の神官ならできるかも…」
「死ねばここに戻ってくるわけだし、まずはお試しで行ってみるのもアリか…」
「なんて恐ろしいことを! 冗談でも赦しません!」
「そんなにまずいこと言ったか?」
赦さないって、とても女神の言葉とは思えない。
「あまり行ったり来たりされると、バレる可能性が高くなっちゃうじゃない!」
女神が語気を強めた。
「…、やっぱりやめようかな。転生するの」
「嘘です。ごめんなさい。お試しでもなんでもいいです」
「……」
手を合わせて懇願している姿を見て、段々可哀そうになってきた。女神の威厳などあったものではない。
「で、どうすれば転生できるんだ?」
「あ、する気になったのね」
態度がコロッと変わる。
「転生しましょう。そうしましょう。行ってしまえばこっちのものだし」
「…。心の声がだだ漏れになってるぞ」
「大まかな事はもう話したから大丈夫よね」
「あ、あぁ…、大丈夫…、かな?」
3日前の不毛な争いをしている最中に、なにか言ってたような気がする。あの時は転生する気がなかったから聞き流してた。
「ファミコン世代なら問題ないない。細かいことは、実際に経験して確かめてね」
「もういちいち突っ込まないからな!」
「あ、そだ。ちょっと待ってて。いいこと思いついた」
「そうか。それは良かった」
対応がぞんざいになっていく。
「なにか見つけても拾っちゃタメだからね」
「はいはい」
「いい、絶対に拾っちゃダメだからね」
女神はそう念を押すと、壁を透過して姿を消した。
「しつこいな…、って、なんだこれ?」
さっきまで何もなかった台の上に巻物のようなものが置かれている。
あからさまに怪しい。
理希は台に近づくと人差し指で軽くつついた。
後から思い返せば不自然な勢いでコロコロと転がり、台から落ちる。
「あ、やべっ」
理希が慌てて巻物を拾い上げると、壁から上半身だけ姿を現していた女神と目が合った。
「ああ! あれほど言ったのに、拾ってしまいましたね」
大げさに驚きながら、やけに嬉しそうに女神が部屋へと戻ってくる。
「いや、これは、台から落ちたから…」
「仕様がありません。それはもう貴方のものです」
「いや、悪いから返すよ」
「いいえ、所有権はもう貴方に移りました。持っていきなさい」
女神は頑なに拒絶する。
「……」
「いいですが、私が与えたのではありません。貴方が拾ったのです。そこ大事ですから、もう一度言います。貴方が拾ったのです」
「なんなんだいったい。気持ち悪いなぁ…」
「本当に困ったときに開くこと。軽い気持ちで使ってはいけません。なにが起きても、その結果も全て責任は貴方にあります。私は関係ありませんからね」
「アプリ使用前の契約書みたいなこと言うなよ」理希はため息を吐いた「同意ボタンは押してないぞ」
「じゃあ、時間がもったいないし、早速転生しましょう」
女神がツカツカと歩み寄る。
「無視すんな! それに、思いついた良いことってなんだったんだよ!」
「もういいの。終わったから」
両腕を上げ、前に突き出した手の平を理希へ向ける。
「ビス・ダス・アスピラト…」
魔法陣のような模様が、理希を上下に挟むように床と天井に浮かび上がる。
「いきなり強引だな」
光が眩しいので薄目になる。
「なんだそれ? 呪文か?」
「プリモ・フォルトゥーナ・ラボリ…」
「女神って言っても和風な姿をしてんだから、日本語で言ったら?」
「……」
「黄泉比良坂の千引岩戸を開き、伊邪那美命の恩む意にして…」
「ヨモツヒラサカってなんだ? イザナミって怖い神様じゃなかったっけ?」
「平らかな魂を…」
「日本語なのかそれ? 結局、意味はよく分からないな」
「あぁ…、もう、うるさい! 気が散るでしょう! えぇと…、前後のわかちなく…」
「やっぱり英語が格好良い気がする」
「転…、え? 英語? ゲー、Gate of Reincarnation!!」
「おぉ…!」
理希を包んでいた淡い光の光度が増し、女神の姿が見えなくなる。
「余計なちょっかいを出すから、失敗するところだったじゃない」
光の壁の向こうから女神の声が聞こえた。
「フクは意外と真面目なんだな」
笑いをこらえる。
「意外は余計よ!」
「ああ、そうそう貴方と死んだネコなんだけど。死んでまで助けようとしてくれた恩を返したいから、どうしても貴方に付いていきたいって。お互い様なんだから気にすることないって言ってるのに」
「お前が言うな」
「あ~あ、ネコちゃんと一緒に暮らせると思ったのになぁ」
女神の声のする位置が、段々上に移っていく。
「使い魔として転生させるから、忘れずに呼び出してあげてね」
「使い魔ねぇ…」
ネコでも一人よりはましかな。
「あっ! 大事なこと忘れてた!」
「なんだよ、こんな土壇場で怖いこと言うなよ」
「転生するなら、なにになりたい?」
「なんだ。種族とか職業とか選べたのか?」
「エルフはオススメしないわ。自称している人が多いから、勇者はあまり評判がよくないし…」
女神の声が遠く小さくなっていく。
「エルフって人気ありそうなのに? 職業で自称勇者ってのはなんかやだな…、って、お前! そんな大事なことをこんなギリギリに…」
「ああ、もう時間がないからこっちで適当に選んどくわね」
「ちょ、おい、こら、フク!」
眠気に似た感覚に襲われ、急激に意識が薄れていく。
『遊び人のスライムとかにしたら恨むからな…』
『大丈夫。貴方ならきっと、運命を変えられると信じています…』
微かに届いた女神の想いは、理希の心には響かなかった。
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