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第1章
第4話 決まった過去と女神の願い
しおりを挟む頭を振って、回想から意識を戻した。
その後、転生する・しないでもう一悶着あり、売り言葉に買い言葉。
「絶対にしない」と言い切って、現在に至るわけだ。
『時間なんてものはいつも足りなく感じていたから、ここまで持て余すとは思わなかった…』
ゆっくりと周囲を確認する。
『そういや、名前を聞いてなかったな…』
「ぉーぃ…」
久しぶりに声を出したので、ビックリするほど小さい声しか出なかった。
「ぁー、あー、阿ー、女神~、いないのか~?」
何度か発声練習をしてから、部屋の奥に向かって呼び掛けた。
しばらく待つと、激しい足音が次第に近づき「あっ、痛っ!」という悲鳴が聞こえた。
押し殺したような呻き声が止み、ワンテンポ遅れて、壁を透過し女神が姿を現した。
「やっと、転生する気になった?」
おでこを赤くしながら、目を輝かしている。
「その前に幾つか確認したいんだけど…」
「なになに? なんでも聞いて」
「まず、あんたの名前は?」
「だから女神だってば」
「違うよ。聞きたいのはあんたの固有名詞。女神ってのは総称なんだろ?」
「あぁ…、そういうこと。日本だと吉っ…」
「きっ?」
「ゴホン。フクちゃんと呼んで」
「フク…」
慌てて言い直したのが気になったが、面倒くさいので無視することにした。
「それでフクは転生させる力を持っているんだろ?」
「そうね。運命を司っているからね」
女神は得意気に答えた。
「ところで、呼び捨ては良くないわ」
「じゃあ、フク…さん。異世界じゃなく、元いた世界に戻してくれよ」
生き返れるならそれが一番良い。文化祭の準備をやり残しているのも気になるし。
「あぁ…、それは無理ね」女神は無慈悲に否定した。「フクちゃん。ね」
「無理? なんでだよ」
「貴方の死を目撃してしまった人がいるから」
残念そうに首を振った。
「目撃? どういう意味だ?」
そんなことが、どう関係するというのか。
「分かりやすく言うと、貴方の死は確定してしまった。ということ」
「いや、意味不明だから」
どこが分かりやすいんだ?
「まぁ、そんなことはどうでもいいや。とにかく元の世界には帰れないわけだな」
理希はため息を吐いた。
「そうね。遺体はもう燃やされてしまったし。今戻ったら幽霊、良くてゾンビ扱いよ」
「…え?」
「だから、お通夜も告別式も終わって、埋葬されちゃってるから…」
「ちょ…、じゃあ、なにか? ここに来た直後にお願いしていたら、もしかして戻れたのか?」
「あぁ…、それは…」
女神はいったん口ごもり、顔を背けてボソリとつぶやいた。
「戻れたかも」
「戻れたかも、じゃ、ねぇ!」
デ・ジャ・ビューのように、女神の襟元を掴んでいた。
「死、死が確定したのは、貴方が目覚める前だから、ど、どちらにしても生き返ったら大騒ぎよ」
「大騒ぎ位なんだ!」
唾が飛ぶくらい大声になる。
「ダメよ。私が関与したって上司にバレて怒られるじゃない!」
女神は血相を変えて反論した。
「上司にバレ…? お、怒られるくらい我慢しろよ! こっちは生きるか死ぬかなんだぞ!」
「こ、こっちだって、次にやらかしたのがバレたら、冥界に戻されちゃうの~」
人目をはばからず、女神は泣き出した。
「次? 冥界? あんた…」
ツッコミどころが満載過ぎて、それ以上言葉が出てこなかった。
※
「泣き止んだか?」
泣きたいのはこっちなのに。なにをやっているのか分からなくなりそうだ。
「うん。ごめんね」
「もう生き返るのは諦めたよ」
「そう…、じゃあ転生しま…」
「いや、その前に次の質問」
理希は言葉を遮って話を続けた。
「あの世とやらに行くのに、なぜ108年も待つ必要があるんだ?」
「だから、貴方は運命に逆らって死んでしまったからって説明したじゃない」
「残りの寿命だということは分かったよ。でもそんなの関係ないだろ。死んだのは間違いないんだから」
「それはダメね。あの世はイレギュラーな存在を受け入れてはくれない」
「あの世というのもフクと同じで柔軟性に欠けてるようだな…」
女神は恨めしそうにこちらを見ていたが、泣いてバツが悪いのか言い返してこない。
「ここで無為に108年待つか、別の世界で暇をつぶすか…、か…」
理希は頭を掻いた。
「暇をつぶされては困るわ。世界を救うのが目的なんだから」
「なんだよ。見も知らない異世界を助ける義理はないぞ」
「だから異世界を救うのではなく、世界を救うのよ」
「また訳の分からないことを…」
これ以上話を聞いたら頭がパンクしそうだ。
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