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第1章
第3話 残念な真相
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あれから3日ほど経過したのだろうか。昼も夜もなく、時計もないから実際の経過時間は分からない。
死んでいるからだろうか、お腹は減らず、眠くもならない。暇をつぶすものもない。
そう、ここには何もない…
退屈で死にそうだ。
考えることもないので、仕方なく、女神との会話を思い返す。
すると再び怒りが込み上げてくる。
「…死んだって? あの時、俺はどうなったんだ?」
「狭間の空間ってなんなんだ…、みんな死んだらこんなふざけた場所に来るのか?」
「108年もここにいるか、異世界を救うかだって? 冗談言わないでくれ」
理希は混乱する思考そのままに、まくし立てた。
「いや、まぁ…、とにかく一度落ち着いて」
どこから出してきたのか、そう言って女神は湯呑を差し出した。
憮然としながら受け取ると、一気に飲み干す。水なのか、お茶なのか、味も分からなかったが、幾分か楽になった気がした。
「死んだ人は普通…、日本人に分かりやすく言うと『あの世』に行く」
「…じゃあ、俺は普通じゃなかったと?」
「そうね。貴方は死ぬ運命になかった」
「運命になかった…、それなのに死んだ?」
「そういう人がたまにいるの」
「それじゃあ…、残り108年というのは…」
「察しがいいわね。本来の寿命。世界一の記録を集めた本に載ることができたのに残念」
「世界一? いや…、ちょっと待て」
N〇Kみたいな言い回しが少し気になったがそれどころではない。
「なぜ死んだ? なにがあったんだ?」
そういえばあの時、誰かに押されたような気がする。
「それは…、知らない方がいい」
女神は顔を伏せた。泣いているのか肩が震えている。
「い、いや、知りたいんだ」
ぼ…、俺のために泣いてくれている? なんだかこれまでの態度が急に恥ずかしくなった。
「貴方のためだから…」
肩の震えが増した。
「心配してくれるのは嬉しいけど。どうしても教えて欲しいんだ」
理希は頭を下げて頼んだ。
「あら? なんだか急にしおらしくなったわね」
意外そうに女神が顔を上げた。何故か満面の笑みをたたえている。
「…」
「いい心がけね。私は女神様なんだから、そうやってもっと恭しく。崇め奉るべきなのよ」
「あがめたてまつる…?」
「元来、話すことも許されない、運命を司る偉大な存在なの」
「ちょっと待て…、運命を司る?」
「そうそう、思い出した。女神の鼻に頭突きを喰らわして、アイアン・クローを決める、貴方のような無礼者は初めてよ」
女神はこちらに向かって指をさした。
「まずは土下座して許しを請いなさ、痛っ?」
理希は無言で女神の頭を叩いていた。
『あいんあんくろー?』なんだそれは。いちいち言い回しが古臭いのも気に障る。
「あ、あまつさえ尊い私の頭を叩くなんて…」
頭を両手で抱え、頬を膨らませながら女神が抗議の声を上げた。
「運命を司るって言ったな」
顔を近づけ睨みつける。
「…、え、ええ」
「お・ま・え・の・せ・い・か!」
両の頬っぺたを掴み引っ張った。
「ち、違っ、ちょっ、やめ…」
「なにが知らない方がいいだ! 隠したかっただけじゃないのか?」
「だから、ご、誤解だってば!」
手足をバタバタとさせ、女神は抵抗を始めた。
理希は両手に力を籠め、さらに頬を引っ張る。
「あ、蹴ったな!」
「ひゃにゃたが先に手を出したのでしょう!」
しばらく時間を忘れて、不毛な争いが続いた。
「信じられない…、絶対にバチが当たるから覚悟しなさい」
「これ以上のバチがあるのか?」
力のない笑い声が、身体の奥から漏れた。
「話が全然進まないじゃない。転生前がこんなに長い物語なんてありえないから」
「意味が分からん」
理希はため息を吐いた。
「それで…、なにがあったんだよ?」
「いいのね? 本当に言っていいのね?」
「もうそれはいいから」
話が進まないのは女神のせいな気がしてきた。
「じゃあ、教えてあげる。あの日…、貴方はネコに気付かず、そのまま通り過ぎるはずだった」
「え? それじゃあ、ぼ…、俺ではなくネコが死ぬハズだったのか?」
「無理して『俺』を使わなくていいから」
女神は苦笑して話を続ける。
「それも違う。残酷だけど。貴方が助けようとしなければ、ネコも死なずにすんだ」
「ネコも?」
「あの時、箱から階段までギリギリだったけど、ネコはジャンプできる距離にあったの」
『そうか…、無駄死にどころか、助かるはずのネコも死なせてしまったのか…』
声にならず、目を瞑って天を仰いだ。
「僕が余計なことをしたから、ネコを怖がらせて跳び移るタイミングを失った…、あっ…?」
「横着をして近くにいた貴方の上に着地してしまったから、一緒に川に落ちて…、えっ…?」
会話が重なり、女神へと顔を向けると目が合った。
「じゃ、じゃあ、なにか? あの時、誰かに押されたと思ったのは間違いで、川に落ちたのはネコが僕の頭に飛び乗ったのが原因だと?」
「そうなるわね」
女神はそう言うと、肩を震わせて笑い出した。
「貴方もネコも、近年稀に見るマヌケ…」
理希は再び無言で女神の頭を叩いていた。
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