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第1話
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私はアーニャ。『聖女』という爵位を授かった家系で生まれ、私もまた聖女としての力を持っていた。
私の家系の皆はそうであり、長女である私がその代表という扱いを受けていた。
代表者は、大聖女と呼ばれている。
……正直言って、大聖女は別に好きではなかったけどまあ仕事の一つとして考えられる程度には折り合いをつけていた。
そして私には、婚約者がいた。
相手はケイナン・ブリリレルゴ。ブリリレルゴ国の王位継承者……つまりは第一王子ね。
大聖女と第一王子は必ず婚約関係を結ぶ決まりがあった。
そうはいっても、ね。
私は大聖女の祈りを捧げ終えた後、王城内を歩いていた。
すると、私を探していたのだろう。ケイナンがこちらへとやってくる。
「おい、アーニャ。今夜こそオレの部屋に来い」
何かと思ったらまたその話なのね。
ケイナンは私を押さえ込むように壁際に追い込んできた。
そうして、無駄に整った顔でこちらを見てくる。
「……ですから、ケイナン。何度も言っているでしょう? そういったことは大聖女であるうちはできないと」
『大聖女』というのは権力から一つ距離を置いた立場であるため、王子に対してこのような口調で話しても何も問題はなかった。
私はきっぱりと断る。
『大聖女』としての力を維持するには、そういった行為は決してしてはいけない。
次の大聖女の育成が終わったところで、王子とはそういうことをすることになっていた。
単に私はケイナンが嫌いだったから拒否しているのもあるけど。
――ケイナンは残虐な人だ。
私は未だに、忘れていないんだから。王城で飼っていた犬をクロスボウで射抜いたときのことを。
『獣を打ち抜く訓練さ。魔物を狩るようなものだろう? 何をそんなに怒っている』
彼はそんな風に言っていたけど、私には彼のその考え方が到底理解できなかった。
そして、ケイナンは大人になっても変わらない。
気晴らしで使用人をクビにして、その反応をみて楽しんだり。
あるいは騎士に稽古をつけてもらい、自分が勝てなかった腹いせに相手を処刑してみせたり。
……甘やかされて育った彼は、いつまでも子どもだった。
彼が人間として成長し、これまでのすべてを反省し、謝罪できるような大人にならない限り、私は彼を許しはしない。
いや、たぶん、そうなっても完全に許すことはできないとは思うけどね。
ケイナンは苛立った様子で表情をゆがめた。
「ちっ! 大聖女だか何だか知らないが、オレ様の言うことを聞けないのか?」
「はい。私の仕事は、大聖女として国を守ることですから。ケイナン様ももうすぐ国を背負う立場です、もう少し落ち着いた言動を心掛けてはいかがですか?」
私がそういうと、ケイナンは目を吊り上げた。
私の家系の皆はそうであり、長女である私がその代表という扱いを受けていた。
代表者は、大聖女と呼ばれている。
……正直言って、大聖女は別に好きではなかったけどまあ仕事の一つとして考えられる程度には折り合いをつけていた。
そして私には、婚約者がいた。
相手はケイナン・ブリリレルゴ。ブリリレルゴ国の王位継承者……つまりは第一王子ね。
大聖女と第一王子は必ず婚約関係を結ぶ決まりがあった。
そうはいっても、ね。
私は大聖女の祈りを捧げ終えた後、王城内を歩いていた。
すると、私を探していたのだろう。ケイナンがこちらへとやってくる。
「おい、アーニャ。今夜こそオレの部屋に来い」
何かと思ったらまたその話なのね。
ケイナンは私を押さえ込むように壁際に追い込んできた。
そうして、無駄に整った顔でこちらを見てくる。
「……ですから、ケイナン。何度も言っているでしょう? そういったことは大聖女であるうちはできないと」
『大聖女』というのは権力から一つ距離を置いた立場であるため、王子に対してこのような口調で話しても何も問題はなかった。
私はきっぱりと断る。
『大聖女』としての力を維持するには、そういった行為は決してしてはいけない。
次の大聖女の育成が終わったところで、王子とはそういうことをすることになっていた。
単に私はケイナンが嫌いだったから拒否しているのもあるけど。
――ケイナンは残虐な人だ。
私は未だに、忘れていないんだから。王城で飼っていた犬をクロスボウで射抜いたときのことを。
『獣を打ち抜く訓練さ。魔物を狩るようなものだろう? 何をそんなに怒っている』
彼はそんな風に言っていたけど、私には彼のその考え方が到底理解できなかった。
そして、ケイナンは大人になっても変わらない。
気晴らしで使用人をクビにして、その反応をみて楽しんだり。
あるいは騎士に稽古をつけてもらい、自分が勝てなかった腹いせに相手を処刑してみせたり。
……甘やかされて育った彼は、いつまでも子どもだった。
彼が人間として成長し、これまでのすべてを反省し、謝罪できるような大人にならない限り、私は彼を許しはしない。
いや、たぶん、そうなっても完全に許すことはできないとは思うけどね。
ケイナンは苛立った様子で表情をゆがめた。
「ちっ! 大聖女だか何だか知らないが、オレ様の言うことを聞けないのか?」
「はい。私の仕事は、大聖女として国を守ることですから。ケイナン様ももうすぐ国を背負う立場です、もう少し落ち着いた言動を心掛けてはいかがですか?」
私がそういうと、ケイナンは目を吊り上げた。
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