愛想がないと王子に罵られた大聖女は、婚約破棄、国外追放される。 ~何もしていないと思われていた大聖女の私がいなくなったことで、国は崩壊寸前~

木嶋隆太

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第35話

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 王座の間に移動した。
 ケイナンは王座へとつき、私は改めて彼と向かい合っていた。
 とはいえ、今はあくまで大聖女ではなく、一市民として。

 私が頭を一度下げると、王子が声をあげる。

「楽にしていい」
「はい」

 それを合図に顔をあげると、ケイナンは肘をついて笑みを浮かべる。

「久しぶりだな、アーニャ」
「お久しぶりです。どうしてまた私を捜索なんてされていたのですか?」
「ふん! あの大精霊が、オレのニャルネを傷つけるからだ!」

 ……大精霊。恐らく、霊体だけでこちらに来ていたのだろう。
 私は大聖女の任が解かれたとき、大精霊様がいる森へと行く約束をしていた。
 だから、どちらにしろ、霊魂に会ったところであまり意味はなかったので、王城に残ることはしなかった。

「そうよ! 大聖女があんなに辛いものだったのならなんで教えてくれなかったのよ! この悪女が!」

 ニャルネが声を荒らげる。
 この感覚は久しぶりね。私は軽く深呼吸してから、ケイナンを見た。

「つまり……私にもう一度大聖女を引き受けろ、ということでしょうか?」
「ああ、そうだ!」
「ですが、契約期間があります。その間に大聖女を引き継ぐなんてできません」

 きっと、大精霊様からもその話は聞いているだろう。
 しかし、ケイナンはその場で地団駄を踏んだ。

「うるさい!」
 
 ……いや、あの。うるさいとかそういう問題じゃなくて。

「とにかく、おまえには『大聖女』の立場だけは与えてやる。毎日、聖女の間にて祈りを捧げろ! そして、夜はオレ様への奉仕だ!」
「……何を言っているのでしょうか?」
「だから、おまえを飼ってやるんだよ! 感謝しろ!」

 ……。
 私は小さく息を吐く。なんだか、私が王城を離れてからさらにケイナンは増長してしまったような気がする。
 周りにいる誰もケイナンを諫めるなんてしてないんだろうから、それもしょうがないのかも。

「大聖女に戻るのも時間的制約があります。もちろん、聖女として祈りに参加しその負担を軽減することはできますが引き継ぐことはできません。何より夜にそのようなことをすれば、聖女としての力が弱まってしまいます」
「ふん、多少落ちたところで問題ないだろう? あの祈りに大した効果はない。王都周辺に現れた魔物たちも、問題なく討伐できたからな!」
「まだ第一段階ですから。これからさらに魔物は強くなっていきますよ?」
「ふん、脅しているつもりか?」
「いえ、事実ですが……」

 もちろん、私だって体験したわけじゃないから100パーセント断言できるわけじゃない。
 でも、聖女として座学を受けていれば、このくらいは知っているはずよね。
 ねぇ、ニャルネ。私が視線を向けると、

「そんな証拠どこにあるのよ!」

 ……あれー? ニャルネはまったくそのことを知らない様子で叫んでいた。
 もう、どうしたらいいんだろうか。
 私は眉間をもみほぐしていると、騎士たちが迫ってきた。

「今のおまえに、権力は何もないんだぞ? 黙って従え、アーニャ」

 威圧するようにケイナンはそう言ってきた。

「そうだ。奴隷の首輪を用意しておいてやったんだ。おい、持ってこい! オレ様のペットにしてやるよ、アーニャ」

 ……ケイナン。
 もしかして、初めからそれが狙いだったのだろうか?
 こちらへと迫ってくる騎士たちに、私は顔を顰めていた。 

 奴隷の首輪を持ってきた騎士がケイナンのもとへと向かう。
 ケイナンがその首輪を受け取ろうとしたときだった。

「プレゼントだ。くれてやる」

 聞きなれた声とともに、その騎士がケイナンの首へと首輪をはめた。


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