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第55話
滝川の治療が終わったらしいけど、滝川は……まだ目覚めていない。
……あたしは、そんな滝川を見るのが怖くて……今は、宿の部屋に引きこもっていた。
そばにいてあげたかったけどでも……怖くて、一緒に、いられなかった。
あたしは自分の布団で横になっていた。
顔を枕に押し付けたまま声を押し殺すようにして涙を流していた。
――あたしの、せいだ。
あの日、あたしが止めていれば……いやもっと前。
あたしに能力があれば、滝川をあたしたちのユニオンに巻き込むこともなかったんだ。
滝川をユニオンに巻き込んでしまったあの日。
――虚獣に追われることになった原因は、あたしにある。
魂を回収するのに手間取り、その間に虚獣に気づかれてしまい、逃走することになった。
その結果。滝川を巻き込んでしまった。
……巻き込んでからだってそうだ。あたしにもっと力があれば、契魂者として滝川はもっと強くなれたかもしれない。
だとしたら、霧崎のように一人で敵を殲滅できるだけの力を持っていたかもしれないのに……。
それに……あたしという落ちこぼれがいなければ――セラフだけとの契約だったら、もっと色々変わっていたかもしれない。
滝川の痛々しい姿を思い出すと、涙は止まらない。
自分の嗚咽を聞いていると、余計に自分の弱さを理解させられるようで、枕に顔を埋める。
「もっと、あたしが優秀だったら……ごめんなさい。ごめんなさい……っ」
頭の中には、血だらけでボロボロになった滝川の姿が何度も何度も浮かび上がり、許してもらうために何度も謝罪の言葉を並べる。
彼の無残な体、切り裂かれた皮膚や生気のない顔。
震える手で自分の腕を抱きしめ、涙をこらえようとするが、感情は次々と溢れてくる。
「あたしが、もっとちゃんとしていれば……もっとあたしが優秀だったら……ごめんなさいごめんなさい……」
自己嫌悪の念が、鎖となってあたしの体を締め付けてくる。息苦しさを覚え、つまりかけた喉が咳き込む。
あたしは強く目を閉じたけど、眠れる気がしなかった。あの時ああしていれば、こうしていれば……もっと結果が変わったのではないかと思う。
少なくともルシファーユニオンで契約していれば、滝川の傷はもっと軽く済んでいたはず。
そうして、様々な過去を思うと同時、最後に口をついて出る言葉は、謝罪だ。
「滝川……ごめんね……」
彼が負傷した責任は、自分にあるんだから。
その時だった。部屋の扉が開いた気がした。
「……ルミナスさん。滝川さんの治療が、終わったそうで……心臓はまだ動いているそうです。あとは、目覚めるのを待つだけみたいですよ」
マルタさんの声がして、あたしは視線を向ける。
「……滝川、大丈夫、なの?」
「……命に別状はないと思います。ただ、虚獣との戦いでかなり損傷してしまっていたそうなので……何かしらの後遺症は残るかもしれない、とのことです」
マルタさんは淡々と話しながらも、視線を伏せている。……でも、マルタさんは気にすることはない。
――だって、全部、あたしが悪いんだから。
頭の中で何度も何度も、滝川の姿が浮かんでは消えていく。滝川の顔、滝川の声、滝川の温もり。全部、全部あたしの中に刻み込まれているはずなのに、それでもまだ足りない。
もっと……もっと滝川に触れていたい。彼のすべてを感じていたい。そう思うたび、胸の奥がギシギシと軋む音がする。
あの時のあたしにもっと力があれば、滝川が怪我をすることはなかった。
彼の痛みは、あたしの痛みで、彼の傷はあたしの罪。すべてを背負って、あたしが償わなければならない。
「もっと、全力で……あたしのすべてを、滝川に注ぎ込むんだ」
悪魔と契魂者の絆が深くなればなるほど、契魂者の力は増していく。
もっと、もっとあたしが滝川の事を知って、あたしが滝川のモノになって、滝川との関係を強めれば――。
彼を守るためなら、何をしたって構わない。あたしの命も、心も、魂も、全部滝川に捧げる。滝川が求めることなら、何だってする。
滝川が、もしも何もかもを失ってしまったのだとしても――あたしは、滝川に全てを捧げる。
あたしの中にあるこの感情を、一方的に彼に捧げる。それだけでいい。
……あの日。あたしのことを助けてくれた滝川に。
――セラフに負け続け、家から散々馬鹿にされていた日々を送っていたあたしの心を救ってくれた滝川に。
全部、捧げるんだ。
「もう、二度と、滝川が……傷つかないように。あたしが……守るんだ」
自分でも驚くほどに、低く、静かな声だった。
感想 2
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