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第56話
しおりを挟む「……ひとまず、滝川さんの治療は終わりました。ただ、随分とダメージが大きく……申し上げにくいのですが、もしかしたら心まで傷を負っている可能性があります」
「……心、ですか?」
「はい。虚獣や虚影は、人々の肉体を傷つけながらその魂を喰らいます。肉体は無事でも、心を失ってしまい、抜け殻のようになってしまう人がいるのも珍しくないのは……ご存知だと思います。私たちの回復魔法でもそこまでの治療はできません」
そんな医者の言葉の後、病室内には重苦しい空気が流れた。
セラフとルミナスと霧崎。
元気のなくなった三人に声をかけようとした医者とナースだったが、彼女らの元気のない表情に気休め程度に浮かんだ言葉は消えてしまったようで、開きかけた口はそのまま閉ざされてしまった。
まるで、三人の陰鬱とした感情が伝染したかのように、皆の表情は暗い。
俺はそんな彼女たちの様子を薄目を開けて見ていた。
完全に、起きるタイミングを見失った……!
まるで、これから葬式でも始まるんじゃないかというような空気である。
お医者さん方も忙しいのだろう。彼らが部屋を立ち去ると、残された三人は重苦しい雰囲気のままこちらを見てきた
……どことなく、三人の表情が怖いのは気のせいだろうか?
いや、気のせいではない。
……あれは、ゲーム本編でも見たことがあるぞ?
病み落ちエンドである。
例えば、一番分かりやすいところでいくと、ルミナスと契約をしながらセラフと関係を持った場合のバッドエンドルートだ。
俺たちの関係を知ったルミナスが、病んでしまうルートなのだが……その時の表情とルミナスが似ている……!
全ヒロイン、バッドエンドを実装していたのだが……霧崎とセラフも同じような顔つきをしている!
ただ、そもそもそのルートに行くには、付き合っている状態まで行かなければならないはずだ。
一体全体、何が起きているんだ!
「……滝川さん。申し訳ありません。私のせいで、こんなことになってしまって」
いや、別にそんな重く受け止めなくてもいいんだけど。
そりゃあ、確かに大変な思いはしたが、それは俺が自分で蒔いた種である。
「……これから、あなたが目覚めるまで、……目覚めてからも、あなたの全てを私が管理していきます。もう、こんなことにならないように……」
せ、セラフ?
彼女の黒くどこかどんよりとした笑みは、やはり見覚えがある。
……ゲームでは、好感度は基本的にあげればいいものだった。
だが、あげすぎ注意でもある。
上げすぎた場合、会えない時間が増えるとヒロインが過保護になっていくのだ。
ちょっとのことで心配するようになっていくし、今のように管理したがるキャラクターも出てくる。
その病み方はキャラクターごとに多少の違いはあれど、最終的にはヤンデレみたいになってしまう。
なので、好感度は一定の数値で維持しましょう、というのが複数のキャラクターを同時に攻略する場合の鉄則だ。
……いや、別に複数キャラクターの同時攻略なんてしてないんだけど。
なぜか、今のセラフは完全にそうだ。俺の頬を撫でた彼女の感触は、どこかぞくりとするものがあった。
その狂気的な笑みをやめるんだセラフ。
セラフが俺から離れたところで、ルミナスがこちらを覗いてきた。
……彼女の純真無垢な雰囲気はなくなっていた。あっ、こっちもちょっとまずいかも。
「……滝川。抜け殻になっても……ずっとあたしがちゃんと面倒見るからね。あたしのすべてを、あんたに捧げるからね」
「……」
怖い、怖い! 目のハイライトが消えている。ルミナスに助けを求めるように目を覚まそうかと思ったが、それは却下だ。
こうなれば、霧崎に頼るしかない。
そんな思いとともに霧崎を待っていたのだが、彼女もまた……同じ目をしている。
なぜ!?
……特に、霧崎は人とあまり交流をとらないので、誰かに固執するキャラクターだ。
そもそも、霧崎をメインヒロインとして攻略する場合でも、霧崎はちょっとのことで嫉妬する程度には人との触れ合いに飢えている部分がある。
それは、家族を失ってより孤立していったからこそなのだが……今は、それが悪化してしまっているように感じる。
い、いや……たぶん家族生きてるよな? ちょっと前に、霧崎の家族たちっぽい人たちがお見舞いの品を持ってきていたような気がするんだけど……。
「滝川。……いつ目が覚めても大丈夫なように、滝川の体を私が動かして、訓練つけてあげるから」
……いや、それはマジで勘弁してください。
三人が俺の顔をじっと覗き込んでくる。……まるで、人形にでもされたかのような気分だ。
「……皆さん。とりあえず滝川さんの着替えを行ってあげましょう」
「そうね」
「服は切ればいい? 剣を使う作業は、任せて」
「脱がせれば大丈夫ですから」
……一応、三人の仲は良さそうだ。
ということは、誰かとの好感度が高くなりすぎての、メインヒロインが嫉妬による病みルートというわけではないようだ。
こ、こんなの俺のデータにないぞ?
……俺の服にセラフが手をかけてくる。どこか荒々しい呼吸なのは、俺の世話をするという理由以外もありそうだ。
さすがに、まずい。このまま、放置しておいたらどんどん悪化することになる。
ええい、ここは思い切りよくいけ――。
俺は心を決め、重いまぶたをゆっくりと開けた。
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