25 / 63
25
しおりを挟むログアウトした俺が一階に降りると、もう舞が夕食を作り始めていた。
こちらに気づいた彼女が、笑顔とともに振り返る。
「あっ、兄貴! 一旦休憩?」
「ああ。そっちも配信終了したのか?」
「うん。さっきちょうど終わったんだ。兄貴のおかげで、めっちゃ攻略進んで最高だったよ! ありがとね!」
舞の笑顔が見られて、俺も最高だ。
やはり地球に戻ってきてよかった……。
長い勇者の旅を思い返しながら、俺はテーブルを拭いたり、箸を並べたりしていく。
料理はすぐにできあがり、俺たちは向かい合うようにして座り、いただきます。
「兄貴ー、今どこまで進んだの?」
「ん? さっき、第二の街についたところだ」
「第二の街!?」
お行儀悪いぞ。でも可愛いからオッケーです。
口から少しお米をとばした舞だが、そのお米を食べたい気持ちをぐっと押さえつつ、俺はテーブルを拭いていく。
舞は驚いたような顔をしたあと、目をキラキラと輝かせる。
「あ、兄貴……凄いよ! ていうか、あの森超えたってことだよね!?」
「森?」
「そうそう! 村の先にある森だよ! 山まで見えてたけど、あそこらへんのナイフモンキーのレベル高くない!?」
「ああ。あいつらは、まあ突破したぞ。その先にも行ったな」
俺が答えると舞は笑顔とともに相槌を打ってくれる。
「さすが兄貴。兄貴の攻略情報は皆で共有してるんだけど、マジで助かってるんだ。あたしたち、『ディメンション』の攻略班だからね。あっ、今はトップ攻略組でもあるんだけど」
「へぇ、そうなのか」
「いやまあ、兄貴が真のトップ攻略組なんだけどね。今、配信界隈凄いんだよ? 『リトル・ブレイブ・オンライン』の配信者は皆凄い同接なんだけど、あたしたちは元々のファン+トップ攻略組ってことで常に十万人以上超えてるんだよね!」
「それって凄いのか?」
「うちの事務所だと快挙だよ! うちは大手よりの中堅って感じなんだけど、今凄い勢いなんだよ!」
「舞のためになったのなら良かったよ」
嬉しそうな笑顔を浮かべる舞を見て、俺も幸せな気持ちになる。
これからもお兄ちゃんさらに頑張らないとな。
舞はそれからも楽しそうに声をあげる。
「もうほんと兄貴のおかげだよ! 斧と槍のおかげで、めっちゃ火力上がったんだよ! 兄貴さまさまだよ」
「ていうか、装備できたのか?」
「結構ステータス偏っちゃってるけどね。あたしと、レイちゃん……あっ、槍使ってる子がメイン火力って感じなんだ。でも筋力にばっかりステータスを振っちゃったせいであんまり動けないんだけどね……」
それだと、確かにナイフモンキーとは相性悪そうだな。
あいつは敏捷を活かしたタイプなので、反応が遅れたら攻撃喰らいまくるよな。
必死に斧を振っている舞の姿を想像して微笑ましい気持ちでいながら、問いかける。
「じゃあ、この後の配信で次の街を目指す感じか?」
「うーん、今日は流石にそこまでは無理かな? とりあえず皆のレベル上げていこうって感じ。あっ、そうだった。兄貴についての質問が色々あったから、聞いておこうと思ったんだ!」
「は? なんで俺の質問?」
「今のあたしたちの配信でコメント欄に兄貴の名前めっちゃ出るもん!」
「ええ……武器を納品してるからか?」
嫌われていないだろうか?
舞の配信をざっと見たときに思ったが、結構男性ファンが多そうだったからな……。
それで舞の視聴者が減ったり登録者数が減ったりなんてしたら……ああ、俺が異世界で身につけたスキルを駆使して、全力でサブ垢を大量に作って補填しなければならない……!
「そうそう。兄貴トップ攻略組だし。あとなんか村でオーク討伐の依頼とか受けた? 村の人たちめっちゃ兄貴に感謝しててあたしは誇らしかったです」
ふふん、と胸を張る舞。
ああ……ここは天国だろうか? 舞に褒められて俺は天にも昇る気持ちだった。
若干昇天しかけたが、女神と再会したくないので現世に戻ってきた。
「まあなレベル1のときに討伐したらなんか称号手に入るかもって思ってやってみたらSランク称号手に入ったぞ」
「ええ!? レベル1で!? 凄い! そうそう、あと視聴者から、配信とかしないの? ってめっちゃ聞かれたんだよ! どうですか兄貴!」
「いや、別にやるつもりはないな」
「えー。今うちの事務所、男性ライバーの一期生を募集中だし、どう? 応募しない? あたしもみたいなー」
舞のためだけにやりたい気持ちが出てきたぞ?
いやでも、いくらトップ攻略組だからといって、新人がやってもそんなに視聴者はつかないだろう。
でも、お金が少しでも稼げるなら、舞の推し活費用を捻出できるかもしれない……。
一向の余地ありだな。
「そういえば、あの森抜けたらもう第二の街に着くの?」
「いや、山を越えていくか、ダンジョン突破のどっちかでいけるな」
「ダンジョン、あるんだ……脳内メモメモ」
「ちなみにそのダンジョンで槍の武器がドロップするんだよ」
「そうなんだ……そこで手に入る武器を二刀流してたら、そりゃあ強いよね」
「まあな。俺はこの後新しい武器を求めて旅立つんだが、あとの人たちは何の武器使ってるんだ? 拾えたらまた納品するぞ?」
「えーと、ホムラちゃんが刀で、セイナちゃんが杖だよ!」
「ほぉ、了解。見つけたら送っておくわ」
「ありがとね! 攻略組、頑張ります!」
敬礼する舞がとても可愛い。
俺はこの可愛い舞を甘やかすために魔王を倒した……。
ああ、これからもたくさん貢いでお礼を言われよう……。
62
あなたにおすすめの小説
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。
選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。
だが、ある日突然――運命は動き出す。
フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。
「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。
死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。
この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。
孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。
リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。
そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる