ブルーノ戦記(惑星ムンド管理官、転生者を監視する。外伝)

山田村

文字の大きさ
2 / 2

ブルーノ戦記 第二話

しおりを挟む


 ここは高級娼館「魔女の吐息」。ロレナ姐さんが一代で築き上げた名店である。人気の秘密はキャストの質が良いこと。トップから新人まで、すべてが上級だ。  

 それには当然、訳がある。姐さんしか作れない病気予防の消毒ローションと避妊薬があることだ。これが娼婦たちの口コミで広がり、良い人材が集まり、結果としてお客様も集まる。もちろん他店も真似をするが、同じ材料で作っても効果は薄く、イマイチな劣化版にしかならない。自分の体が一番大事だから、本物を欲しがるのは娼婦も客も同じだ。  

 ロレナ姐さんは一年前から個数限定で、別の娼館や一般にも販売を始めた。これは昔からの御贔屓の貴族の旦那が提案し、販路拡大の手助けをしてくれたからだ。いわゆる後ろ盾――これを失えば店の終わりを意味する。だから「くれぐれも変なことをしでかすな」と釘を刺された。もちろん俺は、元神主見習いであり商人見習いでもある。真っ当なことしか経験していない。  

 男娼として採用されたが、初めての男娼というわけでは客もいない。俺の営業はお客のもとへ出張して仕事をして帰るデリバリースタイルに決まっているが、今は集客の最中だ。ロレナ姐さんは働かない者には厳しい。だから簡単な事務仕事や掃除もできるとアピールしたら、  

「ブルーノ、お前、字が読めて計算できるのか?」と聞いてきた。  

「クララに捕まる前は神主見習いと商店見習いをしてた。字も書けるし計算もできる。ただ、ポルトガル王国の文字は多少できるが、基本似てるからすぐ覚えると思う。」  

「分かった。じゃあ計算をしてくれ。裏に事務員がいるから詳しいことは聞いてくれ。」  

 というわけで、仕事が入るまで事務の仕事ができることになった。「ただ飯くらいを連れて来た」とクララが罵られることもないだろう。

▼△▼△▼△▼△

 数日後、遂にその日が来た。出張だと思い、出張セットを準備して待機室へ向かった。するとロレナ姐さんと身なりの良いご老人が目の前に現れた。  

「この子ですか、興味深い。ほほほ」  

「旦那様だ。挨拶しなさい」  

「ブルーノです。よろしくお願いいたします」  

 俺の相手はこのご老人か?悲しい……。  

「馬鹿だね、何を勘違いしてるんだよ。こちらは私のスポンサーだよ」  

「えっ、ご貴族様の……」  

 ご老人はニコニコと微笑んでいたが、目が怖い。  

「これから旦那様の第三夫人のお相手だ。旦那様は見学して、お前を値踏みする。しっかり仕事してくれ、分かったか」  

「はい!」  

 俺は元気よく返事をし、一番豪華な部屋で仕事開始だ。一時間以内で準備から終了までを判定すると言われている。普段は事務仕事ばかりではない。日に一回は練習会に参加して作業のチェックを受ける。厳しい世界だ。  

 三十分後――。  

「良いものを採用したな。合格だ。お前は使えるかもしれない。ブルーノよ、私の為に働け。期待しているよ……ほほほ」  

 ……怖い。なんか興奮してきた……クララ……。  

 夫人は歩くことができず、旦那様のお付きのメイドに支えられ店を後にした。  

▼△▼△▼△▼△

 それから数日後、俺は貴族の馬車の中にいた。相手は若く美しい未亡人らしい。旦那様の話によると、これからこうして貴族の未亡人を相手にして喜ばせることも俺の仕事だという。  

「ブルーノ、期待しているよ」  

 毎回そう言われて……いつも緊張する。  



 近頃は週に四日は出張している。リピーターも出てきて、順調に回ってきた。  

 今日はご婦人が一緒に馬車に乗っている。ご婦人の希望で、ここが仕事場に指定され、仕事開始だ。  

▼△▼△▼△▼△

「ブルーノ。君の頑張りで私の仕事も順調だ。感謝するよ。この調子で目の前の相手をバッタバッタと組み倒してくれたまえ……ほっほほほほ」  

 ……目が怖い……クララ……。  



 俺は政治の話は分からないし興味もない。俺の興味はクララにいじられることで悦に浸る変態野郎だ。と泣きながらクララに言った。  

「このブタ野郎!気持ち悪い!」  

 頭を殴られた。彼女の優しさが身に染みて、また泣いた。だって、跡が付かないように殴るあたりが優しい。  

 クララと一戦して、ふと思い出した。俺のこの力ってイザベルの力なのか?もしそうなら、イザベルには感謝だ。天職を授かったことになるし、あの言葉――「あと数年もしたら、掴まれるぐらい平気になるのに」――も本当だった。あの時は恥ずかしくて強がったが、彼女が正しかった。

▼△▼△▼△▼△

 俺は、クララにイザベルの子供の頃のエピソードを、ただの世間話として話していた。これが、とんでもない事態になるとは予想もせずに。

 数日後、ロレナ姐さんがやってきた。

「ブルーノ、クララに聞いたけど、イザベルっていう幼馴染の話……ちょっと詳しく教えてくれない!」

 俺は子供の頃の話を簡単に語り、冗談話として紹介した。すると、ロレナ姐さんが言った。

「ウソみたいな話だけど、もし本当なら是非、家のためにイザベルに力を貸してもらえないかしら?」

「はーあ、本気ですか? 遠いですよ。それに王都のどこに住んでいるか分かりません。」

「あなたの実家や彼女の実家、今もあるんでしょう。そこで聞いてみるわ。」

「本気みたいですね……」

「あなたの実家には、あなたがここで暮らしているって書きなさい。そうね、山賊に襲われて囚われていたあなたを私たちが助けて、その縁で家で事務仕事をして暮らしている――そんな手紙を書けばいい。本当のことを書いてもいいけど、元気に暮らしているって内容は必ず入れてよ。」

 俺は嘘はつきたくなかったから、「山賊の女に惚れて、娼館で働いている」という内容で父さんに手紙を書いた。ロレナ姐さんがチェックして、

「馬鹿ね~。本当のことを書いて……まあいいわ。変なことは書いていないし、旦那様に迷惑をかけない内容だから。これで、イベレア担当の商人にこの手紙を頼むわ。ついでにイザベルのこともお願いする。それと、変に気を使わなくてもいいから、商売のついでにあなたの実家とイザベルのことを聞くだけよ。」

 そう言われ、その時は俺も変に気を使わなかった。

 俺はクララとロレナ姐さんの話を偶然聞いてしまった。

「いたら、拉致するんですか?」

「そうね、可哀想だけど、旦那様が興味を持ってね。『ブルーノを見て分かるだろう。伝説の魔力持ちかもしれない』って言ってね……あっ!」

「……俺……」泣いてしまった。イザベル……ゴメン。

「諦めな。旦那様の判断だ。俺とブルーノは旦那様に生かしてもらっているんだから。もし上手くいったら、イザベルを抱くこともできる……多分? 初恋だろ。」


▼△▼△▼△▼△


 数ヶ月後、イザベルの消息が分かったが、行方不明だった。王都で鍛冶屋の嫁になり、店の前で神隠しに遭って消えたという。その話を聞いて、「ウソだろー」と「良かった」という気持ちが混在し、自分の罪悪感が溶けるように消えていった。

その後の俺は、週に五度、ご婦人相手の仕事をこなし、充実した日々を送っている。地元では着ることもない高級な服をまとい、香水を漂わせ、見た目はまるで貴族のようだ。だが家に帰れば、クララにいじめられて喜ぶ、ただの変態野郎に戻る。  

 数日前、旦那様が亡くなった。ご子息が継ぐのかと思いきや、権利は高額で別の男爵に売り渡され、新しい旦那様が屋敷を治めることになった。ロレナ姐さんは取り分が増え、ご機嫌だった。  

 新しい旦那様はペレス男爵――三十代の若い貴族だ。その名は、奇しくもイザベルの家と同じ家名だった。不思議な縁を感じながら、俺は庭を眺め、年老いたクララと並んで茶をすする。  

 風が木々を揺らし、遠い記憶が胸をかすめる。イザベルの笑顔も、声も、もう戻らない。だが、名だけが静かに残り、俺の心に影を落とし続けていた。   
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...