ブルーノ戦記(惑星ムンド管理官、転生者を監視する。外伝)

山田村

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ブルーノ戦記 第二話

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 ここは高級娼館「魔女の吐息」。ロレナ姐さんが一代で築き上げた名店である。人気の秘密はキャストの質が良いこと。トップから新人まで、すべてが上級だ。  

 それには当然、訳がある。姐さんしか作れない病気予防の消毒ローションと避妊薬があることだ。これが娼婦たちの口コミで広がり、良い人材が集まり、結果としてお客様も集まる。もちろん他店も真似をするが、同じ材料で作っても効果は薄く、イマイチな劣化版にしかならない。自分の体が一番大事だから、本物を欲しがるのは娼婦も客も同じだ。  

 ロレナ姐さんは一年前から個数限定で、別の娼館や一般にも販売を始めた。これは昔からの御贔屓の貴族の旦那が提案し、販路拡大の手助けをしてくれたからだ。いわゆる後ろ盾――これを失えば店の終わりを意味する。だから「くれぐれも変なことをしでかすな」と釘を刺された。もちろん俺は、元神主見習いであり商人見習いでもある。真っ当なことしか経験していない。  

 男娼として採用されたが、初めての男娼というわけでは客もいない。俺の営業はお客のもとへ出張して仕事をして帰るデリバリースタイルに決まっているが、今は集客の最中だ。ロレナ姐さんは働かない者には厳しい。だから簡単な事務仕事や掃除もできるとアピールしたら、  

「ブルーノ、お前、字が読めて計算できるのか?」と聞いてきた。  

「クララに捕まる前は神主見習いと商店見習いをしてた。字も書けるし計算もできる。ただ、ポルトガル王国の文字は多少できるが、基本似てるからすぐ覚えると思う。」  

「分かった。じゃあ計算をしてくれ。裏に事務員がいるから詳しいことは聞いてくれ。」  

 というわけで、仕事が入るまで事務の仕事ができることになった。「ただ飯くらいを連れて来た」とクララが罵られることもないだろう。

▼△▼△▼△▼△

 数日後、遂にその日が来た。出張だと思い、出張セットを準備して待機室へ向かった。するとロレナ姐さんと身なりの良いご老人が目の前に現れた。  

「この子ですか、興味深い。ほほほ」  

「旦那様だ。挨拶しなさい」  

「ブルーノです。よろしくお願いいたします」  

 俺の相手はこのご老人か?悲しい……。  

「馬鹿だね、何を勘違いしてるんだよ。こちらは私のスポンサーだよ」  

「えっ、ご貴族様の……」  

 ご老人はニコニコと微笑んでいたが、目が怖い。  

「これから旦那様の第三夫人のお相手だ。旦那様は見学して、お前を値踏みする。しっかり仕事してくれ、分かったか」  

「はい!」  

 俺は元気よく返事をし、一番豪華な部屋で仕事開始だ。一時間以内で準備から終了までを判定すると言われている。普段は事務仕事ばかりではない。日に一回は練習会に参加して作業のチェックを受ける。厳しい世界だ。  

 三十分後――。  

「良いものを採用したな。合格だ。お前は使えるかもしれない。ブルーノよ、私の為に働け。期待しているよ……ほほほ」  

 ……怖い。なんか興奮してきた……クララ……。  

 夫人は歩くことができず、旦那様のお付きのメイドに支えられ店を後にした。  

▼△▼△▼△▼△

 それから数日後、俺は貴族の馬車の中にいた。相手は若く美しい未亡人らしい。旦那様の話によると、これからこうして貴族の未亡人を相手にして喜ばせることも俺の仕事だという。  

「ブルーノ、期待しているよ」  

 毎回そう言われて……いつも緊張する。  



 近頃は週に四日は出張している。リピーターも出てきて、順調に回ってきた。  

 今日はご婦人が一緒に馬車に乗っている。ご婦人の希望で、ここが仕事場に指定され、仕事開始だ。  

▼△▼△▼△▼△

「ブルーノ。君の頑張りで私の仕事も順調だ。感謝するよ。この調子で目の前の相手をバッタバッタと組み倒してくれたまえ……ほっほほほほ」  

 ……目が怖い……クララ……。  



 俺は政治の話は分からないし興味もない。俺の興味はクララにいじられることで悦に浸る変態野郎だ。と泣きながらクララに言った。  

「このブタ野郎!気持ち悪い!」  

 頭を殴られた。彼女の優しさが身に染みて、また泣いた。だって、跡が付かないように殴るあたりが優しい。  

 クララと一戦して、ふと思い出した。俺のこの力ってイザベルの力なのか?もしそうなら、イザベルには感謝だ。天職を授かったことになるし、あの言葉――「あと数年もしたら、掴まれるぐらい平気になるのに」――も本当だった。あの時は恥ずかしくて強がったが、彼女が正しかった。

▼△▼△▼△▼△

 俺は、クララにイザベルの子供の頃のエピソードを、ただの世間話として話していた。これが、とんでもない事態になるとは予想もせずに。

 数日後、ロレナ姐さんがやってきた。

「ブルーノ、クララに聞いたけど、イザベルっていう幼馴染の話……ちょっと詳しく教えてくれない!」

 俺は子供の頃の話を簡単に語り、冗談話として紹介した。すると、ロレナ姐さんが言った。

「ウソみたいな話だけど、もし本当なら是非、家のためにイザベルに力を貸してもらえないかしら?」

「はーあ、本気ですか? 遠いですよ。それに王都のどこに住んでいるか分かりません。」

「あなたの実家や彼女の実家、今もあるんでしょう。そこで聞いてみるわ。」

「本気みたいですね……」

「あなたの実家には、あなたがここで暮らしているって書きなさい。そうね、山賊に襲われて囚われていたあなたを私たちが助けて、その縁で家で事務仕事をして暮らしている――そんな手紙を書けばいい。本当のことを書いてもいいけど、元気に暮らしているって内容は必ず入れてよ。」

 俺は嘘はつきたくなかったから、「山賊の女に惚れて、娼館で働いている」という内容で父さんに手紙を書いた。ロレナ姐さんがチェックして、

「馬鹿ね~。本当のことを書いて……まあいいわ。変なことは書いていないし、旦那様に迷惑をかけない内容だから。これで、イベレア担当の商人にこの手紙を頼むわ。ついでにイザベルのこともお願いする。それと、変に気を使わなくてもいいから、商売のついでにあなたの実家とイザベルのことを聞くだけよ。」

 そう言われ、その時は俺も変に気を使わなかった。

 俺はクララとロレナ姐さんの話を偶然聞いてしまった。

「いたら、拉致するんですか?」

「そうね、可哀想だけど、旦那様が興味を持ってね。『ブルーノを見て分かるだろう。伝説の魔力持ちかもしれない』って言ってね……あっ!」

「……俺……」泣いてしまった。イザベル……ゴメン。

「諦めな。旦那様の判断だ。俺とブルーノは旦那様に生かしてもらっているんだから。もし上手くいったら、イザベルを抱くこともできる……多分? 初恋だろ。」


▼△▼△▼△▼△


 数ヶ月後、イザベルの消息が分かったが、行方不明だった。王都で鍛冶屋の嫁になり、店の前で神隠しに遭って消えたという。その話を聞いて、「ウソだろー」と「良かった」という気持ちが混在し、自分の罪悪感が溶けるように消えていった。

その後の俺は、週に五度、ご婦人相手の仕事をこなし、充実した日々を送っている。地元では着ることもない高級な服をまとい、香水を漂わせ、見た目はまるで貴族のようだ。だが家に帰れば、クララにいじめられて喜ぶ、ただの変態野郎に戻る。  

 数日前、旦那様が亡くなった。ご子息が継ぐのかと思いきや、権利は高額で別の男爵に売り渡され、新しい旦那様が屋敷を治めることになった。ロレナ姐さんは取り分が増え、ご機嫌だった。  

 新しい旦那様はペレス男爵――三十代の若い貴族だ。その名は、奇しくもイザベルの家と同じ家名だった。不思議な縁を感じながら、俺は庭を眺め、年老いたクララと並んで茶をすする。  

 風が木々を揺らし、遠い記憶が胸をかすめる。イザベルの笑顔も、声も、もう戻らない。だが、名だけが静かに残り、俺の心に影を落とし続けていた。   
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