惑星ムンド管理官、転生者を監視する。

山田村

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第五章 歴史

第40話 ウェールズ国 1485年 王子

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たまに、バレリアは愛犬のように何かを咥えて、自慢げにものを拾ってくる。  

「右腕、体から離れた右腕は剣をしっかりと掴んでいた。顔も体も泥だらけで、おまけにお漏らしで臭い。ヤバいね。時間がないから要塞で治療しよう。」  

 治療はできたが、まだ起こしていない。ラシーヤと相談して、記憶を上書きして外に放つ方向で話はついたが、私はイマイチ乗り気ではなかった。彼は外見が、私の好きだったフー・ハンターズの変態ベースシストとして活躍し、二十七歳で早死にしたローリーにそっくりで――なんか、お腹の方がウズウズする。イバンには申し訳ないが、私の中の野生が子宮を刺激するのだ。(沈黙)  

「イザベル、落ち着いて。彼の持ち物を検査したら、イングランド国のマシュー王子です。有名な剣豪王子ですね。起こして話を聞き出し、記憶を農夫として上書きし、アイルランドに放ちましょう。」  

 目覚めの刺激を与えた。白いソファーに深く腰を下ろした男は急に目を覚ます。彼の目の前には白い空間が広がり、個室の中にいる。あたりをキョロキョロと見渡すが、すべて白の空間。立ち上がり、自分の右腕をまじまじと見ている。左足の傷があったあたりを手でさすり、歩き始めた。床も壁も柔らかく、不思議な空間。明かりもないのに、明るい。  

「お目覚めですか。私はラシーヤ。死にかけたあなたを助けました。あなたは誰ですか。」  

「私は腕を失い、絶望から意識が遠のいた。しかし今、すべてが元通りになっている。あなたは神か?……ありがとう。神よ、私の出来ることのすべてを捧げる。私はイングランド国、王子マシュー……(沈黙)」  

「マシュー、私は神ではない。ラシーヤと呼んでくれ。……質問がある。なぜ、あの地で倒れていた?戦場から離れていたが。」  

「私は敵のパーカー侯爵軍と戦って打ち破り、イングランド国へ凱旋中に兄の側近の将軍と遠征軍の幹部が油断していた私を切りつけ、深手を負った。将軍や幹部数人は討ち取ったが、逃げる幹部を追いつめて力尽きた場所だと思う。」  

「分かりました。そのままイングランド国に帰ると、同じことが起きますね。別の国で静かに暮らすことを勧めます。」  

「悔しいですが、後継者争いに巻き込まれたくはない。兄の剣と盾になるつもりだったが、兄は私を信用していなかったということだ。一つだけ心残りがある。母がこれからどうなるのか心配だ。」  

 本心でこんなことを言うなんて、いい子だね。小説のセリフみたいだ。  

「母に関してのその後は、あなたがどんな死に方をしたかで決まります。英雄か裏切り者か。予想は英雄です。王国はあなたの死を踏み台にして一つにまとまることを選びます。よって、母親は安全だと思う。」  

「確かに、その方が賢い選択だ。ただ、楽観的にはなれない。」  

 出来た子ね。これだと兄に嫌われるね。  

「母親はどこにいるのか?」  

「母は魔導士の家系で、普段は研究室にいて、夜は側室の部屋にいる。」  

 出た、魔法関連。これは面白い。仲間に引き込めと、私の子宮がそう話している。ラシーヤに念話モードで話しかけた。  

「マシュー、少し休憩しましょう。後ろの緑の椅子に座ってください。」  

 マシューは数分前にはなかった緑のソファーに座り、人型アンドロイドがお茶とお菓子を持ってテーブルにそっと置き、奥で無言のまま待機している。人型だが顔がなく、全裸で男でも女でもない。会話ができる雰囲気ではなかった。  

 今、私たちは召喚魔法の解明の手掛かりを探していることをラシーヤも知っている。そこで、マシューの母親の協力を得て一つ前進したい。彼を仲間に入れることは問題ないか聞いてみた。  

「子宮がそうしたいの?別に問題ないけど、好きに生きて。問題があれば連絡する。」  

 はじめに突っ込みを入れられてしまったが、問題ないらしい。バレリアに仲間の話をして、今後の予定を話した。  

「気がかりはイバンのことくらいね!もう帰れるか分からない状況だから。このまま一人で老人になるのは嫌だし……あ!バレリアがいるのは心強いし、離れるつもりはないけど、子供が欲しいのよ。」  

「報告があります。要塞経由で連絡可能になっています。若干のタイムラグがありますが、連絡しますか?」  

「えっ、できるの!このタイミングで新事実、揺らぐー」  

 胸の奥が熱くなる一方で、遠い人への愛情に揺れる記憶が冷静さを取り戻させる

 十分後。  

「連絡可能になりました。現地は深夜二時です。繋ぎます。」  

「イザベル、久しぶり……また会えるとは思わなかったよ。イザベル、私よ、イレーネよ。今どこにいるのよー。まったく、早く帰ってきなさいよ。」  

「イバン、イレーネ。よく聞いて。私は今、別の世界に転移され、そこで暮らしているの。だから帰れる手段を探している。帰るには転移以外方法がなくて、来年なのか、お婆さんになる頃なのか分からないの。(沈黙)」  

 驚いて、二人は沈黙した。・・・私の不安定な未来と心の揺らぎから、

「イバン、イレーネ……幸せに暮らして、愛している……」

イザベルの言葉にイバンは言葉の意味をくみ取って答えた。  

「イザベル、俺も愛してる。イザベルも幸せになってくれ。」  

 寂しそうなイバンの映像と、対照的にイレーネが言った。  

「私も愛しているから……イバンのことは私が守るから安心して……」  

 イレーネらしさが頼もしく感じた。・・・二人の声が途切れた後、私は静かな空間に取り残され、涙が滲んだ。

通信が終了すると、バレリアが言った。  

「記憶は消去上書きされ、イザベルの夢を見た記憶に変わります。」  

 一瞬考えたが、それでいいと自分に言い聞かせ、納得させた。
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