神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

文字の大きさ
6 / 90
第1章

第6話「動き出す町」

しおりを挟む
 ――水の音は、命の音だった。
 給水塔からあふれ出た透明な流れが、岩の溝を伝って砂の地面を濡らしていく。
 それを見た棄却者たちは、最初こそ戸惑っていた。
 だが、誰かが指先でその雫に触れ、目を見開いた瞬間――歓声が弾けた。

「水だ……! 本当に水が……!」
「生きてる……塔が、また動いてる……!」

 人々が駆け出す。
 空き瓶、ひび割れた壺、金属製のカップ。
 ありとあらゆる器に水をすくい上げ、互いに笑い合う。
 その声が、風よりも遠くまで響いた。

 俺はその光景を見つめながら、肩の上のリィムに声をかけた。
「……なあリィム。水って、こんなに“うるさい”もんだったんだな」
《定義補足:環境ノイズではなく、生命活動のサイン。/主、笑顔検出。》
「うるさいって言っても悪い意味じゃない。……いい音だよ」
 リィムが小さく震えた。
 まるで、“わかってる”とでも言うように。

     ◇

 昼過ぎ。
 バル=アルドの町は、まるで別の場所のようだった。
 人々が水を運び、布を洗い、子どもたちが泥まみれになってはしゃいでいる。
 かつて“死の町”と呼ばれたこの場所が、今は“生きている”音で満ちていた。

 ジルドの修理工房では、ひっきりなしに人が出入りしていた。
「ジルド親父、バルブが詰まってる!」
「管がねじ切れてるぞ、修理用のパーツは!?」
「水が流れるルートを地図にしておけ、漏れたら一瞬で干上がる!」

 その中心で、俺はリィムと一緒に配管図を〈観測〉していた。
 頭の中に浮かぶ、光のライン。
 複雑に絡み合った配水路を、青い線で示していく。

《環境スキャン完了。/供給路パターンを最適化。/提案ルートをマップへ投影します。》
「助かる。……リィム、南区の出力を五%下げて」
《了解。流量再計算。圧力バランス=安定。》

「――おい、見ろよ。塔からの圧が一定だ」
「嘘みてぇだ……神の加護じゃなく、人の手で水が動いてる……!」

 そんな声を聞きながら、俺は工具を握り直した。
「……ほらな、リィム。やっぱり世界って“動かすもん”なんだよ」
《同意。/修理とは、停止状態に“意味”を与える行為。》
「意味、か……お前、最近やけに哲学っぽくなってきたな」
《学習中。/主の発話内容から“思考パターン”を模倣。》
「俺の真似はやめとけ。変な理屈ばっかりになるぞ」

 リィムがぷるんと震えた。
 それが“苦笑い”のように見えて、思わず笑みがこぼれる。

     ◇

 ――瓦礫の広場に、焚き火が揺れる。
 棄却者たちが輪になって座り、砂の町の“再起動会議”が始まった。

「まずは水路の再接続が最優先だな」
「次に住居区の再建。壁材と布が足りねぇ」
「夜になると魔獣が来る。外壁の警備もいる」
「それに……食料も。水が戻っても、畑がなきゃ意味がねぇ」

 みんな真剣だ。
 でも、誰も“何から手をつけるべきか”分からずにいる。
 俺は焚き火の明かりを見つめながら、静かに言った。

「順番を決めよう。リィム、優先度を出してくれ」

《提案:第一=飲料水供給。/第二=生活区画の整備。/第三=防衛網構築。/第四=食料再生。》

 その瞬間、俺の視界に青い光が浮かんだ。
 同時に、肩の上のリィムがふわりと宙に浮き、焚き火の光に重なる。

《共有モード起動。/可視化許可:周辺参加者》

 空中に、青いホログラムのような“円”が展開された。
 文字と線が浮かび、誰にでも読めるように翻訳されていく。

 棄却者たちが息を呑む。
「な、なんだこれ……光の地図……?」
「水路と住居区が……全部映ってる!?」
「文字が、勝手に……読める……!」

「――リィムの提案だ」
 俺が言うと、みんなの視線がリィムに集まる。
 ぷるんと揺れる小さなスライムの中に、青い光の粒が脈動していた。

「スライムが……喋った……?」
「いや、喋ってねぇ。頭に声が響いた……!」
 ジルドが苦笑する。
「……お前、マジで神のバグみてぇなやつだな」

 焚き火の赤とリィムの青が、夜空で混ざり合う。
 見上げる誰もが、初めて“希望”を可視化したような顔をしていた。

「神が与えねぇなら、俺たちが作ればいい。
 ――世界の理だって、修理すれば動くんだ」

 その一言で、場の空気が変わった。
 人々がうなずき、笑い、希望の音が焚き火の中で弾ける。

「スライムに会議仕切られる日が来るとはな」
「いいじゃねぇか、神よりずっと頼もしいよ」
「そうだ、“修理王”の秘書だろ?」
「やめろ、その呼び方定着してんじゃねぇか!」

 笑い声が夜風に混ざり、光の地図がゆっくりと消えていく。
 砂の町が、確かに“動き出した”瞬間だった。
     ◇

 会議が終わり、俺は一人で屋上に上がった。
 風が冷たい。けれど、今日はそれが心地よかった。
 肩の上でリィムが小さく光を放つ。
 二つの月が、砂漠を青く照らしている。

「なあリィム」
《呼応:どうした。》
「俺、ほんとは王なんか向いてない。
 計画立てるより、壊れた物を直してる方が性に合ってる」
《主、謙遜傾向。/補足:周囲評価タグ“信頼度上昇中”。》
「……まさか数値化されてんのかよ」
《ログ管理中。削除不能タグ:好感度・信頼度・安全圏。》
「……どんどん増えてる気がするんだけど」
《観測結果:人は修理されると笑う。/主も、同様。》

 その言葉に、思わず息をのんだ。
 リィムが“笑う”という概念を、ようやく理解し始めている。
 この世界で、初めて芽生えた“感情のバグ”。

 ――いいじゃないか。そんなバグなら、大歓迎だ。

 遠くで笑い声が聞こえる。
 子どもたちの笑い、誰かの歌、ジルドの豪快な笑い。
 その全部が、修理された街の“動作音”みたいだった。

 壊れたものを直す。
 止まったものを動かす。
 それだけの繰り返しが、きっと“建国”の始まりなんだろう。

 俺とリィムの〈修理国家〉は、いま、静かに動き出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...