神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

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第1章

第11話「光を見た者たち」

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 ――その夜。

 砂の彼方、黒い岩山に囲まれた聖域。
 女神の神殿跡に建つ監視塔が、異常光を検知した。

《信号記録:南西方向に光源出現。/波長:神域干渉帯。/発信源不明。》
「またか……」
 塔の上で、白い外套をまとった青年が呻く。
 その名は――レオン。勇者領の監視官。
 聖政庁直属の“神託端末”のひとりだ。

 彼の瞳の中に、青い光が映り込んでいる。
 砂漠の向こう、夜の闇に浮かぶそれは、まるで星の誕生だった。

「……神の光では、ない。」
 思わず口にしたその言葉が、冷たい空気を裂いた。

《補足:解析不能な魔導波。/構成コード=人為生成。》
「人為……? 人間が、この領域で……?」

 塔の奥に控えていた巫女がひざまずき、震える声で言った。
「“放流者”どもの仕業かと……。」
「放流者……。棄却の民が、神の領域で光を? 笑わせる。」
 そう言いながらも、レオンの声にはかすかな苛立ちが混じっていた。
 神の奇跡以外の光――それが彼の信仰を揺らがせていたのだ。

「……現地調査を申請する。」
「まさか、あなた自ら?」
「神の光ではない“光”がこの世に灯った。
 ならば、確かめる価値がある。」

 レオンは外套を翻し、夜風の中に歩み出た。
 月明かりにその瞳が光る。
 そこには“義務”ではなく、“疑問”が宿っていた。

     ◇

 そのころ――バル=アルド。

 灯りがともった夜の翌朝、町は静かな活気に包まれていた。
 子どもたちが光塔の下で遊び、女たちは水瓶に映る光を眺め、
 男たちは通りを掃きながら鼻歌を歌っていた。

 リィムが肩の上でくるりと回転する。
《観測:住民活性指数+21%。/新タグ生成:“希望”。》
「タグ名がやけにポジティブだな。」
《主の発言を学習した結果。/“理屈より笑顔”という指針を参照。》
「おい、そんなのいつ言った?」
《非言語ログ。表情解析より抽出。》
「……やっぱお前、怖いときあるぞ。」

 ジルドが後ろから声をかけてきた。
「おい修理屋、見たか? 昨夜の光を見て、周辺の集落から使いが来た。」
「もう噂が広まったか。」
「“神の奇跡が降った”って言ってる連中もいりゃ、“人の革命が始まった”って言う者もいる。」
「どっちにしても、静かじゃいられねぇってことか。」

 ミラが工房の扉を蹴り開け、金属粉まみれの顔を出した。
「おーい、悠人! 光塔の増設、南区もやっていいか?」
「おはよう、朝から元気だな。」
「寝てらんねぇよ。……夜が明るくなったら、鍛冶がはかどって仕方ねぇ!」
 その勢いに、思わず笑う。

《観測:対象“ミラ”の情動エネルギー=高。/都市開発速度:上昇予測。》
「おいリィム、予測立てるの早すぎ。」
《主の思考傾向:前向き。追従学習。》
「……なんか、調子よくなってきたなお前。」
《主の影響。》
 そう返すリィムの声が、いつになく柔らかかった。

 その瞬間――。

《警告:外部波形検知。/周波数=勇者領通信帯。/距離:およそ二百リュード。》
「……勇者領?」
《肯定。/監視信号と思われる。/観測:空間に高密度コード反応。》

 俺は視線を空に向けた。
 二つの月の間に、わずかに光の筋が走る。
 人の目では見えないほどの繊細な線――
 でも確かに、誰かがこちらを“見ている”。

「……リィム、記録を残せ。外からの視線だ。」
《記録中。/警戒タグ:“観測者逆探知”。》
 ミラが俺の隣に立つ。
「どうした?」
「――俺たちの光、見られてる。」
「……つまり、来るんだな。」
「ああ。きっと、“神の国”が。」

 風が吹き抜ける。
 光塔の先端で、昨夜の残光がまだ淡く瞬いていた。

《ログ出力:外部接触予兆/世界観測範囲:拡張中。》

 ――神の理と人の理が、初めて交わろうとしていた。




 ――砂嵐のあと、空は異様なほど静かだった。

 朝焼けの光が、砂丘の上に淡く広がる。
 その中を、一団の影が進んでいた。

 白銀の外套に身を包み、胸元には女神の紋章。
 勇者領・聖政庁直属の監視使節。
 その先頭を歩く青年――レオン=アマギは、
 砂漠の果てに立つ“光の街”を見て目を細めた。

「……見間違いじゃない。あれは――人工の光だ。」
 隣の巫女が怯えるように囁く。
「神託に反する技。……人の手で夜を照らすなど、異端です。」
「異端、か。だが……美しい。」

 レオンの瞳に映るバル=アルドは、夜の残光に包まれて輝いていた。
 まるで、神が与えた奇跡を奪い返した街のように。

     ◇

「おい、客だ!」

 見張りの声に、工房で工具を振るっていたミラが顔を上げる。
「もう来たのかよ、昨日の光を見て!」
「話が早すぎるんだよ、世界!」
 悠人が苦笑する。
 肩の上でリィムが静かに発光した。

《外部識別コード照合完了。/勇者領聖政庁所属確認。/通信帯:監査モード。》
「つまり、“上からの査問”ってことだな。」
《肯定。ただし、敵意レベル:不明。》
「不明が一番怖ぇんだよ。」

 町の入口では、ジルドがすでに杖をつき、迎えの姿勢をとっていた。
 砂煙の向こうから現れたのは、五人の巡礼服の使節。
 その中心に立つ青年が、静かに名乗る。

「勇者領監視官、レオン=アマギ。
 ――この光の街、バル=アルドの代表はどなたかな。」

「俺だよ。」
 悠人が一歩、前へ出る。
 リィムの青光が肩で瞬く。

「風間悠人。放流者であり、修理屋だ。」

 レオンの目がわずかに動いた。
 人間でありながら、どこか“神の気配”を帯びた視線。
 彼は穏やかに微笑む。

「神の許しを受けずに、光を点した――そう聞いている。」
「許可は取ってないな。でも結果は見ての通りだ。」
 悠人が指をさす。
 塔の上では、昨夜ともした灯がまだ柔らかく揺れていた。

 レオンは数秒、黙ってそれを見つめた。
 そして、低く息を吐く。
「……美しい。けれど、危険だ。」
「危険?」
「神託を超える行為は、“秩序の破損”を意味する。
 この光は、人の手にあるべきではない。」

 その瞬間、ミラが前に出た。
「ふざけんな!」
「ミラ!」
「だってそうだろ! あんたらの“神”が水を止めた! 
 だからあたしたちは手で直した! それのどこが罪なんだよ!」

 周囲の空気が一瞬で張り詰める。
 巫女たちがざわめき、レオンの部下が手をかけかける。
 だが、レオンは手を上げてそれを制した。

「……君は、神の裁きを恐れないのか。」
「怖いよ。でもそれ以上に、止まってる水と、泣いてる子どもを見てるほうが怖い。」
 ミラの声は震えていたが、その瞳はまっすぐだった。

 リィムが青く光る。
《感情分析:対象“ミラ”=恐怖+信念。主の心拍=同期上昇。/共鳴率:82%。》
「……リィム、解析いらん。」
《了解。/ただし、記録保持。》

 悠人は一歩前へ出た。
「俺たちは戦うつもりはない。ただ――世界を“直す”だけだ。」
「神の手ではなく?」
「ああ。人の手で。」

 沈黙が落ちた。
 風が通り抜け、塔の光がかすかに揺れる。
 レオンはその光をじっと見つめ――静かに言った。

「……報告は保留にする。」
「え?」
「まだ判断はつかない。
 この光が“冒涜”か、“再生”か。
 ――俺の目で、確かめさせてもらう。」

 ジルドが驚いた顔で息をのむ。
 レオンはマントを翻し、短く言葉を残した。

「監査使節は三日間滞在する。
 ……風間悠人。君と語る価値がありそうだ。」

 その背が去っていくのを見送りながら、ミラが小声で呟く。
「……神の使い、なのに。なんか、優しい目してたな。」
 悠人は静かにうなずく。
「――迷ってる目だよ。」

 リィムが小さく震えた。
《新規タグ:接触成功。外部因子“レオン”登録。/状態:不確定。》

 光の国に、影が来た。
 けれどその影は――敵の形をしていなかった。
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