神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

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第1章

第12話「三日間の観測」

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 ――静かな朝だった。

 勇者領からの使節団が到着して二日。
 バル=アルドの空気は、微妙な緊張と好奇心で満ちていた。

 市場の一角で、ミラが腕まくりをして叫ぶ。
「はい次! 釘は一人十本まで! 先に並んだやつ優先だよ!」
 その隣で、リィムが小さく震える。
《在庫推移:残り二四三本。/消費速度:通常比二・三倍。》
「だからってそんなアナウンスしなくていいって!」
《住民の不安要素:在庫。情報開示で安定率+一一%。》
「正論なのが腹立つ!」

 笑いながら釘を受け取った子どもが「ありがと、スライムちゃん!」と手を振る。
 その仕草に、リィムの体内光がふわりと明るくなった。
《感情タグ:嬉しさ。》
「……自分でタグつけるな。」
《学習過程。/感情データ、未知領域多し。》

 そんな光景を、少し離れた場所でレオンが見ていた。
 白銀の外套の裾をたくし上げ、足元の砂を見つめながら。
 彼の横にはジルド。
 監視官と修理屋――本来なら交わらない立場の二人が、同じ市井を見下ろしていた。

「……あの放流者、風間悠人。君はどう見てる?」
「変人だな。」
 ジルドはあっけらかんと答えた。
「だが、変人がいなきゃ世界は回らねぇ。神も人も、同じことを繰り返すだけだ。」
「……君たちは“神を信じない”のか。」
「信じるさ。だが、“神が間違える”とも思ってる。」
「……不敬だ。」
「便利な言葉だな。だがな、俺たちは神を罵る暇より、水を流すことを選んだ。」

 レオンは答えなかった。
 代わりに、砂に跪く子どもたちを見つめた。
 光塔の根元で、子どもたちは瓶に光を集め、まるで“星”を育てるように遊んでいる。
 その光景に――胸の奥がざらついた。

「……神に選ばれた世界では、こんな光景はない。」
「“神に選ばれなかった”世界だからな。」
 ジルドの言葉が、胸の奥に静かに沈んでいく。

     ◇

 昼過ぎ。
 レオンは悠人と共に給水塔の上に立っていた。
 遠くの地平線に砂塵が立ち、二つの月が昼空に霞んでいる。

「勇者領では、信仰が“数値化”されているって本当か?」
 悠人の問いに、レオンは小さくうなずく。
「信仰指数が高いほど恩寵が得られる。祈りの量が力になる。」
「それで、水が止まるのか。」
「……ああ。信仰が薄い地には、供給が断たれる。それが神託の理だ。」
「理、ね。」
 悠人は手すりに肘をつき、淡く笑う。
「人が死ぬ理なら、俺はバグだと思うけどな。」
 リィムが光を瞬かせる。
《共感:主。/補足:神託コード構造→“死”を想定内変数として処理。/非合理検出。》
「リィム、宗教観を数値で語るな。」
《学習モード:哲学対応。》
「対応すんな!」

 レオンは吹き出してしまった。
 その笑みを、自分で驚く。
 “神の使い”として、こんな風に笑ったのはいつ以来だろう。

「……君のスライム、面白いな。」
「だろ? 相棒なんだ。」
 悠人が軽く肩を叩くと、リィムが小さく跳ねた。
《主、笑顔。対象“レオン”に同調波形発生。/感情タグ:安堵。》
「ほらな。人を笑わせるのも得意なんだ。」
「……君たちは、不思議だ。」
 レオンが小さく呟く。
「信仰を持たず、神の加護もないのに……なぜ笑っていられる。」
「簡単だよ。笑わないと、生きられないから。」

 その答えは、あまりにも人間的で。
 レオンの胸の奥で、何かがかすかに崩れた気がした。

「……君、今の言い方、どこか懐かしい響きがあるな。」
「懐かしい?」
「“笑わないと生きられない”。……それ、俺の世界でも誰かが言っていた気がする。」
 悠人が目を細めた。
「レオン、お前……地球の出身か?」
 レオンは少しの沈黙のあと、静かに首を横に振る。
「分からない。ただ……夜に見る夢の中で、いつも知らない街を歩いてる。
 高い建物と、電の光。空には月がひとつしかない。」
 リィムが淡く光る。
《推定:記憶断片。/外界データ照合=地球。》
 悠人は何も言わなかった。ただ、その瞳の奥に“同郷の影”を見た気がした。

     ◇

 夜。

 バル=アルドの広場では、小さな宴が開かれていた。
 修理屋たちが灯りを囲み、肉を焼き、音楽を奏でる。
 ミラは火床の横で杯を掲げる。
「神の使いさん、遠慮すんなよ!」
「……私は祈りを欠かせない身で――」
「いいから食え!」
 問答無用で皿が押しつけられる。
 その横でリィムが楽しそうに跳ねた。
《対象“レオン”の表情→困惑+笑顔。/タグ:適応中。》

 悠人が微笑む。
「リィム、解析より乾杯しようぜ。」
《了解。乾杯モード起動。音声波:“カンパイ”》
「おい待て、それモードあるの!?」
《新規作成。/汎用祝祭タグに追加。》
「自分でタグ増やすなぁ!」

 笑い声が夜に響いた。
 砂の冷たさより、笑いの熱が勝っていた。

     ◇

 ――三日目の夜。

 光塔の下。
 レオンはひとり、砂に跪いていた。
 月明かりに照らされ、白銀の外套が淡く輝く。

 祈りの言葉は出ない。
 代わりに、胸の奥に浮かんだのは――あの言葉だった。

 “笑わないと、生きられないから。”

 神がくれた理ではなく、人が見出した生の答え。
 その重みを、レオンは初めて理解した。

 彼の前に、リィムがふわりと浮かんだ。
《対象“レオン”。観測完了。/信仰指数→不明。/幸福指数→上昇。》
「……観測、されてしまったか。」
《はい。でも記録は非公開です。》
「そうか。……ありがとう。」

 レオンは立ち上がる。
 夜風が外套をはためかせ、遠くの光塔を照らす。
 ――その光が、神に背く炎ではなく、
 “人が生きようとする灯”だと、彼はようやく知った。
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