神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

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第2章

第28話「光の使節、砂の国へ」

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 ――風が止んだ。
 砂漠の空を、白銀の影が渡る。
 遠く、バル=アルドの監視塔にいた子どもが目をこすった。

「おい見ろよ……鳥? ……違う、飛んでる! 人が、乗ってる!?」

 砂を切るようにして降りてきたのは、白い輸送機――〈セラトランスポーター〉。
 滑るように砂地に着地し、機械の脚が地面に食い込む。
 機体の紋章は勇者領の象徴〈光輪〉。
 太陽のような輝きが、荒野の民の目を焼いた。

 扉が開く。
 降り立つひとりの女。

 白銀の髪が陽を受けて光を返す。
 その瞳は、透き通るような灰青。

 ――エレナ・グランツ。
 勇者の副官にして、“神の秩序を歩く者”。

 周囲の人々がざわめいた。
 ミラは剣の柄に手をかけ、リィムが悠人の肩の上で淡く点滅する。

《警告:勇者領所属個体確認。/武装反応ナシ。/交渉モード起動を推奨。》

「……交渉モード、ね。頼もしいAIだな。」

 俺は息を吐き、前に出た。
 背後では、ノアとジルドが町の入口で待機している。
 リィムの光がゆっくりと拡散し、宙に小さな青い幕を展開した。

《観測シールド展開。/通信傍受:防止。/主、発話をどうぞ。》

「――ようこそ、砂の国へ。
 バル=アルドの……修理屋、風間悠人です。」

 エレナは短く頷いた。
 その動作は、無駄がない。

 訓練で磨かれた兵士のそれ――けれど、目の奥に一瞬だけ柔らかな光が見えた。

「あなたが……神の命令を、書き換えた方ですね。」

「まあ、そうなる。正式な手続きは踏んでないけど、結果は安定してる。」

「“結果”で世界を測る――放流者らしい考えです。」

「そっちの“正しさ”より、こっちの“生き延びる”のが優先なんでね。」

 ミラが小声でぼそりとつぶやく。
「うわー、また淡々と煽るー……!」

 エレナの口元が、わずかに動いた。

 笑ったのか、見定めたのか――わからない。

「勘違いなさらないで。私は敵ではありません。
 神託局の記録官――アイラ・ヴァンディールから報告を受けています。
 あなた方の街は“例外国家”として仮承認された。
 それを確認しに来たのです。」

「確認、ね。」

「ええ。
 あなたが“例外”であるなら、どんな理屈で世界を維持しているのか、見せていただきます。」

 リィムが淡く輝き、映像を展開する。
 空中に、町の水循環ネットワークが広がった。
 温室、給水塔、風車、そして畑。
 すべてが生きて動いている。

《環境安定率:七四%。/住民信仰値:上昇傾向。/供給システム稼働率:九一%。》

「……これが、“理による神託”の街です。」

 エレナの瞳がわずかに揺れた。
 沈黙ののち、低く息を吐く。

「たしかに……神の加護がなくても、ここは動いている。
 けれど――人々の祈りは、どこへ行くのですか?」

 ノアが静かに前へ出た。
 その姿は砂の風に揺れながらも凛としていた。

「祈りは、届いています。
 神の塔ではなく、人と人の間に。」

 エレナは彼女をまっすぐに見た。
 そして、ふと口元に微笑を浮かべた。

「……あなたが“ノア・フェルディナ”ですね。
 旧勇者文明ルミナリアの候補生。
 ……懐かしい名前です。神殿では、あなたのことを“沈黙を赦した聖女”と呼んでいる。」

 ノアの目が見開かれる。
「……私のことを、まだ覚えている人がいたんですね。」

「ええ。忘れられません。
 “神の声が聞こえない”と告げて、追放された少女。
 それでもあなたは、信じ続けた。」

 ノアは目を伏せ、微かに頷いた。
 空気が、少しだけ温かくなる。

 その中で、ジルドが口を開いた。
「で、あんたの目的は? 見学だけで帰るのか?」

「状況を確認し、報告する。それが任務です。
 ――ただし、異常があれば“修正”を加える権限も持っています。」

 その言葉に、リィムが微かに光を濃くした。

《警告:文中“修正”の意味=封印または再同調。/リスク=中。》

 俺はエレナを見据える。
「修正対象に、俺やリィムが含まれてる可能性は?」

「……現時点では、未定です。」

 静かながら、刺すような声。
 互いの目がぶつかる。
 彼女の瞳には恐れはない。
 ただ、確かめたいという意思だけが宿っていた。

 沈黙の中、ミラがぽつりと口を開いた。
「でもさ……“異常”が“奇跡”になることだってあるんでしょ?」

 その一言に、空気が少しだけ緩む。
 ノアが微笑み、ジルドがうなずいた。
 エレナもわずかに目を細め、言葉を返す。

「――そうかもしれませんね。
 だからこそ、私は見に来た。
 “神の外にある奇跡”というものを。」

 風が、砂を揺らした。
 リィムの光が淡く街を包む。
 その中心で、悠人とエレナが静かに向かい合う。

《観測ログ:初接触完了。/感情タグ→警戒+興味。/双方通信:安定。》

 ――神の国と、理の国。
 それぞれの“正義”が、同じ砂の上に立った。

     ◇

 夜。

 エレナは宿舎の窓辺で、バル=アルドの夜景を見下ろしていた。
 無数の灯が、砂の海に浮かんでいる。
 まるで祈りそのものが、地上に降りたようだった。

「……神の加護がないのに、光は消えない。」

 彼女の呟きが、夜風に溶けていく。
 その耳に、かすかな電子音が響いた。
 リィムの監視網から漏れた――観測ノイズ。

《記録:勇者領使節団・感情波形→共感。/主、対応は?》

 そのノイズが、窓越しに彼女の耳に触れた気がした。
 エレナはゆっくりと目を閉じる。

「……神でも理でもない。
 きっと“生きたい”って想いだけが、この世界を動かしてる。」

 その声は、祈りのようで――命令よりも、ずっと強かった。



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