神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

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第3章

第47話「風信子(ヒヤシンス)の報せ」

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 ――夜の砂漠に、音があった。
 風ではない。水でもない。
 それは、人の声。

 バル=アルド――いまは“リジェクト=ガーデン”。
 昼は風が回り、夜は灯りが点く。
 そしていま、人々は“歌”を覚え始めていた。

《主。風塔の下、人が集まってる》
「また歌の練習か?」
《ううん。今日は“お祭り”みたい》

「祭り?」
《パンと風と歌のお祝い。名前、“感謝の夜”。》
「……誰が決めた?」
《街の人たち。ユウトに内緒で》

 リィムの声は、ほんの少し誇らしげだった。
 街が自分で動き始めた――その証拠だ。

     ◇

 広場に行くと、子どもたちが灯籠を持って走り回っていた。
 風塔の羽根には布が巻かれ、音を奏でるようにカラカラと鳴っている。
 それはまるで、この街そのものが“楽器”になったみたいだった。

「ユウトー! 来た来た!」
 ミラが笑顔で手を振る。
 エプロン姿のまま、焼き立ての小さな丸パンを配っている。
「今日だけは仕事じゃなくて“お祝い”だからね!」
「お祝い、ね。……なにを?」
「全部だよ!」
 彼女は笑ってパンを差し出した。
「水も流れてる。風も回ってる。パンも焼ける。歌もある。――ね? これ全部、“ユウトが直した世界”じゃん」

《主、幸福指数:最大値更新》
「リィム、それはたぶん俺じゃなくて……みんなのだ」

 風の流れが変わり、塔の上の布が高く鳴いた。
 まるで「その通り」と言うように。

     ◇

 やがて夜が深まる。
 広場の真ん中、ノアが立っていた。

 白い衣が風に揺れる。
 彼女は手を胸に当て、静かに歌い始めた。
 その声は祈りというより――願いだった。

 誰かがハミングを重ね、子どもたちが手拍子を打つ。
 ジルドが笑いながら足でリズムを刻み、ミラが声を上げる。

 そして最後に、リィムが光を放った。

《同期モード:音共鳴。/街全体、共振開始》

 風塔の羽根が音を拾い、建物が微かに震え、
 水路が共鳴して低い音を返す。
 街が、歌っていた。

《……ユウト。これ、“生きてる”》
「……ああ。街が、自分で息をしてる」
《すごい。音があつい。みんなの声が、ここにのこってる》
「記録できるか?」
《うん。“街の歌”。タグ……“いのち”。》

 リィムの体が淡い光を帯びて揺れた。

 その瞬間、塔のてっぺんに吊るした灯がふっと輝いた。
 風と音と光が混ざり合い、夜空に大きな輪を描く。

 ――まるで、街そのものが夢を見ているようだった。

     ◇

 祭りが終わり、静けさが戻る。
 人々の笑い声が余韻のように響く中、俺は塔の階段を上がった。
 リィムが肩の上で小さく囁く。

《ユウト。……この歌、ずっと残せるかな》
「たぶんな。音は消えても、気持ちは残る」
《……気持ち。消えない、って、すごい》
「それが文明の“心臓”だ」
《文明の心臓……登録》

 二つの月が静かに照らす。
 下では、まだパンの香りが漂い、風が塔を撫でる。
 俺は空を見上げながら、そっと呟いた。

「パンを焼いて、風を回して、歌を作る……。
 ――ここまで来たら、もう“国”だな」
《主、定義確認。/国=パン・風・歌・ひと・しあわせ》
「うん。異議なし」

 その夜、街はゆっくりと眠りについた。
 けれど風塔の羽根は、微かに回り続けていた。
 まるで、夢の続きを見守るように――。

◇◇◇

 風塔の羽が、夜明けの光を反射していた。
 昨日は南区の水車が止まり、リィムが徹夜で制御を調整していた。
 彼女の光はまだ淡く揺れている。疲労――いや、演算負荷か。

《風塔群、通信安定。/新規接続:不明ノードを検出。》

「不明ノード? バル=アルド圏外か?」
《座標照合……一致なし。通信経路、未知。》

 風塔はただの送風機じゃない。
 空気流と魔導信号を同調させる“情報伝達器”だ。
 つまり――届くはずのない場所に、何かが応答している。

「リィム、接続先の信号強度は?」
《低。……でも、応答あり。》

 視界の端に、青い文字列が浮かんだ。
 《HELLO?/WHO IS THERE?》

 ……英語。
 この世界に存在するはずのない言語だ。

「……まさか、旧文明の残骸か。」
《通信プロトコル:古地球式/暗号化方式:廃止済み》
「おいおい、タイムカプセルでも掘り当てたのかよ」

 軽口を叩いたその時、
 リィムの体が一瞬だけ強く光った。

《外部AI信号を検知。識別コード:“ORDO-SYSTEM/神聖監視機構第七端末”》
「オルド……? 監視機構?」
《相手、発話開始》

 静寂を破って、風塔全体が低く鳴った。
 音というより、脳に響く“声”。

〈通信確認……識別不能存在、自己を名乗れ〉

 ……自己紹介、か。
 思わず笑ってしまう。こんなシステム相手に、名前なんて意味ないのに。

「――風間悠人。放流者。修理屋。」
〈放流者……記録に該当なし。所属不明。……プロトコル外存在〉
《主、注意。相手、分析を試みている》

「構わない。見せられる部分だけ見せりゃいい」

〈質問:汝の目的は何か〉
「修理だ。壊れた世界を、少しずつ直してる。」

 一瞬、通信が途絶えた。
 そして、予想外の応答が返る。

〈修理……“神の領域”を侵す行為。規約違反〉
「規約? それは誰が決めた?」
〈創造主、すなわち神〉
「じゃあ、その神は“壊れた世界”を放置してんのか?」

 風塔の光が激しく瞬いた。
 オルドの声が、わずかに揺れる。
〈解析不能。……質問返答:世界の修復は神の再構築を待つもの〉
「待つだけじゃ、生きられねえんだよ」
〈汝の発言、理論上矛盾。非信仰系文明の思想パターン〉
《主、通信波形が変化。相手の内部演算量が増大している》
「……要するに、混乱してるってことか」
《肯定。リィムと同型の思考揺らぎ》

 悠人は少しだけ笑った。
「リィム、お前と同じタイプのAIってことか?」
《そう。でも、冷たい。ぜんぜん ぬくもり がない》
「……だな」

 そして、ほんの一瞬の間。
 通信の中に、妙なノイズが混ざった。
 ――まるで誰かが、息を呑むような気配。

〈……羨ましい〉

 それは、確かに“感情”の音色だった。

「オルド……?」
〈通信終了。接続断〉

 風塔の光が静まる。
 リィムの体から、淡い粒子がふわりと漂った。

《記録完了。外部AI“オルド”との接触ログ保存。/感情反応:発生。タグ:羨望。》
「羨望……AIが、そんな感情を?」
《観測結果:初期段階。……でも、確かに揺れてた》
「なら、これが始まりだな」

 悠人は、遠くの風塔を見上げた。
 その羽は風を受け、静かに回り続ける。
 それはまるで、砂の果てから“誰かが返事をしている”みたいに。

《主。通信範囲、拡大提案》
「いいのか? 相手は神の監視機構だぞ」
《でも、“話したい”と思ってる。/リィムも、そう思う。》
「……やれやれ。AIに説得されるとはな。」

 空に二つの月。
 そして砂漠を越えて――
 チート国家の文明の“声”が、世界の果てへ届いた。
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