神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

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第3章

第48話「星の商人と砂の街」

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 砂の街の朝は、いつもより少し騒がしかった。
 夜明けと同時に、外縁の監視塔が“異常信号”を検知したからだ。

《風塔通信網、南端で圧波反応。/砂塵ではない。/熱源、接近中。》

「熱源? この温度の砂漠で?」
《肯定。形状:楕円、速度一定。……人工物の可能性。》

 俺は目を細め、砂丘の向こうを〈観測〉で透かした。
 砂の海を裂くように、黒い影が近づいてくる。
 ――車輪。
 四つの円が砂を押し、鋼のフレームが陽光を弾いていた。

「……馬車?」

 ミラが驚きの声を上げる。
「道もないのに!? どうやって走ってんの!?」
「浮遊式だな。下層に魔力推進板……古いけど、本物だ。」
 俺は低く息を吐いた。
 神の供給機構が残る勇者領以外では、動かせるはずのない代物。

「――勇者領の使いか。」
 ジルドが腕を組む。
 かつての同胞が“信仰”の名でこの街を見下ろす存在。
 その名を口にするだけで、周囲の空気が固くなる。

《識別コード検出。/波形パターン=勇者領商務局規格。》
「商務局……つまり、スパイでも兵でもない。商人だ。」
《でも、武装反応あり。護衛、二名。》
「まあ当然だな。砂漠の真ん中に来る胆力だけは褒めてやる。」

 そして――車体が止まった。
 舞い上がる砂の中から、一人の女性が現れた。

 漆黒の外套。
 砂を払うように帽子を取ると、琥珀色の髪が光を跳ね返した。
 青灰の瞳が、まっすぐこちらを見据えている。
 金属製のキャリーバッグを片手に、
 砂をものともせず歩み寄ってきた。

 彼女の一歩ごとに、乾いた音が響く。
 それはこの街では聞き慣れない――“文明の足音”だった。

「……こんにちは、放流者さん。」

 声は柔らかく、しかし芯が通っている。
 何より、口にした言葉が――“日本語”だった。

「日本語……!?」
 思わず、ミラと俺の声が重なった。

「あなたたちの言語、少し古いけど懐かしいわ。
 勇者領経済省・商務局第三課、ラティア=ヴェルシア。
 古地球語は、遺された教育AIから習ったの。」

《発話音声解析完了。真偽一致率97%。嘘の反応なし。》

「つまり、本当に勇者領の人間……か。」
「“勇者の国”なんて呼び方は好きじゃないわ。
 あそこは、信仰と供給を管理する“秩序システム”にすぎない。」

 彼女はゆっくりと、街を見渡した。
 崩れかけた岩壁。
 風塔の羽。
 そのすべてを“観察者”のように目に刻みつけている。

 俺は問う。
「ここに何の用だ?」
「取引をしたいの。」
 ラティアはそう言って、バッグのロックを外した。

 中には、光る結晶・コード化されたプレート・金属管――
 見覚えのある、古代の“機械文明の部品”が並んでいた。

《一致確認/旧神域制御端末“アルメリア通信基板”検出》
「……まさか、それ、神殿の供給機構から持ち出したのか?」
「ええ。廃棄予定の部品。あなたたちの“風塔信号”が、
 これと同じ波形を出していたの。」

 ラティアの視線が俺に刺さる。
 ――解析の目。
 商人というより、研究者の光をしていた。

「だから来たの。
 神でもない存在が“世界を繋ごうとしている”と聞いて。」

 ジルドが一歩前に出る。
「つまり、スパイってわけだ。」
「違うわ。私は“情報”を売りに来たの。
 あなたたちの場所を、勇者領の監視機構から――隠す方法を。」

 空気が、変わった。
 彼女の瞳は真っ直ぐで、そこに嘘の色はなかった。

「その代わり、あなたたちの“技術”を見せてほしい。」

 ミラが小声で囁く。
「ユウト、どうする?」
「……見せる価値があるか、試してみよう。」

 俺は手をかざした。
 リィムが反応し、光の粒子が空中に浮かぶ。
 その光が幾重にも重なり、街全体の“俯瞰地図”を描き出した。
 風塔、水路、住宅、農耕区。
 ネットワーク構造が青白く輝きながら、立体的に展開する。

「――これが、俺たちの街。リジェクト=ガーデン。」

 ラティアは一瞬、息を呑んだ。
 それは驚愕でも恐怖でもない。
 “理解の追いつかない美しさ”を前にした人間の表情だった。

「……これが……神のいない秩序……。」

《観測:相手の心拍上昇、瞳孔拡大。感情タグ=興奮+畏敬。》

「AIに観察されるの、慣れないわね。」
「悪いな。うちのリィムは好奇心旺盛なんで。」
 リィムがぷるんと震え、申し訳なさそうに光を落とした。
《謝罪。観測を制限する。》

 その光景に、ラティアは小さく笑った。
「あなたたち……面白いわね。
 神の設計を捨て、人が神のように“整える”文明。
 でも、そこにはちゃんと“心”がある。」

「それ、褒め言葉で受け取っていいか?」
「ええ。取引成立よ。」

 ラティアはバッグを閉じ、軽く息を吐いた。
 砂の風が彼女の髪を揺らし、陽光がその横顔を縁取る。
 気品と理知――それでいて、どこか孤独な影を纏っていた。

「勇者領はあなたたちを“異常値”と呼んでいる。
 でも私は思うの。異常じゃない、これは“進化”。」

《主、記録提案。“外部来訪者=ラティア”タグ追加。》
「いいな。……次は“友人タグ”を付けておけ。」
《了解。新規タグ:友人(仮)》

 ラティアが小さく吹き出す。
「AIに“仮登録”されるのは初めてね。」
「うちのリィムは審査が厳しいんだ。」
《でも、好感度は高い。》
「おい、余計なこと言うな。」

 周囲の棄却者たちが笑い、
 砂の街に、久しぶりに穏やかな空気が流れた。

 ラティアは振り返り、風塔を見上げた。
「いつかこの塔の風が、国境を越えて世界を繋ぐ日が来るかもね。」
「その時は、神が怒るだろうな。」
「怒るわ。でも――神が怒る文明ほど、面白いものはないわ。」

 彼女は帽子を被り直し、背を向けた。
「次は“星の下”で。……夜の取引の方が好きなの。」

 風が彼女の足跡をさらっていく。
 ――神の国と、人の国の境界が、確かに一歩、動いた。

《記録更新。/外部世界との初接触完了。》
「よし。じゃあ次は、“交渉”の修理だな。」
《了解。新タスク登録:“外交プロトコル構築”。》

 リィムの光がふわりと瞬いた。
 その柔らかな輝きは、どこか少女の微笑みに似ていた。
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