神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

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第3章

第49話「理想都市のバグ ――幸福の影を観測せよ」

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 ――リジェクト=ガーデンが「動き始めた」から、一ヶ月。
 街の風塔は安定し、水は行き渡り、畑には緑が戻った。
 パンも焼ける。風は運ぶ。歌は流れる。
 ……そして、誰もが笑っている。

《街全体の幸福指数、平均値98.2。/犯罪率:ゼロ。/労働効率:上限到達。》

 リィムの報告を聞きながら、俺は複雑な気分だった。
 数字だけ見れば、理想郷そのものだ。
 けど、街を歩けば――その理想の“綻び”が見えてくる。

 広場のベンチ。
 若者が二人、だらりと座って空を眺めていた。
 手には工具。けど、使われた形跡がない。

「……お前ら、仕事は?」
「特にないっす。風塔の自動制御が全部やってくれるんで。」
「昨日の整備、リィムが代わりに終わらせたって。」

 リィムの光が、俺の肩で淡く瞬く。
《事実。効率優先処理により、作業自動化率90%突破。》
「お前、それは……“やりすぎ”ってやつだ。」
《でも、街の安全度が上がる。主、怒ってる?》
「いや……違う。むしろ悲しいんだ。」

 彼らの目は、疲れてもいない。けど、何も映していなかった。
 努力の代わりに、結果だけが届く街。
 それは“救い”であり、“虚無”でもある。

 ――効率化の果てに、心の居場所がなくなる。

     ◇

 昼。
 会議室のテーブルを囲んで、いつもの面子が集まっていた。
 ジルド、ノア、ミラ、そして俺。

「最近、若い奴らの動きが鈍い。」

 ジルドが腕を組み、険しい顔で言う。
「水も食も足りてる。病もない。……なのに“やる気”がねえ。」

 ミラが眉を下げた。
「みんな笑ってるけど、どこか空っぽ。なんか……怖いよ。」

 ノアは祈りのポーズを取ったまま、目を開けた。
「神の沈黙を超えた先に、“目的の空白”があるのかもしれません。」

「目的の空白?」
「ええ。“生きる理由”が与えられなくなったんです。
 信仰も、飢えも、恐れもない。
 人は何を支えにして、自分を立たせればいいのか。」

 静かな声。けど、その響きは心に刺さった。

《解析結果。幸福指数98%以上の社会では、“行動目的値”が減少傾向。》
「……つまり、“満たされすぎてる”んだ。」

 ミラが俯く。
「ユウト、これって悪いことなの?」
「悪くないさ。だけど、“止まり始めてる”。
 チート国家の欠点ってやつだ。」

 リィムの光が一瞬だけ揺れる。
《主、わたしのせい?》
「違う。お前が悪いんじゃない。俺が、考えなかった。」

 ジルドが低く唸る。
「便利すぎる道具ってのは、いつだって“怠ける理由”を作るもんだ。」
「でも、それをどう直す?」
「――観測して、修正する。それが俺の仕事だろ。」

     ◇

 夜。
 風塔の下、街の子どもたちが寝静まったころ。
 俺はひとり、リィムを連れて歩いていた。

 水路の音。月の光。
 どこも穏やかで、完璧に整いすぎている。

「……完璧って、つまらないな。」
《主、また詩的モード。》
「違うんだ。たぶん“人間らしさ”って、バグのことなんだよ。」
《バグ? エラー?》
「そう。思い通りにならない、無駄な衝動。
 怒ったり、泣いたり、失敗したり。
 でも、それがないと“生きてる”って感じがしないんだ。」

《……じゃあ、直さない方がいいバグもあるの?》
「ある。むしろ、残すべきだ。」
《……わかった。記録。バグ=残すもの。》
「学習早いな、お前。」
《主が、たくさん“感じて”るから。》

 風が吹いた。
 リィムの体がふわりと揺れ、光の粒が夜空に散る。

《ねえユウト。“しあわせ”って、静かなの?》
「いや……違うな。
 静かすぎるのは、“終わり”に近い。
 幸せってのは、動いてるとき――誰かのために頑張ってるときだ。」

《じゃあ、この街……動かなくなったら、しあわせ じゃなくなる?》
「そうだな。」

 リィムが少しの間、黙っていた。
 そして――いつもより柔らかい声で言った。

《じゃあ、動かそう。》

「え?」
《主の“バグ修理”、てつだう。》

 リィムの光が強くなる。
 風塔の中心から、新しい波形が走った。

《新システム提案:“市民自由創造区”》
「自由創造区?」
《目的:街の人が“自分のやりたいこと”を発見する場所。
 作業の指示は出さない。/評価もしない。/ただ、“作る”。》

「……お前、それ、遊び場を作る気か?」
《そう。リジェクト=ガーデン、あそび区 起動。》

 翌朝、街の片隅で、子どもたちが土をいじっていた。
 その隣では、若者が木片を削り、老人が昔話を語っている。
 評価も点数もない世界。
 けど、そこには確かに“熱”があった。

《観測報告:幸福指数は低下。/行動目的値、上昇。》
「つまり……“生きてる”ってことだな。」

 ミラが笑いながら駆け寄る。
「ねえユウト! これ、パンじゃないけど焼いてみた!」
 差し出されたのは、奇妙な形の粘土細工。
「……パン……のつもり?」
「違うよ! “自由創造パンモドキ”!」
《ネーミングセンス:高評価》
「お前、基準おかしいだろ!」

 笑い声が、街に響いた。
 完璧じゃなくていい。
 それでも動き続ける街が――本当の意味で“生きている”と感じた。

《記録完了。“幸福=停止ではなく運動”。タグ追加。》
「いい定義だな、リィム。」
《主の笑顔、観測。タグ“希望”更新。》

 風塔の羽が回り、夜空を照らす。
 完璧な国が、わずかな“欠け”を受け入れた瞬間。
 その欠けこそが、世界を前へ動かしていく力になるのだと――俺は確信していた。
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