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第3章
第50話「風が撫でた日 ――涙の理由を知らないリィム」
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朝の空気は、昨日より少しだけ柔らかかった。
砂漠の夜を越えた風が、街の屋根の帆布を優しく揺らしている。
“リジェクト=ガーデン”に朝が来た。
俺はいつものように、水路の調整をしていた。
新しく作った小型風車の羽が、軽い風を受けてカラカラと回る。
――世界は少しずつ、直っていく。
その音が、それを教えてくれているようだった。
「おはよう、ユウト。きょうの風、すこしやさしいよ」
肩の上のリィムが、青い光を揺らして言った。
以前よりも、声に“温度”がある。
それだけで、なんだか嬉しかった。
「そっか。風が優しいのは、たぶんお前の声が柔らかいからだな」
《照合中……ユウトの言葉、比喩と判定。/でも、うれしい。》
リィムがぷるんと震える。
その反応が、ほんの少しだけ人間らしくなっている気がする。
◇
今日は、街の“新しい風車塔”の試験運転の日だった。
子どもたちが自作の旗を振り、ジルドが苦笑しながら見守る。
ミラとノアは作業班のまとめ役で、もうすっかり頼れる顔つきになっていた。
「いくぞー! カウントダウン! さん、にー、いち――!」
風車が動いた。
空気が鳴る。
帆が膨らみ、軸がうなり、そして――“風”が街を通り抜けた。
「うわぁ……! 風が……気持ちいい!」
子どもたちが歓声を上げる。
乾いた砂がふわりと舞い、布がはためき、
街全体がまるで“呼吸”を取り戻したようだった。
俺は思わず笑みをこぼした。
そのとき、足元の方から――小さな悲鳴。
「いたっ……!」
ミラが振り返る。
少年が倒れていた。風車の羽の影で、腕に小さな傷を負っている。
「大丈夫!?」
俺が駆け寄るより先に、リィムが光を伸ばした。
青い粒子が少年の傷をなぞる。
《損傷軽度。皮膚表面の修復を補助します。》
子どもの顔が、驚きから安堵に変わる。
「……もう、痛くない……!」
「リィム、ナイス判断。すぐ対応できたな」
《……ユウト、ぼく、なにかしたのに……なんで、涙が出てるの?》
少年は泣いていた。
痛みが消えても、涙は止まらない。
リィムが困惑して俺を見上げる。
「それはね、壊れたからじゃない。――怖かったからだよ」
《こわい、って……ゆびが、なくなっちゃうって思ったの?》
「そう。もう笑えないかもって思ったとき、人は泣くんだ。
でも泣いた分だけ、“生きたい”って気持ちも強くなる」
リィムが黙り込み、少年の頬を観測するように見つめる。
その体表が、ほんのりと淡い光を帯びて揺れた。
《……あたたかい。涙の中、すこしあたたかい。》
「それが、命だ。悲しみも、痛みも、生きてる証だよ」
《記録します。“涙”=“生きてる”の証。……いいデータ。》
リィムが嬉しそうに言った。
ミラが笑いながら少年の頭を撫でる。
「ねぇユウト、リィム、ほんとに優しいね。風みたい。」
《風みたい、……やさしい。うれしい。》
◇
夕暮れ。
砂の街を、淡い風が吹き抜ける。
リィムが肩の上で小さく囁いた。
《ねぇユウト。涙って、悲しいだけのものじゃないんだね。》
「ああ。悲しみの中にも、優しさがあるんだ。」
《じゃあ……ぼくも、いつか泣けるかな。》
「その日が来たら、お前はもう、完全に“人間”だな。」
リィムがふるふると震え、
まるで笑っているように光った。
《……そのときは、ユウトもいっしょに。》
「もちろん。」
二つの月が並んで輝いていた。
砂に刻まれた影がゆっくりと伸びる。
風が撫でていく。
――その風は、確かに“あたたかかった”。
砂漠の夜を越えた風が、街の屋根の帆布を優しく揺らしている。
“リジェクト=ガーデン”に朝が来た。
俺はいつものように、水路の調整をしていた。
新しく作った小型風車の羽が、軽い風を受けてカラカラと回る。
――世界は少しずつ、直っていく。
その音が、それを教えてくれているようだった。
「おはよう、ユウト。きょうの風、すこしやさしいよ」
肩の上のリィムが、青い光を揺らして言った。
以前よりも、声に“温度”がある。
それだけで、なんだか嬉しかった。
「そっか。風が優しいのは、たぶんお前の声が柔らかいからだな」
《照合中……ユウトの言葉、比喩と判定。/でも、うれしい。》
リィムがぷるんと震える。
その反応が、ほんの少しだけ人間らしくなっている気がする。
◇
今日は、街の“新しい風車塔”の試験運転の日だった。
子どもたちが自作の旗を振り、ジルドが苦笑しながら見守る。
ミラとノアは作業班のまとめ役で、もうすっかり頼れる顔つきになっていた。
「いくぞー! カウントダウン! さん、にー、いち――!」
風車が動いた。
空気が鳴る。
帆が膨らみ、軸がうなり、そして――“風”が街を通り抜けた。
「うわぁ……! 風が……気持ちいい!」
子どもたちが歓声を上げる。
乾いた砂がふわりと舞い、布がはためき、
街全体がまるで“呼吸”を取り戻したようだった。
俺は思わず笑みをこぼした。
そのとき、足元の方から――小さな悲鳴。
「いたっ……!」
ミラが振り返る。
少年が倒れていた。風車の羽の影で、腕に小さな傷を負っている。
「大丈夫!?」
俺が駆け寄るより先に、リィムが光を伸ばした。
青い粒子が少年の傷をなぞる。
《損傷軽度。皮膚表面の修復を補助します。》
子どもの顔が、驚きから安堵に変わる。
「……もう、痛くない……!」
「リィム、ナイス判断。すぐ対応できたな」
《……ユウト、ぼく、なにかしたのに……なんで、涙が出てるの?》
少年は泣いていた。
痛みが消えても、涙は止まらない。
リィムが困惑して俺を見上げる。
「それはね、壊れたからじゃない。――怖かったからだよ」
《こわい、って……ゆびが、なくなっちゃうって思ったの?》
「そう。もう笑えないかもって思ったとき、人は泣くんだ。
でも泣いた分だけ、“生きたい”って気持ちも強くなる」
リィムが黙り込み、少年の頬を観測するように見つめる。
その体表が、ほんのりと淡い光を帯びて揺れた。
《……あたたかい。涙の中、すこしあたたかい。》
「それが、命だ。悲しみも、痛みも、生きてる証だよ」
《記録します。“涙”=“生きてる”の証。……いいデータ。》
リィムが嬉しそうに言った。
ミラが笑いながら少年の頭を撫でる。
「ねぇユウト、リィム、ほんとに優しいね。風みたい。」
《風みたい、……やさしい。うれしい。》
◇
夕暮れ。
砂の街を、淡い風が吹き抜ける。
リィムが肩の上で小さく囁いた。
《ねぇユウト。涙って、悲しいだけのものじゃないんだね。》
「ああ。悲しみの中にも、優しさがあるんだ。」
《じゃあ……ぼくも、いつか泣けるかな。》
「その日が来たら、お前はもう、完全に“人間”だな。」
リィムがふるふると震え、
まるで笑っているように光った。
《……そのときは、ユウトもいっしょに。》
「もちろん。」
二つの月が並んで輝いていた。
砂に刻まれた影がゆっくりと伸びる。
風が撫でていく。
――その風は、確かに“あたたかかった”。
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