神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

文字の大きさ
59 / 90
第4章

第59話「砂上に降る光」

しおりを挟む
 ――その朝、風は止まっていた。

 バル=アルド――いや、今はリジェクト=ガーデン。
 昼夜を問わず吹いていた砂の風が、奇妙なまでに静まり返っている。
 音が消えた世界は、まるで息を潜めた巨大な獣のようだった。
 俺は屋根の上で、ネジ締めの手を止める。

《観測ログ:風速ゼロ。音圧値、低下中。気流パターン……停止。》

「風が止まるって、こんなに怖かったか。」

 砂漠の街で生きる者にとって、風は命だ。
 吹かないというのは、世界が呼吸を忘れたということ。
 それを肌で感じながら、俺はゆっくりと視線を上げた。

 空は薄く霞んでいた。
 けれど、その霞が――動かない。

 肩の上のリィムが、かすかに震えた。
 いつもの柔らかな光が不規則に脈打ち、まるで怯えているみたいだった。

《主……上の空、音が“ある”のに、聴こえない。》

「……音があるのに聴こえない?」

《うん。風じゃない。もっと……遠い声。耳の奥がざわざわする。》

 リィムの声が揺れていた。
 その“ざわざわ”という表現が、やけに人間くさく響く。
 俺は目を細めて、空気の振動を拾う。

 微細な波だ。
 風ではなく、まるで電波のような規則正しい脈動。
 だが、それは言葉にならない“音”の羅列。
 まるで、何者かがこの世界に信号を上書きしているようだった。

《観測データ更新。波長帯:不明。干渉源、方角=北西上空。出力:常識外。》

「北西……勇者領の通信塔か。」

《でも……これ、人間の出力じゃない。/信号、あたたかいのに、こわい。》

 “あたたかいのに、こわい”。
 リィムがそんな風に言うとき、それは本能的な危険信号だ。
 俺は屋根を飛び降り、広場へ向かう。
 街の人たちも気づいたのか、あちこちで顔を上げていた。

「ユウト!」
 ミラが駆け寄ってくる。
 頬には薄い汗、砂にまみれた手を服で拭いながら、不安げに言った。
「なんか、空が光ってる!」

 見上げる。
 ――確かに、光っていた。

 雲もない空に、薄い“ひび”のような光の筋が走っている。
 それは稲妻のように瞬き、次第に大きく広がっていく。

《解析不能。/空間に高密度信号。形式:神域通信プロトコル。発信源、特定……勇者領通信塔、第三階層。》

「勇者領……つまり、あいつらか。」

 胸がきゅっと縮む。
 リィムの体が一段と明るく光った。

《主、警告。/信号コードの署名:天城颯真。》

「……は?」

《照合一致率:九九・一%。本人、もしくは“本人のアクセス権を使用中”。》

「誰かが、颯真のコードを使ってるってことか。」

《もしくは、本人が――使われてる。》

 リィムの声が低く沈んだ。
 街の上空に、光の裂け目が現れた。
 そこから、金の粒がふわりと舞い落ちてくる。

 最初は美しかった。
 しかし、それが砂に触れた瞬間――音もなく、消えた。

「……消滅?」

《解析結果:物質構造、削除。タグ:浄化プロトコル。/対象=棄却者。》

「――削除、だと!?」

 俺は咄嗟に叫び、リィムを上空へ放つ。
 青白い球体が広がり、光の膜を展開する。

《防御モード起動。観測バリア展開――》

 膜が降り注ぐ光を弾くたびに、鈍い金属音のような響きが広場に反射する。
 子どもが泣き出し、ミラが抱きしめる。
 ジルドは咄嗟に人々を建物の陰へ誘導した。

「リィム、出力は!」

《限界値まで上昇中。……主、これ、神の“命令”そのもの。》

「命令?」

《“神託通信”を通じて、街を消す指令。……上層通信が直接発動してる。》

「つまり――颯真が、これを――」

 そのときだった。
 地平線の向こう、光を背にして歩く影が見えた。
 風も砂も、彼の周囲だけ避けるように流れている。

 白銀の鎧。
 かつて同じ教室で笑っていた顔。
 けれど、その瞳に宿るのは人の光じゃなかった。

「……颯真。」

《観測一致。対象:天城颯真。生命反応:安定。自我波形:混在。》

「混在って……」

《人間と“神のコード”が、融合してる。》

 颯真は足を止めた。
 その動作ひとつで、空気が震えた。
 光が彼の背後で脈動し、天から降り注ぐ光線が形を変える。
 ――神の姿を模すように。

「風間悠人。」

 声が届いた。
 それは声ではなく、命令の波形。
 心の中に直接流れ込む“神の代弁”。

「神は見ている。棄却者の王よ。お前の行いは、秩序への反逆だ。」

「……神の言葉を、そのまま喋るなよ。お前らしくもない。」

 そう言っても、颯真は表情ひとつ変えなかった。
 ただ右手を上げ、光の剣を顕現させる。
 その動作で、空気がひび割れた。

《主、圧力上昇。/信号強度、臨界に近い!》

「退避は?」

《無理。彼の領域、ここまで“侵入”してる。》

 光が降り注ぐ。
 バリアが悲鳴を上げ、リィムの体が震えた。
 それでも彼女は、踏ん張るように光を広げ続けた。

《……ユウト、まもる。これ、壊せない。でも、“守る”なら、できる。》

「リィム……!」

《主、信号の奥に……もうひとり、いる。小さい声。――“たすけて”。》

 その瞬間、俺は確信した。
 颯真は――操られている。

 神の声と、颯真の意識が、ひとつの身体の中でせめぎ合っている。
 そしてその苦しみが、空全体を歪ませていた。

「……颯真、聞こえるか! お前がそんなやり方、望むわけないだろ!」

 返事はなかった。
 ただ、白い閃光が走り、街の一角が消えた。

 風も砂も光も、何も動かない世界で、リィムだけがかすかに声を出す。

《主……どうすれば、“人”を、まもれる……?》

 その問いは、機械ではなく――少女の声だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...