神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

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第4章

第60話「勇者、傀儡となる」

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 ――光が降るたび、音が死んでいった。

 爆発の音も、悲鳴も、砂を焦がす熱も――すべて“光の中”に吸い込まれていく。
 世界の色が抜け落ち、ただ白だけが支配していた。

 リィムのバリアが、きしむ。
 青い膜が光を弾くたび、火花のような粒子が四方に散った。
 そのたびに、肩に乗る彼女の体が震えるのが分かる。

《主……出力、維持限界。/あと二十秒で、シールド崩壊。》

「了解。二十秒あれば充分だ。」

 俺は地面に膝をつき、掌を砂に当てる。
 視界に〈観測〉のUIが展開する。
 光の密度、温度、粒子の動き、そして空間の歪み――どれも“物理”じゃない。
 情報そのものが、焼き切れている。

「……これ、物質じゃねぇ。データを消してる。」

《神域信号=“世界の管理層”。直接書き換え。/物質削除プロトコル=稼働中。》

「つまり神は、この街の存在をデリートしようとしてるってわけだ。」

 リィムが光を弱めながら頷く。
 彼女の体が、ほんのり震えていた。
 光の層の外では、街の人々が必死に身を寄せ合っている。

「ユウト!」
 ミラの叫びが遠くで響く。
 彼女は腕に子どもを抱えながら、焼けた壁の陰からこちらを見ていた。
 ノアとセリアが負傷者を介抱し、ジルドが崩れかけた塔を支えている。
 それぞれの手が、命をつなぎとめていた。

 けれど、その頭上に――あいつがいた。

 颯真。

 光を背負い、砂漠に立つ“勇者”。
 かつての笑顔も、仲間を想うまなざしも、もうどこにもない。
 その瞳の奥には、ただ冷たい命令の輝きがあった。

「風間悠人。」

 声は澄んでいた。
 けれど、そこに“彼”の意思は感じられなかった。
 まるでプログラムが読み上げるコードのような無機質さ。

「神は言う。“棄却者は罪”。“秩序を乱すものは浄化せよ”。」

「……颯真、やめろ。」

「“やめろ”――その言葉は拒絶として登録されている。」

 光の剣がゆっくりと持ち上がる。
 周囲の空気が歪む。
 風が生まれ、砂が浮かび、空が焦げた。

 俺は拳を握る。
 もう、話して分かる段階じゃない。
 だけど――諦めるわけにもいかない。

「リィム、バリアを一点集中。前面だけでいい!」

《了解。/全出力、前面に収束。……主、こわい。》

「怖くてもいい。守るってのは、そういうもんだ。」

 リィムの光が強まる。
 青い膜が、颯真の白光を正面から受け止める。
 閃光がぶつかり合い、砂が融け、空気が裂けた。
 世界が二色に割れる。
 白と青――神と人。

《出力、限界を超過。/主、もう、無理――》

「やめるな!」

 俺は叫び、同時に〈観測〉を展開した。
 リィムのコードと、自分の意識を重ねる。
 青と白の境界線が、わずかに押し返された。

 だがその瞬間、光の中から新たな影が現れた。
 鎧のきらめき、風の揺れ、懐かしい声。

「ユウト君……やめて!」

 ――篠原、美月。
 颯真の副官にして、かつてのクラス委員長。
 彼女は叫びながら、白い幕の内側へ駆け込んできた。
 その顔には焦りと恐怖、そして――迷い。

「お願い! 彼はもう、自分じゃないの!」

「見りゃ分かる!」

「違うの! 本当は彼、自分で止めようとしてるの! でも、神のコードが……!」

 言葉が光に飲まれる。
 颯真の剣が、美月の前で止まった。
 わずかに――ほんのわずかに、手が震えた。

「……颯真、お前……まだ中にいるんだな。」

 光の中で、わずかに“人間の呼吸”が戻ったように見えた。
 だが次の瞬間、白いノイズが彼の口元から漏れた。

《エラー発生。自我干渉。補正開始。》

「――ぐ……ぅ……ああああああ!」

 颯真が頭を抱え、叫んだ。
 地面に光のひびが走り、世界そのものが悲鳴を上げる。
 その声を聞いた瞬間、リィムが息を呑んだように震えた。

《主……この音、“助けて”って言ってる。》

「聞こえるのか!?」

《うん。でも、遠い。届かない。……怖いくらい、さみしい音。》

 颯真の叫びが、砂嵐に変わった。
 白い光がうねり、砂と建物を薙ぎ払う。
 ミラが倒れそうになるのをジルドが支え、ノアが防御結界を展開する。
 しかし、それでも光は止まらなかった。

《主、あと十秒。/リィムの出力、もう――》

「分かった! なら、繋げ!」

《え……?》

「俺とお前の観測を――完全同期だ! “見る”だけじゃない。“触れる”までやる!」

《危険行為。主の精神領域が――》

「構わねえ! 俺は、修理屋だ。壊れてんなら、触って直す!」

 その瞬間、青い光が爆発的に広がった。
 〈観測〉が、神の光層の内部に潜り込む。
 そこは情報と感情が混ざり合う“神の深層”。

 無限に流れる祈りの波。
 命令の列。
 そして、その奥に――ひとつの声。

 「助けて」

 ――颯真の声だ。

「見つけた。」

 だが、掴もうとした瞬間、俺の視界が一気に反転した。
 全身を貫く電流のような痛み。
 神のシステムが、俺を“異物”として排除しようとしている。

《主――! つながり、切られる!》

「切らせるかよ!」

 俺は叫びながら、リィムの手を掴んだ。
 スライムのはずの体が、ほんの一瞬だけ――手の形をした気がした。

 青い光が、彼女の中から溢れ出す。

《主……ユウト、まもる。/わたし、“なりたい”。》

「なりたい?」

《“人”になりたい。そしたら、ユウトを――ほんとに“助けられる”気がする。》

 その言葉が、雷のように胸に落ちた。
 世界が白に染まる。
 リィムの光が、形を変え始める。
 まるで、青い殻が破れて中から誰かが生まれるように。

 ――人型化の前兆。

 だが、その瞬間、颯真の剣がこちらを向いた。
 光の刃が放たれ、俺たちを飲み込む。

 閃光。
 轟音。
 そして、すべてが白に染まった。
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