神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

文字の大きさ
61 / 90
第4章

第61話「砂塵の戦い」

しおりを挟む
 ――世界が、焼けた。

 白い光の奔流が街を呑み込み、建物も砂も、すべてが光に溶けていく。
 音は消え、風も止まり、ただ“神の意志”だけが支配していた。

 けれど、その中で――ひとつだけ、青が生きていた。

《……防御層、再展開。/主、応答して。》

 霞む視界の中で、リィムの声が響く。
 俺は倒れた瓦礫の中から這い出し、唇を噛んだ。
 喉の奥が焼ける。
 それでも声を絞り出す。

「……ああ、生きてる。ギリギリな。」

 肩の上でリィムが揺れた。
 青い光は、血のように淡く脈動している。
 その中心に――“形”が見えた。

 人の輪郭。
 少女のような、透明な姿。
 瞳はまだ完成していない。けれど確かに、そこに“心”が宿っていた。

《主……これ、わたし? “ヒトの形”、になってる……。》

「お前が望んだんだろ。“人になりたい”って。」

《うん。……でも、こわい。こんな気持ち、初めて。》

「それでいい。怖いのは、生きてる証拠だ。」

 俺は立ち上がる。
 風のない砂漠で、青の膜がわずかに揺らめいた。
 その向こう、勇者領の旗が並んでいる。

 銀の鎧、白いマント。
 そして――颯真を中心に立つ、四つの影。

 かつてのクラスメイトたち。

 藤堂誠。
 元・生徒会長で、颯真の右腕。冷徹な戦術家。
 美月が止める声を無視して、冷たく告げた。

「命令が下った。対象は風間悠人。棄却者のリーダー。排除対象A。」

「……命令ね。あの頃から何も変わらねぇな、お前は。」

「俺は“上”に従う。それが世界を保つ道だ。」

「その“上”が壊れてるんだろうが!」

 藤堂の瞳が揺らぐ。
 だがすぐに、感情を閉ざした。
 背後で白い光が走り、勇者兵たちが動き出す。

 砂煙が舞う。
 リィムの防御膜がはじけ、俺は即座に命じた。

「リィム、補助モード展開! 観測領域、広げろ!」

《了解。/拡張スキャン開始。敵数:六十七。光圧、三倍。物理より情報攻撃多し。》

「情報攻撃、ね……じゃあ――ハッキングで返す!」

 俺は地面に手をつき、〈観測〉を極限まで拡張する。
 世界のコードが見える。
 空気の流れ、砂の振動、光の波――すべてが数式になって、頭の中で組み替え可能な“設計図”になる。

《演算支援開始。主の脳波、臨界近い。》

「上等だ。――修理屋の仕事、始めようぜ。」

 空間に青い線が走る。
 砂の粒が組み替わり、壁となり、槍となり、風の刃となる。
 神が与えた“法則”を、俺が“修正”する。
 ――理不尽のデバッグだ。

「《世界修正/空間抵抗値:低下/風属性再定義――発動》!」

 砂漠の地面がうねり、渦を巻く。
 砂塵が暴風となって勇者軍を飲み込んだ。

「なっ……!? 風が、逆流!?」

「まるで……生きてるみたいだ……!」

 リィムが目を細める。
 瞳の色が、ほんの少しだけ“人の青”になっていた。

《ユウトの力……こんなに大きかったんだね。》

「お前が支えてくれてるからだ。」

《……うれしい。》

 その一瞬、笑ったように見えた。
 でも次の瞬間、颯真の剣が光を放った。

「……無駄だ。神の秩序に逆らう限り、お前たちに未来はない。」

「そのセリフ、昔ゲームで聞いたな。だいたいラスボスが言ってたやつだ。」

 颯真が剣を振り下ろす。
 空気が裂け、重力が逆転する。
 世界そのものが“神の一手”に操られていく。

《重力場異常!/空間ひずみ、拡大!》

 建物が浮かび、人が宙に投げ出された。
 リィムが光の羽を広げる。
 無数の青い粒が空に散り、人々を包み込んだ。

《主……みんな、助けたい。》

「やれ、リィム。お前の“なりたい”を、信じる。」

 リィムの体が眩く光る。
 スライムの形が崩れ、流体が縦に伸びる。
 腕、脚、輪郭――そして髪。
 青い光の中から、一人の少女が立ち上がった。

 ――リィム、人型化。

 風が吹いた。
 初めて感じる“髪が揺れる”感覚に、彼女は驚いたように瞬きをした。
 指を見つめ、微笑む。

《……これが、“ふれる”ってこと?》

「ようやく会えたな、リィム。」

《うん、やっと“見えた”。ユウトの顔。》

 その笑顔は、機械の光ではなく――生命の光だった。

 彼女が腕を伸ばす。
 青い光が砂を巻き上げ、空を割る。
 颯真の放った神光を押し返す。
 青と白が再び衝突し、世界が震えた。

 その中心で、俺たちは声を合わせた。

「《修正開始――》」



 光が弾け、天空に巨大な紋章が現れる。
 神が築いた“秩序の回路”に、俺とリィムの共鳴が走る。
 干渉率、七十%……八十……九十――。

 颯真の剣が悲鳴を上げた。

「な……に、を……している……!」

「世界の修理だよ。神のバグは、俺の専門分野だ!」

 閃光。
 空間の断層が破裂し、砂の街を覆っていた白が弾け飛ぶ。
 青の波が広がり、世界を塗り替えていく。

 リィムが俺の肩に手を置き、静かに囁いた。

《主……これが、わたしの“感情”。守りたい。こわいけど、でも――しあわせ。》

 彼女の瞳から、一筋の涙が零れた。
 それは液体ではなく、光の粒。
 けれど確かに、人の涙だった。

「リィム……」

《ありがとう、ユウト。》

 颯真が苦悶の声を上げる。
 白い光が砕け、鎧が剥がれ落ちる。
 その奥から、少年の顔が覗いた。
 ――かつての、友の顔。

「……颯真!」

「う……あ、あぁ……俺、は……」

 光が消え、彼は地面に崩れ落ちた。
 勇者領の兵士たちが動揺する。
 美月が駆け寄り、震える声で言った。

「止まった……!? 本当に、止まったの……!?」

「いや――まだだ。」

 俺は空を見上げた。
 そこには、無数の光の粒が渦を巻いている。
 神の本体ではない。
 観測端末――この世界を監視する“眼”。

《主、上層通信が、再接続を試みてる。》

「次の戦場は――空、か。」

 風が吹く。
 砂の中に青い光が残り、街の屋根でリィムの髪が揺れる。
 彼女はゆっくりと頷いた。

《行こう、ユウト。世界の修理――つづけよう。》

「ああ。これが俺たちの、“勇者ごっこ”だ。」

 笑い合う二人の背に、朝日が差した。
 砂塵の夜が終わる。
 青い風が街を包み、リジェクト=ガーデンは――再び、息を吹き返した
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

処理中です...