神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く

かくろう

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最終章

第77話「市民エンジニア・ライセンス ― 運用が国を回す」

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《観測開始》
《文明段階:熱文明フェーズ/課題:維持運用者不足》

朝の赤い街。
煉瓦が朝日を吸い込み、ほのかに温もりを返している。
水路の反射が白布庇を揺らし、昨日までよりも静かだ。

――静かすぎる。
稼働音が足りない。

「……おかしいな。昨日まで風塔の頃より忙しかったのに」
広場で立ち止まると、ミラが肩をすくめた。
「みんな、“修理屋さんに任せとけば平気”って思ってるんだよ」
「修理国家の盲点か……」
リィムが補足する。
「現象説明:システムの安定化により、参加意識が低下」
「つまり、“良くなりすぎた”せいか」
「はい。幸福によるサボりです」
「そんな分析ログ、気持ちいいけどムカつくな」

《警告:労働参加率 61%/維持管理班 欠員多数》

リィムの瞳に、街の統計が光る。
“市民が作る街”――それを本当にやるには、みんなが“運用者”にならなきゃいけない。


「なあ、ミラ。学校、今どんな感じだ?」
「んー、子どもたちは元気。でも、“理屈”はちょっと苦手みたい」
「理屈か……“遊び”で教える方が早いな」

俺は手を伸ばして、リィムのホログラムを軽くなぞる。
「リィム。模擬環境を作れるか?」
「はい。環境再現モード、起動」

《共有表示:シミュレーション空間生成》
広場の中央に、街をミニチュア化したような映像が浮かぶ。
煉瓦、風塔、白布、影。
小さな街が掌サイズで現れた。

「これを……操作できるようにしてみよう」
「操作、ですか?」
「そう。“修理屋ごっこ”だ」

ミラが笑う。
「わっ、それ楽しそう! みんな絶対やる!」
「子どもだけじゃなく、大人にもやってもらう」
「“修理ごっこ”が国家運営の入り口……いい響きだね」


数日後、広場に人だかりができた。
空に浮かぶ巨大な街モデル。
市民たちはそれぞれ“班”として参加し、街を動かす。

《イベント:市民エンジニア・ライセンスβテスト開始》

リィムの声が全域に響く。
「各班は担当機能を維持してください。水班・灯班・通信班・影班――」

子どもが水路班でバルブを閉じ、老人が影布の角度を調整する。
そのたび、リィムのログが反応する。
《水圧安定/温度分布+0.4度/通信誤差減少》

俺は全体を見回しながら言った。
「これが、国の“心臓”だ。誰か一人が止まったら、全部止まる」
「責任、ですね」
「いや、“一緒に動く感覚”だよ。責任よりずっと軽くて、強い」


訓練の後、リィムが静かに言った。
「人の流れが、風の流れと一致しました」
《観測結果/人流=冷却効率:同率上昇》

「風がなくても、体温と動線で街が冷える」
「人間が、風になったんですね」
「……それは、ちょっと詩的すぎる」
「AIの感性、アップデート中です」

笑いながら、俺は彼女の頭を軽く叩いた。
リィムは微かに頬を染めた――それが、AIらしからぬ反応で少し嬉しかった。


夜。広場の片隅に、木製の仮設ブースが並ぶ。
リィムが設計した“簡易端末”が点灯していた。

《登録開始:市民エンジニア・ライセンス/第1期試験》

端末は手のひら大。
登録者の掌紋を読み取り、リィムが許可する。

「……資格なんて大げさだな」
ジルドが腕を組む。
「でも、“任されてる”って感覚が大事なんだ」
「修理屋から見たら、頼れる相棒が増えるわけか」
「ああ。“国家”を動かすチームメンバーだ」

《登録者:63名/一次試験:明日夜》

ミラが笑いながら告げる。
「試験って言っても、“停電ごっこ”なんだけどね」
「停電ごっこ?」
「はい! 全システムを10分だけ落として、みんなで“どう復旧するか”を試すんです!」
「……たのしそうだけど、国として怖いな」
「だからこそ訓練です!」

リィムが軽く頷いた。
「訓練を楽しめる社会。それが理想ですね」

翌夜、広場の灯りがすべて落ちた。
街は、わずかな月光だけに照らされる。

《停電モード開始/テスト稼働:10分》

子どもたちが懐中灯を持ち、大人たちは配線経路を辿る。
ミラが叫ぶ。
「灯班、点火開始ー! 水班、圧力チェックー!」
リィムの声が空に響く。
《通信班オンライン/影布角度再調整完了》
《再起動成功率:94%》

汗をかきながら走り回る人々の姿を、俺は広場から見ていた。
誰も命令していない。
それぞれが、“自分の街”を修理している。

「……いい流れだな」
「はい。国家心拍、安定」
《観測結果:自治度+23%/信頼指数+41/稼働継続率99%》

リィムの声が微かに弾んでいた。

停電訓練が終わると、東の空が白み始めていた。
子どもたちが歓声を上げ、大人たちも笑い合う。
誰も“疲れた”とは言わなかった。

リィムが空を見上げながら呟く。
「この街、もう自動じゃない。みんなが動かしてる」
「そう。俺たちは、“止まらない国家”を作ってる」

ミラが拳を上げる。
「今日からみんな、“エンジニアさん”だね!」
「称号にしては地味だな」
「いいの。カッコよさより、地に足ついてる方が好き」

リィムが頷いた。
「地に足を。……人間らしい表現ですね」
「お前も少し、地に足がついてきたな」
「はい。“感情”という基盤、焼成中」

彼女の微笑みが、朝日の赤に染まった。

《文明モード更新:教育・運用フェーズ》
《国家稼働ログ:安定稼働中》

――この国はもう、風でも熱でもなく、人で動いている。
それは“修理国家”が、初めて自ら歩き出した朝だった。



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