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1~10
闇での出会いとイレギュラー
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「グルルルッ!」
「ガァアアアアッ」
「そりゃぁっ!」
ストレージから取り出した拳大の石を500/500にパワーで投げつけ、三匹のフォレストウルフは吹き飛んでいく。
100/100でもゴブリンなら肉体が爆散していたのに吹き飛ばされるに留まっている。
フォレストウルフは魔の森の生息モンスターの中では最上位に分類される強力な魔物だ。
デビルグリズリーやブラッククロコダイルですら捕食対象にすると言われる強靱な顎と牙。
そして必ず群で行動する抜群のチームワークで獲物を確実に仕留める狡猾さと凶暴性。
個としての戦闘力はもとより、集団戦闘においてもっとも厄介だ。
でも普段は森から出てくることは滅多にないはずなのに、なんでこんな所にいるんだろうか。
「たぁあっ!」
「グギャッ」
「キャインッ⁉」
考えているヒマはない。不意打ちで可能な限り駆除しないと。/500の☆攻撃回数を【ためて】ショートソードを振り抜く。
目視できるだけでも10匹以上は確実に集まっているフォレストウルフたちを相手取り、増やした攻撃回数で次々と屠っていく。
幸いにして今の僕のパワーなら問題なく処理できる。
【ためる】段階を200に留めても一匹一撃で倒せる。
☆基礎攻撃力を100、☆攻撃回数を200か300にためながら敵の攻撃を受ける前に攻撃を仕掛けていく。
動きの素早いフォレストウルフ相手だと【ためる】タイミングも難しい。
四方八方の暗闇から襲い掛かってくるから常に動き回らないと。
急所に噛み付かれでもしたらカウンターダメージをためる前に致命傷を負ってしまう。
「ガウッ」
「くっ、ぐわっ」
真後ろから体当たりを喰らってバランスを崩してしまった。
「グオオオオオッ」
「ガウッガウッ」
「うわあぁあ、ああっ、がああ」
一瞬の油断。体勢を崩され、腕と足に噛み付かれて狂ったように頭を振り乱して食い千切ろうとしてくる。
咄嗟に首元と手の頸動脈を庇った。ここをやられると流血が止まらなくなって気を失ってしまうと習ったことがある。
「ぐううっ」
凄まじい痛みが全身を支配するが、興奮しているせいか体の動きは鈍らなかった。
「ずぁああああっ!!」
噛み付いているウルフの頭に剣の柄を振り下ろして額を叩き割った。
眉間を潰されたウルフは絶命し、魔素となって消えていった。
「せいっ」
「ギャインッ」
足に噛み付いていた個体にもショートソードを突き刺して引き剥がす。
「グルルルルッ」
「ガァアア」
まだまだ残っている。既に10匹以上倒しているのに戦いを諦めてはくれないようだ。
手足から血を流しているのであと少しで倒せると思っているのだろうか。
確かに強く噛み付かれて手足の感覚が鈍くなっている。
よし、アレを試してみるか。
「1レベルアップ」
「ガッ⁉」
『魔素ストックを消費してレベルを28にアップします』
――――
LV27→28
魔素ストック 500025→431203
――――
瞬間的に体が魔素の光に包まれて充実感に溢れてくる。
食い千切られた傷痕が塞がり、パワーは更に上がった。フォレストウルフから吸収した魔素でストックにも余裕ができた。
目の前の手負いがいきなり元気になったことに驚いたのか、明らかにフォレストウルフ達の動揺が伝わってくる。
「せりゃぁああっ」
瞬間的に【ためる】で☆攻撃回数を/200に上げる。横に薙いだ剣戟で不可視の一撃を炸裂させた。
そこに来てようやく目の前の相手が獲物ではなく恐怖の対象に変わったらしい。
フォレストウルフたちがジリジリと僕から距離をとるように後ずさる。
このまま去ってくれるのを待つかとも思ったが、フォレストウルフはかなり執念深い性格で、屈辱を味わった相手には必ず復讐しにくると聞いたことがある。
(☆攻撃回数を/500まで【ためる】……。☆投擲を/500に【ためる】)
敵が距離をとっている間に【ためる】で段階を上昇させていく。
残るフォレストウルフは視界に入っている5体のみ。
後ろにいる気配は多分なさそうだ。
目の前の敵を処理したらすぐに後ろを警戒しよう。
「ガッ!」
「せあああっ!」
「ぎゃいんっ」
「ガフッ」
「ッ⁉」
「キャインッ⁉」
「ガッ……」
よしっ。横薙ぎの切り払いで5体同時に仕留める事に成功した。
レベルが上がって基礎能力が上がったおかげだろう。
さっきまでより体の反応速度が僅かに速くなっている。
『【ためる】状態の☆攻撃回数を一定数使用しました。スキル【重ね斬り】を習得します。☆基礎攻撃力で威力を上乗せ可能』
頭の中で新しいスキルを習得した感覚が広がっていく。
【重ね斬り】というスキルの効果が☆基礎攻撃力100/100状態の『☆攻撃回数500/500』と同等の効果である事が分かる。
「つまりスキル使用で5回攻撃が最大5倍の威力か。ぶっ壊れてるな。まだまだぁあああっ」
次々に襲い掛かってくるフォレストウルフを駆逐していく。
やっぱり諦めていなかった。距離をとっていたのは新たな仲間が到着するのを待っていたのだ。
10匹、20匹、恐らく30匹は行っただろうか。
魔素ストックは倒すのと同時に増えていく。今のレベルなら能力内で十分に攻略可能だった。
そうして気配が消え去るまで凶悪なフォレストウルフを倒し続け、やがて辺りは静かになった。
「とりあえず脅威は去ったかな……。さて」
夢中になって倒していたが、途中で何匹か逃げていくのが見えた。追っても仕方ないので戦闘が終わった事を喜ぼう。
◇◇◇
フォレストウルフをなんとか退ける事に成功。しかし灯りを頼りに辺りを確認してみると、5人の男性が犠牲になってしまった事が分かった。
「せめて遺品を家族に届けるか……」
他人に構っている余裕のある立場じゃないが、獣に食い殺された死体を放置する気にもなれない。
「あれ……この風貌、もしかして」
そいつの顔には見覚えがあった。
王都周辺で指名手配されている盗賊団構成員の1人だ。
「ってことは、この人達は盗賊の一味?」
『……ッ』
「ん?」
焚き木の炎がパチンと破裂する音に混じって、人の息遣いらしき気配を感じる。
よく目を凝らしてみると盗賊達の死体の近くに馬車が放置されている。
残念ながら馬は食い殺された後らしく、血まみれの肉片が散らばっている。
しかし繋がれた幌をよくみると普通のものではない事が分かる。
被せられた布の下には鉄格子が仕込まれており、まるで囚人護送車のようだった。
ところどころ破れている所を見ると、中にいる人を狙ってウルフたちに食い千切られたのだろう。
僕が乗せられた窓のない幌ではなく、布を外すと中が丸見えになるように作られている。
そこにきて僕の中でその理由が浮かび上がってきた。
「まさか……」
慌てて布を引っ張って外してみると、鎖に繋がれた女の子が怯えた表情で隅っこに固まっていた。
「君は……」
「ひっ、こ、殺さないでっ」
「大丈夫です。もう狼たちは追い払いました。安心してください」
「えっ、えっ?」
「心配しないで。僕は敵じゃありません。すぐに助けます」
彼女は盗賊に捕まって奴隷商人に売られる直前だったのだろう。
ルインハルド王国の暗部はとても根深い。
発展都市の王都ですら闇奴隷市が頻繁に開催されていると聞いている。
それが目の前にあるんだ。
不幸中の幸いだったのは鉄格子が頑丈でウルフにこじ開けられずに済んだことだろう。
「ちょっと待ってて。盗賊達から鍵を持ってくる」
「は、はい」
食い千切られてるけど体の大部分は残っている。衣服も無事だけど、グチャグチャの死体に触るのは気が引けるな。
魔物と違って消える訳じゃないからこのまま放置するとアンデッドモンスターに変貌してしまう。
用事が済んだら荼毘に付して残らず灰にしておかないと。討伐証明も持っていかないとな。指名手配犯には懸賞金がかけられている。
旅の路銀には丁度良いだろう。
「あった。あとは……」
腰巻きの内側部分にくくりつけてあった鍵束を見つけ、鉄格子を解錠した。
「大丈夫ですか。僕は旅のものです。お怪我はありませんか?」
「は、はい。大丈夫……です……」
その時、空を覆っていた分厚い雲が風で流れ、柔らかい月明かりが差し込んで彼女の姿を映し出す。
僕は言葉を失った。
「え……あ……」
天使がいた……。
銀色の髪。獣人族特有のピンと尖った長い耳、フサフサの尻尾。
銀色の髪が月光のように優しく輝き、肩まで流れるそのシルクのような質感は、触れたくなるほどの誘惑を秘めている。
大きな瞳は深い青の宝石のように澄み渡り、殺伐とした空気を変えてくれる気さえしてくる。
細くしなやかな体躯は、優雅さをたたえて動き、誰もが目を奪われる。
神秘的で魅力的な存在……そんな言葉がぴったりの美少女だった。
一度出会ったら、忘れられない夢のような少女だ。ミレイユ達を初めとした、美しい少女には見慣れているはずの僕。
だから大抵の人には動揺せずに済むのだけれど……彼女の心を揺さぶるような美しさは、正に別格だった。
「まさか……銀狐族……?」
ビクンッ
少女のおびえが強くなった。銀狐族はキツネ型の獣人の中でも幻と言われる希少な種族だ。
その美しさから奴隷狩りの対象にされる事が多く、多くは髪の色を誤魔化して隠れるように過ごすらしい。
だけど僕はそのあまりの美しさに魅入られ、思わず心の呟きを口に出してしまう。
「か、可愛い……」
「え……」
「あ、いやっ」
年齢は僕と同じくらいの少女が隅っこの方で怯えている。
いかんいかん。怯えている女の子に向かって何を言っているんだ僕は。変態みたいじゃないか。
少女はブルブルと震えて動こうとしないので、緩んでいた心を引き締め直す。
安心させるために自己紹介をすることにした。
「僕の名前はセージ。さっきも言った通り旅のものです。盗賊達もフォレストウルフも既に全部いません。安心してください」
「あ……あ……」
自己開示をしたけどまだ怯えはなくならない。無理もないけどこのままだと埒があかない。
だけど夜が明けるまでまだまだ時間があるし、もう眠る訳にはいかなくなった。
「僕はすぐ近くにいます。気持ちが落ち着いたらお話を聞かせてください」
「ち、ち、違う、う、後ろっ、後ろっ!!」
「え?」
そこに来て彼女が怯えていたのが別の理由であることを理解する。
『GURURURURUッ……』
暗闇の中で不気味に光る一対の赤い光。
それが巨大な生物の瞳が放つ禍々しい魔力の光であることを理解した。
「ま、まさか」
『GYAOOOOO!!!!』
焚き火の微かな灯りに照らされた巨大な体躯。それは僕の5倍はありそうな巨大フォレストウルフだった。
「きょ、巨大なフォレストウルフッ、ま、まさかイレギュラーッ⁉」
魔物にはたまに突然変異のような強化個体が出現することがある。
どんな条件で出現するか分かっていないことから『イレギュラー』と呼ばれている。
さっき逃がした一匹が呼び出したのか。完全に油断していた。
それにあんな巨大な体をしているにも関わらず、まったく足音がしなかった。
体にかつて無い緊張が走る。たった2日で何度目になるか分からない死の予感だった。
だけど……。
(いける……勝てる)
不思議とすぐに心は落ち着いていった。僕は凶悪な殺意を向けてくる巨大フォレストウルフを見据え、魔素ストックを全ての項目に注ぎ込んでいった。
「ガァアアアアッ」
「そりゃぁっ!」
ストレージから取り出した拳大の石を500/500にパワーで投げつけ、三匹のフォレストウルフは吹き飛んでいく。
100/100でもゴブリンなら肉体が爆散していたのに吹き飛ばされるに留まっている。
フォレストウルフは魔の森の生息モンスターの中では最上位に分類される強力な魔物だ。
デビルグリズリーやブラッククロコダイルですら捕食対象にすると言われる強靱な顎と牙。
そして必ず群で行動する抜群のチームワークで獲物を確実に仕留める狡猾さと凶暴性。
個としての戦闘力はもとより、集団戦闘においてもっとも厄介だ。
でも普段は森から出てくることは滅多にないはずなのに、なんでこんな所にいるんだろうか。
「たぁあっ!」
「グギャッ」
「キャインッ⁉」
考えているヒマはない。不意打ちで可能な限り駆除しないと。/500の☆攻撃回数を【ためて】ショートソードを振り抜く。
目視できるだけでも10匹以上は確実に集まっているフォレストウルフたちを相手取り、増やした攻撃回数で次々と屠っていく。
幸いにして今の僕のパワーなら問題なく処理できる。
【ためる】段階を200に留めても一匹一撃で倒せる。
☆基礎攻撃力を100、☆攻撃回数を200か300にためながら敵の攻撃を受ける前に攻撃を仕掛けていく。
動きの素早いフォレストウルフ相手だと【ためる】タイミングも難しい。
四方八方の暗闇から襲い掛かってくるから常に動き回らないと。
急所に噛み付かれでもしたらカウンターダメージをためる前に致命傷を負ってしまう。
「ガウッ」
「くっ、ぐわっ」
真後ろから体当たりを喰らってバランスを崩してしまった。
「グオオオオオッ」
「ガウッガウッ」
「うわあぁあ、ああっ、がああ」
一瞬の油断。体勢を崩され、腕と足に噛み付かれて狂ったように頭を振り乱して食い千切ろうとしてくる。
咄嗟に首元と手の頸動脈を庇った。ここをやられると流血が止まらなくなって気を失ってしまうと習ったことがある。
「ぐううっ」
凄まじい痛みが全身を支配するが、興奮しているせいか体の動きは鈍らなかった。
「ずぁああああっ!!」
噛み付いているウルフの頭に剣の柄を振り下ろして額を叩き割った。
眉間を潰されたウルフは絶命し、魔素となって消えていった。
「せいっ」
「ギャインッ」
足に噛み付いていた個体にもショートソードを突き刺して引き剥がす。
「グルルルルッ」
「ガァアア」
まだまだ残っている。既に10匹以上倒しているのに戦いを諦めてはくれないようだ。
手足から血を流しているのであと少しで倒せると思っているのだろうか。
確かに強く噛み付かれて手足の感覚が鈍くなっている。
よし、アレを試してみるか。
「1レベルアップ」
「ガッ⁉」
『魔素ストックを消費してレベルを28にアップします』
――――
LV27→28
魔素ストック 500025→431203
――――
瞬間的に体が魔素の光に包まれて充実感に溢れてくる。
食い千切られた傷痕が塞がり、パワーは更に上がった。フォレストウルフから吸収した魔素でストックにも余裕ができた。
目の前の手負いがいきなり元気になったことに驚いたのか、明らかにフォレストウルフ達の動揺が伝わってくる。
「せりゃぁああっ」
瞬間的に【ためる】で☆攻撃回数を/200に上げる。横に薙いだ剣戟で不可視の一撃を炸裂させた。
そこに来てようやく目の前の相手が獲物ではなく恐怖の対象に変わったらしい。
フォレストウルフたちがジリジリと僕から距離をとるように後ずさる。
このまま去ってくれるのを待つかとも思ったが、フォレストウルフはかなり執念深い性格で、屈辱を味わった相手には必ず復讐しにくると聞いたことがある。
(☆攻撃回数を/500まで【ためる】……。☆投擲を/500に【ためる】)
敵が距離をとっている間に【ためる】で段階を上昇させていく。
残るフォレストウルフは視界に入っている5体のみ。
後ろにいる気配は多分なさそうだ。
目の前の敵を処理したらすぐに後ろを警戒しよう。
「ガッ!」
「せあああっ!」
「ぎゃいんっ」
「ガフッ」
「ッ⁉」
「キャインッ⁉」
「ガッ……」
よしっ。横薙ぎの切り払いで5体同時に仕留める事に成功した。
レベルが上がって基礎能力が上がったおかげだろう。
さっきまでより体の反応速度が僅かに速くなっている。
『【ためる】状態の☆攻撃回数を一定数使用しました。スキル【重ね斬り】を習得します。☆基礎攻撃力で威力を上乗せ可能』
頭の中で新しいスキルを習得した感覚が広がっていく。
【重ね斬り】というスキルの効果が☆基礎攻撃力100/100状態の『☆攻撃回数500/500』と同等の効果である事が分かる。
「つまりスキル使用で5回攻撃が最大5倍の威力か。ぶっ壊れてるな。まだまだぁあああっ」
次々に襲い掛かってくるフォレストウルフを駆逐していく。
やっぱり諦めていなかった。距離をとっていたのは新たな仲間が到着するのを待っていたのだ。
10匹、20匹、恐らく30匹は行っただろうか。
魔素ストックは倒すのと同時に増えていく。今のレベルなら能力内で十分に攻略可能だった。
そうして気配が消え去るまで凶悪なフォレストウルフを倒し続け、やがて辺りは静かになった。
「とりあえず脅威は去ったかな……。さて」
夢中になって倒していたが、途中で何匹か逃げていくのが見えた。追っても仕方ないので戦闘が終わった事を喜ぼう。
◇◇◇
フォレストウルフをなんとか退ける事に成功。しかし灯りを頼りに辺りを確認してみると、5人の男性が犠牲になってしまった事が分かった。
「せめて遺品を家族に届けるか……」
他人に構っている余裕のある立場じゃないが、獣に食い殺された死体を放置する気にもなれない。
「あれ……この風貌、もしかして」
そいつの顔には見覚えがあった。
王都周辺で指名手配されている盗賊団構成員の1人だ。
「ってことは、この人達は盗賊の一味?」
『……ッ』
「ん?」
焚き木の炎がパチンと破裂する音に混じって、人の息遣いらしき気配を感じる。
よく目を凝らしてみると盗賊達の死体の近くに馬車が放置されている。
残念ながら馬は食い殺された後らしく、血まみれの肉片が散らばっている。
しかし繋がれた幌をよくみると普通のものではない事が分かる。
被せられた布の下には鉄格子が仕込まれており、まるで囚人護送車のようだった。
ところどころ破れている所を見ると、中にいる人を狙ってウルフたちに食い千切られたのだろう。
僕が乗せられた窓のない幌ではなく、布を外すと中が丸見えになるように作られている。
そこにきて僕の中でその理由が浮かび上がってきた。
「まさか……」
慌てて布を引っ張って外してみると、鎖に繋がれた女の子が怯えた表情で隅っこに固まっていた。
「君は……」
「ひっ、こ、殺さないでっ」
「大丈夫です。もう狼たちは追い払いました。安心してください」
「えっ、えっ?」
「心配しないで。僕は敵じゃありません。すぐに助けます」
彼女は盗賊に捕まって奴隷商人に売られる直前だったのだろう。
ルインハルド王国の暗部はとても根深い。
発展都市の王都ですら闇奴隷市が頻繁に開催されていると聞いている。
それが目の前にあるんだ。
不幸中の幸いだったのは鉄格子が頑丈でウルフにこじ開けられずに済んだことだろう。
「ちょっと待ってて。盗賊達から鍵を持ってくる」
「は、はい」
食い千切られてるけど体の大部分は残っている。衣服も無事だけど、グチャグチャの死体に触るのは気が引けるな。
魔物と違って消える訳じゃないからこのまま放置するとアンデッドモンスターに変貌してしまう。
用事が済んだら荼毘に付して残らず灰にしておかないと。討伐証明も持っていかないとな。指名手配犯には懸賞金がかけられている。
旅の路銀には丁度良いだろう。
「あった。あとは……」
腰巻きの内側部分にくくりつけてあった鍵束を見つけ、鉄格子を解錠した。
「大丈夫ですか。僕は旅のものです。お怪我はありませんか?」
「は、はい。大丈夫……です……」
その時、空を覆っていた分厚い雲が風で流れ、柔らかい月明かりが差し込んで彼女の姿を映し出す。
僕は言葉を失った。
「え……あ……」
天使がいた……。
銀色の髪。獣人族特有のピンと尖った長い耳、フサフサの尻尾。
銀色の髪が月光のように優しく輝き、肩まで流れるそのシルクのような質感は、触れたくなるほどの誘惑を秘めている。
大きな瞳は深い青の宝石のように澄み渡り、殺伐とした空気を変えてくれる気さえしてくる。
細くしなやかな体躯は、優雅さをたたえて動き、誰もが目を奪われる。
神秘的で魅力的な存在……そんな言葉がぴったりの美少女だった。
一度出会ったら、忘れられない夢のような少女だ。ミレイユ達を初めとした、美しい少女には見慣れているはずの僕。
だから大抵の人には動揺せずに済むのだけれど……彼女の心を揺さぶるような美しさは、正に別格だった。
「まさか……銀狐族……?」
ビクンッ
少女のおびえが強くなった。銀狐族はキツネ型の獣人の中でも幻と言われる希少な種族だ。
その美しさから奴隷狩りの対象にされる事が多く、多くは髪の色を誤魔化して隠れるように過ごすらしい。
だけど僕はそのあまりの美しさに魅入られ、思わず心の呟きを口に出してしまう。
「か、可愛い……」
「え……」
「あ、いやっ」
年齢は僕と同じくらいの少女が隅っこの方で怯えている。
いかんいかん。怯えている女の子に向かって何を言っているんだ僕は。変態みたいじゃないか。
少女はブルブルと震えて動こうとしないので、緩んでいた心を引き締め直す。
安心させるために自己紹介をすることにした。
「僕の名前はセージ。さっきも言った通り旅のものです。盗賊達もフォレストウルフも既に全部いません。安心してください」
「あ……あ……」
自己開示をしたけどまだ怯えはなくならない。無理もないけどこのままだと埒があかない。
だけど夜が明けるまでまだまだ時間があるし、もう眠る訳にはいかなくなった。
「僕はすぐ近くにいます。気持ちが落ち着いたらお話を聞かせてください」
「ち、ち、違う、う、後ろっ、後ろっ!!」
「え?」
そこに来て彼女が怯えていたのが別の理由であることを理解する。
『GURURURURUッ……』
暗闇の中で不気味に光る一対の赤い光。
それが巨大な生物の瞳が放つ禍々しい魔力の光であることを理解した。
「ま、まさか」
『GYAOOOOO!!!!』
焚き火の微かな灯りに照らされた巨大な体躯。それは僕の5倍はありそうな巨大フォレストウルフだった。
「きょ、巨大なフォレストウルフッ、ま、まさかイレギュラーッ⁉」
魔物にはたまに突然変異のような強化個体が出現することがある。
どんな条件で出現するか分かっていないことから『イレギュラー』と呼ばれている。
さっき逃がした一匹が呼び出したのか。完全に油断していた。
それにあんな巨大な体をしているにも関わらず、まったく足音がしなかった。
体にかつて無い緊張が走る。たった2日で何度目になるか分からない死の予感だった。
だけど……。
(いける……勝てる)
不思議とすぐに心は落ち着いていった。僕は凶悪な殺意を向けてくる巨大フォレストウルフを見据え、魔素ストックを全ての項目に注ぎ込んでいった。
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