9 / 150
1~10
死力を尽くして
しおりを挟む
『GUAAAAAAA!』
鉄格子に閉じ込められた少女達を救おうと気をとられていると、後ろから迫ってきた巨大な敵に気が付かなかった。
通常よりも数倍でかいフォレストウルフ。突然変異のような強化個体として恐れられる、通称『イレギュラー』と呼ばれる強敵だった。
「ふぅう……」
間違いなく強い。しかし絶望するほど圧倒的じゃない。
うぬぼれか? いや違う。今の僕なら十分に倒せる力がある。その確信がある。
イレギュラーから目線を外さないように鉄格子の入り口に立ち塞がり、持っていた鍵束を中に放り投げた。
「こいつは僕が引きつける。中からもう一度鍵をかけて籠城してください」
「え、で、でもっ」
「手下のウルフがまた集まってくるかもしれない。生身で外に出るのは危険なんだ、早く」
「わ、分かりました」
こんな鉄格子くらいなら簡単に食い破ってしまうだろうけど、生身で外に出るよりはよっぽど安全だ。
それに言ったとおり手下のフォレストウルフが再び集まってくるかもしれないから、鉄格子は砦代わりになってくれるはず。
(イレギュラーは基本的に個体の上位存在って話だった。あとは魔法を使う個体もいる)
カッと見開かれた魔眼から強烈な殺気が放たれる。
瞬間的に腕を交差して防御を固めると、一瞬後に体全部が吹き飛びそうな衝撃がやってくる。
「ぐぅうっ」
下手に避ければ後ろの女の子に当たってしまうから動く訳にはいかなった。
――――
カウンターダメージ 240/500
――――
強烈な一撃だ。一発で半分近くたまってしまった。
だけどまだまだ動けなくなったわけじゃない。
カウンターダメージは最大値までためた方が一発逆転になる。
「さあもっと来いッ。こっちだ化け物狼ッ」
『GUAAA!』
僕の言葉を理解しているのだろうか。怒りに目を見開いて回り込もうとする僕を追いかけてくる。
あの分厚い毛皮を通り抜けるためには最大威力の攻撃を叩き込むしかない。
(あれはっ、盗賊達の武器かっ)
強化された視覚に殺された盗賊達の武器が飛び込んできた。
ミレイユのショートソードだけではあの巨大な体に致命傷を与えられるかどうか分からない。
拾い上げた斧を構えて【加速】に魔素を注ぎ込む。
体が巨大な分だけ如何に素早くても動きが制限されるはずだ。
「足をっ、斬り飛ばすッ」
『GAUッ!』
「なにっ」
後ろから攻撃したのに飛び上がって避けられた。気配察知のスキルでも持ってるのか。
やっぱり一筋縄じゃいかない。動きが素早いなら攻撃範囲を広げる。
「重ね斬りッ!」
『ギャッ⁉』
当たりはしたがあまり効いている様子はない。
やっぱり最大倍率の攻撃力を使って一撃で仕留めるしかない。
カウンターダメージに基礎攻撃力/500の倍率を乗せればかなりの攻撃力が期待できる。
『GAUッ!』
「ぐっ!」
巨大な体でのし掛かって体当たりをしてくる。
魔力を帯びた突進が骨を軋ませ、直前に後ろに飛ばなければ致命傷になっていた。
――――
カウンターダメージ 500/500
――――
よしっ! やったことないけど最大倍率で攻撃すればっ。
カウンター攻撃で必中。更に基礎攻撃力/500で5倍の攻撃力。
重ね斬りで5回同時攻撃。
そして更に――
「激殺ッ! 両断ッ! たぁあああああっ!」
デビルグリズリーを一刀両断にした僕の最大威力の攻撃だ。
『GYAOOOOOOO』
拾い上げた盗賊のロングソードを握り絞め、首元に向かって振り下ろす。
剣による攻撃は当然ながら両手で振った方が遙かに強力になる。
『GUGAGAGAGAGAッ!』
「ぐっ、おおおおおおおおおおっ!!」
刃が食い込み、凄まじい抵抗が腕に負荷をかける。
(くそっ、振り抜けないッ)
バキンッ
ダメだ。攻撃力の高さに武器の強度がついていかない。
確実に首を捉えた攻撃だったが、肉に食い込んだ途中で折れてしまった。
僕のショートソードよりは強度が高いであろうロングソードでも倒しきれない。
『GUGA……グルルッ……』
だけどかなりのダメージを与えることができた。首の途中まで食い込んだ剣の刃の影響で呼吸がし辛そうだ。
如何に凶暴な魔物とはいえ、苦しませるのは心が痛む。早めにトドメを刺して戦いを終わらせよう。
相手がそんな余裕を与えてくれればの話だけど……。
落ちている武器は使い切ってしまった。もう一息だ。持っているショートソードを鞘から引き抜き、両手持ちに構える。
『グゥウウウウ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォオオンゥンンンッ!!』
「なんだっ⁉ うわぁああああああっ」
突如として巨大フォレストウルフから爆風が起こり、魔力の光が真っ直ぐ僕に向かって飛んでくる。
「ガハッ!!」
吹き飛ばされた僕の体は真後ろに向かって飛んで行く。激突したのは先ほどの鉄格子付きの幌であり、少女達の悲鳴が響き渡った。
「ゴホッ、くっ……」
『グァアアアアアッ、ウオオオオンッ!!』
「な、何が起こったんだ……」
体が光る巨大フォレストウルフの首に食い込ませていた刃がポロリと落ち、みるみる傷を回復させていく。
「傷が治っていく。アレは一体……」
まさか僕と同じレベルアップによる全快なのか。自分のギフトによる能力を他人が使えるなんて考えもしなかった。
「逃げてくださいッ!」
「え?」
どうするか思案していたところで壊れた鉄格子から出てきた少女が声を張り上げた。
「あれはイレギュラー個体特有の進化と呼ばれる現象ですっ。ベテランの冒険者でも勝てるかどうか」
「でも、僕が逃げたらあなたが助からない」
「私はもう良いんです。帰る家もありません。だからあなただけでも逃げてください」
「いいえ、逃げるわけにはいきません。まだ勝機は失われていない」
「えっ⁉ あ、あれに勝てる見込みがあるっていうんですか⁉ 間違いなくベータ、いえ、アルファランク案件ですっ。たった1人で勝てる相手じゃありませんっ」
アルファランク。冒険者の依頼難易度を表す記号だ。貴族のランクと同じ呼び方のはず。そしてアルファはオメガに次ぐ準最高難易度だ。
「そうですね。普通ならそうです。だからこそです」
まだできる事はある。それをせずに逃げ出すなんて出来るわけない。
「そんな……見ず知らずの私の為に、どうしてそこまで」
「僕も同じだからです。僕にも、もう帰る家はありません。それに、ここであなたを見捨てたら、明日の僕は誇りを持って生きていけないっ!」
無茶なことを言っている自覚はある。これから使う奥の手を使ったとして、果たして絶対に勝てる保証はない。
先ほどまでとは条件がまるで違うんだ。敵はまさしく死力を尽くして僕を殺しに掛かってくるだろう。しかも遙かにパワーアップした状態で。
彼女の言うとおり、ここは撤退が賢明な選択だ。逃げ切れる保証はないけど、彼女を囮に使えば、食い殺されている間に加速を使って逃げ切れるかもしれない。
だけど、だけど――
「母上の墓前に花を添えるまで、僕は胸を張って生き抜いていきたいっ!」
そしてミレイユを初めとした慕ってくれるメイド達に再会した自分が、助けようとした女の子を見殺しにした自分であってはならない。
「あなたは……」
「僕はセージ。ただのセージです。あなたは必ず助けます。そこで見ていてください」
まだやれることはある。【ためる】ですべての項目を/500にまで上昇させ、魔素ストックを注ぎ込んだ。
そして更に――
「周辺のフォレストウルフの魔石、ドロップアイテム、および手持ちの魔石、ストレージのアイテムを全て魔素ストックに変換っ」
『周辺にドロップしたフォレストウルフの魔石、及びアイテムの全てを魔素ストックに変換します。全てのストレージアイテムを魔素ストックに変換。大量変換ボーナスにより+50%増量します。合計960000を魔素ストックにプラスします』
思ったとおり。デビルグリズリーやブラッククロコダイルクラスの経験値を持ったフォレストウルフならドロップアイテムもかなりのレアもの。
大量の魔素に変換することができた。
――――
魔素ストック 820354→1780354
――――
「全ての魔素ストックをレベルアップに【放つ】。限界までレベルを上げろ」
『最大値まで魔素ストックをレベルアップに使用します。レベルが28から40にアップしました』
『レベルアップに大量の魔素ストックを使用しました。ボーナスポイントとしてレベルを45にアップします。残り魔素ストック200106』
『新たな能力を獲得しました。魔素ストック100000消費で全ての【ためる】を/1000まで上昇可能にできます。魔素ストックを【放ち】ますか?』
「【放つ】。その後に全ての項目に【ためる】を使用。限界値まで魔素ストックを消費」
――――――
【セージ・タブリンス】→【セージ】
LV29→LV45 次のレベルまで378530
魔素ストック 94106
ストックしているもの
カウンターダメージ 500/1000
☆基本攻撃力 1000/1000
☆魔力値 1000/1000
☆治癒力 1000/1000
☆投擲 1000/1000
☆攻撃回数 1000/1000
☆加速 1000/1000
☆暗視 1000/1000
☆遠目 1000/1000
☆ストレージ 50㎥ 500項目
――――――
今できる全てのことをやり切る。
ミレイユからもらったショートソードの柄に力を込め、最大まで【ためた】全力の攻撃で相手を迎え撃つ。
『☆攻撃範囲を取得。使用武器の長さ×倍数で攻撃範囲がアップ』
新たな項目に更なる力を注ぎ込む。
これでダメなら諦めもつくだろう。
「どうやら相手の進化も完了したらしい」
巨体フォレストウルフは体に青白い炎を燃え上がらせ、寒気のするような熱量をこちらに叩き付けてくる。
凄まじいプレッシャーだ。本当にフォレストウルフなのだろうか?
体が燃えるフォレストウルフなんて聞いたことないぞ……。
『グルルルッ……ウオオオオオオオオオオオオンッ!!』
なんて考えている場合じゃない。
真っ赤に煌々と光り輝く魔眼を見開き、青白い炎は渦を巻きながら奴の体を覆う。
そして周りの草木を蒸発させながら猛烈な勢いで突進してきた。
「これが最後の勝負だっ! いくぞぉおおおおっ!!!!!」
裂帛の気合いと共にショートソードを構え、持てる力の全てを注ぎ込んで敵を迎え撃つ。
「ぐおおおおおっ」
突進してきたフォレストウルフを全力で防御。
凄まじい衝撃が全身の骨を軋ませた。
「ぐぅううっ! だが、耐えきったぞっ!」
『グアッ⁉』
渾身の必殺技を防がれ、フォレストウルフの体勢が大きく崩れる。
強力な攻撃の後には巨大な隙が生まれる。
戦いにおける絶対の法則だ。
「お腹の下を狙ってくださいっ! 弱点のコアがあります。そこを破壊すれば絶命させることができます!!」
少女の声が響く。瞬時に膝を屈伸させ、加速状態で前に飛び出す。
1000/1000のカウンターダメージが溜まった。
「激殺ッ! 両断ッ! 重ね斬りぃいいいいいっ」
スキルの二重発動。本来であれば不可能な所業。それもまた、【ためる】の恩恵であった。
全身の筋肉と神経が悲鳴を上げる。流石にこれだけのスキル全放出をすると肉体がついていかないみたいだ。
『グギャァアアアアアアアアアアアッ!』
45まで上がったレベルの身体能力+最大まで【ためる】を駆使した10倍の基本攻撃力+攻撃回数+攻撃範囲+重ね斬り+激殺両断。
重ね斬りと☆攻撃回数は重複しないが、硬いコアに入った斬撃に追い打ちで何度も衝撃を加える。
「ぐおおおおっ、だぁあああっ!!!!! ぁあああああああっ!!」
『ガッ……』
バキィイイイン
やがて振り抜いた剣閃が巨大フォレストウルフのコアを真っ直ぐに、真っ二つに斬り裂いた。
一拍遅れて光に包まれた体が大きく弾け、爆散するように消滅していった。
後に残されたのは、静寂……。
宵闇の街道で消えかけた焚き火の揺らめく音だけが鳴り響いていた。
「か、勝った……」
ギリギリだった。本当にギリギリだった。持っている全てを放出しなければ勝てなかった。
首の下のコアが弱点。それを知らなければ勝てなかっただろう。
ありとあらゆる全ての力を出し尽くし、戦いは幕を閉じた。
僕の意識は、そこで途切れていった。
鉄格子に閉じ込められた少女達を救おうと気をとられていると、後ろから迫ってきた巨大な敵に気が付かなかった。
通常よりも数倍でかいフォレストウルフ。突然変異のような強化個体として恐れられる、通称『イレギュラー』と呼ばれる強敵だった。
「ふぅう……」
間違いなく強い。しかし絶望するほど圧倒的じゃない。
うぬぼれか? いや違う。今の僕なら十分に倒せる力がある。その確信がある。
イレギュラーから目線を外さないように鉄格子の入り口に立ち塞がり、持っていた鍵束を中に放り投げた。
「こいつは僕が引きつける。中からもう一度鍵をかけて籠城してください」
「え、で、でもっ」
「手下のウルフがまた集まってくるかもしれない。生身で外に出るのは危険なんだ、早く」
「わ、分かりました」
こんな鉄格子くらいなら簡単に食い破ってしまうだろうけど、生身で外に出るよりはよっぽど安全だ。
それに言ったとおり手下のフォレストウルフが再び集まってくるかもしれないから、鉄格子は砦代わりになってくれるはず。
(イレギュラーは基本的に個体の上位存在って話だった。あとは魔法を使う個体もいる)
カッと見開かれた魔眼から強烈な殺気が放たれる。
瞬間的に腕を交差して防御を固めると、一瞬後に体全部が吹き飛びそうな衝撃がやってくる。
「ぐぅうっ」
下手に避ければ後ろの女の子に当たってしまうから動く訳にはいかなった。
――――
カウンターダメージ 240/500
――――
強烈な一撃だ。一発で半分近くたまってしまった。
だけどまだまだ動けなくなったわけじゃない。
カウンターダメージは最大値までためた方が一発逆転になる。
「さあもっと来いッ。こっちだ化け物狼ッ」
『GUAAA!』
僕の言葉を理解しているのだろうか。怒りに目を見開いて回り込もうとする僕を追いかけてくる。
あの分厚い毛皮を通り抜けるためには最大威力の攻撃を叩き込むしかない。
(あれはっ、盗賊達の武器かっ)
強化された視覚に殺された盗賊達の武器が飛び込んできた。
ミレイユのショートソードだけではあの巨大な体に致命傷を与えられるかどうか分からない。
拾い上げた斧を構えて【加速】に魔素を注ぎ込む。
体が巨大な分だけ如何に素早くても動きが制限されるはずだ。
「足をっ、斬り飛ばすッ」
『GAUッ!』
「なにっ」
後ろから攻撃したのに飛び上がって避けられた。気配察知のスキルでも持ってるのか。
やっぱり一筋縄じゃいかない。動きが素早いなら攻撃範囲を広げる。
「重ね斬りッ!」
『ギャッ⁉』
当たりはしたがあまり効いている様子はない。
やっぱり最大倍率の攻撃力を使って一撃で仕留めるしかない。
カウンターダメージに基礎攻撃力/500の倍率を乗せればかなりの攻撃力が期待できる。
『GAUッ!』
「ぐっ!」
巨大な体でのし掛かって体当たりをしてくる。
魔力を帯びた突進が骨を軋ませ、直前に後ろに飛ばなければ致命傷になっていた。
――――
カウンターダメージ 500/500
――――
よしっ! やったことないけど最大倍率で攻撃すればっ。
カウンター攻撃で必中。更に基礎攻撃力/500で5倍の攻撃力。
重ね斬りで5回同時攻撃。
そして更に――
「激殺ッ! 両断ッ! たぁあああああっ!」
デビルグリズリーを一刀両断にした僕の最大威力の攻撃だ。
『GYAOOOOOOO』
拾い上げた盗賊のロングソードを握り絞め、首元に向かって振り下ろす。
剣による攻撃は当然ながら両手で振った方が遙かに強力になる。
『GUGAGAGAGAGAッ!』
「ぐっ、おおおおおおおおおおっ!!」
刃が食い込み、凄まじい抵抗が腕に負荷をかける。
(くそっ、振り抜けないッ)
バキンッ
ダメだ。攻撃力の高さに武器の強度がついていかない。
確実に首を捉えた攻撃だったが、肉に食い込んだ途中で折れてしまった。
僕のショートソードよりは強度が高いであろうロングソードでも倒しきれない。
『GUGA……グルルッ……』
だけどかなりのダメージを与えることができた。首の途中まで食い込んだ剣の刃の影響で呼吸がし辛そうだ。
如何に凶暴な魔物とはいえ、苦しませるのは心が痛む。早めにトドメを刺して戦いを終わらせよう。
相手がそんな余裕を与えてくれればの話だけど……。
落ちている武器は使い切ってしまった。もう一息だ。持っているショートソードを鞘から引き抜き、両手持ちに構える。
『グゥウウウウ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォオオンゥンンンッ!!』
「なんだっ⁉ うわぁああああああっ」
突如として巨大フォレストウルフから爆風が起こり、魔力の光が真っ直ぐ僕に向かって飛んでくる。
「ガハッ!!」
吹き飛ばされた僕の体は真後ろに向かって飛んで行く。激突したのは先ほどの鉄格子付きの幌であり、少女達の悲鳴が響き渡った。
「ゴホッ、くっ……」
『グァアアアアアッ、ウオオオオンッ!!』
「な、何が起こったんだ……」
体が光る巨大フォレストウルフの首に食い込ませていた刃がポロリと落ち、みるみる傷を回復させていく。
「傷が治っていく。アレは一体……」
まさか僕と同じレベルアップによる全快なのか。自分のギフトによる能力を他人が使えるなんて考えもしなかった。
「逃げてくださいッ!」
「え?」
どうするか思案していたところで壊れた鉄格子から出てきた少女が声を張り上げた。
「あれはイレギュラー個体特有の進化と呼ばれる現象ですっ。ベテランの冒険者でも勝てるかどうか」
「でも、僕が逃げたらあなたが助からない」
「私はもう良いんです。帰る家もありません。だからあなただけでも逃げてください」
「いいえ、逃げるわけにはいきません。まだ勝機は失われていない」
「えっ⁉ あ、あれに勝てる見込みがあるっていうんですか⁉ 間違いなくベータ、いえ、アルファランク案件ですっ。たった1人で勝てる相手じゃありませんっ」
アルファランク。冒険者の依頼難易度を表す記号だ。貴族のランクと同じ呼び方のはず。そしてアルファはオメガに次ぐ準最高難易度だ。
「そうですね。普通ならそうです。だからこそです」
まだできる事はある。それをせずに逃げ出すなんて出来るわけない。
「そんな……見ず知らずの私の為に、どうしてそこまで」
「僕も同じだからです。僕にも、もう帰る家はありません。それに、ここであなたを見捨てたら、明日の僕は誇りを持って生きていけないっ!」
無茶なことを言っている自覚はある。これから使う奥の手を使ったとして、果たして絶対に勝てる保証はない。
先ほどまでとは条件がまるで違うんだ。敵はまさしく死力を尽くして僕を殺しに掛かってくるだろう。しかも遙かにパワーアップした状態で。
彼女の言うとおり、ここは撤退が賢明な選択だ。逃げ切れる保証はないけど、彼女を囮に使えば、食い殺されている間に加速を使って逃げ切れるかもしれない。
だけど、だけど――
「母上の墓前に花を添えるまで、僕は胸を張って生き抜いていきたいっ!」
そしてミレイユを初めとした慕ってくれるメイド達に再会した自分が、助けようとした女の子を見殺しにした自分であってはならない。
「あなたは……」
「僕はセージ。ただのセージです。あなたは必ず助けます。そこで見ていてください」
まだやれることはある。【ためる】ですべての項目を/500にまで上昇させ、魔素ストックを注ぎ込んだ。
そして更に――
「周辺のフォレストウルフの魔石、ドロップアイテム、および手持ちの魔石、ストレージのアイテムを全て魔素ストックに変換っ」
『周辺にドロップしたフォレストウルフの魔石、及びアイテムの全てを魔素ストックに変換します。全てのストレージアイテムを魔素ストックに変換。大量変換ボーナスにより+50%増量します。合計960000を魔素ストックにプラスします』
思ったとおり。デビルグリズリーやブラッククロコダイルクラスの経験値を持ったフォレストウルフならドロップアイテムもかなりのレアもの。
大量の魔素に変換することができた。
――――
魔素ストック 820354→1780354
――――
「全ての魔素ストックをレベルアップに【放つ】。限界までレベルを上げろ」
『最大値まで魔素ストックをレベルアップに使用します。レベルが28から40にアップしました』
『レベルアップに大量の魔素ストックを使用しました。ボーナスポイントとしてレベルを45にアップします。残り魔素ストック200106』
『新たな能力を獲得しました。魔素ストック100000消費で全ての【ためる】を/1000まで上昇可能にできます。魔素ストックを【放ち】ますか?』
「【放つ】。その後に全ての項目に【ためる】を使用。限界値まで魔素ストックを消費」
――――――
【セージ・タブリンス】→【セージ】
LV29→LV45 次のレベルまで378530
魔素ストック 94106
ストックしているもの
カウンターダメージ 500/1000
☆基本攻撃力 1000/1000
☆魔力値 1000/1000
☆治癒力 1000/1000
☆投擲 1000/1000
☆攻撃回数 1000/1000
☆加速 1000/1000
☆暗視 1000/1000
☆遠目 1000/1000
☆ストレージ 50㎥ 500項目
――――――
今できる全てのことをやり切る。
ミレイユからもらったショートソードの柄に力を込め、最大まで【ためた】全力の攻撃で相手を迎え撃つ。
『☆攻撃範囲を取得。使用武器の長さ×倍数で攻撃範囲がアップ』
新たな項目に更なる力を注ぎ込む。
これでダメなら諦めもつくだろう。
「どうやら相手の進化も完了したらしい」
巨体フォレストウルフは体に青白い炎を燃え上がらせ、寒気のするような熱量をこちらに叩き付けてくる。
凄まじいプレッシャーだ。本当にフォレストウルフなのだろうか?
体が燃えるフォレストウルフなんて聞いたことないぞ……。
『グルルルッ……ウオオオオオオオオオオオオンッ!!』
なんて考えている場合じゃない。
真っ赤に煌々と光り輝く魔眼を見開き、青白い炎は渦を巻きながら奴の体を覆う。
そして周りの草木を蒸発させながら猛烈な勢いで突進してきた。
「これが最後の勝負だっ! いくぞぉおおおおっ!!!!!」
裂帛の気合いと共にショートソードを構え、持てる力の全てを注ぎ込んで敵を迎え撃つ。
「ぐおおおおおっ」
突進してきたフォレストウルフを全力で防御。
凄まじい衝撃が全身の骨を軋ませた。
「ぐぅううっ! だが、耐えきったぞっ!」
『グアッ⁉』
渾身の必殺技を防がれ、フォレストウルフの体勢が大きく崩れる。
強力な攻撃の後には巨大な隙が生まれる。
戦いにおける絶対の法則だ。
「お腹の下を狙ってくださいっ! 弱点のコアがあります。そこを破壊すれば絶命させることができます!!」
少女の声が響く。瞬時に膝を屈伸させ、加速状態で前に飛び出す。
1000/1000のカウンターダメージが溜まった。
「激殺ッ! 両断ッ! 重ね斬りぃいいいいいっ」
スキルの二重発動。本来であれば不可能な所業。それもまた、【ためる】の恩恵であった。
全身の筋肉と神経が悲鳴を上げる。流石にこれだけのスキル全放出をすると肉体がついていかないみたいだ。
『グギャァアアアアアアアアアアアッ!』
45まで上がったレベルの身体能力+最大まで【ためる】を駆使した10倍の基本攻撃力+攻撃回数+攻撃範囲+重ね斬り+激殺両断。
重ね斬りと☆攻撃回数は重複しないが、硬いコアに入った斬撃に追い打ちで何度も衝撃を加える。
「ぐおおおおっ、だぁあああっ!!!!! ぁあああああああっ!!」
『ガッ……』
バキィイイイン
やがて振り抜いた剣閃が巨大フォレストウルフのコアを真っ直ぐに、真っ二つに斬り裂いた。
一拍遅れて光に包まれた体が大きく弾け、爆散するように消滅していった。
後に残されたのは、静寂……。
宵闇の街道で消えかけた焚き火の揺らめく音だけが鳴り響いていた。
「か、勝った……」
ギリギリだった。本当にギリギリだった。持っている全てを放出しなければ勝てなかった。
首の下のコアが弱点。それを知らなければ勝てなかっただろう。
ありとあらゆる全ての力を出し尽くし、戦いは幕を閉じた。
僕の意識は、そこで途切れていった。
46
あなたにおすすめの小説
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。
猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。
もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。
すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。
主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。
――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました――
風景が目まぐるしく移り変わる。
天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。
移り変わる景色こそは、
第一天 ヴィロン。
第二天 ラキア。
第三天 シャハクィム。
第四天 ゼブル。
第五天 マオン。
第六天 マコン。
それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。
気付けば明星は、玉座に座っていた。
そこは天の最高位。
第七天 アラボト。
そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。
――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。
異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜
昼寝部
ファンタジー
2XXX年、X月。
俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。
そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。
その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。
俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。
これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~
虎柄トラ
ファンタジー
下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。
意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。
女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。
敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。
剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。
一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。
快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる