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死力を尽くして
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『GUAAAAAAA!』
鉄格子に閉じ込められた少女達を救おうと気をとられていると、後ろから迫ってきた巨大な敵に気が付かなかった。
通常よりも数倍でかいフォレストウルフ。突然変異のような強化個体として恐れられる、通称『イレギュラー』と呼ばれる強敵だった。
「ふぅう……」
間違いなく強い。しかし絶望するほど圧倒的じゃない。
うぬぼれか? いや違う。今の僕なら十分に倒せる力がある。その確信がある。
イレギュラーから目線を外さないように鉄格子の入り口に立ち塞がり、持っていた鍵束を中に放り投げた。
「こいつは僕が引きつける。中からもう一度鍵をかけて籠城してください」
「え、で、でもっ」
「手下のウルフがまた集まってくるかもしれない。生身で外に出るのは危険なんだ、早く」
「わ、分かりました」
こんな鉄格子くらいなら簡単に食い破ってしまうだろうけど、生身で外に出るよりはよっぽど安全だ。
それに言ったとおり手下のフォレストウルフが再び集まってくるかもしれないから、鉄格子は砦代わりになってくれるはず。
(イレギュラーは基本的に個体の上位存在って話だった。あとは魔法を使う個体もいる)
カッと見開かれた魔眼から強烈な殺気が放たれる。
瞬間的に腕を交差して防御を固めると、一瞬後に体全部が吹き飛びそうな衝撃がやってくる。
「ぐぅうっ」
下手に避ければ後ろの女の子に当たってしまうから動く訳にはいかなった。
――――
カウンターダメージ 240/500
――――
強烈な一撃だ。一発で半分近くたまってしまった。
だけどまだまだ動けなくなったわけじゃない。
カウンターダメージは最大値までためた方が一発逆転になる。
「さあもっと来いッ。こっちだ化け物狼ッ」
『GUAAA!』
僕の言葉を理解しているのだろうか。怒りに目を見開いて回り込もうとする僕を追いかけてくる。
あの分厚い毛皮を通り抜けるためには最大威力の攻撃を叩き込むしかない。
(あれはっ、盗賊達の武器かっ)
強化された視覚に殺された盗賊達の武器が飛び込んできた。
ミレイユのショートソードだけではあの巨大な体に致命傷を与えられるかどうか分からない。
拾い上げた斧を構えて【加速】に魔素を注ぎ込む。
体が巨大な分だけ如何に素早くても動きが制限されるはずだ。
「足をっ、斬り飛ばすッ」
『GAUッ!』
「なにっ」
後ろから攻撃したのに飛び上がって避けられた。気配察知のスキルでも持ってるのか。
やっぱり一筋縄じゃいかない。動きが素早いなら攻撃範囲を広げる。
「重ね斬りッ!」
『ギャッ⁉』
当たりはしたがあまり効いている様子はない。
やっぱり最大倍率の攻撃力を使って一撃で仕留めるしかない。
カウンターダメージに基礎攻撃力/500の倍率を乗せればかなりの攻撃力が期待できる。
『GAUッ!』
「ぐっ!」
巨大な体でのし掛かって体当たりをしてくる。
魔力を帯びた突進が骨を軋ませ、直前に後ろに飛ばなければ致命傷になっていた。
――――
カウンターダメージ 500/500
――――
よしっ! やったことないけど最大倍率で攻撃すればっ。
カウンター攻撃で必中。更に基礎攻撃力/500で5倍の攻撃力。
重ね斬りで5回同時攻撃。
そして更に――
「激殺ッ! 両断ッ! たぁあああああっ!」
デビルグリズリーを一刀両断にした僕の最大威力の攻撃だ。
『GYAOOOOOOO』
拾い上げた盗賊のロングソードを握り絞め、首元に向かって振り下ろす。
剣による攻撃は当然ながら両手で振った方が遙かに強力になる。
『GUGAGAGAGAGAッ!』
「ぐっ、おおおおおおおおおおっ!!」
刃が食い込み、凄まじい抵抗が腕に負荷をかける。
(くそっ、振り抜けないッ)
バキンッ
ダメだ。攻撃力の高さに武器の強度がついていかない。
確実に首を捉えた攻撃だったが、肉に食い込んだ途中で折れてしまった。
僕のショートソードよりは強度が高いであろうロングソードでも倒しきれない。
『GUGA……グルルッ……』
だけどかなりのダメージを与えることができた。首の途中まで食い込んだ剣の刃の影響で呼吸がし辛そうだ。
如何に凶暴な魔物とはいえ、苦しませるのは心が痛む。早めにトドメを刺して戦いを終わらせよう。
相手がそんな余裕を与えてくれればの話だけど……。
落ちている武器は使い切ってしまった。もう一息だ。持っているショートソードを鞘から引き抜き、両手持ちに構える。
『グゥウウウウ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォオオンゥンンンッ!!』
「なんだっ⁉ うわぁああああああっ」
突如として巨大フォレストウルフから爆風が起こり、魔力の光が真っ直ぐ僕に向かって飛んでくる。
「ガハッ!!」
吹き飛ばされた僕の体は真後ろに向かって飛んで行く。激突したのは先ほどの鉄格子付きの幌であり、少女達の悲鳴が響き渡った。
「ゴホッ、くっ……」
『グァアアアアアッ、ウオオオオンッ!!』
「な、何が起こったんだ……」
体が光る巨大フォレストウルフの首に食い込ませていた刃がポロリと落ち、みるみる傷を回復させていく。
「傷が治っていく。アレは一体……」
まさか僕と同じレベルアップによる全快なのか。自分のギフトによる能力を他人が使えるなんて考えもしなかった。
「逃げてくださいッ!」
「え?」
どうするか思案していたところで壊れた鉄格子から出てきた少女が声を張り上げた。
「あれはイレギュラー個体特有の進化と呼ばれる現象ですっ。ベテランの冒険者でも勝てるかどうか」
「でも、僕が逃げたらあなたが助からない」
「私はもう良いんです。帰る家もありません。だからあなただけでも逃げてください」
「いいえ、逃げるわけにはいきません。まだ勝機は失われていない」
「えっ⁉ あ、あれに勝てる見込みがあるっていうんですか⁉ 間違いなくベータ、いえ、アルファランク案件ですっ。たった1人で勝てる相手じゃありませんっ」
アルファランク。冒険者の依頼難易度を表す記号だ。貴族のランクと同じ呼び方のはず。そしてアルファはオメガに次ぐ準最高難易度だ。
「そうですね。普通ならそうです。だからこそです」
まだできる事はある。それをせずに逃げ出すなんて出来るわけない。
「そんな……見ず知らずの私の為に、どうしてそこまで」
「僕も同じだからです。僕にも、もう帰る家はありません。それに、ここであなたを見捨てたら、明日の僕は誇りを持って生きていけないっ!」
無茶なことを言っている自覚はある。これから使う奥の手を使ったとして、果たして絶対に勝てる保証はない。
先ほどまでとは条件がまるで違うんだ。敵はまさしく死力を尽くして僕を殺しに掛かってくるだろう。しかも遙かにパワーアップした状態で。
彼女の言うとおり、ここは撤退が賢明な選択だ。逃げ切れる保証はないけど、彼女を囮に使えば、食い殺されている間に加速を使って逃げ切れるかもしれない。
だけど、だけど――
「母上の墓前に花を添えるまで、僕は胸を張って生き抜いていきたいっ!」
そしてミレイユを初めとした慕ってくれるメイド達に再会した自分が、助けようとした女の子を見殺しにした自分であってはならない。
「あなたは……」
「僕はセージ。ただのセージです。あなたは必ず助けます。そこで見ていてください」
まだやれることはある。【ためる】ですべての項目を/500にまで上昇させ、魔素ストックを注ぎ込んだ。
そして更に――
「周辺のフォレストウルフの魔石、ドロップアイテム、および手持ちの魔石、ストレージのアイテムを全て魔素ストックに変換っ」
『周辺にドロップしたフォレストウルフの魔石、及びアイテムの全てを魔素ストックに変換します。全てのストレージアイテムを魔素ストックに変換。大量変換ボーナスにより+50%増量します。合計960000を魔素ストックにプラスします』
思ったとおり。デビルグリズリーやブラッククロコダイルクラスの経験値を持ったフォレストウルフならドロップアイテムもかなりのレアもの。
大量の魔素に変換することができた。
――――
魔素ストック 820354→1780354
――――
「全ての魔素ストックをレベルアップに【放つ】。限界までレベルを上げろ」
『最大値まで魔素ストックをレベルアップに使用します。レベルが28から40にアップしました』
『レベルアップに大量の魔素ストックを使用しました。ボーナスポイントとしてレベルを45にアップします。残り魔素ストック200106』
『新たな能力を獲得しました。魔素ストック100000消費で全ての【ためる】を/1000まで上昇可能にできます。魔素ストックを【放ち】ますか?』
「【放つ】。その後に全ての項目に【ためる】を使用。限界値まで魔素ストックを消費」
――――――
【セージ・タブリンス】→【セージ】
LV29→LV45 次のレベルまで378530
魔素ストック 94106
ストックしているもの
カウンターダメージ 500/1000
☆基本攻撃力 1000/1000
☆魔力値 1000/1000
☆治癒力 1000/1000
☆投擲 1000/1000
☆攻撃回数 1000/1000
☆加速 1000/1000
☆暗視 1000/1000
☆遠目 1000/1000
☆ストレージ 50㎥ 500項目
――――――
今できる全てのことをやり切る。
ミレイユからもらったショートソードの柄に力を込め、最大まで【ためた】全力の攻撃で相手を迎え撃つ。
『☆攻撃範囲を取得。使用武器の長さ×倍数で攻撃範囲がアップ』
新たな項目に更なる力を注ぎ込む。
これでダメなら諦めもつくだろう。
「どうやら相手の進化も完了したらしい」
巨体フォレストウルフは体に青白い炎を燃え上がらせ、寒気のするような熱量をこちらに叩き付けてくる。
凄まじいプレッシャーだ。本当にフォレストウルフなのだろうか?
体が燃えるフォレストウルフなんて聞いたことないぞ……。
『グルルルッ……ウオオオオオオオオオオオオンッ!!』
なんて考えている場合じゃない。
真っ赤に煌々と光り輝く魔眼を見開き、青白い炎は渦を巻きながら奴の体を覆う。
そして周りの草木を蒸発させながら猛烈な勢いで突進してきた。
「これが最後の勝負だっ! いくぞぉおおおおっ!!!!!」
裂帛の気合いと共にショートソードを構え、持てる力の全てを注ぎ込んで敵を迎え撃つ。
「ぐおおおおおっ」
突進してきたフォレストウルフを全力で防御。
凄まじい衝撃が全身の骨を軋ませた。
「ぐぅううっ! だが、耐えきったぞっ!」
『グアッ⁉』
渾身の必殺技を防がれ、フォレストウルフの体勢が大きく崩れる。
強力な攻撃の後には巨大な隙が生まれる。
戦いにおける絶対の法則だ。
「お腹の下を狙ってくださいっ! 弱点のコアがあります。そこを破壊すれば絶命させることができます!!」
少女の声が響く。瞬時に膝を屈伸させ、加速状態で前に飛び出す。
1000/1000のカウンターダメージが溜まった。
「激殺ッ! 両断ッ! 重ね斬りぃいいいいいっ」
スキルの二重発動。本来であれば不可能な所業。それもまた、【ためる】の恩恵であった。
全身の筋肉と神経が悲鳴を上げる。流石にこれだけのスキル全放出をすると肉体がついていかないみたいだ。
『グギャァアアアアアアアアアアアッ!』
45まで上がったレベルの身体能力+最大まで【ためる】を駆使した10倍の基本攻撃力+攻撃回数+攻撃範囲+重ね斬り+激殺両断。
重ね斬りと☆攻撃回数は重複しないが、硬いコアに入った斬撃に追い打ちで何度も衝撃を加える。
「ぐおおおおっ、だぁあああっ!!!!! ぁあああああああっ!!」
『ガッ……』
バキィイイイン
やがて振り抜いた剣閃が巨大フォレストウルフのコアを真っ直ぐに、真っ二つに斬り裂いた。
一拍遅れて光に包まれた体が大きく弾け、爆散するように消滅していった。
後に残されたのは、静寂……。
宵闇の街道で消えかけた焚き火の揺らめく音だけが鳴り響いていた。
「か、勝った……」
ギリギリだった。本当にギリギリだった。持っている全てを放出しなければ勝てなかった。
首の下のコアが弱点。それを知らなければ勝てなかっただろう。
ありとあらゆる全ての力を出し尽くし、戦いは幕を閉じた。
僕の意識は、そこで途切れていった。
鉄格子に閉じ込められた少女達を救おうと気をとられていると、後ろから迫ってきた巨大な敵に気が付かなかった。
通常よりも数倍でかいフォレストウルフ。突然変異のような強化個体として恐れられる、通称『イレギュラー』と呼ばれる強敵だった。
「ふぅう……」
間違いなく強い。しかし絶望するほど圧倒的じゃない。
うぬぼれか? いや違う。今の僕なら十分に倒せる力がある。その確信がある。
イレギュラーから目線を外さないように鉄格子の入り口に立ち塞がり、持っていた鍵束を中に放り投げた。
「こいつは僕が引きつける。中からもう一度鍵をかけて籠城してください」
「え、で、でもっ」
「手下のウルフがまた集まってくるかもしれない。生身で外に出るのは危険なんだ、早く」
「わ、分かりました」
こんな鉄格子くらいなら簡単に食い破ってしまうだろうけど、生身で外に出るよりはよっぽど安全だ。
それに言ったとおり手下のフォレストウルフが再び集まってくるかもしれないから、鉄格子は砦代わりになってくれるはず。
(イレギュラーは基本的に個体の上位存在って話だった。あとは魔法を使う個体もいる)
カッと見開かれた魔眼から強烈な殺気が放たれる。
瞬間的に腕を交差して防御を固めると、一瞬後に体全部が吹き飛びそうな衝撃がやってくる。
「ぐぅうっ」
下手に避ければ後ろの女の子に当たってしまうから動く訳にはいかなった。
――――
カウンターダメージ 240/500
――――
強烈な一撃だ。一発で半分近くたまってしまった。
だけどまだまだ動けなくなったわけじゃない。
カウンターダメージは最大値までためた方が一発逆転になる。
「さあもっと来いッ。こっちだ化け物狼ッ」
『GUAAA!』
僕の言葉を理解しているのだろうか。怒りに目を見開いて回り込もうとする僕を追いかけてくる。
あの分厚い毛皮を通り抜けるためには最大威力の攻撃を叩き込むしかない。
(あれはっ、盗賊達の武器かっ)
強化された視覚に殺された盗賊達の武器が飛び込んできた。
ミレイユのショートソードだけではあの巨大な体に致命傷を与えられるかどうか分からない。
拾い上げた斧を構えて【加速】に魔素を注ぎ込む。
体が巨大な分だけ如何に素早くても動きが制限されるはずだ。
「足をっ、斬り飛ばすッ」
『GAUッ!』
「なにっ」
後ろから攻撃したのに飛び上がって避けられた。気配察知のスキルでも持ってるのか。
やっぱり一筋縄じゃいかない。動きが素早いなら攻撃範囲を広げる。
「重ね斬りッ!」
『ギャッ⁉』
当たりはしたがあまり効いている様子はない。
やっぱり最大倍率の攻撃力を使って一撃で仕留めるしかない。
カウンターダメージに基礎攻撃力/500の倍率を乗せればかなりの攻撃力が期待できる。
『GAUッ!』
「ぐっ!」
巨大な体でのし掛かって体当たりをしてくる。
魔力を帯びた突進が骨を軋ませ、直前に後ろに飛ばなければ致命傷になっていた。
――――
カウンターダメージ 500/500
――――
よしっ! やったことないけど最大倍率で攻撃すればっ。
カウンター攻撃で必中。更に基礎攻撃力/500で5倍の攻撃力。
重ね斬りで5回同時攻撃。
そして更に――
「激殺ッ! 両断ッ! たぁあああああっ!」
デビルグリズリーを一刀両断にした僕の最大威力の攻撃だ。
『GYAOOOOOOO』
拾い上げた盗賊のロングソードを握り絞め、首元に向かって振り下ろす。
剣による攻撃は当然ながら両手で振った方が遙かに強力になる。
『GUGAGAGAGAGAッ!』
「ぐっ、おおおおおおおおおおっ!!」
刃が食い込み、凄まじい抵抗が腕に負荷をかける。
(くそっ、振り抜けないッ)
バキンッ
ダメだ。攻撃力の高さに武器の強度がついていかない。
確実に首を捉えた攻撃だったが、肉に食い込んだ途中で折れてしまった。
僕のショートソードよりは強度が高いであろうロングソードでも倒しきれない。
『GUGA……グルルッ……』
だけどかなりのダメージを与えることができた。首の途中まで食い込んだ剣の刃の影響で呼吸がし辛そうだ。
如何に凶暴な魔物とはいえ、苦しませるのは心が痛む。早めにトドメを刺して戦いを終わらせよう。
相手がそんな余裕を与えてくれればの話だけど……。
落ちている武器は使い切ってしまった。もう一息だ。持っているショートソードを鞘から引き抜き、両手持ちに構える。
『グゥウウウウ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォオオンゥンンンッ!!』
「なんだっ⁉ うわぁああああああっ」
突如として巨大フォレストウルフから爆風が起こり、魔力の光が真っ直ぐ僕に向かって飛んでくる。
「ガハッ!!」
吹き飛ばされた僕の体は真後ろに向かって飛んで行く。激突したのは先ほどの鉄格子付きの幌であり、少女達の悲鳴が響き渡った。
「ゴホッ、くっ……」
『グァアアアアアッ、ウオオオオンッ!!』
「な、何が起こったんだ……」
体が光る巨大フォレストウルフの首に食い込ませていた刃がポロリと落ち、みるみる傷を回復させていく。
「傷が治っていく。アレは一体……」
まさか僕と同じレベルアップによる全快なのか。自分のギフトによる能力を他人が使えるなんて考えもしなかった。
「逃げてくださいッ!」
「え?」
どうするか思案していたところで壊れた鉄格子から出てきた少女が声を張り上げた。
「あれはイレギュラー個体特有の進化と呼ばれる現象ですっ。ベテランの冒険者でも勝てるかどうか」
「でも、僕が逃げたらあなたが助からない」
「私はもう良いんです。帰る家もありません。だからあなただけでも逃げてください」
「いいえ、逃げるわけにはいきません。まだ勝機は失われていない」
「えっ⁉ あ、あれに勝てる見込みがあるっていうんですか⁉ 間違いなくベータ、いえ、アルファランク案件ですっ。たった1人で勝てる相手じゃありませんっ」
アルファランク。冒険者の依頼難易度を表す記号だ。貴族のランクと同じ呼び方のはず。そしてアルファはオメガに次ぐ準最高難易度だ。
「そうですね。普通ならそうです。だからこそです」
まだできる事はある。それをせずに逃げ出すなんて出来るわけない。
「そんな……見ず知らずの私の為に、どうしてそこまで」
「僕も同じだからです。僕にも、もう帰る家はありません。それに、ここであなたを見捨てたら、明日の僕は誇りを持って生きていけないっ!」
無茶なことを言っている自覚はある。これから使う奥の手を使ったとして、果たして絶対に勝てる保証はない。
先ほどまでとは条件がまるで違うんだ。敵はまさしく死力を尽くして僕を殺しに掛かってくるだろう。しかも遙かにパワーアップした状態で。
彼女の言うとおり、ここは撤退が賢明な選択だ。逃げ切れる保証はないけど、彼女を囮に使えば、食い殺されている間に加速を使って逃げ切れるかもしれない。
だけど、だけど――
「母上の墓前に花を添えるまで、僕は胸を張って生き抜いていきたいっ!」
そしてミレイユを初めとした慕ってくれるメイド達に再会した自分が、助けようとした女の子を見殺しにした自分であってはならない。
「あなたは……」
「僕はセージ。ただのセージです。あなたは必ず助けます。そこで見ていてください」
まだやれることはある。【ためる】ですべての項目を/500にまで上昇させ、魔素ストックを注ぎ込んだ。
そして更に――
「周辺のフォレストウルフの魔石、ドロップアイテム、および手持ちの魔石、ストレージのアイテムを全て魔素ストックに変換っ」
『周辺にドロップしたフォレストウルフの魔石、及びアイテムの全てを魔素ストックに変換します。全てのストレージアイテムを魔素ストックに変換。大量変換ボーナスにより+50%増量します。合計960000を魔素ストックにプラスします』
思ったとおり。デビルグリズリーやブラッククロコダイルクラスの経験値を持ったフォレストウルフならドロップアイテムもかなりのレアもの。
大量の魔素に変換することができた。
――――
魔素ストック 820354→1780354
――――
「全ての魔素ストックをレベルアップに【放つ】。限界までレベルを上げろ」
『最大値まで魔素ストックをレベルアップに使用します。レベルが28から40にアップしました』
『レベルアップに大量の魔素ストックを使用しました。ボーナスポイントとしてレベルを45にアップします。残り魔素ストック200106』
『新たな能力を獲得しました。魔素ストック100000消費で全ての【ためる】を/1000まで上昇可能にできます。魔素ストックを【放ち】ますか?』
「【放つ】。その後に全ての項目に【ためる】を使用。限界値まで魔素ストックを消費」
――――――
【セージ・タブリンス】→【セージ】
LV29→LV45 次のレベルまで378530
魔素ストック 94106
ストックしているもの
カウンターダメージ 500/1000
☆基本攻撃力 1000/1000
☆魔力値 1000/1000
☆治癒力 1000/1000
☆投擲 1000/1000
☆攻撃回数 1000/1000
☆加速 1000/1000
☆暗視 1000/1000
☆遠目 1000/1000
☆ストレージ 50㎥ 500項目
――――――
今できる全てのことをやり切る。
ミレイユからもらったショートソードの柄に力を込め、最大まで【ためた】全力の攻撃で相手を迎え撃つ。
『☆攻撃範囲を取得。使用武器の長さ×倍数で攻撃範囲がアップ』
新たな項目に更なる力を注ぎ込む。
これでダメなら諦めもつくだろう。
「どうやら相手の進化も完了したらしい」
巨体フォレストウルフは体に青白い炎を燃え上がらせ、寒気のするような熱量をこちらに叩き付けてくる。
凄まじいプレッシャーだ。本当にフォレストウルフなのだろうか?
体が燃えるフォレストウルフなんて聞いたことないぞ……。
『グルルルッ……ウオオオオオオオオオオオオンッ!!』
なんて考えている場合じゃない。
真っ赤に煌々と光り輝く魔眼を見開き、青白い炎は渦を巻きながら奴の体を覆う。
そして周りの草木を蒸発させながら猛烈な勢いで突進してきた。
「これが最後の勝負だっ! いくぞぉおおおおっ!!!!!」
裂帛の気合いと共にショートソードを構え、持てる力の全てを注ぎ込んで敵を迎え撃つ。
「ぐおおおおおっ」
突進してきたフォレストウルフを全力で防御。
凄まじい衝撃が全身の骨を軋ませた。
「ぐぅううっ! だが、耐えきったぞっ!」
『グアッ⁉』
渾身の必殺技を防がれ、フォレストウルフの体勢が大きく崩れる。
強力な攻撃の後には巨大な隙が生まれる。
戦いにおける絶対の法則だ。
「お腹の下を狙ってくださいっ! 弱点のコアがあります。そこを破壊すれば絶命させることができます!!」
少女の声が響く。瞬時に膝を屈伸させ、加速状態で前に飛び出す。
1000/1000のカウンターダメージが溜まった。
「激殺ッ! 両断ッ! 重ね斬りぃいいいいいっ」
スキルの二重発動。本来であれば不可能な所業。それもまた、【ためる】の恩恵であった。
全身の筋肉と神経が悲鳴を上げる。流石にこれだけのスキル全放出をすると肉体がついていかないみたいだ。
『グギャァアアアアアアアアアアアッ!』
45まで上がったレベルの身体能力+最大まで【ためる】を駆使した10倍の基本攻撃力+攻撃回数+攻撃範囲+重ね斬り+激殺両断。
重ね斬りと☆攻撃回数は重複しないが、硬いコアに入った斬撃に追い打ちで何度も衝撃を加える。
「ぐおおおおっ、だぁあああっ!!!!! ぁあああああああっ!!」
『ガッ……』
バキィイイイン
やがて振り抜いた剣閃が巨大フォレストウルフのコアを真っ直ぐに、真っ二つに斬り裂いた。
一拍遅れて光に包まれた体が大きく弾け、爆散するように消滅していった。
後に残されたのは、静寂……。
宵闇の街道で消えかけた焚き火の揺らめく音だけが鳴り響いていた。
「か、勝った……」
ギリギリだった。本当にギリギリだった。持っている全てを放出しなければ勝てなかった。
首の下のコアが弱点。それを知らなければ勝てなかっただろう。
ありとあらゆる全ての力を出し尽くし、戦いは幕を閉じた。
僕の意識は、そこで途切れていった。
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最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
異世界複利! 【単行本1巻発売中】 ~日利1%で始める追放生活~
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『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる
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コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。
かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。
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