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11~20
躍進する2人と落ちぶれる前兆の4人
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「たぁあああっ! せいっ!」
「ぎょあああっ」
「ごぼあああっ」
「ぐえっ」
「がっ」
「ぎっ」
「ぐっ」
「げっ」
「ごっ!」
「おぼぉおおお」
【☆攻撃範囲】をためて槍を振る。
僕は戦い方の幅を広げるために武器工房で安めの武器を一通り譲ってもらう事にした。
トトルムさんは最高級品をお持ちくださいと言ってくれたが、さすがに悪いので安い武器にしておいた。
だけどさすがは大手商会の傘下にある工房だけあって、安くても品質は非常に高い。
まずは扇状に広がって襲い掛かってきた10体近いオークとパイロサーペントの群に槍の薙ぎ払いを見舞ったところだった。
「す、凄い……オークにパイロサーペントを一気に10体も⁉ い、今のどうやったの?」
「攻撃範囲を【ためて】伸ばしたんだ」
「範囲を……ためる?」
「うん。僕のギフト【ためて・放つ】の能力だよ。一段階ためるごとに武器1本分の攻撃範囲が伸びるんだ。愛用のショートソードよりも、やっぱり槍の方が効果的に使えるね」
「す、すごいわね……。他にもためられるものはあるの?」
「そうだね、いまのところ【基礎攻撃力】【魔力値】【治癒力】【投擲】【攻撃回数】【加速】【攻撃範囲】【暗視】【遠目】かな」
「ええええっ、そ、そんなに⁉」
「うん。あとは、【ストレージ】」
ストレージを開いてドロップアイテムをしまっていく。
拾い集めるのは大変だけど、死体を持って帰るよりはかなり楽なので贅沢は言えないな。
「そういえば気になってたんだけど、それってアイテムボックスよね? え? 【ためて・放つ】がギフトじゃなかったの? 魔法鞄を持ってるようには見えないし」
「亜空間にアイテムを【ためて】おけるんだ。ストレージって言葉の意味はよく分からないけど、アイテムボックスとは根本的に仕組みが違うみたいだね。種類ごとに個別の倉庫がある感じ」
「ふええ……。凄い便利ね。これならドロップ率が悪くても……あ、そうだわ。意図的に死体を残すことはできないかしら? いくらトトルムさんが隠してくれても、死体の一つも納品しないんじゃいつか怪しまれるかもしれないし」
「そっか。確かに魔石ばかり納品すると不自然だよね。よし、次は死体が残せないか実験してみるよ。とりあえず今日はリンカが倒してくれたリザードマンを納品しようか」
「そうね。運良く二体魔石になってくれたわ。ドロップアイテムの【深緑の鱗】は買い取り価格が良いからラッキーね。……あれ? そういえばさっきのオークのドロップは?」
「それは全部魔素ストックに変換してある。オークやゴブリンのドロップってポーション以外は臭くてさ」
「そうね……ところで魔素ストックって?」
僕はそれからモンスターを倒しながら自分の能力を解説していった。
一つ一つの項目がベテラン冒険者の目線で見ても常識外れにもほどがあるとのことだ。
◇◇◇
「今日でギフトの常識が総崩れになったわ」
「あはは、僕も驚いてばかりだよ」
「ふう、ちょっと驚き疲れちゃったわ。そろそろお昼御飯にしましょ」
「そうだね。あ、そうだ。ストレージは外の影響を受けないみたいなんだ。屋台で買ったものを保管しておいたよ」
なんだかよく分からないけど、入れた状態で時間が止まるらしいので、焼きたての肉串をそのまま入れてある。
「え、そんなこともできるの?」
「うん。さっき出発前にいくつか買っておいたから」
ストレージから串焼きを4本取り出し、2本をリンカに渡す。
「すごい。焼きたての熱々ね。私もスープ用意してきたから、よかったら付け合わせで食べて」
リンカが背負っている鞄からスープ用の水筒を取り出して注いでくれた。
「ホントに? うわぁ、良い香りだね。もしかしてフラムシープのミートスープ?」
「へえ、よく分かったわね」
「独特の香りが特徴だからね。羊肉の旨味がスープに溶け出して美味しいんだよね」
フラムシープは牧畜用に飼われている一般的な羊の一種だ。ムクムクの毛は一年に1度刈り取られて衣服や糸の材料になるし、乳搾りをすれば香り高いミルクが出る。
肉質は柔らかくて食べやすいけど香りが強く、独特の癖があるので料理で使うにはコツがいるらしい。
お屋敷にいる頃にミレイユから教えてもらった料理知識によれば、フラムシープをどれだけ扱えるかで料理の腕が分かる、とまで言わしめるほどだ。
ちなみにフラムシープは外敵に対して炎魔法を纏った突進で反撃するので、オオカミなどの外敵からは狙われにくいという農家にとっては有り難い生態を持っている。
だから一般農家の牧畜にはうってつけの生き物なんだ。敵意がない相手には基本的に大人しい草食動物なので、非常に飼いやすい。
「臭み抜きが凄く難しくて作るのにコツがいるって話だけど」
「実はフラムシープのミルクにひと晩漬け込んで塩で揉むと臭みが抜けるんだ」
「へえ、それは知らなかったな。僕の屋敷ではお酒を使ってにおい抜きをしてたみたいだけど」
「私はお母さんに教えてもらったのを長年練習した感じかな。純白の剣にいた頃は文句ばかり言われたから、必死に練習したの」
「ズズ……うん、肉の出汁が染み出してて美味しい。サイコロ状になったシープ肉が良い食感を生み出してて、お弁当のパンと相性抜群だよ。これってリンカが作ってくれたの?」
「そうだよ。セージ君が起きてくる前に宿屋の厨房を借りたの」
「へえ。純白の剣は毎日こんなスープが飲めたんだね。僕が訓練で野営をした時は薄くてマズいスープにカチカチのパンしか支給されなかったからなぁ」
今思えば、あれはマハルが僕に嫌がらせをしていたからだろう。
ミレイユが内緒で持たせてくれたフラムシープの干し肉を密かにスープに溶かして出汁を取らなかったら、マズい食事ばかりだった。
「こんなので良かったら毎日作ってあげる」
「とっても美味しい。冒険の時にこれがあれば元気が出るよ。……あ、そうだ。僕のストレージ、多分リンカも使えるよ」
「え? ホントに?」
「うん。実は言いそびれてたんだけど」
僕はフィーリングリンクについての話をリンカに話して聞かせた。
これがどういうものなのかまだ分からないけど、恐らく僕という人間を信用してくれている人に共有できるんだろう。
「ストレージって念じてみてくれる?」
「う、うん。やってみるね。えっと、【ストレージ】。わわっ、開いたっ」
「そこに入れたいものを放り込んでおくと念じるだけで取り出せるんだ。考えたんだけど、矢のストックを入れておいたらどうかな」
「そうね。背中の矢束から取り出す動作を短縮すれば、更に素早く攻撃できるわ。体の癖を直すのがちょっと大変だけど」
確かに。あれだけ洗練された動きをするには途轍もない反復行動で体に染みこませてきた筈だ。
無意識に背中の矢束に手が伸びる事もあるだろう。
「それなら背中にストレージの入り口を意識してみたらどうかな」
「あ、なるほど。体のクセを直すよりは簡単そうね」
「いっその事、矢をつがえる動作をするときにストレージを開くように練習するのもいいかもしれない」
「どういうこと?」
「ちょっと弓を借りていい?」
借りた弓の弦を握り、ストレージから矢を直接つがえるようにイメージしてみる。
すると弦を握った瞬間に矢が現われ、引き絞ることができた。
「なるほど。攻撃回数を稼ぐにはうってつけの方法ね。ストレージってどのくらいものが入るの?」
「実はそれを示す記号は現われてるんだけど、意味がよく分からないんだ。とりあえず飲み水用に川の水を取り込んだんだけど、かなりの量をストックできたよ」
「水筒もなしに川の水をそのまま入れたの? 水浸しにならない?」
「さっきも言ったけど種類ごとに分けて保管されるみたいなんだ。こんな感じで」
ストレージからストックした川の水を一部取り出してみる。その横でさっきストックしたドロップアイテムを取り出してみせた。
清流で汲んだ透明な水がジャバジャバと流れ出して地面に水飛沫を上げた。
「凄いわね。もうなんでも有りね。正直助かるわ。魔物の素材って魔法鞄に入れても中身グチャグチャになっちゃうことあるから」
「実際まだまだ出来ることは増えていくと思う。僕が気が付いていない使い方があるかもしれないしね。だから思いついたことはドンドン試してみたいんだ。何か思いついたら意見がほしい」
「うん、分かった。ところでさ、その水ってちょっと勢いが強すぎない? なんだか川の流れからそのまま出てきたように見えるけど」
確かに水を垂直に落としたにしては勢いが強かった。
「……あっ、もしかして」
「どうしたのリンカ?」
「ちょっと試してみたいことがあるの。午後の戦いは遠距離攻撃を中心にやってみない?」
「分かった。楽しみにしておくよ」
それから僕たちは談話を交えた情報共有を行ない、非常に有意義な昼食を楽しんだ。
◇◇◇
【sideシェリル】
「もうガマンならねぇっ! 俺はパーティーを抜けさせてもらうっ!」
「そんなにカリカリしないでよグレン」
「お前らバカかっ! どんだけあの女に雑用押し付けてきたんだよ。今日俺に要求したこと、全部あの女がやってたんだろ?」
新人のグレンがみっともなく癇癪を起こしていた。
討伐にいったフォレストウルフは見つからず、パイロサーペント如きに遅れをとり、私達は仕方なく重たい蛇をその場で切り分けて魔法鞄に入れて帰ってきた。
あの目障りなキツネ女を売り払ったお金で奮発したブランドもののアイテムボックス。
容量もさることながら、中の亜空間に仕切りがついていて物が分けて収納できるのが素晴らしかった。
だというのに、ベガルトがロクに血抜きもせずにサーペントを放り込むものだから、中で血と肉が飛び散りお気に入りの化粧ボックスが血まみれになってしまった。
そのことで文句をいったら切り分けたのはグレンだという。
今までこんな事は一度もなかった。そういえば、戦闘後の解体は主にあのキツネ女がやっていたんだったわ。
ハーカルとベガルトが適当にバラした死体を丁寧に部位ごとに切り分けて、保存用の植物の葉にくるんでいた。
グレンはそのくらいの準備すら思いついていなかったようだ。
いつもはそのまま荷車の死体ごと乗せて解体屋に持ち込んでいたらしい。
まさかあの女以上の無能がいるなんて思わなかったわよ。これならアイツの方が何倍もマシだわ。
まあ、だけどもう売り払ってしまった後だし、そのお金がなかったら魔法鞄も買えなかったから今更だけど。
「ともかく俺はこれ以上雑用を押し付けられるのはゴメンだ。テメェらの我が儘にはこれ以上付き合いきれねえよ。あの女が気の毒になってきたぜ。こんなバカ共のパーティーにいなかったらとっくにベータクラスになってたろうにな」
そう言ってグレンは立ち去ってしまった。私はどうとも思わないけど、文句ばかりでまるで使えない男にうんざりだわ。
「今度はもっとホネのある男を連れて来てよね」
「おいシェリル、何処へ行く」
「気分悪いから1人で飲み直してくるわ。後の事はよろしくね」
「ちょっと待ておいっ。まだ換金の手続きが終わってないんだぞ」
「あんた達でやっておいてよ。私は疲れてるの」
私はそれだけ言うとギャンギャン騒ぐ2人を置いてギルドを出た。
実はキツネ女を売り払った時に得たお金の半分以上は私の懐に入れてある。
だって当然だと思わない? 男に比べて女は体の手入れにお金が掛かるし、私はパーティーの中で攻撃、回復、補助と役割も多い。
無能な斥候や力任せの重戦士、命令ばかりの顔だけ男とは貢献度も重要度もまるで違うのだから。
「今日は西の繁華街の方まで足を伸ばしてみるか……」
このところ顔が売れてきて酒場でナンパされることが多くなってきた。
初めは気分が良かったけど、冒険者は下品な男が多くて最近はうんざりしていた所だ。
金持ちが多い中央の繁華街まで足を伸ばそう。
私は正直言っていつまでも冒険者でいる気はない。命懸けの仕事だし、良い男はいない。
名前を売って、若くて美しいうちに貴族や金持ちの商人に見初められて一生安楽に暮らすんだ。
ハーカルも顔はいいけどそれだけだし。最近夜の方も雑になってきて飽きてきた。
ベガルトも中々良い持ち物してるから体の相性はいいけど、性格が終わってるから男としては論外も論外。
それに……。
「私を無視してキツネに手を出そうとしやがって」
最近の二人は私じゃなくてあのキツネ女の方に色目を使ってて気に食わなかったんだ。
私の下僕共のくせに、他の女に行こうとするなんて生意気なのよね。
だからあの女狐を排除してやったんだ。あの女もこの私のサイフを潤すお金になれるんだから本望でしょうよ。
「ふぅ……。ああ、やっぱりお酒は高級品に限るわ。ギルドの酒場の安酒じゃ悪酔いしちゃうものね」
上位層の人達が集まる高級なバーでグラスを片手に黄昏れる。
体に染み渡っていくお酒の香りがクソ共に対するイラつきを癒やしてくれた。
明日からもバカ共と一緒に冒険しなきゃいけないかと思うとうんざりするが、これも私が金持ちになるまでのガマンだ。
だけどこの日以降、私は美味しいお酒が飲める状況ではなくなっていく事になる。
「ぎょあああっ」
「ごぼあああっ」
「ぐえっ」
「がっ」
「ぎっ」
「ぐっ」
「げっ」
「ごっ!」
「おぼぉおおお」
【☆攻撃範囲】をためて槍を振る。
僕は戦い方の幅を広げるために武器工房で安めの武器を一通り譲ってもらう事にした。
トトルムさんは最高級品をお持ちくださいと言ってくれたが、さすがに悪いので安い武器にしておいた。
だけどさすがは大手商会の傘下にある工房だけあって、安くても品質は非常に高い。
まずは扇状に広がって襲い掛かってきた10体近いオークとパイロサーペントの群に槍の薙ぎ払いを見舞ったところだった。
「す、凄い……オークにパイロサーペントを一気に10体も⁉ い、今のどうやったの?」
「攻撃範囲を【ためて】伸ばしたんだ」
「範囲を……ためる?」
「うん。僕のギフト【ためて・放つ】の能力だよ。一段階ためるごとに武器1本分の攻撃範囲が伸びるんだ。愛用のショートソードよりも、やっぱり槍の方が効果的に使えるね」
「す、すごいわね……。他にもためられるものはあるの?」
「そうだね、いまのところ【基礎攻撃力】【魔力値】【治癒力】【投擲】【攻撃回数】【加速】【攻撃範囲】【暗視】【遠目】かな」
「ええええっ、そ、そんなに⁉」
「うん。あとは、【ストレージ】」
ストレージを開いてドロップアイテムをしまっていく。
拾い集めるのは大変だけど、死体を持って帰るよりはかなり楽なので贅沢は言えないな。
「そういえば気になってたんだけど、それってアイテムボックスよね? え? 【ためて・放つ】がギフトじゃなかったの? 魔法鞄を持ってるようには見えないし」
「亜空間にアイテムを【ためて】おけるんだ。ストレージって言葉の意味はよく分からないけど、アイテムボックスとは根本的に仕組みが違うみたいだね。種類ごとに個別の倉庫がある感じ」
「ふええ……。凄い便利ね。これならドロップ率が悪くても……あ、そうだわ。意図的に死体を残すことはできないかしら? いくらトトルムさんが隠してくれても、死体の一つも納品しないんじゃいつか怪しまれるかもしれないし」
「そっか。確かに魔石ばかり納品すると不自然だよね。よし、次は死体が残せないか実験してみるよ。とりあえず今日はリンカが倒してくれたリザードマンを納品しようか」
「そうね。運良く二体魔石になってくれたわ。ドロップアイテムの【深緑の鱗】は買い取り価格が良いからラッキーね。……あれ? そういえばさっきのオークのドロップは?」
「それは全部魔素ストックに変換してある。オークやゴブリンのドロップってポーション以外は臭くてさ」
「そうね……ところで魔素ストックって?」
僕はそれからモンスターを倒しながら自分の能力を解説していった。
一つ一つの項目がベテラン冒険者の目線で見ても常識外れにもほどがあるとのことだ。
◇◇◇
「今日でギフトの常識が総崩れになったわ」
「あはは、僕も驚いてばかりだよ」
「ふう、ちょっと驚き疲れちゃったわ。そろそろお昼御飯にしましょ」
「そうだね。あ、そうだ。ストレージは外の影響を受けないみたいなんだ。屋台で買ったものを保管しておいたよ」
なんだかよく分からないけど、入れた状態で時間が止まるらしいので、焼きたての肉串をそのまま入れてある。
「え、そんなこともできるの?」
「うん。さっき出発前にいくつか買っておいたから」
ストレージから串焼きを4本取り出し、2本をリンカに渡す。
「すごい。焼きたての熱々ね。私もスープ用意してきたから、よかったら付け合わせで食べて」
リンカが背負っている鞄からスープ用の水筒を取り出して注いでくれた。
「ホントに? うわぁ、良い香りだね。もしかしてフラムシープのミートスープ?」
「へえ、よく分かったわね」
「独特の香りが特徴だからね。羊肉の旨味がスープに溶け出して美味しいんだよね」
フラムシープは牧畜用に飼われている一般的な羊の一種だ。ムクムクの毛は一年に1度刈り取られて衣服や糸の材料になるし、乳搾りをすれば香り高いミルクが出る。
肉質は柔らかくて食べやすいけど香りが強く、独特の癖があるので料理で使うにはコツがいるらしい。
お屋敷にいる頃にミレイユから教えてもらった料理知識によれば、フラムシープをどれだけ扱えるかで料理の腕が分かる、とまで言わしめるほどだ。
ちなみにフラムシープは外敵に対して炎魔法を纏った突進で反撃するので、オオカミなどの外敵からは狙われにくいという農家にとっては有り難い生態を持っている。
だから一般農家の牧畜にはうってつけの生き物なんだ。敵意がない相手には基本的に大人しい草食動物なので、非常に飼いやすい。
「臭み抜きが凄く難しくて作るのにコツがいるって話だけど」
「実はフラムシープのミルクにひと晩漬け込んで塩で揉むと臭みが抜けるんだ」
「へえ、それは知らなかったな。僕の屋敷ではお酒を使ってにおい抜きをしてたみたいだけど」
「私はお母さんに教えてもらったのを長年練習した感じかな。純白の剣にいた頃は文句ばかり言われたから、必死に練習したの」
「ズズ……うん、肉の出汁が染み出してて美味しい。サイコロ状になったシープ肉が良い食感を生み出してて、お弁当のパンと相性抜群だよ。これってリンカが作ってくれたの?」
「そうだよ。セージ君が起きてくる前に宿屋の厨房を借りたの」
「へえ。純白の剣は毎日こんなスープが飲めたんだね。僕が訓練で野営をした時は薄くてマズいスープにカチカチのパンしか支給されなかったからなぁ」
今思えば、あれはマハルが僕に嫌がらせをしていたからだろう。
ミレイユが内緒で持たせてくれたフラムシープの干し肉を密かにスープに溶かして出汁を取らなかったら、マズい食事ばかりだった。
「こんなので良かったら毎日作ってあげる」
「とっても美味しい。冒険の時にこれがあれば元気が出るよ。……あ、そうだ。僕のストレージ、多分リンカも使えるよ」
「え? ホントに?」
「うん。実は言いそびれてたんだけど」
僕はフィーリングリンクについての話をリンカに話して聞かせた。
これがどういうものなのかまだ分からないけど、恐らく僕という人間を信用してくれている人に共有できるんだろう。
「ストレージって念じてみてくれる?」
「う、うん。やってみるね。えっと、【ストレージ】。わわっ、開いたっ」
「そこに入れたいものを放り込んでおくと念じるだけで取り出せるんだ。考えたんだけど、矢のストックを入れておいたらどうかな」
「そうね。背中の矢束から取り出す動作を短縮すれば、更に素早く攻撃できるわ。体の癖を直すのがちょっと大変だけど」
確かに。あれだけ洗練された動きをするには途轍もない反復行動で体に染みこませてきた筈だ。
無意識に背中の矢束に手が伸びる事もあるだろう。
「それなら背中にストレージの入り口を意識してみたらどうかな」
「あ、なるほど。体のクセを直すよりは簡単そうね」
「いっその事、矢をつがえる動作をするときにストレージを開くように練習するのもいいかもしれない」
「どういうこと?」
「ちょっと弓を借りていい?」
借りた弓の弦を握り、ストレージから矢を直接つがえるようにイメージしてみる。
すると弦を握った瞬間に矢が現われ、引き絞ることができた。
「なるほど。攻撃回数を稼ぐにはうってつけの方法ね。ストレージってどのくらいものが入るの?」
「実はそれを示す記号は現われてるんだけど、意味がよく分からないんだ。とりあえず飲み水用に川の水を取り込んだんだけど、かなりの量をストックできたよ」
「水筒もなしに川の水をそのまま入れたの? 水浸しにならない?」
「さっきも言ったけど種類ごとに分けて保管されるみたいなんだ。こんな感じで」
ストレージからストックした川の水を一部取り出してみる。その横でさっきストックしたドロップアイテムを取り出してみせた。
清流で汲んだ透明な水がジャバジャバと流れ出して地面に水飛沫を上げた。
「凄いわね。もうなんでも有りね。正直助かるわ。魔物の素材って魔法鞄に入れても中身グチャグチャになっちゃうことあるから」
「実際まだまだ出来ることは増えていくと思う。僕が気が付いていない使い方があるかもしれないしね。だから思いついたことはドンドン試してみたいんだ。何か思いついたら意見がほしい」
「うん、分かった。ところでさ、その水ってちょっと勢いが強すぎない? なんだか川の流れからそのまま出てきたように見えるけど」
確かに水を垂直に落としたにしては勢いが強かった。
「……あっ、もしかして」
「どうしたのリンカ?」
「ちょっと試してみたいことがあるの。午後の戦いは遠距離攻撃を中心にやってみない?」
「分かった。楽しみにしておくよ」
それから僕たちは談話を交えた情報共有を行ない、非常に有意義な昼食を楽しんだ。
◇◇◇
【sideシェリル】
「もうガマンならねぇっ! 俺はパーティーを抜けさせてもらうっ!」
「そんなにカリカリしないでよグレン」
「お前らバカかっ! どんだけあの女に雑用押し付けてきたんだよ。今日俺に要求したこと、全部あの女がやってたんだろ?」
新人のグレンがみっともなく癇癪を起こしていた。
討伐にいったフォレストウルフは見つからず、パイロサーペント如きに遅れをとり、私達は仕方なく重たい蛇をその場で切り分けて魔法鞄に入れて帰ってきた。
あの目障りなキツネ女を売り払ったお金で奮発したブランドもののアイテムボックス。
容量もさることながら、中の亜空間に仕切りがついていて物が分けて収納できるのが素晴らしかった。
だというのに、ベガルトがロクに血抜きもせずにサーペントを放り込むものだから、中で血と肉が飛び散りお気に入りの化粧ボックスが血まみれになってしまった。
そのことで文句をいったら切り分けたのはグレンだという。
今までこんな事は一度もなかった。そういえば、戦闘後の解体は主にあのキツネ女がやっていたんだったわ。
ハーカルとベガルトが適当にバラした死体を丁寧に部位ごとに切り分けて、保存用の植物の葉にくるんでいた。
グレンはそのくらいの準備すら思いついていなかったようだ。
いつもはそのまま荷車の死体ごと乗せて解体屋に持ち込んでいたらしい。
まさかあの女以上の無能がいるなんて思わなかったわよ。これならアイツの方が何倍もマシだわ。
まあ、だけどもう売り払ってしまった後だし、そのお金がなかったら魔法鞄も買えなかったから今更だけど。
「ともかく俺はこれ以上雑用を押し付けられるのはゴメンだ。テメェらの我が儘にはこれ以上付き合いきれねえよ。あの女が気の毒になってきたぜ。こんなバカ共のパーティーにいなかったらとっくにベータクラスになってたろうにな」
そう言ってグレンは立ち去ってしまった。私はどうとも思わないけど、文句ばかりでまるで使えない男にうんざりだわ。
「今度はもっとホネのある男を連れて来てよね」
「おいシェリル、何処へ行く」
「気分悪いから1人で飲み直してくるわ。後の事はよろしくね」
「ちょっと待ておいっ。まだ換金の手続きが終わってないんだぞ」
「あんた達でやっておいてよ。私は疲れてるの」
私はそれだけ言うとギャンギャン騒ぐ2人を置いてギルドを出た。
実はキツネ女を売り払った時に得たお金の半分以上は私の懐に入れてある。
だって当然だと思わない? 男に比べて女は体の手入れにお金が掛かるし、私はパーティーの中で攻撃、回復、補助と役割も多い。
無能な斥候や力任せの重戦士、命令ばかりの顔だけ男とは貢献度も重要度もまるで違うのだから。
「今日は西の繁華街の方まで足を伸ばしてみるか……」
このところ顔が売れてきて酒場でナンパされることが多くなってきた。
初めは気分が良かったけど、冒険者は下品な男が多くて最近はうんざりしていた所だ。
金持ちが多い中央の繁華街まで足を伸ばそう。
私は正直言っていつまでも冒険者でいる気はない。命懸けの仕事だし、良い男はいない。
名前を売って、若くて美しいうちに貴族や金持ちの商人に見初められて一生安楽に暮らすんだ。
ハーカルも顔はいいけどそれだけだし。最近夜の方も雑になってきて飽きてきた。
ベガルトも中々良い持ち物してるから体の相性はいいけど、性格が終わってるから男としては論外も論外。
それに……。
「私を無視してキツネに手を出そうとしやがって」
最近の二人は私じゃなくてあのキツネ女の方に色目を使ってて気に食わなかったんだ。
私の下僕共のくせに、他の女に行こうとするなんて生意気なのよね。
だからあの女狐を排除してやったんだ。あの女もこの私のサイフを潤すお金になれるんだから本望でしょうよ。
「ふぅ……。ああ、やっぱりお酒は高級品に限るわ。ギルドの酒場の安酒じゃ悪酔いしちゃうものね」
上位層の人達が集まる高級なバーでグラスを片手に黄昏れる。
体に染み渡っていくお酒の香りがクソ共に対するイラつきを癒やしてくれた。
明日からもバカ共と一緒に冒険しなきゃいけないかと思うとうんざりするが、これも私が金持ちになるまでのガマンだ。
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最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
異世界複利! 【単行本1巻発売中】 ~日利1%で始める追放生活~
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クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。
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『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる
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