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隷属の首輪
しおりを挟む「まさか、魔族ッ⁉」
「魔族の少女を奴隷にしていたのかっ。闇取引で手に入れたなっ」
魔族。
それは魔の森の更に南。辺境の奥地の更に奥へと進んでいった魔境に潜む希少な種族。
遙か昔に数を激減させたその種族は、魔力というものを操るのに特化した希有な一族として世界中で畏怖されていた。
「う、動けないでござるっ」
その場にいる純白の剣以外の全員が何かに押し潰されたように地面に突っ伏した。
突然地面が光り出し、幾何学模様が魔法陣を描いて広がっていく。
彼女の瞳には同じ模様の魔法陣が展開され、紫色の魔力が不気味に光を帯びて僕たちを包み込む。
魔族は特殊な魔術を発動できること以外は普通の人間と見た目が変わらない。文明社会とは滅多に関わりを持たないので謎が多い種族でもある。
まさかとは思っていたが、闇取引で奴隷を手に入れていたのは間違いなさそうだ。
「くはははははっ! オメガランクも魔族の大規模結界に掛かれば形無しだなっ。このままボスになぶり殺しにされちまえっ。さてと……」
「ぐへへへ。さーて、どいつにしようかなぁ。やっぱり胸のでけぇ女がいいぜ」
「いやっ、いやぁあ、触らないでよ変態ッ!」
ベガルトが下衆な笑みを浮かべて女性冒険者を物色し始める。
嫌悪感に歪んだ女性達が好色的な視線を向ける男を睨み付けた。
特にオメガチームのフェンネルさんとシズカさんは射殺すような凄まじい殺気を放っている。
動けない事をいい事に体を撫で回し、衣服を脱がそうとしているではないか。
「下衆野郎が……」
「ベガルト、当初の目的を忘れるな」
「分かってるよ」
ハーカルの手に持っている物を見て冷や汗が流れる。
(あれは……まさか)
「貴様、それはまさか奴隷の首輪っ。どうして奴隷商でもない貴様がそれを持っているんだ」
アテンさんの言うとおり、奴隷の首輪は国から認可の下りた奴隷商しか持つことを許されない。
「ははは、こいつはただの奴隷の首輪じゃない。隷属の首輪だよ」
「れ、隷属の首輪だとっ⁉ き、貴様、禁忌に触れたな。禁呪のアイテムをどこから手に入れたっ」
やはり非合法の闇奴隷商から手に入れたな。
邪悪な笑いを浮かべる3人はジリジリと1人のもとへ近づいていく。
「リ、リン……」
「くっははは。まさかそれで正体を隠してるつもりだったのか説教女ぁ」
「ハ、ハーカル……。わ、私の正体を」
「最初は全然分からなかったけどね。俺達の故郷のスープを出したのは迂闊だったな」
「あなた料理の腕だけは良かったからねぇ~。私達にだけ見せないように気を付けていたみたいだけどぉ。匂いで分かっちゃうのよね」
(しまった……僕のせいだ)
リンカのスープはすっかり僕の好物になっていた。僕が毎日飲みたいと言ったので、あれから毎日美味しいスープを作ってくれていた。
食事はすべて各々のグループでとるようにしていたので、直接見せることはないものの、彼女の故郷の村で定番のメニューだから匂いだけで分かってしまったということだろう。
「ハーカル、シェリル、ベガルト……。どうして……」
「喜べ狐女。お前を我が純白の剣のメンバーに復帰させてやろう」
「な、なんです……って……。奴隷として売り払っておいて、なんで今更……」
「そんな事はどうだっていい。お前は俺達の命令を聞いていればいいんだ。今度はクチャクチャとうるさい説教ができないように、この首輪を付けて従順にしてやるよ」
「や、やめてっ……いやっ」
「リンカッ! くそやめろゲス野郎ッ!」
「ああ? なんだテメェは」
「へえ。この子、キツネの新しい仲間ね。銀髪の少年。あなたがセージね。結構カワイイ顔してるじゃない。首輪を付けてベッドで可愛がってあげようかしら」
「放っておけシェリル、ベガルト。もうすぐボスが動き出す。急いで目的を果たすぞ。首輪は一つしかないんだ。もたもたしていたら俺達まで殺されちまう」
「へいへい分かってるよ。ちょっとご馳走を物色してただけだろ」
「離して、いやぁ!! あんた達の奴隷になるくらいなら死んだ方がマシよっ」
「バーカ。奴隷に選ぶ権利なんて無いんだよ。お前はその能力を俺達のために役立てればいいんだ。今度はちゃんとベッドで可愛がってやるからな」
クソ野郎がッ。決めた。こいつは絶対に許さない。
「誰がアンタなんか、とっ! ぐぅうっ、うぁああああっ」
必死に体を動かそうとするが、指一本動かすことはできなかった。
その間にリンカの首には隷属の魔法が掛かっている首輪が填められてしまう。
「ぅ……ぁ……ああ、ぁああああああっ!!」
「と思っていたんだがな。喜べ。お前をどうしても買いたいって貴族がまた金を出してくれたんだよっ。また俺達の資金になれるんだ。嬉しいだろ?」
「こ、のぉおおおっ」
――――――
感情ゲージ
【リンカニア】――/50 リンク切断状態
――――――
リンカとのフィーリングリンクが……。
(クソッ……【ためる】【ためる】【ためる】【ためる】――――)
限界まで力を蓄積させてなんとか打開策を見出したい。
体がぶっ壊れてもいい。ここでリンカを助けないとっ。
「ぐおおおおおおおおおっ」
『【ためる】に新たな能力を追加。【吸って・ためる】が可能になりました。最大値1000/1000』
「よしっ、かぁああああああっ!」
脳裏に浮かんだ新たな能力を即時発動する。
「な、なんだっ⁉」
「おい、早くずらかろうぜ。ボス部屋の扉が光り出してる。シェリル」
「はいはーい。今回のボスはどんな化け物かしらね」
シェリルの杖から青白い光が扉に向かって飛んで行く。
その瞬間にジワジワと光り出していたボス部屋の扉が稲光のようにバリバリと音を立てた。
「い、いかんっ。ボス部屋の扉がっ。このままでは私達もっ」
「なぶり殺しは勘弁でござるよっ」
クソッタレぇええっ! もっとっ、もっと力をっ!
「【ためる】【ためる】【ためる】【ためる】!!!」
「ッ……ッ」
魔族の少女が作った魔法陣の色が少しずつ薄くなり、僕の力が充実していく。
体が少しずつ動かせるようになり、更に限界を超えて能力を発動させた。
それと同時に魔法陣を発動させていた魔族の少女が苦しげな表情を見せた。
「こ、れ、は……魔法、陣、が……破られるッ」
「なんだとっ。くそ、おいベガルト、説教女を抱えて逃げるぞッ。シェリル、帰還石だっ」
「お、おう」
「急いだ方が良さそうね」
「リンカッ、リンカぁあああっ!」
「ぁ、ぁ……セー、ジ、くん……。セージ君ッ」
「あ、おい暴れるなよっ」
「止まれっ『命令』だっ」
「アガッ……ッ」
リンカの体に黄色の電撃が流れ出し、全身をビクビクと痙攣させる。
悲痛な叫びを上げながら力を失い、ダラリと脱力して気を失った。
「リンカッ、リンカぁあああっ!」
【吸ってためる】を更に発動させる。まだ体は自由にならない。
クズ共3人の背中が遠ざかっていく。
クソッ。まだ動けない。魔族の少女は脂汗をかきながら更に魔力を強めている。
【ためる】の限界値はとっくに満タンになってしまった。
ゴゴゴゴゴゴゴッ
「な、なんだっ」
「ボ、ボス部屋の扉がッ!」
「い、いかん。そろそろ限界だっ。このままではなぶり殺しにされるぞっ」
「動けっ、動けぇえええええっ!!」
限界を超えて更に【吸ってためる】を発動させる。だが限界を迎えたスキルは能力を発揮してくれなかった。
(もっとっ、もっとだっ!)
『レベル50まで上がると限界値のアップが可能となります。魔素ストックを消費してレベルアップしますか?』
ナイスアシストッ!
直ぐさまストックを消費してレベルをアップさせる。体に力が満ちあふれ、更なる吸収が可能になった事を知覚する。
――――――
ストックできるもの (/2000)
――――――
ストック限界値が一気に二倍になった。
これで更に溜めることができる。
「うおおおおおおおおおおおっ」
「こ、れ、以上、は……無理ッ」
パキィイイイイインッ
陶器が割れるような甲高い音が何重にも響き渡り、魔族の魔法陣が砕け散っていく。
「動いたッ」
それと同時にボス部屋の扉が開き、巨大な影が顔を覗かせる。
『ギャオオオオオン』
『ガガガガガッ!!』
「あ、あれはっ」
僕たちの身長の10倍はありそうな巨大な扉。
ゆっくりと開くその向こう側から、2匹の化け物が這い出てきた。
「あ、あれはっ。ドラゴンっ⁉ しかも2匹っ⁉」
「ち、違う、アレはっ」
巨大な頭に大きく開く顎。鋭い牙がザンバラに並び、頭から体にかけて分厚い鱗に覆われている。
頭が二つ。しかし体は一つだった。
それは単純にドラゴンが2匹出現するよりも、遙かに危険な意味を持っている。
「ツ、ツインヘッドダークドラゴンだとっ! なぜこんな奴がっ⁉」
それはオメガランクでもチームを組むことが推奨される超強力なモンスターであった。
――――――
※設定豆知識※
・奴隷の首輪と隷属の首輪の違い
通常の奴隷は契約によって雇い主に不利益な行動を制限されるのみに留まる。
その際に使うのが奴隷の首輪(※ブレスレットやアンクレットの場合もある)。
別名「制約の首輪」ともいう。よってそれ以外の自由意志は基本的に保障される。
※雇い主の秘密を漏らさない制約に関しては、別途魔法が施される。
隷属の首輪は、文字通り装着者の自由意志を奪い、取り付けた者の命令に逆らえなくなる(意志の強い人間は逆らえる事もある)。
人権を無視するので法律で使用、作成が禁止されている。
(それ故に闇市場では飛ぶように売れる)
どちらも取り付けている間のみ有効な一時的な効果だが、自分の意志で外すことができない魔法が掛かっている。
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