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敵が霧と共に消えた後、広間に静けさが戻る。
「ふぅ……とんでもない戦いだったわね」リンカが額の汗を拭う。
床には尖兵たちが残した戦利品が散らばっていた。
黒い外套、呪詛のこもった指輪、そして――一際大きな赤黒い魔石。
「これ……ただの魔石じゃない。質が高いわ」
リンカが目を細める。
「ん……強い。ルミナス、感じる。魔素、ぎゅうぎゅう詰まってる」
僕は拾い上げた瞬間、いつもの無機質な声を聞いた。
『魔石を取得しました。魔素ストックに変換しますか? 変換値は120万』
天の声が、いつも通り淡々と響く。
(よし、いつもありがとう。変換してくれ)
『変換を実行します。現在の魔素ストック:3億 4920万』
数値が更新された。
魔素ストックもかなりたまってきたな。そろそろレベルアップに使うことも検討して良い頃かもしれない。
同時に、さらに新しい通知が重なる。
『フィーリングリンクの効果が強化されました。
新規取得:【聖属性付与(強)】【呪い耐性強化(強)】』
眩い光が胸の奥で弾け、全身を満たす。
セレスと繋がったことで得られた力だ。
「今の光……セージ君?」
リンカが驚いた声をあげる。
「ん……新しい力。セージ、また強くなった」
ルミナスが嬉しそうに頷く。
セレスは目を丸くし、両手を胸に当てた。
「わたくしが……皆さまのお力になれたのですか?」
「ああ。セレスが加わってくれたから、この力を得られたんだ」
少女は小さく息を呑み、それから微笑んだ。
「……よかった。わたくしにも、存在する意味があったのですね」
聖属性付与と呪い耐性――アンデッドとの戦いにはこれ以上ない強化だ。
僕らは互いに視線を交わし、自然と笑みがこぼれる。
「さあ、次の階層に進もう。イグニスって奴の正体を掴むためにもな」
「うん、絶対に辿り着きましょう」
「ん……焼き尽くす」
「わたくしも……皆さまと共に歩ませてください」
戦いの火蓋は、まだ切られたばかりだった。
◇◇◇
ダンジョンを後にし、街へ戻った僕たちは冒険者ギルドに顔を出した。
受付嬢が僕たちの姿を見つけるや否や、慌てて駆け寄ってくる。
「セージさん、リンカさん、ルミナスちゃん……! あっ、それにそちらの方は。もうお怪我は大丈夫なのですか?」
「はい、もうすっかり良くなりました。改めてありがとうございます」
「彼女は……セレスだ。ダンジョンの奥で囚われていたんだ。危うく儀式に使われるところだった」
「儀式……ですか?」
受付嬢の顔が険しくなる。僕は拾ってきた戦利品――黒衣や呪詛の指輪を見せた。
「これを見てくれ。どうやら普通のモンスターや盗賊じゃない。組織立った動きだ。心当たりは?」
受付嬢は眉を寄せ、小声で言った。
「……噂ですが、最近《ベアストリア教団》が不穏な動きをしている、と。表向きは国中に広がる信仰ですが、裏で何か……」
「やはり教団が……」と呟いたのはセレスだった。
彼女は胸の前で手を組み、唇を震わせる。
「セージ君、これってもう冒険者の依頼の範囲を超えてるわよね」
「ああ。でも無視できない。ここで目を逸らしたら、もっと多くの人が犠牲になるだろう」
「ん……セージ、戦う。ルミナスも」
セレスは少し俯き、それから決意を宿した瞳で僕を見た。
「わたくしも……皆さまと共に。教団の悪意を止めたいのです」
ギルドの一室で、地図が広げられる。教団の動き、迷宮の位置、そして不審な儀式の痕跡――すべてが一本の線で繋がり始めていた。
◇◇◇
僕はふと自分の手首を見下ろした。
銀色に淡く光る《幻色の腕輪》。これはもともとトトルムさんから譲られたもので、僕とリンカ、ルミナスは全員つけている。外見の印象を変えられる便利なマジックアイテムだ。
これによって僕は元々の黒い髪色を銀色に。
リンカは銀狐族の特徴である銀髪を水色に。
パープルだったルミナスは赤い髪色になっている。
そして今、セレスティア――いや、セレスにも必要なのは明らかだった。聖女の姿のまま人前に出るのは、あまりにも危険だ。
「セレス。これを」
僕はストレージから予備の腕輪を取り出し、彼女の前に差し出した。
「僕たち全員が同じものを身につけている。髪や瞳の色を変えられるアイテムだ。これを付ければ、教団にすぐに気付かれることはない」
セレスは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「……ありがとうございます、セージ様。わたくしのために」
彼女が腕輪を手首にはめた瞬間、金色の髪は栗色へ、碧眼は落ち着いた灰色へと変化していく。荘厳な聖女というより、どこにでもいそうな村娘のような雰囲気になった。
「おお……」
リンカが感嘆の声を漏らす。
「これなら、誰も聖女だとは思わないわ」
「ん……セレス、普通の人に見える。そして可愛い。セージ、スケベオヤジのように喜ぶ」
「おいおいルミナスさんや。人を誤解のルツボに引きずり込む風評被害はやめてもらおうか
「ふふ、ふふふ、ありがとうございます」
ルミナスも頷く。
セレスは胸に手を当て、少し照れたように言った。
「……改めて。わたくしの名はセレスティア。ですが、どうぞ“セレス”とお呼びくださいませ」
僕たちは顔を見合わせ、自然と頷き合った。
冒険者ギルドのホールは、昼下がりだというのに相変わらず賑やかだった。武骨な戦士、怪しげな魔導士、そして駆け出しらしい若者たちが出入りし、クエストボードの前では依頼の奪い合いが繰り広げられている。
僕たちがカウンターに近づくと、顔馴染みの受付嬢ミレイナさんが目を丸くした。
「セージさん……それに、見慣れない方が」
「彼女を仲間に迎えたんだ。名前はセレス。冒険者登録をお願いできるかな」
セレスは姿勢を正し、丁寧に一礼する。腕輪の効果で髪は栗色、瞳は灰色へと変わっているが、元の清廉な雰囲気までは隠せないらしい。周囲の冒険者たちがなんとなく視線を送ってくる。
「わたくし、セレスティアと申します。どうぞ“セレス”とお呼びくださいませ。以後、よろしくお願い致します」
その柔らかな声に、ホールのざわめきが一瞬やんだ。やがて仲間たちが「可愛いな」「高貴なお嬢さんみたいだ」と囁き合い、再び場が沸く。
「……は、はいっ! 登録の手続きをさせていただきます!」
ミレイナさんは慌てて書類を取り出した。名前、生年月日、得意分野を確認し、血判を押す。
僕はこそっとセレスに耳打ちをする。
「セレス。本名を名乗ってどうするのさ。偽装した意味が無いでしょ」
「あっ。そ、そうでしたっ。申し訳ありません」
幻色の腕輪の効果で認識されずに済んだが、ちょっと天然なのだろうか。
「気を付けてね。誰が聞き耳を立ててるか分からないんだから」
「そうですわね。危機感が足りませんでした。世間知らずで申し訳ありません」
セレスって実はちょっと天然が入ってるのかな。
少しだけ肝を冷やす出来事だった。
◇◇◇
その後、僕たちはギルド長室へ呼ばれた。筋骨隆々の中年の男――ギルド長ガルディアは、報告を聞きながら厳しい顔を崩さない。
「囚われていた娘を救った……だがその背後に、ベアストリア教団の影があると」
「ええ。直接“教団”と口に出したわけではありませんが、敵が共通して使っていた紋章が……」
僕は戦闘で見た黒い三日月の印を説明した。
「なるほどな……教団の動きが、いよいよ冒険者ギルドの管轄にまで及んできたか」
彼は低く唸り、机を拳で叩いた。
「セージ、お前たちに正式な依頼を出そう。『囁く迷宮』を再調査し、敵の正体を掴め。そしてもし可能なら、殲滅せよ」
「承ります」
僕は即答した。
「その娘が聖女セレスティア様だということは、俺を含めて一部の者にしか知らせていない。お前達も十分注意してくれ」
「はい、分かってます」
◇◇◇
出発の朝。準備を終えた僕たちは、ギルドの前で並んだ。
リンカは新しい矢筒を腰に掛け、ルミナスは杖に魔力を通して火花を散らしている。そしてセレスは――腕輪の効果で外見は地味だが、清楚なローブを身に纏い、ぎゅっと胸の前で祈るように手を組んでいた。
「……必ず、お役に立ちます」
彼女の瞳は真剣だった。
「よし。じゃあ行こう。次は本格的に教団と向き合うことになる」
僕たちは足並みを揃え、再び迷宮の入り口へと向かった。
その先で待つものが何であれ、もう後戻りはできない――。
「ふぅ……とんでもない戦いだったわね」リンカが額の汗を拭う。
床には尖兵たちが残した戦利品が散らばっていた。
黒い外套、呪詛のこもった指輪、そして――一際大きな赤黒い魔石。
「これ……ただの魔石じゃない。質が高いわ」
リンカが目を細める。
「ん……強い。ルミナス、感じる。魔素、ぎゅうぎゅう詰まってる」
僕は拾い上げた瞬間、いつもの無機質な声を聞いた。
『魔石を取得しました。魔素ストックに変換しますか? 変換値は120万』
天の声が、いつも通り淡々と響く。
(よし、いつもありがとう。変換してくれ)
『変換を実行します。現在の魔素ストック:3億 4920万』
数値が更新された。
魔素ストックもかなりたまってきたな。そろそろレベルアップに使うことも検討して良い頃かもしれない。
同時に、さらに新しい通知が重なる。
『フィーリングリンクの効果が強化されました。
新規取得:【聖属性付与(強)】【呪い耐性強化(強)】』
眩い光が胸の奥で弾け、全身を満たす。
セレスと繋がったことで得られた力だ。
「今の光……セージ君?」
リンカが驚いた声をあげる。
「ん……新しい力。セージ、また強くなった」
ルミナスが嬉しそうに頷く。
セレスは目を丸くし、両手を胸に当てた。
「わたくしが……皆さまのお力になれたのですか?」
「ああ。セレスが加わってくれたから、この力を得られたんだ」
少女は小さく息を呑み、それから微笑んだ。
「……よかった。わたくしにも、存在する意味があったのですね」
聖属性付与と呪い耐性――アンデッドとの戦いにはこれ以上ない強化だ。
僕らは互いに視線を交わし、自然と笑みがこぼれる。
「さあ、次の階層に進もう。イグニスって奴の正体を掴むためにもな」
「うん、絶対に辿り着きましょう」
「ん……焼き尽くす」
「わたくしも……皆さまと共に歩ませてください」
戦いの火蓋は、まだ切られたばかりだった。
◇◇◇
ダンジョンを後にし、街へ戻った僕たちは冒険者ギルドに顔を出した。
受付嬢が僕たちの姿を見つけるや否や、慌てて駆け寄ってくる。
「セージさん、リンカさん、ルミナスちゃん……! あっ、それにそちらの方は。もうお怪我は大丈夫なのですか?」
「はい、もうすっかり良くなりました。改めてありがとうございます」
「彼女は……セレスだ。ダンジョンの奥で囚われていたんだ。危うく儀式に使われるところだった」
「儀式……ですか?」
受付嬢の顔が険しくなる。僕は拾ってきた戦利品――黒衣や呪詛の指輪を見せた。
「これを見てくれ。どうやら普通のモンスターや盗賊じゃない。組織立った動きだ。心当たりは?」
受付嬢は眉を寄せ、小声で言った。
「……噂ですが、最近《ベアストリア教団》が不穏な動きをしている、と。表向きは国中に広がる信仰ですが、裏で何か……」
「やはり教団が……」と呟いたのはセレスだった。
彼女は胸の前で手を組み、唇を震わせる。
「セージ君、これってもう冒険者の依頼の範囲を超えてるわよね」
「ああ。でも無視できない。ここで目を逸らしたら、もっと多くの人が犠牲になるだろう」
「ん……セージ、戦う。ルミナスも」
セレスは少し俯き、それから決意を宿した瞳で僕を見た。
「わたくしも……皆さまと共に。教団の悪意を止めたいのです」
ギルドの一室で、地図が広げられる。教団の動き、迷宮の位置、そして不審な儀式の痕跡――すべてが一本の線で繋がり始めていた。
◇◇◇
僕はふと自分の手首を見下ろした。
銀色に淡く光る《幻色の腕輪》。これはもともとトトルムさんから譲られたもので、僕とリンカ、ルミナスは全員つけている。外見の印象を変えられる便利なマジックアイテムだ。
これによって僕は元々の黒い髪色を銀色に。
リンカは銀狐族の特徴である銀髪を水色に。
パープルだったルミナスは赤い髪色になっている。
そして今、セレスティア――いや、セレスにも必要なのは明らかだった。聖女の姿のまま人前に出るのは、あまりにも危険だ。
「セレス。これを」
僕はストレージから予備の腕輪を取り出し、彼女の前に差し出した。
「僕たち全員が同じものを身につけている。髪や瞳の色を変えられるアイテムだ。これを付ければ、教団にすぐに気付かれることはない」
セレスは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「……ありがとうございます、セージ様。わたくしのために」
彼女が腕輪を手首にはめた瞬間、金色の髪は栗色へ、碧眼は落ち着いた灰色へと変化していく。荘厳な聖女というより、どこにでもいそうな村娘のような雰囲気になった。
「おお……」
リンカが感嘆の声を漏らす。
「これなら、誰も聖女だとは思わないわ」
「ん……セレス、普通の人に見える。そして可愛い。セージ、スケベオヤジのように喜ぶ」
「おいおいルミナスさんや。人を誤解のルツボに引きずり込む風評被害はやめてもらおうか
「ふふ、ふふふ、ありがとうございます」
ルミナスも頷く。
セレスは胸に手を当て、少し照れたように言った。
「……改めて。わたくしの名はセレスティア。ですが、どうぞ“セレス”とお呼びくださいませ」
僕たちは顔を見合わせ、自然と頷き合った。
冒険者ギルドのホールは、昼下がりだというのに相変わらず賑やかだった。武骨な戦士、怪しげな魔導士、そして駆け出しらしい若者たちが出入りし、クエストボードの前では依頼の奪い合いが繰り広げられている。
僕たちがカウンターに近づくと、顔馴染みの受付嬢ミレイナさんが目を丸くした。
「セージさん……それに、見慣れない方が」
「彼女を仲間に迎えたんだ。名前はセレス。冒険者登録をお願いできるかな」
セレスは姿勢を正し、丁寧に一礼する。腕輪の効果で髪は栗色、瞳は灰色へと変わっているが、元の清廉な雰囲気までは隠せないらしい。周囲の冒険者たちがなんとなく視線を送ってくる。
「わたくし、セレスティアと申します。どうぞ“セレス”とお呼びくださいませ。以後、よろしくお願い致します」
その柔らかな声に、ホールのざわめきが一瞬やんだ。やがて仲間たちが「可愛いな」「高貴なお嬢さんみたいだ」と囁き合い、再び場が沸く。
「……は、はいっ! 登録の手続きをさせていただきます!」
ミレイナさんは慌てて書類を取り出した。名前、生年月日、得意分野を確認し、血判を押す。
僕はこそっとセレスに耳打ちをする。
「セレス。本名を名乗ってどうするのさ。偽装した意味が無いでしょ」
「あっ。そ、そうでしたっ。申し訳ありません」
幻色の腕輪の効果で認識されずに済んだが、ちょっと天然なのだろうか。
「気を付けてね。誰が聞き耳を立ててるか分からないんだから」
「そうですわね。危機感が足りませんでした。世間知らずで申し訳ありません」
セレスって実はちょっと天然が入ってるのかな。
少しだけ肝を冷やす出来事だった。
◇◇◇
その後、僕たちはギルド長室へ呼ばれた。筋骨隆々の中年の男――ギルド長ガルディアは、報告を聞きながら厳しい顔を崩さない。
「囚われていた娘を救った……だがその背後に、ベアストリア教団の影があると」
「ええ。直接“教団”と口に出したわけではありませんが、敵が共通して使っていた紋章が……」
僕は戦闘で見た黒い三日月の印を説明した。
「なるほどな……教団の動きが、いよいよ冒険者ギルドの管轄にまで及んできたか」
彼は低く唸り、机を拳で叩いた。
「セージ、お前たちに正式な依頼を出そう。『囁く迷宮』を再調査し、敵の正体を掴め。そしてもし可能なら、殲滅せよ」
「承ります」
僕は即答した。
「その娘が聖女セレスティア様だということは、俺を含めて一部の者にしか知らせていない。お前達も十分注意してくれ」
「はい、分かってます」
◇◇◇
出発の朝。準備を終えた僕たちは、ギルドの前で並んだ。
リンカは新しい矢筒を腰に掛け、ルミナスは杖に魔力を通して火花を散らしている。そしてセレスは――腕輪の効果で外見は地味だが、清楚なローブを身に纏い、ぎゅっと胸の前で祈るように手を組んでいた。
「……必ず、お役に立ちます」
彼女の瞳は真剣だった。
「よし。じゃあ行こう。次は本格的に教団と向き合うことになる」
僕たちは足並みを揃え、再び迷宮の入り口へと向かった。
その先で待つものが何であれ、もう後戻りはできない――。
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