地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

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赤い闇の予感

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 リッチが消滅した後、広間に残されたのは漆黒の杖と、一際大きな魔石だった。
 僕は慎重に拾い上げ、仲間たちと輪になって確認する。

「これが……戦利品か」
「禍々しい見た目ね。けど、かなりの力を秘めていそう」

 リンカが警戒するように杖を見つめる。

「ん……強い魔力。ルミナスでも、扱い難しい」

 確かに、手にするだけで冷たい瘴気を感じる。だが同時に、膨大な魔素が凝縮されているのが分かった。
 そこへ、あの無機質な声が響く。

『魔石を取得しました。魔素ストックに変換しますか? 変換値は360万』

 またしても膨大な値だ。心の中で了承すると、体に熱が流れ込む感覚が走った。

『フィーリングリンク更新。各能力が上昇しました』
『新規効果:【聖属性攻撃強化】、【自動回復速度上昇】』

 セレスと繋がったことで、さらに補正が強まっているらしい。
 仲間たちも同じように力を得たのか、リンカは弓を撫でながら小さく頷き、ルミナスは炎を灯して「ん……前より速い」と呟いている。

「わたくし……本当に役に立てているのですね」

 セレスが胸に手を当て、震える声で言った。

「もちろんだよ。セレスがいてくれるから、こうして強くなれる」

 僕は微笑んだ。心強い仲間が加わり、僕たちは更に奥へと進むことにした。

 ◇◇◇

 広間の奥には、巨大な石の階段が続いていた。
 黒い瘴気は弱まりつつあるが、それでも下層からは不気味な気配が漂ってくる。

「まだ続いてるわね」

 リンカが険しい表情を浮かべる。

「ん……奥に、もっと大きな気配。ルミナス、分かる」
「……わたくしも。あの奥に、とても禍々しい気配が……」

 セレスの顔は青ざめている。だが、その瞳は恐怖に揺らぐことなく真っ直ぐ前を向いていた。
 僕は仲間を見渡し、剣を強く握る。

「よし……ここからが本番だ。全員で行こう。絶対に負けない」

 三人が力強く頷く。


 次の階層に足を踏み入れた瞬間、空気が一変した。
 先ほどまでの瘴気とは比べ物にならない、焼け焦げたような重苦しい圧力が漂っている。

「……熱い?」

 リンカが思わず首筋を押さえた。

「ん……空気、燃えてる。嫌な感じ」

 ルミナスが眉をひそめる。
 ただのアンデッドの巣窟ではない。もっと大きな何か――禍々しい存在の意思が、迷宮の奥からじわじわと漏れ出しているのが分かる。
 やがて、壁の紋様が赤熱し、燃えるように浮かび上がった。
 そこから響いたのは、人の声とも獣の咆哮ともつかない低音だった。


『小さき駒どもよ……我らの祭壇に足を踏み入れるとは。だが、この地は“将”の領域。お前たちは燃え尽き、灰となる運命だ……』

 その声はすぐに掻き消え、赤熱した紋様も静かに消えていった。
 ただし、言葉の意味だけははっきりと残った。――“将”。

 それを連想させる言葉は一つしか無い。

「今の……何?」

 リンカが震える声で問う。

「ん……分からない。でも、普通の敵じゃない。絶対」

 ルミナスがきっぱりと断言する。

 僕も同じ意見だった。あの声は、ただの尖兵や幹部のものじゃない。もっと大きな存在の影。
 黒幕の存在を確信させる、そんな圧力だった。

 セレスは立ち尽くし、唇を噛み締めていた。
「……やはり……わたくしの直感は正しかったのです。これは、ベアストリア教団の……」

 その名が彼女の口から漏れた瞬間、僕たちは一斉に振り返った。

「教団……? セレス、知っているのか?」

 彼女は一度俯き、深呼吸をしてから小さく頷いた。

「……わたくしは、教団の象徴として育てられました。けれど……その裏に潜む闇までは、知りませんでした」

 瞳が揺れている。絶望と怒り、そして強い責任感。

「わたくしが……利用されていたのです。もしあの“将”と呼ばれる者たちが教団の奥にいるのなら……この迷宮も、その支配の一端なのでしょう」

 彼女の声は震えていたが、同時に決意も宿していた。

「セレス……」

 僕は彼女の手を握った。

「一人で背負わなくていい。これからは僕たちと一緒に戦おう」
「セージ君の言う通りよ」

 リンカが微笑みながら言う。

「あなたは、もう仲間なんだから」
「ん……セレス、仲間。ルミナス、守る」

 ルミナスも短い言葉で断言した。
 セレスの頬を涙が伝った。

「……ありがとう……ございます。わたくし、皆さまと共に歩みます」

 その瞬間、胸の奥に柔らかな光が溶け込んでくる感覚があった。
 また一つ、確かな絆が結ばれたのだ。


 僕たちは休息を終え、再びダンジョンの奥へと進んでいた。
 セレスが加入したことで、パーティの空気はどこか柔らかくなっている。

「セージ様……この先、強い邪気を感じます。お気をつけくださいませ」
「分かった。セレスは後方から援護を頼む」

 彼女は胸元で祈りを組み、微かに光をまとった。
 その瞬間、僕の剣に聖なる輝きが宿る。
 ――【聖属性付与】が発動したのだ。

「すごい……これならアンデッドに対して無敵ね」

 リンカが感嘆する。

「ん……セレス、役立つ。ルミナス、安心」

 ルミナスも短い言葉で頷いた。

 だが、その時。
 迷宮の通路を埋め尽くすほどの人影が、闇の中から現れた。
 全身に黒布を纏い、無数の呪符を刻まれた――尖兵たちだ。
 前回とは比べ物にならない規模。しかも、頭領らしき巨漢まで混じっている。

「また現れた……こいつら、一体何者なんだ⁉」

 僕の問いに、セレスが小さく震えながら答える。

「……やはり……。彼らは“尖兵”。ベアストリア教団の影に仕える者たち……」

 やはり教団。セレスの言葉で敵の正体が明らかになる。


 尖兵の軍勢が一斉に呪詛を放つ。黒い鎖のような呪いが床から伸び上がり、僕たちを絡め取ろうとする。

「セージ様、お下がりください! 《セイクリッド・ウォール》!」

 セレスが前に立ち、祈りを込める。純白の光壁が現れ、呪詛を受け止めた。

「すごい……セレスの魔法がなかったら、もう捕まってたわね」リンカが息を呑む。
「ん……助かる。ルミナス、燃やす」

 ルミナスが手をかざし、火槍を無数に放つ。

「《ファイア・ランス》!」
 炎の槍が次々と尖兵を貫き、爆ぜる。悲鳴と焦げ臭い煙が広間を覆った。

「よし、行くぞ! 【重ね斬り】!」
 僕は駆け込み、一瞬で数十の斬撃を浴びせる。剣先に聖属性が宿り、尖兵たちの影を切り裂いて消滅させた。



 敵はなお数を頼みに押し寄せるが、僕らの連携に耐えられない。

「セージ君、右!」
「分かってる!」

 リンカの矢に合わせて僕の斬撃を重ねると、閃光が走り十数体の尖兵が一掃される。
 その一方で、セレスがリンカに駆け寄った。

「お怪我を……《ヒールライト》!」
 彼女の傷が瞬く間に塞がり、リンカが目を見開く。

「……すごい。回復の速さも力も、本物の聖女みたい……」

 いや聖女だってば。

「ふふ、ありがとうございます……」

 セレスは頬を赤らめつつも、再び祈りに集中した。


 やがて、残った尖兵の頭領格が怯えた声を漏らす。

「バ、バケモノめ……この力、人間ではない……!」
 生き残りの尖兵は黒い霧に身を溶かし、次々と退いていった。
 その中で、ただ一人。
 撤退直前の尖兵が低く呟いた。

「……いずれ、我らが主【烈火の魔将・イグニス】様が、貴様らを灰にするだろう」

 赤黒い残光が残り、霧と共に消えた。


「またイグニス……誰なの、それ?」

 リンカが険しい表情で僕を見やる。

「分からない。でも……ただの幹部じゃないな。尖兵の連中があれだけ恐れ敬う存在だ。きっと教団の黒幕の一人だろう」

 ルミナスが口を尖らせる。

「ん……炎。危ない匂い。ルミナス、嫌い」

 セレスは祈るように目を伏せ、小さく震えていた。

「……イグニス……ただならぬ気配を感じます。どうか……どうかお気をつけくださいませ」

 戦いは終わった。だが、背後に潜む存在は、確実にこちらを見据えている――そう確信せざるを得なかった。
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