地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

文字の大きさ
68 / 137
61~70

日常が続く尊さ

しおりを挟む
 あの忌まわしい襲撃から数日。ダータルカーンの街は、ようやく落ち着きを取り戻していた。
 教団の尖兵たち――かつてリンカと同じチームだった者たちが合体し、異形の怪物となって襲ってきた事件は、街の人々に深い爪痕を残した。それでも、冒険者たちと僕たちで撃退できた事実は、確かな安堵を与えている。

 市場を歩いていると、やけに子どもたちの声がにぎやかに響くのが耳に入った。声の主を探すと、そこにはルミナスがいた。
 黒髪を腕輪で隠しているとはいえ、彼女の異質な雰囲気はやっぱり隠しきれない。それでも子どもたちは、彼女を恐れるどころか好奇心いっぱいに取り囲んでいた。

「お姉ちゃん、魔法見せてー!」
「ちっちゃい火とかでいいから!」

「ん……いい。ほら、《ファイヤ・スパーク》」
 ぱちり、と指先で小さな火花を散らすルミナス。子どもたちは歓声を上げて飛び跳ねた。

「すごい! かっこいい!」
「もっとやって!」

「ルミナス、子ども、しつこい。……でも、悪くない」
 彼女は不器用な笑みを浮かべ、子どもたちに囲まれていた。いつも無表情に近いルミナスが、少し照れくさそうに口角を上げている。その姿を見て、僕も自然と頬が緩んだ。

 一方のリンカは、ギルドの中庭で模擬戦をしていた。銀狐族らしい俊敏さで跳ね回り、双剣で相手の剣を鮮やかに弾き飛ばす。
 観戦していた冒険者たちから、どっと歓声が上がった。

「すげぇ……さすがはこの前の大立ち回りを切り抜けたリンカ嬢だ!」
「まるで風みたいな動きだな!」

 リンカは剣を収め、汗を拭いながら笑顔を浮かべてこちらへ駆け寄ってきた。
「セージ君、見ててくれた? 少しは成長できてるかな」
「十分すぎるほどだよ。模擬戦相手も本気だったろうに」
「ふふ、ありがと」
 彼女の耳が嬉しそうに揺れていた。


 セレスは街の広場で、人々の目を引いていた。腕輪の力で髪の色や瞳を変えていても、その佇まいは隠しきれない。
 市井の人々が彼女を「どこか特別な人」と感じるのは当然だった。子どもが「お姉さん、きれい!」と声を上げ、大人たちも敬意のこもった視線を向ける。

 セレスはそのたびに微笑んで応じていたが、僕たちだけがいる時には小さく溜息をついていた。
「……わたくしの存在が、町の方々に迷惑をかけてしまうのではと、不安になります」
「セレス、それは違うよ」

 僕は即座に否定する。

「君が笑うことで救われる人もいる。光を見て希望を感じる人だって、確かにいるんだ」
「……セージ様」

 彼女の瞳が揺れた。迷いと、それを振り払おうとする意志。その姿は、確かに“聖女”としての資質を宿していた。

 ◇◇◇

 昼下がりのミルミハイド商会。豪奢な応接室で、エリスが優雅に紅茶を傾けていた。
 その横には、氷のような無表情を貼り付けたメイド――アンナが控えている。

「セージ様、街の復興が思いのほか早く進んでおりますわ。冒険者ギルドが総出で働いているおかげでしょう」
「そうだな。被害を受けたはずなのに、むしろ活気が増しているように見える」
「ふふ……セージ様がいてくださるからですわ」

 エリスはにこやかにそう告げ、視線を絡めてくる。その声音には確かな愛情が宿っていた。
 一方で、アンナは冷たい面差しのまま、すっとカップを差し出してきた。

「ご主人様、喉が渇いているでしょう。……毒は、入っていません」

 ぞくりとするような無表情。だが、その言葉の裏に小悪魔的なからかいが混じっているのは分かっている。
 僕は苦笑して受け取った。

「安心するような、しないような台詞だな」
「反応を楽しんでいるのです。……次は、膝に座りますか?」

 淡々と、表情筋ひとつ動かさずにそんなことを言うアンナ。エリスが慌てて顔を赤らめた。
「ちょっ、ちょっとアンナ! そういうことを平然と言わないで!」
「セージ様は喜ぶと思いましたので」
「……いや、まあ……」
 僕が言葉を濁すと、エリスがむっと睨んでくる。
「セージ様っ!」
 ――こうして二人のやり取りは、いつも妙に賑やかになるのだった。

 ◇◇◇

 その夜。皆が寝静まった頃、ベランダに出ると、エリスが月を見上げていた。
「セージ様。……わたくし、時々思うのです」
「何を?」
「この街が、こうして穏やかに過ごせるのは一体いつまでなのか、と」

 彼女の横顔には、王都で過ごしてきた年月の影が差している。
「ベアストリア教団は、確実に牙を広げていますわ。ですが……」
「大丈夫だ」

 僕は静かに言った。

「ここには俺たちがいる。エリスも、アンナも、皆が」

 エリスは目を細め、やがて笑みを浮かべた。

「ええ……セージ様がそうおっしゃるのなら、わたくしは信じます」

 背後では、アンナが無表情のまま控えていた。

「……情熱的な会話。わたしは空気ですか?」
「アンナっ、違いますから!」

 エリスが慌てて取り繕う。だがアンナはいつも通りの無表情で、しかし確かに楽しんでいる気配があった。


 ◇◇◇

 翌朝。

 朝の光が窓から差し込み、石造りの屋敷を柔らかく照らしていた。
 僕が食堂に降りると、すでにテーブルは賑やかな空気に包まれていた。

「セージ様、おはようございます」
 ミレイユが微笑みながら深々と一礼し、僕の好物である焼きたての黒パンと香草スープを並べる。彼女の笑顔は、相変わらず柔らかく温かい。

「おはよー! セージ様!」
 シャミーが手を振った瞬間――カラン、と食器を落としかけた。
「きゃっ! あっぶなーい!」
 慌てて拾おうとしたところで、すかさずレイシスがぴしゃりと言う。

「シャミー。規律がなっておりません。食器の扱いは丁寧にと、昨日も申し上げましたよね?」
「えへへ、ごめーん。でも大丈夫、割れてないからセーフ!」
「セーフではありません。再発防止が重要なのです」

 二人のやりとりに思わず笑いそうになったが、ミレイユが小さく咳払いして僕に視線を向ける。
「セージ様、昨夜はあまり眠れなかったのでは? 少しお顔が疲れて見えます」
「……うん、ちょっと考えごとしてたんだ。図星だな」
 優しく見抜いてくる彼女に、僕は苦笑で返すしかない。

 一方でアーリアは、食卓の端で分厚い本を開きながら控えめに口を開いた。

「……セージ様、もし……お時間あれば……この本の感想を……」
「お、本か。後で一緒に読んでみようか」
 僕がそう返すと、アーリアは耳まで赤くしてうつむいた。

 そんな中でも、レイシスはきっちりと言葉を挟んでくる。
「セージ様、日課の素振りは本日まだ100回に到達しておりません。朝食後に実施を推奨いたします」
「朝から厳しいなあ……」
「健康と実力維持のためです。甘えは許されません」

「ほらほらー、レイシスったら堅いんだから!」
 シャミーがケラケラと笑う。
「堅いのではなく、正しいのです」
 レイシスは全く揺るがない。

「ふふ……みんな元気ね」
 リンカが呆れ笑いを浮かべ、エリスも隣で優雅に微笑んでいる。

 だが、静かな空気をぶち壊すのはやっぱりこの人だ。
「セージ様」
 アンナが無表情で僕を見据えたまま、いつもの唐突爆弾を落とす。
「今夜は……わたくしが寝室でお待ちしております」
「なっ……!?」
 思わずパンを喉に詰まらせそうになる僕。周囲も「!?」と固まった。
「おいおい、アンナさん……」
「冗談、です」
 表情筋一つ動かさず、そう告げるアンナ。絶対冗談に聞こえないからやめてくれ。

「……ルミナス、分かる。セージ、モテすぎ。大変」
 ルミナスが小声でぼそっと言い、テーブルは笑いに包まれた。


 ◇◇◇


 僕たちは商会の一室に集まっていた。トトルムさんが用意した豪勢な食事の席に、リンカ、ルミナス、セレス、そしてエリスも揃っている。
 ギルド長も合流し、真剣な表情で口を開いた。

「セージ。お前たちが防いだ襲撃は確かに大きな勝利だった。だが、ベアストリア教団の影はまだ濃い。次はどこで牙を剥くか分からんぞ」

「……その通りですわ」

 エリスが頷いた。

「敵は既に国家規模で動いております。ダータルカーンも、いずれ本格的に狙われるでしょう」

「それでも、俺たちはやるしかないな」

 僕は剣を見つめながら言った。背後には、仲間の視線を感じる。
 リンカが力強く頷き、ルミナスが「ん……やる。セージと一緒なら」と呟き、セレスは静かに手を胸に当てた。

 ――嵐の前の静けさ。
 僕たちは、確かにその中にいた。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

社畜だった俺、最弱のダンジョンマスターに転生したので、冒険者を癒やす喫茶店ダンジョンを経営します

☆ほしい
ファンタジー
過労死した俺が目を覚ますと、そこは異世界のダンジョンコアの前だった。 どうやら俺は、ダンジョンマスターとして転生したらしい。 だが、与えられた俺のダンジョンは最低ランクのF級。魔力を生み出す力は弱く、生み出せる魔物もスライムやゴブリンといった最弱クラスばかり。これでは、冒険者を呼び込んで魔力を得るなんて夢のまた夢だ。 絶望する俺だったが、ダンジョンの創造機能を使えば、内装を自由にデザインできることに気づく。 「……そうだ、喫茶店を開こう」 前世で叶えられなかった夢。俺は戦闘を放棄し、ダンジョンの入り口に木造の喫茶店『やすらぎの隠れ家』を作り上げた。メニューは、前世の知識を活かしたコーヒーと手作りケーキだけ。 ところが、そのコーヒーには異常なまでの疲労回復効果が、ケーキには一時的な能力向上効果が付与されていることが判明。噂を聞きつけた訳ありの冒険者たちが、俺のダンジョンに癒やしを求めて集い始めるのだった。

科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」 高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。 だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや—— 「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」 「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」 剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める! 魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」 魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」 神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」 次々と編み出される新技術に、世界は驚愕! やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め—— 「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」 最強の頭脳戦が今、幕を開ける——! これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語! ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

異世界複利! 【単行本1巻発売中】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる

暁刀魚
ファンタジー
 社会勉強のため、幼い頃から暮らしていた山を降りて現代で生活を始めた男、草埜コウジ。  なんと現代ではダンジョンと呼ばれる場所が当たり前に存在し、多くの人々がそのダンジョンに潜っていた。  食い扶持を稼ぐため、山で鍛えた体を鈍らせないため、ダンジョンに潜ることを決意するコウジ。  そんな彼に、受付のお姉さんは言う。「この加護薬を飲めばダンジョンの中で死にかけても、脱出できるんですよ」  コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。  かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。  もとよりそんなもの必要ない実力でダンジョンを蹂躙する中、その高すぎる実力でバズりつつ、ダンジョンで起きていた問題に直面していく。  なお、加護薬を飲まずに直接モンスターを倒すと、加護薬を呑んでモンスターを倒すよりパワーアップできることが途中で判明した。  カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...