地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

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王都襲撃の急報

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 ダータルカーンの屋敷で束の間の穏やかな日常を過ごしていた僕たちだったが――その静けさは、突如として破られた。

「セージ殿! 大変です!」
 冒険者ギルドの使者が、息を切らして駆け込んできた。

 僕らはすぐに食堂に集まり、ギルドの使者から詳しい話を聞くことになった。

「王都が……襲撃されました!」
「……なんだって?」
 僕の声が、無意識に低くなる。

「報告によると、正体不明の軍勢が突如王都の外壁に現れ、甚大な被害を与えたとのことです。まだ詳細は分かっておりませんが……生存者の証言では、“炎の化身のような存在”が指揮を執っていたと」

 リンカが顔を強張らせ、思わず拳を握りしめる。
「炎……まさか、イグニス……?」

 ルミナスも鋭い眼差しを向ける。
「王都、遠い。でも、影響……大きい。人、逃げてくる」

 セレスが椅子の端で小さく肩を震わせていた。
「王都……。あそこには、まだ多くの民が……。わたくしがもっと早く気付いていれば……」
 彼女の声には悔恨と自責が滲んでいる。

「セレス」
 僕はその手をそっと握った。
「君のせいじゃない。敵が本格的に動き出したんだ。だから、僕らが止める」

 ギルド長が重い声で口を開いた。
「セージ、これはただの侵攻ではない。教団の尖兵や魔物どもが王都に出たとなれば、この街にまで必ず波及する。すぐに防衛準備を整えなければならん」

「つまり……ダータルカーンも狙われる可能性が高いってことですね」
「ああ。おそらく奴らは、“セレスティア”の所在を探っている」

 セレスがはっと顔を上げた。
「わたくしを……?」

「そうだ。聖女を失えば、人々の信仰心を揺さぶれる。奴らにとって、最大の標的になるだろう」

 空気が重く張り詰める中で、僕は深く息を吐いた。
「……分かりました。じゃあ決まりだな」

「セージ君?」
 リンカが僕を見つめる。

「僕らが王都に行き、イグニスを討つ」

「ん……それが1番。ルミナスも一緒」
「わたくしも……戦います」
 セレスの瞳に、迷いはなかった。

「ギルド長、僕らは王都にいきます。恐らくこの町も襲撃されるでしょう。国家中枢が機能を失えば、この国の屋台骨が揺らいでしまう」

「ああ。色々ときな臭い噂のある王家だが、それでも国の中心であることに変わりはないからな。任せられるか?」

「きっと僕らにしかできないでしょう。王都が完全に堕とされる前になんとかしないと」

 仲間たちの決意を感じ、僕は強く頷いた。

 こうして――王都襲撃の報せは、僕たちに新たな戦いの幕開けを告げた。

◇◇◇

 王都襲撃の知らせから数日後。
 ダータルカーンの街には、次々と避難民が流れ込んできていた。

 荷車にわずかな家財を積んだ家族。衣服が煤で黒くなった男。泣き叫ぶ子どもを抱きしめる母親。
 彼らの顔には疲労と絶望が色濃く刻まれていた。

「水はこちらです! 落ち着いて、順番に!」
 冒険者ギルドや商会の人々が手分けして対応しているが、それでも人の波は絶えない。

 セレスは街の入り口で避難民に寄り添い、傷を癒し、励ましの言葉をかけていた。
「どうか、ご安心ください。ここでは誰も、あなた方を傷つけたりはしません」
 その声には慈愛と力が宿り、疲れ切った人々の表情が少しずつ和らいでいく。

 ルミナスが僕に耳打ちする。
「セレス……隠しても、雰囲気……出てる。人、勝手に癒される」
「そうだな……。目立ちすぎると危険だが、止めるのも難しい」

 やがて、王都から逃げ延びてきた冒険者たちも酒場に集まり始めた。
 彼らは仲間を失い、憔悴した様子で酒を煽りながら、口々に語る。

「炎だ……街全体が、炎に包まれた……!」
「奴は、人間じゃねえ……赤黒い髪に、燃えるような瞳……」
「大剣を振り下ろすたびに、建物が丸ごと火柱になった……あんなの、勝てるわけがねえ!」

 その証言に場は凍りつく。冒険者たちでさえ恐怖に震えているのだ。

 リンカが隣で小さく呟いた。
「……やっぱり、イグニス」
 セレスも蒼ざめた顔で唇を噛む。
「“烈火の魔将”……その存在、教典の外伝にだけ記されていました。まさか、本当に……」

 ギルド長が皆の前に立ち、低い声で言った。
「どうやら、ベアストリア教団がとうとう本格的に動き出したようだ。奴らが王都を炎に沈めたのは、ただの示威行動にすぎん。次に狙われるのは――この街だ」

 場の空気が一気に重くなる。

「既に出発準備は整いました。すぐにでも出発します」
「頼んだぞ」


 その夜から、ダータルカーンの空気は一変した。
 街全体が一丸となり、まるでひとつの巨大な兵器のように動き始めたのだ。

 大工たちは休む間もなく松明を掲げ、城壁の修復に取り掛かっていた。石材を運ぶ音、槌の響き、指揮官の怒号が絶え間なく響く。
 冒険者の一団は石垣に魔法を重ね、火炎や衝撃に耐えられるよう補強を施す。街路には杭が打たれ、緊急時に封鎖できる落石や鉄扉の仕掛けが組まれていく。

 ギルド長を中心に冒険者達は部隊編成を行い、各パーティーが「どの門を守るのか」「どの避難路を確保するのか」を厳しく割り振られた。
 古参のベテランは若手を励まし、若手は不安を抱えながらも武器を研ぎ澄ます。仲間を鼓舞する掛け声があちこちから響くが、その裏には確かに恐怖が混じっていた。

 住民たちは荷をまとめ、避難経路を確認していた。泣き叫ぶ子供を抱きしめる母親、家畜を連れて走る農夫、祈りの言葉を呟く老人――。
 それでも「セージ様がいる」「リンカ様がいる」「ルミナス様が魔法で守ってくれる」という噂が走り、絶望だけではない希望の色も街に灯り始めていた。

 僕たちもまた、個々に備えを進めていた。
 剣を磨き、呼吸を整え、フィーリングリンクを通じて互いの能力の最適化を図る。リンカは矢羽根を一本一本点検し、ルミナスは黙々と魔力の流れを整えている。
 アンナは相変わらず無表情で僕の鎧の留め具を直しながら、「セージ様、緊張しすぎは皺になりますよ」とさらりと冗談を投げかけてきた。




 そして、セレスは街の中央広場に立ち、両手を組んで祈りを捧げていた。
 その姿は夜の闇に浮かぶ灯火のようで、彼女を中心に白銀の光が広がり、街全体を柔らかく包んでいく。
「この光が、どうか人々を守りますように……」
 彼女の声は、ただの祈りではなかった。力を宿した聖句そのものだ。光は聖なる結界へと変わり、街全体に張り巡らされていく。


 その姿を見つめながら、胸の奥に熱いものが込み上げた。
 リンカやルミナス、エリスやアンナ、メイドの仲間たち――そしてセレス。大切な人達を守るために僕はここに立っている。
 
 そして僕らは、その日のうちに王都に向けて出発した。
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