地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

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脅威・未だ健在~第2部 完~

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 戦いから数日後。
 王都の街並みはまだ瓦礫に覆われていた。崩れた塔、焦げついた石壁、そして広場に残る黒い痕跡。人々の表情には深い疲労が刻まれていたが、それでも少しずつ、瓦礫を運ぶ手、互いを助け合う声が増えてきていた。街は、痛みに耐えながらも生きようとしていた。

 そんな中、僕たちは王城に招かれていた。

 戦火の余韻を残す王都の中心――半壊した王城の広間に、急ごしらえの玉座が据えられていた。
 本来なら豪奢な装飾で彩られていたはずの謁見の間は、今や瓦礫と煤に覆われ、天井は黒く焦げ、壁面には大きな亀裂が走っている。
 その荒れ果てた空間に、威厳を示すために整えられた赤い絨毯が一本だけ敷かれ、その先に座するのは――この国の頂点、国王その人であった。

 王は鎧の下に包帯を巻き、負傷しているのは明らかだった。だがその姿勢は正しく、鋭い眼光には老いをものともしない覇気が宿っている。
 左右に並ぶ騎士団の生き残り、冒険者たち、そして震えるようにひれ伏す貴族たち。場の空気は厳粛にして張り詰め、ただ一言一言が国の未来を定めるかのような緊張感に包まれていた。

 王の傍らに控えた侍従が、黄金に輝く宝飾の勲章を盆に載せて運ぶ。
 その勲章は、王国において最高位の栄誉を示す「双竜章」。王族に等しい功績を挙げた者のみに授与されるものであり、民衆にとっては伝説と同義の存在だった。

「セージ・タブリンス――いや、今やタブリンスの名を超えて、王都を救った真の英雄よ」
 国王の声は低く、だが力強く広間に響き渡る。
「汝とその仲間の奮闘なくして、この王都は灰燼と化していたであろう。我が国はその恩義を決して忘れぬ。ゆえにここに、王国最高の勲章を授ける」

 侍従が一歩進み出て、玉座の前に跪いたセージの胸に勲章を掲げる。
 周囲の冒険者や市民代表は息を呑み、崩れ落ちた王都に希望を与えた英雄の姿を目に焼き付けるように凝視していた。
 リンカ、ルミナス、セレス、そしてエリスら仲間たちもその光景を見守りながら、誇らしげに、あるいは感慨深く視線を交わしていた。

 黄金の装飾が施された勲章が、静かに僕の首に掛けられる。冷たい金属の重みが胸を叩き、思わず息を呑んだ。
 その瞬間、広間にいた冒険者や騎士たちが一斉に歓声を上げる。拍手の音が響き、誰もがその勝利を分かち合おうとしていた。

 ――けれど、僕の心は落ち着いていた。
 勲章や名誉などよりも、仲間が無事でここに立っている。それこそが、僕にとって何より大事なことだった。戦闘の最中、何度も死の影がよぎった。誰かを失うかもしれない恐怖に、全身を締めつけられた。だからこそ今、この場に揃っている事実だけで胸がいっぱいになる。

 胸元に冷たい金属の感触が残っている。双竜章――王国最高の栄誉。
 僕は一歩進み出て、右手を胸に当て、国王陛下へ深く頭を垂れた。

「陛下。身に余るお言葉とご厚情、痛み入ります。ですが――僕は、憎しみで戦いません。守りたい人たちの笑顔のために剣を振るいます。今回の勝利も、僕ひとりの力ではなく、仲間と、この街に生きる多くの人々が繋いでくれた結果です」

 顔を上げる。煤で曇った天井越しに、揺れる灯の光が差し込んでいた。

「勲章はありがたく拝受します。ただ、もし復爵や領地拝領、家名の回復をお考えでしたら――辞退させてください。僕は一度、家を追われました。いまは仲間と作った新しい居場所があり、その自由さこそが、皆を守るための力になっていると信じています」

 広間に微かなざわめきが走る。王は目を細め、促すように頷いた。言うべきことは、ここで言う。

「無礼を承知の上で、三つだけ願いがあります。 一つ、復興を最優先に。今回押収したベアストリア教団と協力者の資産を、罹災者支援と城都の再建に充ててください。新たな増税は、人々の心を折ります」

 王都の混乱にかこつけて権力を手中に収めようとした悪辣貴族は、皮肉にもイグニスの予想以上の大暴れによって命を失った。

 更には王家の混乱に乗じて国家転覆を謀っていた者もおり、それらは軒並みあぶり出される事になった。

 これも魔将による王都焼き討ちの副次効果ともいうべき皮肉な結果だった。

 つまるところ、自分達が引き入れた悪によって、自分達の悪事が失敗に終わったわけだ。

「二つ、出自や種族で人を量らないでください。銀狐族である妻リンカ、そして魔族の少女ルミナスは、僕の誇る仲間です。彼女たちに正式な滞在許可と身分証を与え、差別と私刑から庇護していただきたい。彼女たちはこの国に害をなす存在ではありません。今日、誰よりも王都のために戦いました」

 僕らは身につけていた「幻色の腕輪」を外し、本来の髪色も戻る。ただし、セレスは除く。

「おおっ、まさか幻の銀狐族」

「そうです。私はこの国のとある貴族の欲望によって奴隷として売られ、闇のオークションに掛けられました。幸いにしてここにいる彼に救われましたが、そうでなければ今頃どうなっていたか。あのような腐敗した組織を放置していた国家の怠慢にも、責任があるとハッキリと申し上げます」

「うむ。それについては誠に申し訳なく思っている。この王国の貴族の腐敗は、もはや余1人の力ではどうしようもなかった。誠に情けない限りだ」

「三つ、迷宮と教団に関する調査許可を。ギルドとミルミハイド商会と連携し、王家の認可の下で自由に動ける通行証と情報共有の枠組みが欲しい。七魔将は、イグニスで終わりではありません。次は、もっと深く静かに忍び寄る脅威が来ます」

 言い切ると、喉がからからに乾いているのに気づいた。けれど、迷いはない。
 僕は視線だけで仲間に合図を送る。リンカは静かに頷き、セレスは胸の前で指を組み「どうか」と祈るように目を伏せ、ルミナスはいつもの調子で小さく親指を立てた。

「最後に――この勲章は、僕たち全員へのものだと、そう受け止めています。陛下。どうかこの国を、皆で守らせてください。僕は、そして僕たちは、これからも前に出ます。恐怖ではなく、希望のために」

 王はゆっくりと立ち上がった。半壊の玉座の間に、その影は大きく伸びる。
 僕は背筋を伸ばす。ここで交わされる約束が、この国の明日を決める――そんな確信を抱きながら。

「セージ」
 王族のひとりが、玉座の脇から一歩前に進み出た。髪に銀糸を織り込み、冷たい光を宿す眼差しを向けてくる。
「そなたはタブリンス家の血を引く者であろう」
 その声は澄み切っていながらも、鋭い刃のように冷ややかだった。
「廃嫡とはいえ、その才覚はもはや隠せぬ。王都も領地も荒れている今こそ、タブリンスの名を掲げ、領地を立て直すべきではないか?」

 広間がざわめく。
 その提案は、多くの騎士や貴族にとっても衝撃だったのだろう。

 僕は一度、深く息を吐き、静かに首を横に振った。

「僕は……もうタブリンス家の者じゃありません」

「なに……?」
 低いざわめきが再び広間を駆け抜ける。

「捨てられたんです。『地味なスキル』だと決めつけられて。だから僕は、セージ・タブリンスじゃなく、ただのセージです」

 空気が張り詰める。
 けれど僕は怯まず、言葉を続けた。

「領地をもり立てることはできません。でも、この仲間たちと共に、国を、人を守ることはできます。それが今の僕の道です」

 横にいるリンカが、小さく、しかし力強く頷く。
 ルミナスもセレスも、無言のまま揺るがぬ瞳で僕を見守ってくれる。
 ――僕はもう、一人ではない。

 王族たちは互いに視線を交わし合い、短い沈黙が流れる。やがて、国王が重々しく頷いた。

「……よかろう。汝の覚悟、確かに受け取った。国は混乱の真っ只中にある。だが、腐敗した貴族はほとんどが今回の焼き討ちでその力を失った。これから闇組織も台頭してこよう。必ずやこれを討伐すると誓う」

 その声には、試すような色はもはやなかった。ただ一人の戦士として、僕の決意を認める響きだった。

「――勇敢なる冒険者たちよ。お前たちの働きにより、王都は再び日の光を取り戻した」

 言葉と共に、僕たちの胸に勲章が授けられる。
リンカは照れたように背を丸め、ルミナスはきょとんと首を傾げ、セレスは神妙に膝を折って受け取った。
僕はただ、肩にずしりと重さを感じながら、背後に広がる仲間の顔を思い浮かべる。

 だが、その直後――国王の表情は険しさを帯びた。

「しかし、我らが戦いは終わったわけではない。ベアストリア教団の残党どもは未だ各地に潜み、爪を研いでいる」

 広間の空気が張り詰める。
王都での地獄を体験したばかりの兵士や貴族たちの顔に、暗い影が差した。

 国王は続ける。

「特に憂うべきは……タブリンス領だ。最近、そこに不審な集団の出入りが報告されている。どうやら教団の魔手が、そなたの故郷にまで伸びているようなのだ」

 息が詰まった。
タブリンス領――僕がかつて“出来損ない”と追放された場所。

「セージ……」とリンカが僕の名を呼ぶ。

 胸の奥に複雑な感情が渦巻く。
怒り、憎しみ、そして……まだ消えない故郷への未練。

 国王は重く頷いた。

「烈火の魔将イグニスを討ったことで、奴らは必ず次の手を打ってくる。七魔将は残り六……その一部がタブリンス領にて暗躍している可能性が高い」

 広間にざわめきが走る。
僕は拳を握り、静かに答えた。

「……分かりました。僕たちが確かめに行きます」

 こうして、王都防衛の戦いは終幕を迎えた。
だが同時に、次の戦いの火種――僕の故郷、タブリンス領を舞台にした戦乱が始まろうとしていた。

 ――終わりじゃない。これからが本当の始まりなんだ。
 心の奥でそう呟いた時、謁見の間の扉が開いた。

 瓦礫の片付けを終えた人々、そして命からがら避難した王都の民たちが集まってきていたのだ。
 誰もがやつれ、疲労で足取りは重い。それでも彼らの瞳には、確かな光が宿っていた。

「セージ様だ……!」
「烈火の魔将を討った英雄だ!」
「皆が生き延びられたのは、この人たちのおかげだ!」

 最初は小さな声だった。しかしそれは波紋のように広がり、やがて大きな歓声となって謁見の間を満たしていく。
 荒れ果てた石の大広間に、人々の拍手と声援が反響し、その響きが胸を打つ。

 僕は思わず拳を握った。――あの戦いは決して無駄じゃなかったのだ。
 仲間の命を賭して挑んだ日々が、確かに人々の未来へ繋がっている。

「セージ君……よかったね」
 リンカが隣で小さく微笑む。彼女の頬にはまだ涙の跡があった。
「でも、私たちも本当に限界だった。あの時、セージ君が倒れていたら……きっと……」
 声が震え、言葉が続かない。僕はそっと彼女の手を握った。

「リンカ……ありがとう。君が隙を見抜いてくれたから勝てたんだ」

「ん……」
 ルミナスも不器用に言葉を絞り出す。
「セージ……よく、立ってた。炎に焼かれそうで……でも、倒れなかった。だから、勝てた」
 彼女はいつも通り淡々としていたが、指先は小さく震えていた。

「わたくしも……」
 セレスが胸の前で手を重ね、涙を滲ませながら言う。
「祈りだけでは足りないと思っていました。でも、皆さまの力に重ねることができて……初めて『役に立てた』と思えました」

「何言ってるんだ。あの光がなかったら、俺たちは今ここにいない。セレスのおかげだ」
 そう告げると、彼女は俯いて肩を震わせ、それでも微笑みを見せた。

 王都の民の声援、仲間たちの安堵の笑み。
 その全てが胸に刻まれていく。

 けれど――。
 あの囁きが残した言葉は、消えることはなかった。

 七魔将はまだ揃っている。
 烈火のイグニスを超える存在が、確実に世界のどこかで牙を研いでいる。

 歓声の渦の中で、僕は誰にも気づかれぬように拳を強く握った。
 ――次の戦いに備えるために。



~第2部 完~
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