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戦いの余韻と小さな日常
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王都の空を覆っていた赤黒い炎は消え去り、ようやく青空が戻ってきた。
崩れ落ちた石造りの街並みからは、瓦礫を片付ける市民たちの掛け声が響く。
泣き声や嘆きもあったけれど、それ以上に「生き残れた」安堵の声が溢れていた。
不幸中の幸いだったのは、王都で略奪や物資の奪い合いなどの争いが起きず、住民達が率先して協力していることだ。
王家も積極的に支援物資を配り、兵士達により救助活動、復旧活動も目立っている。
この機に乗じて国家を乗っ取ろうとする貴族はおらず、そういう輩は皮肉にもイグニスの軍団が国内で大暴れした為に勢力を削がれていた。
僕たちも、戦いの緊張から解放されて、久しぶりに深呼吸する。
リンカが僕の隣で伸びをして、長い尻尾をふわりと揺らした。
「セージ君、今日はもう戦いはなし。絶対に休みよ。街の人たちだって、あなたを英雄みたいに見てるんだから」
「英雄なんて柄じゃないよ。僕はただ……守りたいと思っただけさ」
「ふふっ、そういうところが好きなのよ」
照れたように笑うリンカ。その笑顔を見ているだけで、不思議と疲れが和らいだ。
広場では、ルミナスが屋台の前で首をかしげていた。
「……焼きリンゴ? ルミナス、食べる」
「ルミナス、それ三つ買ってきてくれるか? みんなで食べよう」
「ん。了解。ご主人様の頼み、最優先」
相変わらず律儀な口調。けれど焼きリンゴを受け取ったときの、嬉しそうな瞳の輝きは隠せていなかった。
エリスとアンナは復興の手伝いをしていた。
「セージ様、瓦礫の除去に人手が足りておりません。わたくしどもも手を貸してまいります」
「アンナ、あなたは力仕事よりも指揮をお願いしますわ。表情は変わらなくても、あなただと人が自然と動いてくれますもの」
「……承知しました。ですがご主人様、褒美は後ほどいただきます。夜に」
「え、褒美って何を──」
「秘密です」
無表情のまま、さらりと誘惑めいた言葉を残して立ち去るアンナ。ああ、これはまた夜に悩まされそうだ。
少し離れた路地では、メイドの四人――ミレイユ、シャミー、アーリア、レイシスが子供たちに囲まれていた。
「わぁ! お姉ちゃんたち、メイドさんなの?」と無邪気な声が響く。
シャミーは胸を張って得意げに答える。
快活な笑みを浮かべて「そうよ~。でもね、ただのメイドじゃなくて、ご主人様を守るカッコいいメイドなの!」と元気いっぱいに言うと、子供たちは目を輝かせた。
アーリアはおずおずと手を胸に当て、小さくうなずいた。
「む、無茶はしません。けれど……ご主人様を守れるなら、私……」と口にした声は小さかったが、その瞳には芯の強さが宿っていた。
レイシスはツンとした表情のまま、しかし子供たちを優しく見守りながらきっぱりと言った。
「はいはい、皆様。瓦礫の上に登ってはいけません。お怪我をなさいますよ」
僕が声をかけると、子供たちを背にしていたミレイユがこちらを振り返り、柔らかく微笑んだ。
「セージ様……あの子たちにとって、あなたはもう希望の象徴なんです。どうか、それを忘れないでくださいね」
王都の石畳に、民衆の歓声が渦を巻いていた。
「英雄だ!」「セージ様が、イグニスを討ったんだ!」
握られた拳、振られる旗、涙を流して僕らに手を伸ばす人々。その熱気は、炎で焼け焦げた街の痛みさえかき消すほどだった。
――英雄。
その言葉に、胸がちくりと痛んだ。僕はかつて、この王都で「出来損ない」と罵られ、タブリンス家から追放された。民衆の歓声は耳に届くのに、心は素直に喜べない。
それでも前に進む僕の手を、リンカがそっと握る。
「セージ君。胸を張って。あなたがいたから、ここまで来られたんだよ」
銀狐族の耳が風に揺れ、彼女の瞳が真っ直ぐ僕を射抜く。その温かさに、少しだけ重荷が軽くなる。
横でルミナスが、いつもの淡白な調子でぽつりと漏らす。
「セージ。今、人気者。すごい。女の子、いっぱい見てる」
ドヤ顔までつけてからかってくるのだから、彼女らしい。思わず苦笑いがこぼれた。
エリスは柔らかな笑みを浮かべ、僕の背を支えるように立つ。
「あなたはもう“出来損ない”なんかじゃないわ。王都の人々が、ちゃんと証明してくれたじゃない」
彼女の言葉は静かだが、どこか誇らしげで、優しかった。
セレスは胸に手を当て、小さく祈るように囁いた。
「……わたくしも、この目で見ました。あなたが人々を救ったことを。ですから、どうかご自分を責めないで」
聖女の気品と、ひとりの少女の素直な想いが混ざった声。彼女が寄り添うと、不思議と心が落ち着いた。
さらに、メイド妻たち――ミレイユ、シャミー、アーリア、レイシス、そしてアンナまでもが、僕の両側に並んでくる。
「ご主人様、今日くらいは誇ってくださいませ」
真面目なレイシスに、シャミーが満面の笑みで重ねる。
「だよだよ! セージ様、やっぱり世界一かっこいいー!」
アーリアは無言で頷き、ミレイユはただ優しく微笑んでいた。そしてアンナは、例によって無表情のまま。
「セージ様。今宵は褒美をいただけるのでしょうか」
その顔のまま誘惑してくるのだから、反則だろ……。
「ダメよ。セージ君は今夜は私達がご褒美あげるんだから♡」
そ、それは一体どんなご褒美なのだろうか……。
英雄視される喧騒の中で、僕の心にまだ「追放者」の影は残っている。けれど、こうして寄り添ってくれる人たちがいる。
――だから僕は、また歩き出せる。
崩れ落ちた石造りの街並みからは、瓦礫を片付ける市民たちの掛け声が響く。
泣き声や嘆きもあったけれど、それ以上に「生き残れた」安堵の声が溢れていた。
不幸中の幸いだったのは、王都で略奪や物資の奪い合いなどの争いが起きず、住民達が率先して協力していることだ。
王家も積極的に支援物資を配り、兵士達により救助活動、復旧活動も目立っている。
この機に乗じて国家を乗っ取ろうとする貴族はおらず、そういう輩は皮肉にもイグニスの軍団が国内で大暴れした為に勢力を削がれていた。
僕たちも、戦いの緊張から解放されて、久しぶりに深呼吸する。
リンカが僕の隣で伸びをして、長い尻尾をふわりと揺らした。
「セージ君、今日はもう戦いはなし。絶対に休みよ。街の人たちだって、あなたを英雄みたいに見てるんだから」
「英雄なんて柄じゃないよ。僕はただ……守りたいと思っただけさ」
「ふふっ、そういうところが好きなのよ」
照れたように笑うリンカ。その笑顔を見ているだけで、不思議と疲れが和らいだ。
広場では、ルミナスが屋台の前で首をかしげていた。
「……焼きリンゴ? ルミナス、食べる」
「ルミナス、それ三つ買ってきてくれるか? みんなで食べよう」
「ん。了解。ご主人様の頼み、最優先」
相変わらず律儀な口調。けれど焼きリンゴを受け取ったときの、嬉しそうな瞳の輝きは隠せていなかった。
エリスとアンナは復興の手伝いをしていた。
「セージ様、瓦礫の除去に人手が足りておりません。わたくしどもも手を貸してまいります」
「アンナ、あなたは力仕事よりも指揮をお願いしますわ。表情は変わらなくても、あなただと人が自然と動いてくれますもの」
「……承知しました。ですがご主人様、褒美は後ほどいただきます。夜に」
「え、褒美って何を──」
「秘密です」
無表情のまま、さらりと誘惑めいた言葉を残して立ち去るアンナ。ああ、これはまた夜に悩まされそうだ。
少し離れた路地では、メイドの四人――ミレイユ、シャミー、アーリア、レイシスが子供たちに囲まれていた。
「わぁ! お姉ちゃんたち、メイドさんなの?」と無邪気な声が響く。
シャミーは胸を張って得意げに答える。
快活な笑みを浮かべて「そうよ~。でもね、ただのメイドじゃなくて、ご主人様を守るカッコいいメイドなの!」と元気いっぱいに言うと、子供たちは目を輝かせた。
アーリアはおずおずと手を胸に当て、小さくうなずいた。
「む、無茶はしません。けれど……ご主人様を守れるなら、私……」と口にした声は小さかったが、その瞳には芯の強さが宿っていた。
レイシスはツンとした表情のまま、しかし子供たちを優しく見守りながらきっぱりと言った。
「はいはい、皆様。瓦礫の上に登ってはいけません。お怪我をなさいますよ」
僕が声をかけると、子供たちを背にしていたミレイユがこちらを振り返り、柔らかく微笑んだ。
「セージ様……あの子たちにとって、あなたはもう希望の象徴なんです。どうか、それを忘れないでくださいね」
王都の石畳に、民衆の歓声が渦を巻いていた。
「英雄だ!」「セージ様が、イグニスを討ったんだ!」
握られた拳、振られる旗、涙を流して僕らに手を伸ばす人々。その熱気は、炎で焼け焦げた街の痛みさえかき消すほどだった。
――英雄。
その言葉に、胸がちくりと痛んだ。僕はかつて、この王都で「出来損ない」と罵られ、タブリンス家から追放された。民衆の歓声は耳に届くのに、心は素直に喜べない。
それでも前に進む僕の手を、リンカがそっと握る。
「セージ君。胸を張って。あなたがいたから、ここまで来られたんだよ」
銀狐族の耳が風に揺れ、彼女の瞳が真っ直ぐ僕を射抜く。その温かさに、少しだけ重荷が軽くなる。
横でルミナスが、いつもの淡白な調子でぽつりと漏らす。
「セージ。今、人気者。すごい。女の子、いっぱい見てる」
ドヤ顔までつけてからかってくるのだから、彼女らしい。思わず苦笑いがこぼれた。
エリスは柔らかな笑みを浮かべ、僕の背を支えるように立つ。
「あなたはもう“出来損ない”なんかじゃないわ。王都の人々が、ちゃんと証明してくれたじゃない」
彼女の言葉は静かだが、どこか誇らしげで、優しかった。
セレスは胸に手を当て、小さく祈るように囁いた。
「……わたくしも、この目で見ました。あなたが人々を救ったことを。ですから、どうかご自分を責めないで」
聖女の気品と、ひとりの少女の素直な想いが混ざった声。彼女が寄り添うと、不思議と心が落ち着いた。
さらに、メイド妻たち――ミレイユ、シャミー、アーリア、レイシス、そしてアンナまでもが、僕の両側に並んでくる。
「ご主人様、今日くらいは誇ってくださいませ」
真面目なレイシスに、シャミーが満面の笑みで重ねる。
「だよだよ! セージ様、やっぱり世界一かっこいいー!」
アーリアは無言で頷き、ミレイユはただ優しく微笑んでいた。そしてアンナは、例によって無表情のまま。
「セージ様。今宵は褒美をいただけるのでしょうか」
その顔のまま誘惑してくるのだから、反則だろ……。
「ダメよ。セージ君は今夜は私達がご褒美あげるんだから♡」
そ、それは一体どんなご褒美なのだろうか……。
英雄視される喧騒の中で、僕の心にまだ「追放者」の影は残っている。けれど、こうして寄り添ってくれる人たちがいる。
――だから僕は、また歩き出せる。
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