地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

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出発前の迷い

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 王城での謁見を終え、勲章と人々の声援を受け、僕らはタブリンス領へ出発する準備を始めた。

 仲間たちが休んでいる静かな部屋の隅で、僕は窓辺に座り込み、外を見つめていた。

 夜の王都は闇の中に包まれ、まだ瓦礫の影を残している。
 昼間の歓声が嘘のように消え、ただ冷たい風の音だけが耳に残る。

(……僕は、本当にあの言葉通りにできるのだろうか)

 謁見の間で口にした決意。
 「僕たちが確かめに行きます」と、あれほどはっきり言った。
 けれど胸の奥はまだ揺れていた。

 思い出すのは、あの日のこと。

――「出来損ないはいらん!」

 冷たい声で浴びせられた侮蔑。
 地味なスキルだと笑われ、追放されたあの日の痛み。

 母上に対する屈辱的な言葉。

(僕はもう、タブリンス家の人間じゃない。あの土地に戻る資格なんて……あるのか? 復讐こそすれ、助けにいくなんて……いや、領民に罪はない)

 拳を握る手が震えていた。
 王都の人々は「英雄」と呼んでくれた。
 でも僕自身の心は、未だに“追い出された少年”のまま、そこから進めずにいた。

 その時だった。

「セージ君」
 背後から優しい声がした。

 振り返ると、銀色の髪を月光に照らしたリンカが立っていた。
 彼女は静かに歩み寄り、僕の隣に腰を下ろす。

「……眠れないの?」
「……少しだけ」

 答えると、リンカは僕の手を取って、そっと握った。
 温もりが伝わり、張り詰めた心が少しずつほぐれていく。

「セージ君が迷うのは当たり前だよ。だって、辛い思いをした場所に戻るんだもの」
 リンカの声は夜風よりも穏やかだった。

「でもね、ひとりで背負わなくていいの。私たちが一緒にいる。だから、胸を張っていいんだよ」

 その眼差しは真っ直ぐで、揺らぎがなかった。
 英雄と讃えられるよりも、その一言が何より胸に沁みた。

「……ありがとう、リンカ。僕は、まだ弱いな」
「違うよ」
 リンカは微笑み、首を振った。
「弱さを隠さないでいられるのが、セージ君の強さ。私はそう思う」

 その言葉に、胸の奥が静かに温かくなる。
 もう逃げられない。けれど――支えてくれる仲間がいる。

 夜空の下で、僕はそっと息を吐き、拳を握り直した。
 ――必ず、この迷いを力に変える。
 そう自分に言い聞かせながら。


◇◇◇

 翌日。
 僕たちは王都の冒険者ギルドを訪れていた。
 半壊した街を復興するため、昼夜を問わず人々が働いている。その熱気を反映するように、王都ギルドもまた人で溢れていた。

 扉を開けた瞬間、酒場兼広間にいた冒険者たちの視線が一斉にこちらへ向いた。

「おい……セージじゃねえか」
「烈火の魔将を倒した英雄だ!」

 どよめきと歓声。
 かつてタブリンス家に出入りしていた冒険者の顔もいくつか見える。彼らは驚きと戸惑いを入り混じらせながらも、かつて“出来損ない”と呼ばれた僕が今ここに立っていることを受け止めていた。

 場の喧騒を静めるように、奥から現れたのは王都ギルドを束ねる長だった。
 初対面の人物だが、その堂々たる風格と眼差しには歴戦の冒険者としての重みがあった。

「セージ・タブリンス。……いや、英雄セージと呼ぶべきか。王城での報せは届いている。タブリンス領で不穏の影が報告されているそうだな」

 広間に緊張が走る。
 僕は頷き、仲間と共に席についた。

「陛下に告げられました。教団の魔手が故郷に伸びていると。だから……僕たちが確かめに行くつもりです」


 静かに言葉を置くと、冒険者たちがざわめいた。
「やっぱりセージならそう言うと思ったぜ!」
「だが相手は教団や魔将の残党だ。並の冒険者じゃ太刀打ちできねえ」

 緊張が漂う中、セレスが祈るように声を上げる。
「人々が絶望すれば、闇はさらに広がります……」

 エリスは冷静に言葉を添えた。
「視察という名目がある今こそ好機です。介入すれば大義も立ちます」

 リンカが僕に視線を向け、穏やかに微笑む。
「セージ君。昨日の答えを、もう一度みんなに聞かせてあげて」

 その眼差しに背を押され、僕は広間を見渡した。
 仲間、冒険者、ギルド長――無数の視線が集まっている。


「……僕は逃げません。タブリンス領に行き、民を見捨てず、教団の影を暴きます。これは王命だからではなく、僕たち自身の意思です」

 一瞬の静寂。
 そして次の瞬間、広間は割れるような歓声に包まれた。

「よく言った、セージ!」
「お前が行くなら、俺たちも支える!」
「セージなら必ずできる!」

 熱気に満ちた声が広がり、瓦礫に沈んだ王都に新しい希望が芽生えていく。
 その期待を背に受けながら、僕は心の中で決意を新たにした。

 ――次の戦いは、故郷タブリンス領から始まる。


◇◇◇


 王都ギルドでの会議を終え、宿へ戻った夜。
 窓辺で外を眺めていると、扉が控えめにノックされる。

「セージ様。失礼いたします」

 入ってきたのは、メイド服に身を包んだ四人の少女たち――ミレイユ、シャミー、アーリア、そしてレイシスだった。
 彼女たちの表情には普段の柔らかさではなく、固い決意が宿っていた。

「セージ様」
 先頭に立ったミレイユが一歩進み出る。
 落ち着いた声で、それでいて静かな熱を込めて告げた。

「どうか私どもも、タブリンス領へお連れください。戦う術はございません。ですが……そばにいることはできます。セージ様がどれほど強くなられても、孤独は人を蝕みます。だから、共にお支えしたいのです」

 その言葉は控えめでありながら、揺るぎないものだった。

「そうだよ!」
 茶髪のシャミーが元気よく声を重ねる。
「シャミー達は戦えないけど、荷物持ちでも、火の番でも、洗濯でも、なんでもやります! ……セージ様が前を向く時、必ず背中を支えるもんっ!」

 その笑みには無邪気さと忠誠心が同居していた。

 アーリアは言葉少なに本を胸に抱きしめ、小さく頷く。
「……セージ様のお傍に。……それだけで、十分でございます」

 寡黙だが、その短い言葉に彼女の強い意志が込められていた。

 最後にレイシスが姿勢を正し、凛とした声で言い切る。
「我らはセージ様に仕える者。主の御身が危機に晒されるのであれば、共に赴き、お支えするのは職務として当然でございます。非戦闘員であることは承知しております。ですが、盾となり命を投げ打つ覚悟ならば、既にございます」

 その誓いに、僕は胸を突かれた。
 言葉を探しながら、ようやく絞り出す。

「……でも、君たちは戦えない。タブリンス領は危険だ。僕は、君たちを巻き込みたくない」

 そう口にした時、四人の視線が揃って僕に向けられた。
 そしてミレイユが静かに首を振る。

「巻き込まれるのではございません。自らの意思で、セージ様のお傍に立ちたいのです」

 その言葉に、胸の奥が熱くなる。
 守らなければならない存在だと思っていた。
 けれど彼女たちは――守られるだけの存在ではなく、心から僕を支えようとしている。

「……分かった。危険からは僕が守る。でも……君たちが僕の隣にいたいと願うなら、僕は拒まない。どうか、支えてほしい」

 四人は揃って深く一礼した。
 その姿に、ただ胸がいっぱいになった。
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