地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

文字の大きさ
79 / 137
71~80

セレスの葛藤

しおりを挟む
 翌朝、王都を出る準備が始まった。
 武具の整備、物資の調達、情報の収集――旅路に必要なすべてを整えなければならない。

 広間では、エリスが帳簿と地図を広げて、きびきびと指示を飛ばしていた。

「保存食は最低一か月分。さらに、メイドたち総出で腕によりを掛けた料理を詰め込みました。ストレージなら劣化もこぼれもありませんから、安心ですわ。……それと、リンカお姉様の特製フラムシープのミートスープも、たっぷりと」

 その言葉に、リンカが頬を赤らめて視線を逸らす。
「セージ君が……いつも一番おいしそうに食べてくれるから……。たくさん作っちゃったの」

 僕は思わず笑みを浮かべ、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「……ありがとう、リンカ。あのスープがあるだけで、どんな旅でも乗り越えられる気がするよ」

 その一言に、仲間たちの空気が和み、ミレイユが小さく微笑んで頷き、レイシスは「主様の活力の源でございますね」と静かに言葉を添えた。

 そんな温かなやり取りをよそに――無表情のまま、アンナが口を開く。

「ご主人様。夜伽の支度も滞りなく整えております」

 広間の空気がぴしりと止まる。
 すでに誰もが共有している事実を、あまりにさらりと口にされたため、妻たちの頬が一斉に染まった。

「な、ななっ……っ! こ、ここで言うことではありませんでしょう!」
 エリスが慌てて声を上げ、リンカも耳まで真っ赤にしながら必死に手を振る。

 ルミナスはなぜか得意げに、「問題ない。ルミナス、いつでもバッチこーい」と鼻息荒く呟き、ミレイユやレイシスも咳払いをして誤魔化す。

 一方、シャミーだけは屈託なく首を傾げ、「でもセージ様、ほんとに毎回アンナが用意してくれてるじゃん?」と爆弾を投下し、場をさらなる混乱へと陥れた。

 僕は額を押さえて、ため息をひとつ。

「……アンナ。そういうことは、僕にだけこっそり伝えてくれ」
「かしこまりました、ご主人様」

 相変わらず無表情のアンナの返答に、誰も追及できず、広間は赤面と笑いに包まれる。

 しかし、エリスが調達した物資やリンカの特製スープを僕が【ストレージ】に収めていくと、空気は一変して引き締まった。

 干し肉やパン、水、そして愛情のこもった手料理が光に包まれ、次々と亜空間へ吸い込まれていく。

「……これで、どんな状況でも皆の力になる。旅の支えは万全だな」

 仲間たちは頷き合い、それぞれの胸に決意を固める。
 ――緊張と笑い、そして温かな絆を抱きながら、僕たちの旅立ちは目前に迫っていた。

◇◇◇

 王都を発つ前夜。
 仲間たちは準備を終え、それぞれの部屋で休息を取っていた。
 静まり返った廊下を歩いていると、月明かりに照らされた窓辺に、ひとり佇む影を見つける。

「……セレス」
 呼びかけると、彼女は小さく振り返り、かすかな笑みを浮かべた。

「眠れなくて……。こうして夜風に当たっていると、心が落ち着くのです」
 その声には、どこか影が差していた。

 僕は隣に立ち、しばし無言で夜空を仰ぐ。
 瓦礫が残る王都の街並み、その向こうに広がる暗い大地。――僕たちがこれから向かうのは、あの先だ。

 やがて、セレスがぽつりと口を開いた。
「……私がこの旅に加わること、本当に正しいのでしょうか。聖女としての私は、人々に希望を与える存在。けれど……同時に、混乱を呼ぶ存在でもあります。領地に着けば、きっと人々は『聖女だ』と騒ぎ立てるでしょう。それで秩序が乱れるのではと……」

 彼女の手が胸元で強く組まれる。
 その姿は、誰よりも人の心に寄り添おうとするがゆえに、自分を縛ってしまう姿だった。

 いかに腕輪で正体を隠していても、彼女の慈愛の光は人々の心に明るさと希望をもたらす。

 その心の美しさは隠しても隠しきれるものじゃない。

「もし私の存在が、領地の人々を苦しめるのなら……。私は――」

「それは違うよ、セレス」
 僕は彼女の言葉を遮った。
 その瞳を正面から見つめ、真っ直ぐに言葉を放つ。

「君がいるから守れる命がある。君がいなければ救えない人がいる。僕はそう信じている」

 彼女の瞳がわずかに揺れた。
 月光に照らされ、涙の粒がきらめく。

「……本当に、そう思ってくださるのですか?」

「もちろんだ。僕たちは、ただ力で押し切るだけの存在じゃない。人々に希望を与える存在でもあるんだ。君が隣にいるから、その希望はもっと大きくなる」

 沈黙。
 やがて、セレスは小さく微笑んだ。
 その微笑みはどこか儚げで、それでも確かな強さを秘めていた。

「……ありがとうございます、セージ様。あなたにそう言っていただけるなら……。私は、胸を張って共に歩めます」

 組んでいた両手を解き、そっと目元を拭う。
 そしてまるで祈るように、胸に手を当てて言葉を結んだ。

「どうか、この旅で……私の力が本当に誰かの救いになりますように」

 僕は頷き、彼女の肩に軽く手を置いた。
 その温もりが、彼女の震えをわずかに和らげるのを感じながら。

 ――こうして、セレスは迷いを胸に抱きながらも、一歩を踏み出す覚悟を固めたのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

社畜だった俺、最弱のダンジョンマスターに転生したので、冒険者を癒やす喫茶店ダンジョンを経営します

☆ほしい
ファンタジー
過労死した俺が目を覚ますと、そこは異世界のダンジョンコアの前だった。 どうやら俺は、ダンジョンマスターとして転生したらしい。 だが、与えられた俺のダンジョンは最低ランクのF級。魔力を生み出す力は弱く、生み出せる魔物もスライムやゴブリンといった最弱クラスばかり。これでは、冒険者を呼び込んで魔力を得るなんて夢のまた夢だ。 絶望する俺だったが、ダンジョンの創造機能を使えば、内装を自由にデザインできることに気づく。 「……そうだ、喫茶店を開こう」 前世で叶えられなかった夢。俺は戦闘を放棄し、ダンジョンの入り口に木造の喫茶店『やすらぎの隠れ家』を作り上げた。メニューは、前世の知識を活かしたコーヒーと手作りケーキだけ。 ところが、そのコーヒーには異常なまでの疲労回復効果が、ケーキには一時的な能力向上効果が付与されていることが判明。噂を聞きつけた訳ありの冒険者たちが、俺のダンジョンに癒やしを求めて集い始めるのだった。

科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」 高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。 だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや—— 「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」 「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」 剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める! 魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」 魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」 神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」 次々と編み出される新技術に、世界は驚愕! やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め—— 「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」 最強の頭脳戦が今、幕を開ける——! これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語! ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

異世界複利! 【単行本1巻発売中】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる

暁刀魚
ファンタジー
 社会勉強のため、幼い頃から暮らしていた山を降りて現代で生活を始めた男、草埜コウジ。  なんと現代ではダンジョンと呼ばれる場所が当たり前に存在し、多くの人々がそのダンジョンに潜っていた。  食い扶持を稼ぐため、山で鍛えた体を鈍らせないため、ダンジョンに潜ることを決意するコウジ。  そんな彼に、受付のお姉さんは言う。「この加護薬を飲めばダンジョンの中で死にかけても、脱出できるんですよ」  コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。  かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。  もとよりそんなもの必要ない実力でダンジョンを蹂躙する中、その高すぎる実力でバズりつつ、ダンジョンで起きていた問題に直面していく。  なお、加護薬を飲まずに直接モンスターを倒すと、加護薬を呑んでモンスターを倒すよりパワーアップできることが途中で判明した。  カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...