地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

文字の大きさ
102 / 150
101~110

領都に迫る魔眼

しおりを挟む
 分体を斬り伏せたあと、僕たちは深い森を抜け、領地へ戻る道を歩んでいた。
 だが――足を進めるたび、背筋を撫でるような寒気が離れなかった。

(……消えたはずだ。確かに斬った。なのに……なぜだ?)

 森の木々はざわめき、風が葉を揺らすだけでなく、どこか僕らを「見ている」ようだった。
 振り返れば、遠くの枝にぽつりと“眼”が浮かび、こちらをじっと覗き込んでいる。

「セージ君……!」
 リンカが震える声をあげた瞬間、その眼は音もなく霧散した。

「……残滓、か」
 セレスが小さく祈りを捧げ、消えた気配に聖なる光を向ける。
「でも、これでは……倒したというより、ほんの一部を削ぎ落としただけ……」

 ルミナスは唇を噛み、拳を握った。
「ふん。分身ごときで調子に乗られたら困る。本体、必ず叩き潰す」

 ――そうだ。これは終わりじゃない。
 むしろ、これからが始まりだ。

 僕は剣を握り直し、前を向いた。
(ヴァルナ……本体は必ずいる。待っていろ。次は――逃がさない)

 森の外れに差しかかる頃、夜空にちらりと光が走った。
 それは星ではなく、歪んだ“眼”の残滓が最後に残した光。

 不吉な予感を胸に抱えながら、僕らは領地への帰路を急いだ。

◇◇◇

 領都の城壁が見えたとき、僕はようやく肩の力を抜いた。
 瓦礫だったはずの街並みは少しずつ整い始め、広場では子供たちの笑い声が響いている。

「セージ様!」
 駆け寄ってきたのはミレイユだった。両手にはまだ土のついた鍋を抱えている。
「炊き出しも順調です。皆さん、帰ってきてくださって……本当に……」
 潤んだ瞳で僕の手を握る。その温もりに、胸が少し軽くなった。

「おかえりなさいませ、セージ様」
 アンナは相変わらず無表情で頭を下げる。
「領内は異常ありません。ですが……街の者が“誰かに見られている気がする”と訴えておりまして」

 その言葉に、僕は思わず仲間と視線を交わした。
(……やはり、ここまで“眼”の影響が残っているのか)

「……セージ君」
 リンカが袖をつかみ、小声で囁いた。
「街にまで入り込んでるなら……やっぱり、本体が別にいるんだよ」

 セレスは祈りを捧げるように胸の前で手を組み、低くつぶやいた。
「神よ……どうか、人々を惑わす影を、打ち払う力を……」

 ルミナスは城門を仰ぎ見て、ふんと鼻を鳴らした。
「ちょっとやそっとじゃ終わらない。ルミナス、知ってる。あれはまだ“途中”」

 賑わう領都の空気に混じり、確かに薄暗い影が差している。
 分体を倒しただけでは、この地はまだ解放されていない。

(……ヴァルナ。本体を探し出さなきゃならない)

 心にそう誓いながら、僕は広場に集まる人々のもとへ足を進めた。



 広場には既に多くの領民が集まっていた。
 誰もが復興の喜びを分かち合っているはずなのに、目の奥には拭いきれない不安が揺れている。

「セージ様!」
 子供たちが駆け寄り、僕のマントをつかんだ。
「また魔物が出るんじゃないかって、みんな心配してるんだ……」

 小さな声に、胸が痛む。
 倒したはずの魔将の影が、まだこの地に残っている。

「大丈夫だ。君たちの未来は俺たちが守る」

 僕はしゃがみ込み、子供たちの頭を順に撫でていった。

 背後でルミナスが腕を組む。
「そのとーり。ルミナスがいる。炎でも氷でも、ぜーんぶ吹っ飛ばす」

 リンカも矢筒に手を置き、きっぱりとうなずく。
「何度だって射抜くよ。セージ君の隣で」

 セレスは両手を胸に当て、祈りを捧げていた。
「……神の御前に誓います。人々を二度と恐怖にさらさぬと」

 領民の視線が自然と集まる。
 その熱に背を押されながらも、僕の心の奥には重いものが沈んでいた。

(……本体を倒さなければ、安心なんて訪れない)

 笑顔を作りつつ、僕は仲間たちと広場を抜け、城へ向かう。
 次の一手を、ここで考えなければならなかった。



 城の作戦室に入ると、既にエリスやレイシス、アーリアたちが待っていた。

 机の上には北方の地図が広げられ、赤い印が点々と記されている。

「セージ様」
 エリスが最初に口を開いた。落ち着いた声音だが、その瞳には緊張が宿っている。
「領民の証言からして、あの“影”はまだ完全に消えておりません。商会の網でも異常な流通の乱れを掴んでいます」

 レイシスが硬い声で続ける。
「残存兵の巡回報告でも、北方の森で不可解な失踪が相次いでいます。……幻惑か、攫われているか」

 アーリアは古文書を開きながら、低く告げた。
「“千の眼は影に潜み、見えざる未来を縛る”。古代の記録に、同じ文言がありました。つまり――」

「ヴァルナは、まだ本体を隠している」
 僕が言葉を継ぐと、仲間たちが息を呑む。

「……やっぱりそうなんだね」
 リンカが矢筒に触れ、不安そうに眉を寄せた。

「なら、やることは一つ」
 ルミナスが不敵に笑みを浮かべる。
「本体、見つけて、叩く。それで終わり」

 セレスが真剣な表情で祈りの指を組む。
「その時こそ……力を合わせ、神の御名にかけて滅ぼしましょう」

 僕は深く息を吸い込み、地図の上に手を置いた。
「……ああ。ヴァルナ本体を見つけ出し、必ず討つ。それが、俺たちの次の戦いだ」

 決意が部屋の空気を張り詰めさせた。
 まだ見ぬ本体が、確かにどこかで蠢いている――。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。

猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。 もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。 すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。 主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。 ――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました―― 風景が目まぐるしく移り変わる。 天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。 移り変わる景色こそは、 第一天 ヴィロン。 第二天 ラキア。 第三天 シャハクィム。 第四天 ゼブル。 第五天 マオン。 第六天 マコン。 それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。 気付けば明星は、玉座に座っていた。 そこは天の最高位。 第七天 アラボト。 そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。 ――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...