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束の間の休息
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王都から戻ってしばらく、僕たちはダータルカーンの街で開かれる大きな祭りに足を運んでいた。
街路には提灯が並び、夜空には色とりどりの火花が打ち上がる。普段は冒険者たちの拠点としてにぎわう場所も、この日ばかりは笑い声と屋台の匂いで溢れていた。
屋台の明かりが揺れ、香ばしい匂いが夜風に混じる。どこか懐かしい、けれど僕にとっては新鮮な光景だ。
これは遠く東の果てにある島国、サクラ国伝統の「縁日」というお祭りを模したものらしい。
煉獄の騎士団の忍者、シズカさんの出身地だ。今日のお祭りのことは彼女から教えてもらった。
「……セージ君」
声に振り返った瞬間、僕は息を呑んだ。
そこに立っていたのは、浴衣姿に身を包んだリンカだった。
青地に白花模様の布が彼女の身体をしなやかに包み、腰の帯からは――堂々と銀色の尾が揺れていた。
「リンカ……幻色の腕輪を外しちゃったのか?」
思わず問いかける。これまで彼女は銀狐族であることを隠し、人前では青髪で通してきた。
リンカは一瞬だけ照れたように目を逸らし、そして静かに微笑んだ。
「うん。……もう、隠す理由はないから」
揺れる銀の髪が夜灯に映え、まるで月光を映したように輝いていた。
「王都の闇オークションの件で、冒険者ギルドのみんなには正体が知られちゃったし……。だったら、堂々としてた方がいいかなって」
「……そうか」
胸の奥に温かさが広がる。
「リンカらしいよ。その姿、すごく綺麗だ」
彼女の耳がぴくりと動き、尾が嬉しそうに揺れた。
「そ、そう言われると……なんか照れるな……」
そこへ、別の声が割り込んでくる。
「ルミナス、見参」
呟くような調子で現れたルミナスは、派手な赤と黒の浴衣に身を包んでいた。
炎を思わせる模様が布地を駆け抜け、彼女の自由奔放さをそのまま形にしたようだった。
「どう? 派手。目立つ。ルミナス最高」
腰に手を当て、どや顔。
「……いや、派手すぎないか?」
「そのとーり。派手すぎ。だから最高」
言葉が呟きのリズムで重なり、僕は苦笑するしかなかった。
さらに、しずしずと歩み出てきたのはセレスだった。
白地に金糸で織られた浴衣を纏い、祈りを込めるように胸の前で手を組む。
「どうでしょうか……似合っていますか?」
控えめに問いかけるその姿は、祭りの喧騒の中でもひときわ凛としていて、思わず見惚れてしまった。
「もちろん。誰よりも似合ってる」
僕が言葉を返すと、セレスの頬がほんのり朱に染まった。
「ありがとうございます……セージ様」
こうして三人が揃うと、祭りの光景そのものが華やかさを増した気がする。
領民たちも次々と振り返り、ざわめきが広がっていった。
(……これから祭りを楽しむんだ。戦いの日々が続いたからこそ、今日くらいは)
胸の中にそんな思いを抱いたところで、背後から声が飛んだ。
「セージ様ー! 屋台、準備整いました!」
ミレイユが元気に手を振っていた。その姿を見ながら、僕は心の中で呟く。
(シャミーも、レイシスも、アーリアも……きっとタブリンス領で同じように頑張ってるんだろうな)
どうやら、祭りの本番はこれからだ――。
祭りの通りは、笑い声と屋台の呼び込みで賑わっていた。
焼き串の香ばしい匂い、綿あめの甘い香りが風に混じり、心まで浮き立つ。
「セージ君、あれ……!」
リンカが指差した先に、的当て屋台があった。弓矢を模した木の玩具で、並んだ的を射抜く遊びだ。
「……あれは、ちょっとズルにならないか?」
「ふふん、いいじゃない。久しぶりに腕試ししたいんだ」
軽やかに矢をつがえたリンカは、弦を引き絞ると――放たれた矢は一直線に飛び、的の中心を貫いた。
次の矢も、そのまた次の矢も、すべてど真ん中。
「わ、わぁぁっ! ぜ、全部真ん中だ!」
「お姉さんすげええ!」
屋台の主が頭を抱えるほどの圧勝ぶりに、観客は大盛り上がり。
リンカは頬を赤らめながらも、得意げに尻尾を揺らした。
「ふふっ……ね? セージ君、私、まだまだ現役だよ」
「いや、現役って……君は元からプロだから」
思わず笑ってしまい、リンカの銀の髪が夜店の灯りに揺れて見えた。
◇◇◇
一方のルミナスは――輪投げの屋台で、豪快に失敗を繰り返していた。
「……よし。今度こそ。入る」
ぽすっ。輪は柱の手前で落ちた。
「おいおい、全然だめじゃないか」
「だまれ。今のは……風のせい」
「屋台の中に風は吹いてないって」
隣の子供まで笑い出す始末だ。だがルミナスは一歩も引かない。
「……ルミナス、本気。四属性解放」
ぱちぱち、と指先に微かな火花が散る。僕は慌てて止めた。
「ちょ、やめろ! ゲームに魔法を持ち込むな!」
その後も輪投げに挑み続けたルミナスは、結局ひとつも入れられず、景品の飴玉を「参加賞」として手渡されていた。
「……これは勝利。実質」
「いや、どう見ても敗北だろ」
「違う。飴を得た。ルミナス、勝利」
胸を張る彼女に、僕もセレスも呆れながら笑ってしまう。
その後のくじ引きでも「大凶」ばかり引き当て、屋台の人に同情されておまけを渡されていたのは、言うまでもない。
大凶がなんなのかよくは知らないけど、どうやら1番悪い結果だったらしいことに苦笑するしかなかった。
なんともルミナスらしい結果だ。
街路には提灯が並び、夜空には色とりどりの火花が打ち上がる。普段は冒険者たちの拠点としてにぎわう場所も、この日ばかりは笑い声と屋台の匂いで溢れていた。
屋台の明かりが揺れ、香ばしい匂いが夜風に混じる。どこか懐かしい、けれど僕にとっては新鮮な光景だ。
これは遠く東の果てにある島国、サクラ国伝統の「縁日」というお祭りを模したものらしい。
煉獄の騎士団の忍者、シズカさんの出身地だ。今日のお祭りのことは彼女から教えてもらった。
「……セージ君」
声に振り返った瞬間、僕は息を呑んだ。
そこに立っていたのは、浴衣姿に身を包んだリンカだった。
青地に白花模様の布が彼女の身体をしなやかに包み、腰の帯からは――堂々と銀色の尾が揺れていた。
「リンカ……幻色の腕輪を外しちゃったのか?」
思わず問いかける。これまで彼女は銀狐族であることを隠し、人前では青髪で通してきた。
リンカは一瞬だけ照れたように目を逸らし、そして静かに微笑んだ。
「うん。……もう、隠す理由はないから」
揺れる銀の髪が夜灯に映え、まるで月光を映したように輝いていた。
「王都の闇オークションの件で、冒険者ギルドのみんなには正体が知られちゃったし……。だったら、堂々としてた方がいいかなって」
「……そうか」
胸の奥に温かさが広がる。
「リンカらしいよ。その姿、すごく綺麗だ」
彼女の耳がぴくりと動き、尾が嬉しそうに揺れた。
「そ、そう言われると……なんか照れるな……」
そこへ、別の声が割り込んでくる。
「ルミナス、見参」
呟くような調子で現れたルミナスは、派手な赤と黒の浴衣に身を包んでいた。
炎を思わせる模様が布地を駆け抜け、彼女の自由奔放さをそのまま形にしたようだった。
「どう? 派手。目立つ。ルミナス最高」
腰に手を当て、どや顔。
「……いや、派手すぎないか?」
「そのとーり。派手すぎ。だから最高」
言葉が呟きのリズムで重なり、僕は苦笑するしかなかった。
さらに、しずしずと歩み出てきたのはセレスだった。
白地に金糸で織られた浴衣を纏い、祈りを込めるように胸の前で手を組む。
「どうでしょうか……似合っていますか?」
控えめに問いかけるその姿は、祭りの喧騒の中でもひときわ凛としていて、思わず見惚れてしまった。
「もちろん。誰よりも似合ってる」
僕が言葉を返すと、セレスの頬がほんのり朱に染まった。
「ありがとうございます……セージ様」
こうして三人が揃うと、祭りの光景そのものが華やかさを増した気がする。
領民たちも次々と振り返り、ざわめきが広がっていった。
(……これから祭りを楽しむんだ。戦いの日々が続いたからこそ、今日くらいは)
胸の中にそんな思いを抱いたところで、背後から声が飛んだ。
「セージ様ー! 屋台、準備整いました!」
ミレイユが元気に手を振っていた。その姿を見ながら、僕は心の中で呟く。
(シャミーも、レイシスも、アーリアも……きっとタブリンス領で同じように頑張ってるんだろうな)
どうやら、祭りの本番はこれからだ――。
祭りの通りは、笑い声と屋台の呼び込みで賑わっていた。
焼き串の香ばしい匂い、綿あめの甘い香りが風に混じり、心まで浮き立つ。
「セージ君、あれ……!」
リンカが指差した先に、的当て屋台があった。弓矢を模した木の玩具で、並んだ的を射抜く遊びだ。
「……あれは、ちょっとズルにならないか?」
「ふふん、いいじゃない。久しぶりに腕試ししたいんだ」
軽やかに矢をつがえたリンカは、弦を引き絞ると――放たれた矢は一直線に飛び、的の中心を貫いた。
次の矢も、そのまた次の矢も、すべてど真ん中。
「わ、わぁぁっ! ぜ、全部真ん中だ!」
「お姉さんすげええ!」
屋台の主が頭を抱えるほどの圧勝ぶりに、観客は大盛り上がり。
リンカは頬を赤らめながらも、得意げに尻尾を揺らした。
「ふふっ……ね? セージ君、私、まだまだ現役だよ」
「いや、現役って……君は元からプロだから」
思わず笑ってしまい、リンカの銀の髪が夜店の灯りに揺れて見えた。
◇◇◇
一方のルミナスは――輪投げの屋台で、豪快に失敗を繰り返していた。
「……よし。今度こそ。入る」
ぽすっ。輪は柱の手前で落ちた。
「おいおい、全然だめじゃないか」
「だまれ。今のは……風のせい」
「屋台の中に風は吹いてないって」
隣の子供まで笑い出す始末だ。だがルミナスは一歩も引かない。
「……ルミナス、本気。四属性解放」
ぱちぱち、と指先に微かな火花が散る。僕は慌てて止めた。
「ちょ、やめろ! ゲームに魔法を持ち込むな!」
その後も輪投げに挑み続けたルミナスは、結局ひとつも入れられず、景品の飴玉を「参加賞」として手渡されていた。
「……これは勝利。実質」
「いや、どう見ても敗北だろ」
「違う。飴を得た。ルミナス、勝利」
胸を張る彼女に、僕もセレスも呆れながら笑ってしまう。
その後のくじ引きでも「大凶」ばかり引き当て、屋台の人に同情されておまけを渡されていたのは、言うまでもない。
大凶がなんなのかよくは知らないけど、どうやら1番悪い結果だったらしいことに苦笑するしかなかった。
なんともルミナスらしい結果だ。
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