地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

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街の異変

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 石畳の大通りを進むにつれて、胸の奥がじわりと重くなっていった。
 賑わいの残り香はあるはずなのに、人々の声が小さい。笑顔もなく、ただ怯えの影だけが街に張り付いている。

「……空気が重いな」
 思わず口にした僕の言葉に、リンカが銀の尻尾を揺らして頷いた。
「うん。街そのものが怯えてる。……まるで、何かに見張られているみたい」

 確かに、路地裏から覗く子供の瞳も、店先に座る老人の視線も、どこか怯えに曇っていた。
 セレスが静かに胸の前で祈りを組む。
「……この街には、確かに“闇”の気配が残っています。七魔将が去った後のような、禍々しい残滓が」

「ふむ……間違いないな」
 アテンさんが低く呟き、腰に下げた剣へと手をやった。
「私たちもここ数日調べていたが、夜ごとに人が消える。兵士も冒険者も、何の痕跡も残さずに、だ」

「人が……消えてる?」
 思わず問い返すと、フェンネルさんが肩を竦めて口を挟んだ。
「そうそう。まるで誰かが呑み込んでるみたいに、跡形もなく。血の一滴すら残ってないのよねぇ……気味悪いったら」

 ルミナスがぼそり。
「血の呪術。……匂う」
 紫の瞳に赤い光が揺れ、わずかに眉をひそめる。

 ザークさんが大盾を肩に担ぎ、豪快な声で吐き捨てた。
「まったく厄介だぜ。正体も分からねぇ相手と戦うほど気味の悪いもんはねぇ。だが、だからこそ燃えるな!」

「……拙者は燃えたくはないでござる」
 シズカが肩を落とし、ため息をついた。
「ただ、妙な影を何度か見たのは事実。忍びでも見失う速さ……ただ者ではないでござるよ」

 その言葉に、背筋が冷たくなる。
(……やっぱりだ。ヴァルナの時に感じた視線と同じ……いや、それ以上の闇が、この街に潜んでいる)

 気づけば、僕の拳は自然と固く握られていた。
「――放ってはおけない。街の人たちをこれ以上怯えさせるわけにはいかない」

 そう口にすると、仲間たちはそれぞれに頷き返した。
 セレスの穏やかな眼差し、リンカの真剣な瞳、ルミナスの小さな笑み――。
 その全てが、僕の決意を支えてくれる。

「行こう。手がかりを掴むんだ」

 その瞬間、街の奥から鐘の音が鳴り響いた。
 甲高く、どこか切迫した音色に、人々がざわめき立つ。

「……警鐘?」
 アテンさんの目が鋭く細められた。

 僕らは視線を交わし、同時に駆け出していた――。

 警鐘が鳴り止んだ後の街は、まるで息を潜めるように静まり返っていた。
 石畳の路地に人の気配はなく、開け放たれた扉の奥には慌ただしく避難する影が見える。

「……あの鐘は、また人が消えた合図だ」
 アテンさんが低く言う。赤い髪が風に揺れ、眼差しは険しかった。
「我々も何度か耳にした。だが、消える瞬間を誰も見ていない。証言すら掴めなかった」

「まるで……影に呑まれるみたいに、だな」
 僕は周囲を見渡し、剣の柄を握り直す。背筋を撫でる寒気は、ただの気配ではない。
 セレスが静かに手を胸に置いた。
「祈りを捧げても……魂の気配すら辿れません。まるで存在そのものを抹消されたかのように」

「それって……普通の魔族じゃできないことだよね」
 リンカが尻尾を揺らしながら眉をひそめる。銀の髪に淡い光が差し込み、その横顔は真剣そのものだった。
「何か仕組みがあるはず。調べてみよう、セージ君」

「……ふむ。影の術か」
 シズカが忍びらしく膝を折り、路地に視線を落とす。
「見よ、この石畳。靴跡は途中でぷつりと途切れている。人が歩き、次の一歩を踏み出す直前で……影と共に消えたでござる」


「本当に、影に呑まれたってことか……」
 僕は唇を噛み、心の奥にヴァルナとの戦いの残滓がよぎる。あの時も、眼に見えぬ未来を縛られた。
(今度は影そのものに……? 七魔将に連なる何者かの仕業だとしたら……)

 その時、フェンネルさんが杖を軽く掲げ、青い瞳を光らせた。
「魔力の残滓を探ってみるわね。……んんっ、これは……」
 彼女の声が僅かに震え、空気が冷たくなる。
「やっぱり。血の呪術……しかも、こっちの次元に固定されていない。だから足跡ごと“異界”に引きずり込まれてるのよ」

 ルミナスがぼそりと呟いた。
「……異界。面倒。敵。潰す」

「そう簡単に言うなよ……」

 苦笑する僕に、ザークさんが大盾を地面に突き立て、豪快に言った。
「だがまぁ、連中のやり口が分かっただけでも前進だ。罠だろうが異界だろうが、俺の盾で全部ぶち破ってやる!」

 彼の言葉に力づけられつつ、僕は深く息を吸った。
「……なら、僕らは消えた人たちを必ず取り戻す。そのために――痕跡を追おう」

 セレスが静かに頷き、光を宿した声で囁く。
「セージ様……あなたの言葉は光です。どうか、その光で闇を切り裂いてください」

 僕ら《奈落の希望》と《煉獄の騎士団》は視線を交わし、失踪の足跡を辿るため、闇に覆われた街の奥へと歩みを進めた――。

 失踪の現場を一通り調べ終えた僕らは、街の奥へと足を進めていた。
 石畳に残る靴跡は途中でぷつりと途切れ――そこから先は、まるで闇そのものに溶けたかのように消えている。

「……この違和感、やはりただの誘拐じゃないな」
 アテンさんが歩を止め、燃える赤髪をかき上げる。
「足跡の消え方が不自然すぎる。魔法的な干渉があるのは間違いない」

「そーねぇ」
 フェンネルさんが杖を軽く回し、きらめく青い瞳で路地を覗き込む。
「空気に残ってる魔力の揺らぎ……どう見ても異界への引き込みよ。普通の術師じゃとてもできないレベル」

「となると、背後に相当デカい力があるってことだな」
 ザークさんが大盾を肩に担ぎ、低く唸る。
「……だがまあ、分かっただけでも一歩前進だ。罠でも異界でも、俺の盾で正面から突破してやる」

 その言葉は豪快さよりも頼もしさが勝っていて、胸の奥が温かくなる。
「ザークさん……」
 僕がそう呟くと、彼は片目をつぶって笑った。

「お前らは細けぇ理屈に集中しろ。突き破る役目は、俺に任せとけ」

「……ふむ。理屈は理屈で大事でござるがな」
 シズカが軽やかに屋根へ跳び上がり、影を探るように視線を走らせる。
「この路地、昼間でも妙に暗いでござる。光の届かぬ場所こそ、奴らの入口かもしれぬ」

 その言葉にセレスが祈るように目を閉じた。
「……影の中に、微かに声が聞こえます。助けを求める、かすかな響き……」

「っ……セレス」
 僕は剣の柄を握り、鼓動を速めた。
(……まだ、間に合う。影に呑まれた人たちは、生きてる。絶対に取り戻す)

 リンカが横に並び、尻尾を揺らして言った。
「セージ君、私の矢なら、影の揺らぎを穿てるかもしれない。試してみる?」

「ありがとう、リンカ。……でも、まずは足跡を追おう。どこに繋がっているのかを突き止めてからだ」

 ルミナスが窓際の影を指差し、ぼそりと呟く。
「……匂い。血と……魔。近い」

 その言葉に、全員が息を詰める。
 街の奥、灯りの届かない暗がりから、異様な気配が漂っていた。

「行こう。……この先に、必ず答えがある」
 僕の声に仲間たちが頷き、影の奥へと足を踏み入れていった。
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