地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

文字の大きさ
122 / 137
121~130

消えた村

しおりを挟む
 夜が明けきらぬうちに、僕たちは再び国境沿いを進んでいた。
 森を抜けた先には、いくつもの小村が点在している――はず、だった。

「……おかしい」
 リンカが耳を動かし、尻尾をぴんと立てる。
「この辺り、昼でも子どもの声が聞こえるはずなのに、まるで生き物の気配がない」

 僕も頷き、【遠距離念話】で仲間全員に警戒を伝える。
(気を抜くな。血翼の瘴気が残ってる可能性がある。空気が重い……何かがいる)

「了解」
 ルミナスが片手を上げ、炎の小玉をいくつも浮かべる。
 周囲の闇を淡く照らし出すと――そこにあったのは、村の“跡”だった。


 焼けた家々。崩れた井戸。
 そして、地面いっぱいに描かれた血の紋様。
 その中心に、村人たちの残したと思しき影が――まるで“焼きついたように”残っていた。

「……そんな……」
 セレスが小さく口元を押さえ、震える。
「祈りの跡も、慰霊の印もない……。皆、抵抗する間もなく……」

「《ピュリファイ》」
 彼女が祈りを込めると、聖なる光が血紋に触れ――一瞬だけ、瘴気が霧散する。
 だが、すぐに別の黒い模様が浮かび上がった。

「ダメ……根が深すぎます。まるで、この土地そのものが“血に選ばれている”みたい」

 アテンさんが膝をつき、血紋の中心を指でなぞる。
「……ラミエルの紋章だ。翼を象る血の文様。奴らは人を贄にして呪陣を描いている」

 フェンネルが顔をしかめ、息を吐いた。
「まったく、趣味が悪いにもほどがあるわね……。でも、この陣……“呼び寄せ”の形になってる」

「呼び寄せ?」
「そう。外部の魔力を引き込む中継陣よ。つまり、ここで血を捧げて、別の場所に何かを呼び出してる」

 シズカが険しい声で言う。
「もしや、血翼の眷属はこの陣から生まれている……!?」
 ザークが地面を拳で叩いた。
「つまり、放っときゃこの大陸中にあの化けもんが湧くってことか!」

 リンカが弓を握りしめる。
「じゃあ、止めるしかないね。この紋様、全部壊せば――」

 その瞬間。
 血紋が脈動した。

 地面が赤く光り、熱が足元を駆け上がる。
 瘴気の柱が立ち昇り、その中から無数の影が生まれる。
 翼を持ち、血に濡れた眼を光らせ――咆哮が森を貫いた。

「くっ、来たか!」
 僕は剣を構え、仲間たちに叫ぶ。
「全員散開! 囲まれるな!」

 リンカが矢を放ち、風が唸る。
「【ウィンド・アロー】!」
 風の刃が広範囲に切り裂き、数体を薙ぎ倒す。

 ルミナスの声が重なる。
「《サンダーピアス》――貫け」
 雷が一直線に走り、瘴気を焼く。

 しかし、倒れた眷属の血が再び地を染め、血紋が広がる。
 その速度が速い――異常なほどに。

「止まらない!? 死ぬたびに、地面が増殖してる!」
 フェンネルの声が震え、氷の鎖が奔る。
「《アイシクルフィールド》!」
 地面を凍らせ、血流を止めるが――完全には封じ込められない。

 アテンさんが叫ぶ。
「撤退だ! ここはもはや“生きた呪陣”! 王都へ警告を!」

 僕は頷き、剣を強く握る。
(……奴ら、ただの魔将軍団じゃない。これは“世界を侵食する兵器”だ)

「リンカ、最後に一撃で足止めだ!」
「了解――【鳴神一矢】!」
 雷光が地を裂き、血紋を焦がす。
 その一瞬の隙を突いて、ルミナスが詠唱する。

「《リ・テレポ》!」

 白光が走り、視界が焼けた。

◇◇◇

 転移の直後、僕たちは息を荒げながら地面に膝をついた。
 見上げた空は、遠くの地平まで血のように赤い。

「……もう始まっている」
 アテンさんが呟く。
「この世界を“血の大地”に変える戦いが」

 僕は立ち上がり、拳を握った。
「止めてみせる。絶対に――ここで終わらせる」

 転移の光が収まった時、僕たちは王都の前――再建途中の城壁の外に立っていた。
 かつてイグニスとの戦いで焼かれた街並みは、まだ完全には復興していない。
 だが、それでも人々の手で少しずつ形を取り戻していた。

 煤けた石壁の上には、新たに組まれた防衛兵たちの姿。
 その目には怯えよりも、確かな“覚悟”が宿っていた。

「……ここまで戻ったか」
 アテンさんが息を吐き、剣を肩に担ぐ。
「何度見ても、戦火を超えて立ち上がる王都の力には感服する」

 僕は頷き、ルミナスを振り返った。
「ルミナス、転移ありがとう。だいぶ消耗しただろ?」
「問題、ない。ちょっと……目が、回るだけ」
 ふらりとした彼女を、セレスがすかさず支える。
「ルミナス様、お疲れさまでした。すぐに《ヒーリングライト》を――」
「平気。治療……いらない。少し寝たら、戻る」
 そう言って、ルミナスはいつもの無表情のまま腰を下ろした。

 フェンネルが苦笑しながら彼女に毛布をかける。

「ほんとタフねぇ……。あたしならもう三日は動けないわよ」

「転移魔法……大したもんでござる」
 シズカが感心したように腕を組む。
「距離も広さも常識外れ。まさしく異界の術でござるな」

 アテンさんが周囲を見渡し、指示を飛ばした。
「よし、ギルド本部に向かう。セージ君、君が先頭に立ってくれ」

「了解です」
 僕は頷き、仲間たちを率いて瓦礫の残る街路を歩き出した。

◇◇◇

 冒険者ギルド王都本部。
 かつて煉獄の騎士団が常駐していたこの場所は、今や戦時指令所として機能していた。
 大広間の中央には作戦用の地図が広げられ、各地からの報告が次々と書き込まれている。

「セージ殿!」
 最初に駆け寄ってきたのは、ギルド長代理のグラド。
「無事だったか! 国境沿いで“赤い霧”が発生したと聞いてな、心配していた!」

「はい。ですが――その“霧”の正体が分かりました」
 僕は真剣な眼差しで告げる。
「血翼の軍勢……人間を生贄にして呪陣を広げ、土地そのものを穢していました。放置すれば、王国全体が呪いに飲まれます」

 広間が一斉にざわめいた。
 アテンさんが前に出て、静かに続ける。
「彼の言葉に偽りはない。我々《煉獄の騎士団》も同様の血紋を確認している。問題は――この“呪陣”が同時多発的に発動していることだ」

 地図の上には、いくつもの赤い印が打たれている。
 その全てが、王国と隣国との国境沿いに集中していた。

「これは……包囲か」
 リンカが小さく呟く。
「外から内へ、じわじわと侵食していってる……」

 フェンネルが地図を覗き込み、冷たい声を出した。
「単なる魔族の襲撃じゃないわね。これは、戦略的な“感染”。誰かが、魔将たちを統括して動かしてる」

 アテンさんが頷き、剣先で地図を指す。
「我々はこの防衛線を三層に分ける。王都防衛を中心に、第二線を冒険者ギルドが担う。そして――」

 僕はその続きを引き取った。
「第三線は僕たち《奈落の希望》が担当します。ラミエル軍の中枢を突き止め、血の呪陣の発生源を断つ」

 セレスが頷く。
「セージ様……それはつまり、最も危険な任務ですね」
「わかってる。でも、僕らにしかできない」

 ルミナスが小声で付け加える。
「危険。……でも、行く。セージが行くなら、ルミナスも行く」
 その言葉に、フェンネルが肩をすくめた。
「やれやれ。ほんとに肝が据わってるわね、セージちゃんチームは」

 アテンさんがゆっくりと微笑んだ。
「覚悟は承知した。では正式に命じよう。《奈落の希望》および《煉獄の騎士団》――両隊、合同任務として“血翼殲滅戦”を発令する」

 ギルドの大広間に、緊張と熱が走る。
 その中心で僕は剣の柄を握り、静かに誓った。

(もう誰も、あんなふうに消えさせはしない)
(血の呪陣も、人を喰らう闇も、必ずこの手で断つ)

 再び――闘いが始まる。
 だが、今度は僕らだけじゃない。
 仲間と、そしてこの国の全ての冒険者と共に。







しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

社畜だった俺、最弱のダンジョンマスターに転生したので、冒険者を癒やす喫茶店ダンジョンを経営します

☆ほしい
ファンタジー
過労死した俺が目を覚ますと、そこは異世界のダンジョンコアの前だった。 どうやら俺は、ダンジョンマスターとして転生したらしい。 だが、与えられた俺のダンジョンは最低ランクのF級。魔力を生み出す力は弱く、生み出せる魔物もスライムやゴブリンといった最弱クラスばかり。これでは、冒険者を呼び込んで魔力を得るなんて夢のまた夢だ。 絶望する俺だったが、ダンジョンの創造機能を使えば、内装を自由にデザインできることに気づく。 「……そうだ、喫茶店を開こう」 前世で叶えられなかった夢。俺は戦闘を放棄し、ダンジョンの入り口に木造の喫茶店『やすらぎの隠れ家』を作り上げた。メニューは、前世の知識を活かしたコーヒーと手作りケーキだけ。 ところが、そのコーヒーには異常なまでの疲労回復効果が、ケーキには一時的な能力向上効果が付与されていることが判明。噂を聞きつけた訳ありの冒険者たちが、俺のダンジョンに癒やしを求めて集い始めるのだった。

科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」 高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。 だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや—— 「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」 「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」 剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める! 魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」 魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」 神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」 次々と編み出される新技術に、世界は驚愕! やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め—— 「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」 最強の頭脳戦が今、幕を開ける——! これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語! ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

異世界複利! 【単行本1巻発売中】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる

暁刀魚
ファンタジー
 社会勉強のため、幼い頃から暮らしていた山を降りて現代で生活を始めた男、草埜コウジ。  なんと現代ではダンジョンと呼ばれる場所が当たり前に存在し、多くの人々がそのダンジョンに潜っていた。  食い扶持を稼ぐため、山で鍛えた体を鈍らせないため、ダンジョンに潜ることを決意するコウジ。  そんな彼に、受付のお姉さんは言う。「この加護薬を飲めばダンジョンの中で死にかけても、脱出できるんですよ」  コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。  かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。  もとよりそんなもの必要ない実力でダンジョンを蹂躙する中、その高すぎる実力でバズりつつ、ダンジョンで起きていた問題に直面していく。  なお、加護薬を飲まずに直接モンスターを倒すと、加護薬を呑んでモンスターを倒すよりパワーアップできることが途中で判明した。  カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...