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121~130
集結、希望の刃
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王都の空が、朝焼けに染まっていた。
ギルド本部の鐘が鳴り響き、石畳の上には無数の足音が重なる。
――合同訓練の日。
《奈落の希望》と《煉獄の騎士団》、そして各地から集った中~上級冒険者たちが、一堂に会していた。
広場を埋め尽くす人数。その顔には緊張と覚悟、そして、ほんの少しの誇りが浮かんでいる。
アテンさんの号令が響いた。
「――諸君。これより我々は、ラミエルの軍勢に対抗するための“希望の戦線”を築く!」
その声に、ざわめきがぴたりと止む。
彼は剣を抜き、朝日を反射させながら高く掲げた。
「敵は血を媒介に人を呪い、土地を穢す。だが、我々はその“血の連鎖”を断つ者だ。誇れ、冒険者たちよ――これは王のためでなく、人のための戦いだ!」
どっと歓声が上がる。
その熱の中で、僕もまた胸を張った。
(……そうだ。誰かに命じられて戦うんじゃない。僕たちは、自分の意志で立っている)
フェンネルが笑いながら肩を小突いてくる。
「セージちゃん、緊張してる~? 顔がちょっと固いわよ?」
「いえ、ただ……責任の重さを感じてるだけです」
「ふふ、真面目~。でもね、あんたがそうやって背負ってくれるから、周りは安心できるのよ」
その横で、ルミナスが焚き火の灰を指先でいじりながらぽつり。
「セージ。かっこつけすぎ。……でも、嫌いじゃない」
「……褒めてるのか、貶してるのか分からないな」
「両方」
彼女は唇の端をほんのわずかに上げた。
リンカはすでに弓の点検を終え、背中の矢筒を締め直していた。
「それにしても……これだけの冒険者が集まるなんて、王都でも久しぶりだね。まるで新しい時代が始まるみたい」
「そうだな」
僕は頷き、視線を上げる。
陽光が煉瓦の塔を照らし、金色の光が剣や矢に反射する。まるで、それぞれが“希望の欠片”のようだった。
◇◇◇
合同訓練は、実戦さながらの緊迫感だった。
僕たちは前衛組として、煉獄の騎士団の一部と連携を取る。
巨躯のザークさんが盾を構え、僕の突撃に合わせて敵役の魔物模型を弾き飛ばす。
「おらぁッ! セージ、行けぇっ!」
「――【重ね斬り】!」
剣閃が閃光のように走り、木製の魔物が粉砕された。
見守っていた冒険者たちがどよめく。
後方からフェンネルの詠唱が重なる。
「《フロスト・バリア》展開~! 後衛を守るわよ!」
氷の結界が展開され、飛来する訓練用の魔弾を全て弾く。
セレスの声が響く。
「《ホーリーシールド》! 防御陣、重ねます!」
純白の光が氷の防壁に重なり、眩しい輝きが広場を包み込む。
その瞬間、アテンさんが笑った。
「見事だ。攻防の連携が完璧だな」
「ありがとうございます!」
僕は剣を下げて一礼する。
「だが、もう一段階上を目指そう」
彼はすっと剣を構えた。
「今度は私が相手だ。オメガ級同士の実戦、模擬戦で君の限界を見たい」
「えっ、アテンさんと!?」
フェンネルが愉快そうに口笛を吹く。
「おー、出た出た! 団長が本気モードね~♪」
ザークがにやりと笑った。
「がっはは! セージ、お前がどこまでやれるか見物だな!」
僕は一歩前へ出る。
胸の奥がざわりと熱くなる――これが、“英雄の試練”。
「……分かりました。全力で、行きます」
「その言葉を待っていた」
アテンさんの瞳が真紅に燃え上がる。
その声音は穏やかだが、眼差しは鋭い。
彼がこの国最強格と呼ばれる理由が、刃を交える前から伝わってくる。
背後ではフェンネルやシズカ、ザークたちが静かに見守っていた。
リンカ、ルミナス、セレスも少し離れた場所で息を潜めている。
「セージ様……お気をつけください」
「ん……いける。セージ、やれる」
セレスとルミナスの声が重なり、僕の背を押した。
「――では、始めようか」
アテンが剣を構えた瞬間、風が一変した。
空気が震え、周囲の温度が一気に上がる。
まるで戦場そのものが彼の意志に呼応しているかのようだった。
僕もゆっくりと剣を抜く。
金属音が小さく響くと同時に、胸の奥で魔素が脈打つ。
だが――破魔技は使わない。
今日は、人として、冒険者としての力を見せる日だ。
そして、次の瞬間――地面が爆ぜた。
剣と剣がぶつかる。
重い金属音が響き、風が唸る。
僕は連撃を繰り出し、アテンさんの剣を受け止めながら、斬り上げる。
その斬撃を彼は片手で受け流し、微笑んだ。
「なるほど……やはり、桁が違う」
「僕もそう思います。アテンさんこそ――」
再び衝突。
火花が散り、広場全体が静まり返る。
観客席のリンカが小さく呟いた。
「すごい……これが、オメガ同士の戦い……」
セレスが両手を組み、祈るように見守る。
「セージ様……どうか、ご無事で」
アテンさんの剣が煌めき、僕の頬を掠めた。
だが僕はそのまま踏み込み、刃を振り抜く。
「――【雷光一閃】!」
閃光が奔り、二人の間に風圧が爆ぜた。
静寂のあと、アテンさんがゆっくりと剣を下ろす。
「見事だ、セージ君。……まさしく希望の剣だ」
その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
(……認められたんだ。この国の最強の一角に)
拍手と歓声が広場を包んだ。
「噂に違わぬ実力。――だが、それ以上に見事なのは、その“抑制”だ。力を制御できる者こそ、真に強者と呼べる」
「恐縮です。……僕も、ようやくそこまで来られた気がします」
アテンさんは満足げに頷くと、背を向けて歩き出した。
フェンネルさんが口笛を吹き、ザークが感嘆の声を上げる。
「お前らの戦い、見応えあったぜ。がっはは――いや、今回は素で言わせてもらう。あれは見事だ」
「ありがとう、ザークさん」
ルミナスが小声で呟いた。
「セージ。雷、綺麗だった。……濡れた」
「恥ずかしいからそういう事言うのはやめようね」
頬を染めて言う彼女の横で、セレスが穏やかに微笑む。
「本当に……誇らしいお姿でしたわ、セージ様」
風が吹き抜け、焦げた地面に冷たい朝露が落ちる。
新たな戦いの気配を孕んだ空の下、僕らは再び歩き出す。
――次なる戦場へと。
◇◇◇
夜の帳が下り、街は静まり返っていた。
昼間の合同訓練で響いていた剣戟の音も、今はもう遠い記憶のようだ。
月光が石畳を照らし、街の灯りがひとつ、またひとつと消えていく。
僕たちは、エリスの屋敷の広いテラスに集まっていた。
明日にはそれぞれの持ち場へ散り、国境沿いで血翼の軍勢との戦いが始まる。
束の間の休息の夜――それを噛み締めるように、誰もが静かに杯を傾けていた。
「……いい月だね」
リンカが小さく呟いた。
銀の髪が月明かりを受けて、淡く光る。
隣に座る僕は、その光景を見つめながら微笑んだ。
「落ち着くな。こうしていると、戦いが迫ってるなんて思えないくらいだ」
「うん。でも……きっと誰もが、同じ気持ちなんだと思う」
彼女の声には、穏やかな強さがあった。
「戦う理由があるからこそ、こうして静かな夜を愛おしく思えるんだよ」
その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
――あぁ、僕はこの時間を守りたいんだ。
誰もが笑い合える、たったそれだけの時間を。
◇◇◇
少し離れた場所では、ルミナスが焚き火の前で膝を抱えていた。
炎のゆらめきが、彼女の赤い瞳に映り込む。
「セージ。……また、戦うの?」
「そうだな。もう避けては通れない」
「ふむ……面倒。でも、悪くない」
ぼそりと呟く声は、いつもより少し柔らかかった。
彼女は焚き火の火を指先でいじりながら、ぽつりと続けた。
「セージ。前の戦いで……ルミナス、怖かった。でも、セージが隣にいたから平気だった」
「……そっか」
「今度も、いる。だから、怖くない。――だから、セージも、怖がらないで」
その小さな声に、僕はそっと頷いた。
ルミナスの言葉は、まるで祈りのようだった。
◇◇◇
そして、テラスの奥――セレスが一人、空に祈りを捧げていた。
白い指先を組み、月光の下で静かに目を閉じる。
「神よ……この夜に、どうか祝福を。彼らが歩む道が、光に満ちていますように」
やがて、彼女は僕の方を振り向いた。
その瞳は、夜の静けさを映したように穏やかで、揺るぎなかった。
「セージ様」
「……なんだい?」
「明日からの戦い……私、怖くはありません。なぜなら、あなたが共にいてくださるから」
「……僕だって、君がいてくれるから立っていられるよ」
そう言うと、セレスは小さく微笑み、胸の前で両手を重ねた。
「あなたこそが、私の祈りの答えなのです」
その瞬間――胸の奥が、熱く震えた。
祈りと覚悟。
そのどちらもが、僕らの間に確かな絆として存在していた。
◇◇◇
少し離れた石垣の上では、アテンさんたち《煉獄の騎士団》の面々が談笑していた。
フェンネルがワインを掲げ、ザークが大声で笑う。
シズカは竹筒の酒を手に「サクラ国では戦の前にこうして飲むのが風習でござる」と言い、
セレンが小さく祈りの詩を口ずさんでいる。
「セージ君」
アテンさんがこちらを振り返り、微笑んだ。
「緊張しているようだな。……だが、それでいい。恐れを知らぬ者は、戦場で命を散らす」
「はい。分かっています」
「だが――恐れを知る者は、仲間を守れる」
その言葉に、僕は静かに頷いた。
「ならば大丈夫だ。君には、恐れを乗り越える心がある」
そう言って、アテンさんは盃を掲げた。
煉獄の騎士団、奈落の希望、そして周辺都市や国境沿いから集まった冒険者たちへ――
その杯が掲げられた瞬間、誰もが立ち上がる。
「乾杯!」
声が夜空に響き、無数の杯が月光を反射した。
焚き火がぱちりと弾ける。
誰もが笑い、そして――その笑顔の奥に、それぞれの決意を秘めていた。
◇◇◇
夜が更けていく。
月が沈み始めた頃、僕は一人テラスに残っていた。
風が頬を撫で、遠くで鐘が鳴る。
(……もうすぐ夜明けだ)
これまでに救えなかった命、奪われた笑顔。
すべてを背負って、明日へ進む。
それが、僕に与えられた“ためて・放つ”という力の意味だから。
ふと背後から、小さな足音がした。
「セージ君」
リンカがそっと隣に立つ。
「明日、必ず勝とうね」
「――あぁ」
僕は静かに頷き、東の空を見上げた。
夜明け前の空が、かすかに白み始めていた。
闇の向こうに、確かな光が生まれる。
その光こそ――僕たちの希望。
そして、戦いの始まりを告げる“誓いの夜明け”だった。
ギルド本部の鐘が鳴り響き、石畳の上には無数の足音が重なる。
――合同訓練の日。
《奈落の希望》と《煉獄の騎士団》、そして各地から集った中~上級冒険者たちが、一堂に会していた。
広場を埋め尽くす人数。その顔には緊張と覚悟、そして、ほんの少しの誇りが浮かんでいる。
アテンさんの号令が響いた。
「――諸君。これより我々は、ラミエルの軍勢に対抗するための“希望の戦線”を築く!」
その声に、ざわめきがぴたりと止む。
彼は剣を抜き、朝日を反射させながら高く掲げた。
「敵は血を媒介に人を呪い、土地を穢す。だが、我々はその“血の連鎖”を断つ者だ。誇れ、冒険者たちよ――これは王のためでなく、人のための戦いだ!」
どっと歓声が上がる。
その熱の中で、僕もまた胸を張った。
(……そうだ。誰かに命じられて戦うんじゃない。僕たちは、自分の意志で立っている)
フェンネルが笑いながら肩を小突いてくる。
「セージちゃん、緊張してる~? 顔がちょっと固いわよ?」
「いえ、ただ……責任の重さを感じてるだけです」
「ふふ、真面目~。でもね、あんたがそうやって背負ってくれるから、周りは安心できるのよ」
その横で、ルミナスが焚き火の灰を指先でいじりながらぽつり。
「セージ。かっこつけすぎ。……でも、嫌いじゃない」
「……褒めてるのか、貶してるのか分からないな」
「両方」
彼女は唇の端をほんのわずかに上げた。
リンカはすでに弓の点検を終え、背中の矢筒を締め直していた。
「それにしても……これだけの冒険者が集まるなんて、王都でも久しぶりだね。まるで新しい時代が始まるみたい」
「そうだな」
僕は頷き、視線を上げる。
陽光が煉瓦の塔を照らし、金色の光が剣や矢に反射する。まるで、それぞれが“希望の欠片”のようだった。
◇◇◇
合同訓練は、実戦さながらの緊迫感だった。
僕たちは前衛組として、煉獄の騎士団の一部と連携を取る。
巨躯のザークさんが盾を構え、僕の突撃に合わせて敵役の魔物模型を弾き飛ばす。
「おらぁッ! セージ、行けぇっ!」
「――【重ね斬り】!」
剣閃が閃光のように走り、木製の魔物が粉砕された。
見守っていた冒険者たちがどよめく。
後方からフェンネルの詠唱が重なる。
「《フロスト・バリア》展開~! 後衛を守るわよ!」
氷の結界が展開され、飛来する訓練用の魔弾を全て弾く。
セレスの声が響く。
「《ホーリーシールド》! 防御陣、重ねます!」
純白の光が氷の防壁に重なり、眩しい輝きが広場を包み込む。
その瞬間、アテンさんが笑った。
「見事だ。攻防の連携が完璧だな」
「ありがとうございます!」
僕は剣を下げて一礼する。
「だが、もう一段階上を目指そう」
彼はすっと剣を構えた。
「今度は私が相手だ。オメガ級同士の実戦、模擬戦で君の限界を見たい」
「えっ、アテンさんと!?」
フェンネルが愉快そうに口笛を吹く。
「おー、出た出た! 団長が本気モードね~♪」
ザークがにやりと笑った。
「がっはは! セージ、お前がどこまでやれるか見物だな!」
僕は一歩前へ出る。
胸の奥がざわりと熱くなる――これが、“英雄の試練”。
「……分かりました。全力で、行きます」
「その言葉を待っていた」
アテンさんの瞳が真紅に燃え上がる。
その声音は穏やかだが、眼差しは鋭い。
彼がこの国最強格と呼ばれる理由が、刃を交える前から伝わってくる。
背後ではフェンネルやシズカ、ザークたちが静かに見守っていた。
リンカ、ルミナス、セレスも少し離れた場所で息を潜めている。
「セージ様……お気をつけください」
「ん……いける。セージ、やれる」
セレスとルミナスの声が重なり、僕の背を押した。
「――では、始めようか」
アテンが剣を構えた瞬間、風が一変した。
空気が震え、周囲の温度が一気に上がる。
まるで戦場そのものが彼の意志に呼応しているかのようだった。
僕もゆっくりと剣を抜く。
金属音が小さく響くと同時に、胸の奥で魔素が脈打つ。
だが――破魔技は使わない。
今日は、人として、冒険者としての力を見せる日だ。
そして、次の瞬間――地面が爆ぜた。
剣と剣がぶつかる。
重い金属音が響き、風が唸る。
僕は連撃を繰り出し、アテンさんの剣を受け止めながら、斬り上げる。
その斬撃を彼は片手で受け流し、微笑んだ。
「なるほど……やはり、桁が違う」
「僕もそう思います。アテンさんこそ――」
再び衝突。
火花が散り、広場全体が静まり返る。
観客席のリンカが小さく呟いた。
「すごい……これが、オメガ同士の戦い……」
セレスが両手を組み、祈るように見守る。
「セージ様……どうか、ご無事で」
アテンさんの剣が煌めき、僕の頬を掠めた。
だが僕はそのまま踏み込み、刃を振り抜く。
「――【雷光一閃】!」
閃光が奔り、二人の間に風圧が爆ぜた。
静寂のあと、アテンさんがゆっくりと剣を下ろす。
「見事だ、セージ君。……まさしく希望の剣だ」
その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
(……認められたんだ。この国の最強の一角に)
拍手と歓声が広場を包んだ。
「噂に違わぬ実力。――だが、それ以上に見事なのは、その“抑制”だ。力を制御できる者こそ、真に強者と呼べる」
「恐縮です。……僕も、ようやくそこまで来られた気がします」
アテンさんは満足げに頷くと、背を向けて歩き出した。
フェンネルさんが口笛を吹き、ザークが感嘆の声を上げる。
「お前らの戦い、見応えあったぜ。がっはは――いや、今回は素で言わせてもらう。あれは見事だ」
「ありがとう、ザークさん」
ルミナスが小声で呟いた。
「セージ。雷、綺麗だった。……濡れた」
「恥ずかしいからそういう事言うのはやめようね」
頬を染めて言う彼女の横で、セレスが穏やかに微笑む。
「本当に……誇らしいお姿でしたわ、セージ様」
風が吹き抜け、焦げた地面に冷たい朝露が落ちる。
新たな戦いの気配を孕んだ空の下、僕らは再び歩き出す。
――次なる戦場へと。
◇◇◇
夜の帳が下り、街は静まり返っていた。
昼間の合同訓練で響いていた剣戟の音も、今はもう遠い記憶のようだ。
月光が石畳を照らし、街の灯りがひとつ、またひとつと消えていく。
僕たちは、エリスの屋敷の広いテラスに集まっていた。
明日にはそれぞれの持ち場へ散り、国境沿いで血翼の軍勢との戦いが始まる。
束の間の休息の夜――それを噛み締めるように、誰もが静かに杯を傾けていた。
「……いい月だね」
リンカが小さく呟いた。
銀の髪が月明かりを受けて、淡く光る。
隣に座る僕は、その光景を見つめながら微笑んだ。
「落ち着くな。こうしていると、戦いが迫ってるなんて思えないくらいだ」
「うん。でも……きっと誰もが、同じ気持ちなんだと思う」
彼女の声には、穏やかな強さがあった。
「戦う理由があるからこそ、こうして静かな夜を愛おしく思えるんだよ」
その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
――あぁ、僕はこの時間を守りたいんだ。
誰もが笑い合える、たったそれだけの時間を。
◇◇◇
少し離れた場所では、ルミナスが焚き火の前で膝を抱えていた。
炎のゆらめきが、彼女の赤い瞳に映り込む。
「セージ。……また、戦うの?」
「そうだな。もう避けては通れない」
「ふむ……面倒。でも、悪くない」
ぼそりと呟く声は、いつもより少し柔らかかった。
彼女は焚き火の火を指先でいじりながら、ぽつりと続けた。
「セージ。前の戦いで……ルミナス、怖かった。でも、セージが隣にいたから平気だった」
「……そっか」
「今度も、いる。だから、怖くない。――だから、セージも、怖がらないで」
その小さな声に、僕はそっと頷いた。
ルミナスの言葉は、まるで祈りのようだった。
◇◇◇
そして、テラスの奥――セレスが一人、空に祈りを捧げていた。
白い指先を組み、月光の下で静かに目を閉じる。
「神よ……この夜に、どうか祝福を。彼らが歩む道が、光に満ちていますように」
やがて、彼女は僕の方を振り向いた。
その瞳は、夜の静けさを映したように穏やかで、揺るぎなかった。
「セージ様」
「……なんだい?」
「明日からの戦い……私、怖くはありません。なぜなら、あなたが共にいてくださるから」
「……僕だって、君がいてくれるから立っていられるよ」
そう言うと、セレスは小さく微笑み、胸の前で両手を重ねた。
「あなたこそが、私の祈りの答えなのです」
その瞬間――胸の奥が、熱く震えた。
祈りと覚悟。
そのどちらもが、僕らの間に確かな絆として存在していた。
◇◇◇
少し離れた石垣の上では、アテンさんたち《煉獄の騎士団》の面々が談笑していた。
フェンネルがワインを掲げ、ザークが大声で笑う。
シズカは竹筒の酒を手に「サクラ国では戦の前にこうして飲むのが風習でござる」と言い、
セレンが小さく祈りの詩を口ずさんでいる。
「セージ君」
アテンさんがこちらを振り返り、微笑んだ。
「緊張しているようだな。……だが、それでいい。恐れを知らぬ者は、戦場で命を散らす」
「はい。分かっています」
「だが――恐れを知る者は、仲間を守れる」
その言葉に、僕は静かに頷いた。
「ならば大丈夫だ。君には、恐れを乗り越える心がある」
そう言って、アテンさんは盃を掲げた。
煉獄の騎士団、奈落の希望、そして周辺都市や国境沿いから集まった冒険者たちへ――
その杯が掲げられた瞬間、誰もが立ち上がる。
「乾杯!」
声が夜空に響き、無数の杯が月光を反射した。
焚き火がぱちりと弾ける。
誰もが笑い、そして――その笑顔の奥に、それぞれの決意を秘めていた。
◇◇◇
夜が更けていく。
月が沈み始めた頃、僕は一人テラスに残っていた。
風が頬を撫で、遠くで鐘が鳴る。
(……もうすぐ夜明けだ)
これまでに救えなかった命、奪われた笑顔。
すべてを背負って、明日へ進む。
それが、僕に与えられた“ためて・放つ”という力の意味だから。
ふと背後から、小さな足音がした。
「セージ君」
リンカがそっと隣に立つ。
「明日、必ず勝とうね」
「――あぁ」
僕は静かに頷き、東の空を見上げた。
夜明け前の空が、かすかに白み始めていた。
闇の向こうに、確かな光が生まれる。
その光こそ――僕たちの希望。
そして、戦いの始まりを告げる“誓いの夜明け”だった。
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そんな彼に、受付のお姉さんは言う。「この加護薬を飲めばダンジョンの中で死にかけても、脱出できるんですよ」
コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。
かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。
もとよりそんなもの必要ない実力でダンジョンを蹂躙する中、その高すぎる実力でバズりつつ、ダンジョンで起きていた問題に直面していく。
なお、加護薬を飲まずに直接モンスターを倒すと、加護薬を呑んでモンスターを倒すよりパワーアップできることが途中で判明した。
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