地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう

文字の大きさ
134 / 150
131~140

黒砂の痕跡

しおりを挟む
 昼を過ぎても、陽の光は濁っていた。
 砂の国の空は、いつもより重い。
 遠くで風が唸り、砂丘の影がゆらめいている。

 メルダナを発って二日。
 僕たちは、砂の都バルへと向かっていた。
 かつては交易の要だったはずの街だが――今は、どこかの世界がそのままひっくり返ったような静けさがあった。

「……ここも、喰われた?」
 リンカが弓を構え、慎重に足を踏み入れる。
 街の門は砂に半分埋もれ、壁には黒い筋が走っていた。
 まるで煤のように見えるが、近づくと……違う。

「……砂が、黒い?」
 セレスが小さく呟く。
 指先で触れると、さらさらと崩れた。
 けれどその感触は砂ではなく、灰と血が混ざったような冷たさを持っていた。

「何か、焦げてる感じじゃない。……これは、溶けた?」
 僕はしゃがみ込み、黒砂を掬い上げる。
 手のひらで砕けると、かすかに魔素の反応が走った。

「リンカ、【分析】を」
「了解――」
 彼女の瞳が淡く光り、空気をなぞる。
 弓手の指が宙をなぞり、風を視るように流れを読み取る。

「……これ、魔素じゃないよ。
 “魔素の抜け殻”みたいなもの。
 誰かが、何かを“吸い尽くした”跡だね」

「吸い尽くした……?」
 セレスが息を呑む。
「まさか、ベロクが……?」

「違う。これは、奴の残したものじゃない」
 僕は立ち上がる。
 風が吹き抜け、黒砂が流れた。
 その流れが――まるで“何か”の形を作っているように見えた。

 細い線が絡み、円を描き、街の中央へと続いている。
 ……紋章。
 いや、“陣”だ。

「魔法陣?」
「ええ。でも、普通じゃありません」セレスの声が震える。
「ベアストリア教団のものに似ています。けれど、これは――」

「――逆だ」
 僕は無意識に口にしていた。
「祈りの形を“反転”させている」

 セレスが凍りつく。
 彼女の信仰が、直感で拒絶しているのがわかった。
「まさか……祈りを“呪い”に転じる術式……?」

 僕は無言でうなずいた。
 砂の底で、かすかに音がした。
 低く、呻くような声。
 風ではない――呼吸だ。

「セージ君、下だ!」
 リンカが叫び、弓を引く。
 その瞬間、黒砂が爆ぜた。
 地面が割れ、無数の腕のような影が伸びてくる。

「出るよ――!」
 僕は剣を抜く。
 光が走り、空気が震える。

〈攻撃力ストック:4000/4000〉
〈加速ストック:4000/4000〉

 砂の中から、黒い影が次々と這い出してきた。
 形は人に似ている。けれど、目がない。
 声を出しながら、祈るように地を叩いていた。

「“黒砂の民”……?」セレスが息を詰める。
「違う、祈りじゃない」僕は斬り払いながら言う。
「これは、誰かの“残響”だ。吸い尽くされた後の、抜け殻」

 剣が影を裂くたび、黒砂が煙のように消えていく。
 それでも次々と這い出してくる。
 終わりがない。

「セージ様、後方に祈りの反応があります!」
 セレスの声が響く。
 僕は跳び、街の中心部へ駆けた。
 黒砂の陣の中心――そこに、焼け焦げた祭壇があった。

 その上で、まだ燃えている。
 祈りでも、炎でもない。
 ――呪いの光。

 僕は剣を構えた。
「こいつらを呼び戻してるのは……この“黒砂の核”か」

 踏み込み、斬り払う。
 光が走り、空気が裂けた。

〈攻撃回数ストック:4000/4000〉
〈魔力ストック:4000/4000〉

 斬撃が走った瞬間、核が砕け、光が爆ぜた。
 黒砂が逆流し、風が巻き上がる。

 そして――声が、聞こえた。
 地の底から、低く、甘く、囁くように。

『――見つけた。お前が、“希望”か』

 僕は息を呑んだ。
 声はどこからでもなく、すぐ耳の奥に直接響いていた。
 そして、その響きの奥に……笑いがあった。

 風が止む。
 砂が静かに沈黙を取り戻す。

「セージ君……今の声……」
 リンカが弓を下ろす。
「わからない。でも、ただの魔将じゃない」

 セレスが祈りの書を握りしめた。
「祈りを反転させた“術者”……いるのですね」

 僕は頷いた。
「ああ。……そしてたぶん、それが――黒砂の教団だ」

 まだ正体は闇の中。
 けれど、その名だけが、砂に刻まれるように心に残った。

 風が再び吹く。
 それはまるで、誰かが笑っているようだった。

 夜になっても、砂の街は眠らなかった。
 風が吹くたび、どこかで鈍い音がした。崩れきれなかった建物が、軋みながら息をしている。
 その音を背に、僕たちは瓦礫の下へと降りていった。

 バルの地下は、まるで掘り返された墓だった。
 崩落した石段を抜けるたび、黒砂がぽろぽろと落ちてくる。
 松明の明かりが壁を照らすと、焦げついた紋章が浮かび上がった。

「……これは、聖紋です」
 セレスの声が震える。
 けれど、すぐにその色が変わった。
「違う。中心が、逆向き……“聖光”を内に閉じている……」

「祈りを……封じた?」

 リンカが弓を背負い直しながら低く言う。
「つまり、信仰そのものを裏返して“力”にしてるってこと?」

 セレスは沈黙した。
 その沈黙が、答えよりも重かった。

「……ここは、“教会”だった場所です」
 壁の模様をなぞりながら、彼女が言う。
「本来なら、神へ祈るための祭壇があるはず。けれど、そこに“反転祈祷陣”が描かれている」

 僕は剣の柄を握る。
 祭壇の中央には、黒い石柱。
 その表面に、何千もの爪痕のような線が刻まれていた。
 近づくと、耳鳴りのような音がする。

 ――声。

 地上で聞いたあの囁きが、また、頭の奥で響いた。

『……見つけたぞ、祈りの子ら。神の名を、喰らった者の末裔よ』

「来るっ!」
 リンカの叫びと同時に、地面が波打った。
 黒砂が柱の根元から溢れ出し、形を成す。
 人の形でも、魔物の形でもない。
 “祈る姿勢”のまま、砂の影がゆっくりと立ち上がる。

「セージ君!」
「わかってる」

 僕は前に出た。
 光が胸の内で集まる。

〈攻撃力ストック:4000/4000〉
〈加速ストック:4000/4000〉
〈祈りストック:4000/4000〉

 ――静かだ。
 戦場の喧噪が消え、ただ心音だけが響いている。

 剣を振り下ろす。
 光の刃が黒砂の影を貫き、祈りの形ごと霧散させた。
 けれど、その断面から、さらに細かな影が無数に這い出す。

「……再生してる!?」
 リンカが目を見開く。
「違う、これ――」セレスが叫ぶ。
「“祈り”を吸ってるんです! 祈りが、呪いに転じている!」

 影たちは光に触れるたび、反発するように輝いた。
 そして、それを喰らうように消える。

「セージ君、今の祈りストックを!」
 リンカの声が届く。
 僕は頷き、意識を切り替えた。

〈祈りストック:放出準備〉
〈連結:フィーリングリンク〉

 セレスの祈りと、僕の意識が一瞬で繋がる。
 心の奥に、彼女の声が流れ込む。
 ――光は、奪うためにあるのではありません。返すためにある。

 その言葉と同時に、剣が光を放った。
 刃先から広がった輪が、影たちの身体を透かす。
 黒砂の粒が宙に浮き、静かに崩れた。

 風が吹き抜け、砂が流れ落ちる。
 祭壇の奥にあった光が、かすかに揺れた。

「……消えた?」
「ええ。でも、これは一部にすぎません」セレスが肩で息をしている。
「“祈りを反転させる儀式”……その原典が、まだどこかにあるはずです」

「原典……」
 僕は焦げた石柱を見上げる。
 その表面には、崩れた文字。
 ベアストリア教団の聖句に似ていたが、ほんの少し違っていた。

『――神は創られし者にして、創る者』

 セレスが震える声で呟いた。
「そんな……これは、冒涜の言葉です」
「つまり、“黒砂の教団”は神を信じてるんじゃない」
 僕は目を細めた。
「神を、創ろうとしてる」

 静寂。
 それがいちばん怖かった。
 黒砂がわずかに流れ、地の底がまた、呼吸を始めたように感じられた。

「……行こう」
 僕は剣を握り直す。
「この地下の奥に、まだ何かがある。
 それを止めなきゃ、また誰かの“祈り”が喰われる」

 仲間たちは黙って頷いた。
 灯りが再びともされ、影が伸びる。
 その先に――黒砂の闇が、微かに脈打っていた。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。

猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。 もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。 すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。 主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。 ――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました―― 風景が目まぐるしく移り変わる。 天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。 移り変わる景色こそは、 第一天 ヴィロン。 第二天 ラキア。 第三天 シャハクィム。 第四天 ゼブル。 第五天 マオン。 第六天 マコン。 それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。 気付けば明星は、玉座に座っていた。 そこは天の最高位。 第七天 アラボト。 そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。 ――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...