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31回目 その3
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「「「王様れーじ君♡♡♡」」」
テーブルの上には、ふわりが用意したおかずがずらりと並んでいた。
焼き鮭、卵焼き、サラダ、味噌汁――見た目も香りも完璧。
「はいっ♪ 本日のメニューは、ふわり特製“れーじくん元気ご飯”だよ~♡」
「……タイトルがすでに甘ったるいな」
「えへへ~♡ だって今日の命令、“ふわりがご飯を食べさせてもらう”だからぁ♪」
「……いや、意味わかんねぇって。自分で食べろよ」
「れーじくんに“あーん”してもらうのが目的なんだもん♡」
まるで当然と言わんばかりの笑顔。
「じゃあ、はい。“あーん”」
俺が箸で卵焼きを口元に近づけると、ふわりは嬉しそうに口を開けた。
「ん~♡ おいし~♡」
「お前、完全に子供じゃねぇか」
「だってぇ~♡ れーじくんに食べさせてもらうと、なんか胸の中がポカポカするの」
「……そういうこと言うな。変に意識するだろ」
「変にって~? ふわり、本気だよ~♡」
甘やかされながら甘える。
彼女の独特の空気に、俺はもう逆らえなかった。
ふわりは今度、箸を取り返して俺の方へ突き出した。
「じゃあ次は~、れーじくんの番っ♡」
「いや、お前のターンだろ!?」
「ふわり的には“お返しターン”なの~♡」
そう言って、ふわりは焼き鮭を一切れすくい、
「はいっ、あーん♡」と差し出す。
……なんで俺までこうなるんだ。
「……あーん」
口に入れた瞬間、ふわりは満足そうに微笑んだ。
「ねっ♡ あーんって言わせると、なんか幸せな気持ちになるよね」
「なあ、ふわり」
「ん~?」
「お前、これって結局、どっちが王様なんだ?」
「んふふ~♡ “どっちも”だよ。れーじくんもふわりも、甘やかし合いっこ♡」
言いながら、ふわりはゆるく笑って首を傾げた。
その笑顔は、まるで春の日みたいに穏やかだった。
「……ま、いっか」
俺は箸を持ち直し、再びふわりの口へと差し出す。
「ほら、“あーん”」
「ん~♡ あーん♡」
結局、最後まで主従が曖昧なまま、
甘くてふわふわした時間だけが過ぎていった。
「「「王様れーじ君♡♡♡」」」
引かれたくじを見て、鈴音が小さく息をのんだ。
「……り、鈴音です」
ほんのり頬を赤く染めて、手元の当たりくじを見つめる。
「おお、鈴音ターンか」
杏奈がニヤリと笑い、ふわりが「んふふ~♡ ドキドキ展開だぁ」と手を合わせる。
「で、どんな命令にするんだ?」
俺が促すと、鈴音は少し俯いたまま、
「……第一の命令。“鈴音と手をつないでください”」と、小さな声で言った。
「え?」
一瞬、場の空気が止まる。
「リンちゃん、かわいすぎる~!」
「くぅ~♡ 清純派すぎて眩しいわ!」杏奈も両手で頬を押さえる。
「ちょっ……からかわないでください!」
鈴音が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「……まあ、いいけどさ」
俺はため息をついて、静かに右手を差し出した。
鈴音は、ほんの一瞬ためらったあと――
そっとその手を握った。
「……あったかいです」
小さな声が聞こえる。
鈴音の手は意外と柔らかくて、冷たくもなく、ただ静かに俺の掌を包んでいた。
「お前……こういうの、恥ずかしくないか?」
「恥ずかしいです……でも……離したくない、です」
その言葉に、俺は少しだけ息を詰めた。
鈴音は真正面から俺を見上げて、ほんのわずかに微笑む。
「ほら~♡ 見てるだけで心がぽかぽかする~」
「ね~、あたしらも混ざりたいんだけど」
「ダ、ダメですっ!」鈴音が即座に遮る。
珍しく声を荒らげて、三人の笑いを誘った。
静かに繋いだ手を見つめながら、鈴音が呟く。
「……この温かさ、たぶん、ずっと覚えてます」
「そんな大げさな……」
「大げさじゃありません。……れー君、いつもありがとう」
その瞬間だけ、いつもの真面目な鈴音じゃなくて、
ちょっとだけ甘える“女の子の顔”になっていた。
(……なんか、こういうの、ずるいよな)
「「「王様れーじ君♡♡♡」」」
引いたくじを見て、鈴音が小さく息を吸った。
「……また、私です」
ほんの少し嬉しそうに微笑む。その笑みは、前回よりもずっと柔らかい。
「よっ、二連続。鈴音のターン続くねぇ~」杏奈がにやりと笑い、
「んふふ~♡ どんな命令かなぁ?」ふわりが期待混じりに頬杖をつく。
「……では、第二の命令。“鈴音に、子守歌を歌ってください”」
「…………は?」
俺は思わず間抜けな声を出した。
⸻
「れ、レージ君の声、落ち着くので……眠れるかなって」
鈴音はもじもじと指を合わせながら、上目遣いで言った。
「ふ、ふわり~♡ リンちゃんが……可愛すぎて息止まる~!」
「だねぇ♡ れーじくん、全力で優しく歌ってあげなきゃ」
「お、お前らなぁ……」
苦笑しつつも、鈴音の真剣な眼差しを見たら断れない。
「……じゃあ、ちょっとだけな」
俺は息を整え、静かに声を出した。
「♪~……」
自分でも驚くほど静かな声が部屋に溶ける。
鈴音は布団の上に座り、目を閉じて聴いていた。
その顔が、とても穏やかで。
まるで、冬の夜に降る雪のような静けさを纏っていた。
「……れー君の声、やっぱり優しいです」
「寝ろよ。子守歌だろ」
「……はい」
目を閉じたまま、鈴音がふっと小さく笑う。
「こんなに落ち着くなんて……。ふわりちゃんや杏奈ちゃんが羨ましがるかもしれません」
「確かに~♡」ふわりがくすくす笑い、
杏奈も「ずるいぞー、鈴音!」と頬を膨らませる。
「だ、だから! 寝かせてくださいってば!」
慌てた鈴音の声が、部屋の中に響いた。
結局、笑いが落ち着くまでしばらくかかったけど、
最後にはちゃんと、鈴音は目を閉じて俺の歌を聴いていた。
静かな呼吸が聞こえる。
俺はそのまま、少しの間だけ歌い続けた。
(……こんな風に、安心して眠ってくれるなら、それだけで十分だな)
「「「王様れーじ君♡♡♡」」」
割り箸を引く音。
そして、静かに鈴音が手を挙げた。
「……また、私です」
わずかに照れながらも、口元には嬉しそうな微笑。
前回よりも少しだけ、自信を帯びていた。
「三連続か~♡ リンちゃん、勢いすごいね~」
「こりゃ完全に運命の流れだな」杏奈がにやにや笑う。
「……それでは、第三の命令を出します」
鈴音は深呼吸をひとつして、真剣な瞳で俺を見つめた。
「“今日一日は、鈴音だけを見てください”」
「……え?」
「ふ、ふわりも杏奈ちゃんもダメです。……今日だけは、鈴音の番なんです」
いつもより強い声。
普段の控えめな鈴音とはまるで違う。
「おお~、言ったぁ♡」
「リンちゃん攻めてるね!」杏奈が歓声を上げる。
「だ、だって……たまには、ちゃんと甘えたいんです……!」
鈴音は両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。
頬は赤く、瞳は真剣そのものだった。
「……わかったよ。じゃあ、今日は鈴音の日ってことで」
「ほ、本当ですか?」
「嘘ついてどうするんだよ」
「……ありがとうございます」
鈴音は小さく息を吐き、
ゆっくりと俺の隣に腰を下ろした。
「じゃあ、まずは……手、つないでもいいですか?」
「好きにしろ」
「……はい」
指が絡む。
前よりも少しだけ、強く握り返してくる。
「れー君……」
「ん?」
「……ずっと、こうしていたいです」
その声はかすかに震えていたけれど、
彼女の目はまっすぐで、揺れていなかった。
杏奈とふわりは、そんな二人を見ながらこそこそ囁き合う。
「ねぇ、リンちゃんってさ、ほんと恋してる顔だよねぇ~」
「うん、可愛い。……でも、次のターンは負けないよ♡」
その小声が耳に届いた瞬間、
鈴音の指先がきゅっと力を込めた。
「……やっぱりダメ。今日は、誰にも譲りません」
強気な言葉に、思わず苦笑が漏れる。
「お前……そういうとこ、ずるいよな」
「……ずるくてもいいです。れー君、今日は“鈴音の王様ゲーム”ですから」
言い切った鈴音の笑顔は、
普段よりずっと大人びて見えた。
「「「王様れーじ君♡♡♡」」」
割り箸を引く音が三重に響く。
だが、次の瞬間――三人同時に声を上げた。
「「「あっ、当たり!?」」」
「……は?」
手元を見ると、三人とも同じ印が刻まれたくじを握っていた。
「え、待って、これミス?」「いえ……完全にバグってますね」「あはは~♡ みんな正室ってことだぁ♪」
嫌な予感しかしない。
そしてとてつもないデジャヴ。
「というわけで!」杏奈が勢いよく立ち上がる。
「今回の命令は――三人同時発動っ!」
「え、ちょ、待て、落ち着け!」
「れー君、覚悟してね♡」
「れーじくん、ふわりも負けないからね~♡」
「レージ君……今日ばかりは譲りません!」
あっという間に包囲完了。
三方向から迫る幼馴染たち。俺の逃げ場はゼロだった。
やっぱりいつものオチだった。
「まずはあたしの命令! “れー君、頭なでて♡”」
「同時にふわりの命令~♡ “あーんして♡”」
「そして鈴音の命令! “手、つないでください!”」
「無理無理無理無理!! 一人ずつにしてくれって!」
それでも三人はぴったり張り付いて、まったく離れない。
右手は鈴音、左手は杏奈、目の前ではふわりがプリンを構えて――
「あーん♡」
「な、舌突っ込むなって!」
「えへへ~♡ 食べさせるの下手だねぇ」
わちゃわちゃとした混線の中で、笑い声が絶えなかった。
杏奈が俺の髪をぐしゃぐしゃに撫で、
ふわりが頬をつん、と突いて、
鈴音は真っ赤になりながらも必死に手を握り続けていた。
「ふふっ……もう、滅茶苦茶ですね」鈴音が笑う。
「滅茶苦茶だけど、楽しいじゃん♪」杏奈が満足げに頷く。
「ねぇ、れーじくん。これが“絶対王様ゲーム”の完成形なんじゃないかな~♡」ふわりがにこりと微笑んだ。
俺はしばし無言で三人を見回す。
正室だとか、王様だとか、そんな肩書きよりも――
今、こうして笑っていられることのほうがずっと大事だと思えた。
「……あーもう、降参だ。お前ら全員、優勝」
「やったぁ~♡」「やりました!」「れー君、だーい好き♡」
三人が同時に抱きついてきて、
そのまま全員まとめて倒れ込んだ。
柔らかくて、あったかくて、うるさくて――
この上なく幸せな、俺たちらしいカオスな結末だった。
このやりとりも何度目になるかわからない。
(……結局、王様って名ばかりで、
ほんとの支配者はこの三人なんだよな)
そんなことを思いながら、
俺は笑う三人の頭を一人ずつ撫でていった。
この上なく幸せだ。
― ゲーム31回目 終了―
テーブルの上には、ふわりが用意したおかずがずらりと並んでいた。
焼き鮭、卵焼き、サラダ、味噌汁――見た目も香りも完璧。
「はいっ♪ 本日のメニューは、ふわり特製“れーじくん元気ご飯”だよ~♡」
「……タイトルがすでに甘ったるいな」
「えへへ~♡ だって今日の命令、“ふわりがご飯を食べさせてもらう”だからぁ♪」
「……いや、意味わかんねぇって。自分で食べろよ」
「れーじくんに“あーん”してもらうのが目的なんだもん♡」
まるで当然と言わんばかりの笑顔。
「じゃあ、はい。“あーん”」
俺が箸で卵焼きを口元に近づけると、ふわりは嬉しそうに口を開けた。
「ん~♡ おいし~♡」
「お前、完全に子供じゃねぇか」
「だってぇ~♡ れーじくんに食べさせてもらうと、なんか胸の中がポカポカするの」
「……そういうこと言うな。変に意識するだろ」
「変にって~? ふわり、本気だよ~♡」
甘やかされながら甘える。
彼女の独特の空気に、俺はもう逆らえなかった。
ふわりは今度、箸を取り返して俺の方へ突き出した。
「じゃあ次は~、れーじくんの番っ♡」
「いや、お前のターンだろ!?」
「ふわり的には“お返しターン”なの~♡」
そう言って、ふわりは焼き鮭を一切れすくい、
「はいっ、あーん♡」と差し出す。
……なんで俺までこうなるんだ。
「……あーん」
口に入れた瞬間、ふわりは満足そうに微笑んだ。
「ねっ♡ あーんって言わせると、なんか幸せな気持ちになるよね」
「なあ、ふわり」
「ん~?」
「お前、これって結局、どっちが王様なんだ?」
「んふふ~♡ “どっちも”だよ。れーじくんもふわりも、甘やかし合いっこ♡」
言いながら、ふわりはゆるく笑って首を傾げた。
その笑顔は、まるで春の日みたいに穏やかだった。
「……ま、いっか」
俺は箸を持ち直し、再びふわりの口へと差し出す。
「ほら、“あーん”」
「ん~♡ あーん♡」
結局、最後まで主従が曖昧なまま、
甘くてふわふわした時間だけが過ぎていった。
「「「王様れーじ君♡♡♡」」」
引かれたくじを見て、鈴音が小さく息をのんだ。
「……り、鈴音です」
ほんのり頬を赤く染めて、手元の当たりくじを見つめる。
「おお、鈴音ターンか」
杏奈がニヤリと笑い、ふわりが「んふふ~♡ ドキドキ展開だぁ」と手を合わせる。
「で、どんな命令にするんだ?」
俺が促すと、鈴音は少し俯いたまま、
「……第一の命令。“鈴音と手をつないでください”」と、小さな声で言った。
「え?」
一瞬、場の空気が止まる。
「リンちゃん、かわいすぎる~!」
「くぅ~♡ 清純派すぎて眩しいわ!」杏奈も両手で頬を押さえる。
「ちょっ……からかわないでください!」
鈴音が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「……まあ、いいけどさ」
俺はため息をついて、静かに右手を差し出した。
鈴音は、ほんの一瞬ためらったあと――
そっとその手を握った。
「……あったかいです」
小さな声が聞こえる。
鈴音の手は意外と柔らかくて、冷たくもなく、ただ静かに俺の掌を包んでいた。
「お前……こういうの、恥ずかしくないか?」
「恥ずかしいです……でも……離したくない、です」
その言葉に、俺は少しだけ息を詰めた。
鈴音は真正面から俺を見上げて、ほんのわずかに微笑む。
「ほら~♡ 見てるだけで心がぽかぽかする~」
「ね~、あたしらも混ざりたいんだけど」
「ダ、ダメですっ!」鈴音が即座に遮る。
珍しく声を荒らげて、三人の笑いを誘った。
静かに繋いだ手を見つめながら、鈴音が呟く。
「……この温かさ、たぶん、ずっと覚えてます」
「そんな大げさな……」
「大げさじゃありません。……れー君、いつもありがとう」
その瞬間だけ、いつもの真面目な鈴音じゃなくて、
ちょっとだけ甘える“女の子の顔”になっていた。
(……なんか、こういうの、ずるいよな)
「「「王様れーじ君♡♡♡」」」
引いたくじを見て、鈴音が小さく息を吸った。
「……また、私です」
ほんの少し嬉しそうに微笑む。その笑みは、前回よりもずっと柔らかい。
「よっ、二連続。鈴音のターン続くねぇ~」杏奈がにやりと笑い、
「んふふ~♡ どんな命令かなぁ?」ふわりが期待混じりに頬杖をつく。
「……では、第二の命令。“鈴音に、子守歌を歌ってください”」
「…………は?」
俺は思わず間抜けな声を出した。
⸻
「れ、レージ君の声、落ち着くので……眠れるかなって」
鈴音はもじもじと指を合わせながら、上目遣いで言った。
「ふ、ふわり~♡ リンちゃんが……可愛すぎて息止まる~!」
「だねぇ♡ れーじくん、全力で優しく歌ってあげなきゃ」
「お、お前らなぁ……」
苦笑しつつも、鈴音の真剣な眼差しを見たら断れない。
「……じゃあ、ちょっとだけな」
俺は息を整え、静かに声を出した。
「♪~……」
自分でも驚くほど静かな声が部屋に溶ける。
鈴音は布団の上に座り、目を閉じて聴いていた。
その顔が、とても穏やかで。
まるで、冬の夜に降る雪のような静けさを纏っていた。
「……れー君の声、やっぱり優しいです」
「寝ろよ。子守歌だろ」
「……はい」
目を閉じたまま、鈴音がふっと小さく笑う。
「こんなに落ち着くなんて……。ふわりちゃんや杏奈ちゃんが羨ましがるかもしれません」
「確かに~♡」ふわりがくすくす笑い、
杏奈も「ずるいぞー、鈴音!」と頬を膨らませる。
「だ、だから! 寝かせてくださいってば!」
慌てた鈴音の声が、部屋の中に響いた。
結局、笑いが落ち着くまでしばらくかかったけど、
最後にはちゃんと、鈴音は目を閉じて俺の歌を聴いていた。
静かな呼吸が聞こえる。
俺はそのまま、少しの間だけ歌い続けた。
(……こんな風に、安心して眠ってくれるなら、それだけで十分だな)
「「「王様れーじ君♡♡♡」」」
割り箸を引く音。
そして、静かに鈴音が手を挙げた。
「……また、私です」
わずかに照れながらも、口元には嬉しそうな微笑。
前回よりも少しだけ、自信を帯びていた。
「三連続か~♡ リンちゃん、勢いすごいね~」
「こりゃ完全に運命の流れだな」杏奈がにやにや笑う。
「……それでは、第三の命令を出します」
鈴音は深呼吸をひとつして、真剣な瞳で俺を見つめた。
「“今日一日は、鈴音だけを見てください”」
「……え?」
「ふ、ふわりも杏奈ちゃんもダメです。……今日だけは、鈴音の番なんです」
いつもより強い声。
普段の控えめな鈴音とはまるで違う。
「おお~、言ったぁ♡」
「リンちゃん攻めてるね!」杏奈が歓声を上げる。
「だ、だって……たまには、ちゃんと甘えたいんです……!」
鈴音は両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。
頬は赤く、瞳は真剣そのものだった。
「……わかったよ。じゃあ、今日は鈴音の日ってことで」
「ほ、本当ですか?」
「嘘ついてどうするんだよ」
「……ありがとうございます」
鈴音は小さく息を吐き、
ゆっくりと俺の隣に腰を下ろした。
「じゃあ、まずは……手、つないでもいいですか?」
「好きにしろ」
「……はい」
指が絡む。
前よりも少しだけ、強く握り返してくる。
「れー君……」
「ん?」
「……ずっと、こうしていたいです」
その声はかすかに震えていたけれど、
彼女の目はまっすぐで、揺れていなかった。
杏奈とふわりは、そんな二人を見ながらこそこそ囁き合う。
「ねぇ、リンちゃんってさ、ほんと恋してる顔だよねぇ~」
「うん、可愛い。……でも、次のターンは負けないよ♡」
その小声が耳に届いた瞬間、
鈴音の指先がきゅっと力を込めた。
「……やっぱりダメ。今日は、誰にも譲りません」
強気な言葉に、思わず苦笑が漏れる。
「お前……そういうとこ、ずるいよな」
「……ずるくてもいいです。れー君、今日は“鈴音の王様ゲーム”ですから」
言い切った鈴音の笑顔は、
普段よりずっと大人びて見えた。
「「「王様れーじ君♡♡♡」」」
割り箸を引く音が三重に響く。
だが、次の瞬間――三人同時に声を上げた。
「「「あっ、当たり!?」」」
「……は?」
手元を見ると、三人とも同じ印が刻まれたくじを握っていた。
「え、待って、これミス?」「いえ……完全にバグってますね」「あはは~♡ みんな正室ってことだぁ♪」
嫌な予感しかしない。
そしてとてつもないデジャヴ。
「というわけで!」杏奈が勢いよく立ち上がる。
「今回の命令は――三人同時発動っ!」
「え、ちょ、待て、落ち着け!」
「れー君、覚悟してね♡」
「れーじくん、ふわりも負けないからね~♡」
「レージ君……今日ばかりは譲りません!」
あっという間に包囲完了。
三方向から迫る幼馴染たち。俺の逃げ場はゼロだった。
やっぱりいつものオチだった。
「まずはあたしの命令! “れー君、頭なでて♡”」
「同時にふわりの命令~♡ “あーんして♡”」
「そして鈴音の命令! “手、つないでください!”」
「無理無理無理無理!! 一人ずつにしてくれって!」
それでも三人はぴったり張り付いて、まったく離れない。
右手は鈴音、左手は杏奈、目の前ではふわりがプリンを構えて――
「あーん♡」
「な、舌突っ込むなって!」
「えへへ~♡ 食べさせるの下手だねぇ」
わちゃわちゃとした混線の中で、笑い声が絶えなかった。
杏奈が俺の髪をぐしゃぐしゃに撫で、
ふわりが頬をつん、と突いて、
鈴音は真っ赤になりながらも必死に手を握り続けていた。
「ふふっ……もう、滅茶苦茶ですね」鈴音が笑う。
「滅茶苦茶だけど、楽しいじゃん♪」杏奈が満足げに頷く。
「ねぇ、れーじくん。これが“絶対王様ゲーム”の完成形なんじゃないかな~♡」ふわりがにこりと微笑んだ。
俺はしばし無言で三人を見回す。
正室だとか、王様だとか、そんな肩書きよりも――
今、こうして笑っていられることのほうがずっと大事だと思えた。
「……あーもう、降参だ。お前ら全員、優勝」
「やったぁ~♡」「やりました!」「れー君、だーい好き♡」
三人が同時に抱きついてきて、
そのまま全員まとめて倒れ込んだ。
柔らかくて、あったかくて、うるさくて――
この上なく幸せな、俺たちらしいカオスな結末だった。
このやりとりも何度目になるかわからない。
(……結局、王様って名ばかりで、
ほんとの支配者はこの三人なんだよな)
そんなことを思いながら、
俺は笑う三人の頭を一人ずつ撫でていった。
この上なく幸せだ。
― ゲーム31回目 終了―
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