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第1章 鬱ゲー転生で即決断
第3話「二人きり。そして影」
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「なーなー! お前ら昨日から付き合い始めたってマジ?」
「ちょっと手、見せろよ、手!」
「キスは!? キスはしたのか!?」
休み時間になるや否や、俺の席は野次馬で埋め尽くされた。
男子も女子も入り乱れて、まるでワイドショーの突撃取材だ。
「い、いきなり何だよ……!」
「いやいや、当然の疑問だろー? 俺ら、真白のことクラス全員で見守ってたんだからな!」
「……誰がいつ見守れって言ったのよ」
呆れ顔でそう返したのは、当の真白だった。
ノートを閉じて、ためらいもなく俺の隣に腰を下ろす。
その瞬間――教室が「ぎゃああっ!」と爆発したように騒がしくなった。
「おいおい自然に隣座ったぞ!」
「近い! 近すぎる!」
「青春すぎて目に毒だ!」
真白は顔を真っ赤にしながら、俺の袖を小さくつまんでいる。
「……もう、こうなったら仕方ないよね。みんなに隠すことじゃないし」
「……そうだな」
胸が熱くなる。
彼女が「彼女」として、堂々と俺の隣に座ってくれた――それだけで、心臓が跳ね上がった。
転生前の俺には、こんな光景は想像すらできなかった。
人前でからかわれたら慌てて否定し、笑ってごまかして、結局は好意を踏みにじってきた。
そうして失ってきたものの痛みを、俺は知っている。
だけど今は違う。
真白は、みんなの前で恥ずかしがりながらも、俺の袖をしっかり握っている。
――その温もりが、「もう一人じゃない」と教えてくれていた。
クラスの冷やかしは正直うるさい。
けれど、不思議と嫌じゃなかった。
むしろ、この賑やかしが「俺と真白は本当に恋人なんだ」と証明してくれているようで、胸の奥がくすぐったくなる。
(ああ……これが、俺が望んでいた青春なんだな)
真白が横で小さく息を呑む気配。
そっと横目で見れば、赤い顔で俯きながらも、ほんの少し笑みを浮かべていた。
その笑顔を見ただけで、俺はもう、どんなからかいにも耐えられる気がした。
そんな真白の健気さに、胸が温かくなる。
だが――
「でも、クラスだけじゃ済まないかもね」
真白が小さく漏らした声に、俺は耳を傾ける。
「え?」
「……学年でも人気者な先輩がいるの。前から何度か、しつこく声をかけられたことがあって……」
一瞬で背筋が冷える。
真白を奪った、あの“元凶”。
俺がプレイヤーとして見せられた最悪のバッドエンドの象徴。
脳裏に蘇るのは、モニター越しに見た真白の泣き顔だ。
廊下で無理やり腕を引かれるシーン。
震える声で「いや……やめて……」と呟くテキスト。
プレイヤーの操作が一切効かず、強制的に進行するイベント。
あのとき握っていたコントローラーを、俺は机に叩きつけた。
(来たか……神崎玲央。
前の俺なら、怖くて目を逸らしていた。
“どうせゲームだ”って言い訳して、ただ見届けるしかなかった。
けど今は違う。これは現実だ。俺が選んだ選択肢で、未来は変えられる)
真白は小さく笑って続ける。
「でも、もう大丈夫だよね。だって、私は――」
言葉の代わりに、真白は俺の袖をぎゅっと掴んだ。
震えと甘えが入り混じる指先の力。
小さなその仕草が、俺の胸に深く突き刺さる。
――守らなければ。
この世界に転生した意味は、そのためにある。
「……私の彼氏は、あなただから」
赤く染まった頬、まっすぐな瞳。
クラスのざわめきなんてもう耳に入らない。
俺は彼女の手を握り返し、心の底から誓った。
(俺は――この手を、絶対に離さない。
二度と、後悔なんてしない。真白を泣かせる未来は、俺が必ず潰す)
放課後。
ざわついていた教室も生徒が次々と帰り、静けさを取り戻していた。
窓際に差し込む西陽が、机の影を長く伸ばす。
「……はぁ。今日は、すごかったね」
隣で真白が小さく息をついた。
机に頬杖をついて、少し拗ねたように笑っている。
「クラス全員から質問攻めって、あんなの初めてだよ」
「……ごめんな真白。つい勢いで」
「別に怒ってるわけじゃないよ。ただ……恥ずかしかったの」
真白は視線を逸らし、制服のスカートの裾をいじる。
耳まで赤く染まっていて、俺は思わず吹き出しそうになった。
「でも、嬉しかった」
「え?」
「だって……あんなふうに堂々と“彼女だ”って言ってもらえるなんて。夢みたいだったから」
一瞬、時間が止まった気がした。
真白の横顔が、夕陽を受けて赤く染まり――その言葉が胸に突き刺さる。
(……転生前の俺なら、絶対に言えなかった台詞だな)
いつも冗談でごまかし、肝心なときに言葉を飲み込み、後悔だけが残った。
でも今は違う。
俺にはもう、真白を泣かせないと誓った理由がある。
「俺だって、嬉しかったさ。
もう誰にも隠す必要はない。……真白は俺の、大事な彼女だから」
「~~っ!」
真白は顔を覆って、机に突っ伏した。
その背中まで真っ赤に染まっているのがわかって、俺は自然と笑みをこぼす。
……こんな日常が続けばいい。
そう思った瞬間――
「おーい、そこのカップル。随分ラブラブだな」
廊下から軽い声が飛んできた。
俺たちは同時に顔を上げる。
ドアの前に立っていたのは、制服を着崩し、片手で携帯を弄りながら余裕の笑みを浮かべた男――
「……っ」
真白の表情が一瞬で固まる。
「よぉ、結城。帰り道、一緒にどうだ?」
それは、学園でも有名な人気者。
だが俺の知る“原作”では、真白を奪う元凶となった男。
――神崎玲央。
(……ついに来たか)
胸の奥でざわつく不安を押し殺しながら、俺は真白の手を強く握った。
制服のシャツは第二ボタンまで外れ、ネクタイは緩め、ポケットにはスマホとイヤホン。
無邪気な笑顔を浮かべているはずなのに、その立ち姿から漂う空気は妙に圧迫感があった。
「せ、先輩……」
真白の肩が小さく震える。
俺はその手をぎゅっと握り返した。
「すみません。今日は俺と真白で帰るんで」
「あぁん?」
玲央の目が一瞬だけ細くなる。
その視線は、冗談では済まされない鋭さを帯びていた。
だが次の瞬間には口角を上げ、俺の肩を軽く叩いてくる。
「はは、そんな怖い顔すんなって。ただの冗談さ」
……そうやって笑顔を貼り付けるところが、何よりも不気味だった。
原作ゲームでの神崎玲央――
あれほどプレイヤーにストレスを与えたキャラクターはいなかった。
表向きは明るく社交的で、男女問わず人気がある学園の中心人物。
だが裏では、気に入った女子を脅し、弱みを握り、逃げ場のない状況へ追い込む。
テキストウィンドウに無機質に流れる「嫌なら断ればいいだろ?」という台詞。
選択肢は出ない。操作も効かない。
プレイヤーはただ、幼馴染が泣きながら奪われていくのを見せつけられるだけ。
無力感と嫌悪感を叩きつけられる、あの悪夢のようなイベント。
「こいつさえいなければ」という思いで、何度胃の中を焦がしたことだろう。
――その張本人が、今、目の前にいる。ゲームのイラストでも胸がムカついて仕方なかったのに、本物の人間になって目の前に現われると台所の黒い悪魔よりも嫌悪感が生理的に募ってくる。
「いやぁ、でも意外だなぁ。結城真白ちゃんに彼氏ができるなんてさ」
玲央は真白を見ながら、にやりと笑う。
「ま、俺も応援してるよ。……本当に“うまくいくといいな”」
軽い口調なのに、背筋に冷たいものが走った。
その声音には、応援どころか「どう転ぶか見ものだな」という含みが滲んでいた。
真白は俯き、小さく「……帰ろ」と呟く。
俺は無言で頷き、彼女の肩を守るように歩き出した。
玲央の視線が背中に突き刺さる。
あのイベントで見せつけられた悪夢の残像が、胸の奥をざわつかせる。
(……こいつは、原作通りなら絶対に真白を狙ってくる。
だけど今度は違う。俺が真白を守り抜く。
二度と、あの悪夢を繰り返させはしない)
俺は真白の手を強く握り込み、心に固く誓った。
「ちょっと手、見せろよ、手!」
「キスは!? キスはしたのか!?」
休み時間になるや否や、俺の席は野次馬で埋め尽くされた。
男子も女子も入り乱れて、まるでワイドショーの突撃取材だ。
「い、いきなり何だよ……!」
「いやいや、当然の疑問だろー? 俺ら、真白のことクラス全員で見守ってたんだからな!」
「……誰がいつ見守れって言ったのよ」
呆れ顔でそう返したのは、当の真白だった。
ノートを閉じて、ためらいもなく俺の隣に腰を下ろす。
その瞬間――教室が「ぎゃああっ!」と爆発したように騒がしくなった。
「おいおい自然に隣座ったぞ!」
「近い! 近すぎる!」
「青春すぎて目に毒だ!」
真白は顔を真っ赤にしながら、俺の袖を小さくつまんでいる。
「……もう、こうなったら仕方ないよね。みんなに隠すことじゃないし」
「……そうだな」
胸が熱くなる。
彼女が「彼女」として、堂々と俺の隣に座ってくれた――それだけで、心臓が跳ね上がった。
転生前の俺には、こんな光景は想像すらできなかった。
人前でからかわれたら慌てて否定し、笑ってごまかして、結局は好意を踏みにじってきた。
そうして失ってきたものの痛みを、俺は知っている。
だけど今は違う。
真白は、みんなの前で恥ずかしがりながらも、俺の袖をしっかり握っている。
――その温もりが、「もう一人じゃない」と教えてくれていた。
クラスの冷やかしは正直うるさい。
けれど、不思議と嫌じゃなかった。
むしろ、この賑やかしが「俺と真白は本当に恋人なんだ」と証明してくれているようで、胸の奥がくすぐったくなる。
(ああ……これが、俺が望んでいた青春なんだな)
真白が横で小さく息を呑む気配。
そっと横目で見れば、赤い顔で俯きながらも、ほんの少し笑みを浮かべていた。
その笑顔を見ただけで、俺はもう、どんなからかいにも耐えられる気がした。
そんな真白の健気さに、胸が温かくなる。
だが――
「でも、クラスだけじゃ済まないかもね」
真白が小さく漏らした声に、俺は耳を傾ける。
「え?」
「……学年でも人気者な先輩がいるの。前から何度か、しつこく声をかけられたことがあって……」
一瞬で背筋が冷える。
真白を奪った、あの“元凶”。
俺がプレイヤーとして見せられた最悪のバッドエンドの象徴。
脳裏に蘇るのは、モニター越しに見た真白の泣き顔だ。
廊下で無理やり腕を引かれるシーン。
震える声で「いや……やめて……」と呟くテキスト。
プレイヤーの操作が一切効かず、強制的に進行するイベント。
あのとき握っていたコントローラーを、俺は机に叩きつけた。
(来たか……神崎玲央。
前の俺なら、怖くて目を逸らしていた。
“どうせゲームだ”って言い訳して、ただ見届けるしかなかった。
けど今は違う。これは現実だ。俺が選んだ選択肢で、未来は変えられる)
真白は小さく笑って続ける。
「でも、もう大丈夫だよね。だって、私は――」
言葉の代わりに、真白は俺の袖をぎゅっと掴んだ。
震えと甘えが入り混じる指先の力。
小さなその仕草が、俺の胸に深く突き刺さる。
――守らなければ。
この世界に転生した意味は、そのためにある。
「……私の彼氏は、あなただから」
赤く染まった頬、まっすぐな瞳。
クラスのざわめきなんてもう耳に入らない。
俺は彼女の手を握り返し、心の底から誓った。
(俺は――この手を、絶対に離さない。
二度と、後悔なんてしない。真白を泣かせる未来は、俺が必ず潰す)
放課後。
ざわついていた教室も生徒が次々と帰り、静けさを取り戻していた。
窓際に差し込む西陽が、机の影を長く伸ばす。
「……はぁ。今日は、すごかったね」
隣で真白が小さく息をついた。
机に頬杖をついて、少し拗ねたように笑っている。
「クラス全員から質問攻めって、あんなの初めてだよ」
「……ごめんな真白。つい勢いで」
「別に怒ってるわけじゃないよ。ただ……恥ずかしかったの」
真白は視線を逸らし、制服のスカートの裾をいじる。
耳まで赤く染まっていて、俺は思わず吹き出しそうになった。
「でも、嬉しかった」
「え?」
「だって……あんなふうに堂々と“彼女だ”って言ってもらえるなんて。夢みたいだったから」
一瞬、時間が止まった気がした。
真白の横顔が、夕陽を受けて赤く染まり――その言葉が胸に突き刺さる。
(……転生前の俺なら、絶対に言えなかった台詞だな)
いつも冗談でごまかし、肝心なときに言葉を飲み込み、後悔だけが残った。
でも今は違う。
俺にはもう、真白を泣かせないと誓った理由がある。
「俺だって、嬉しかったさ。
もう誰にも隠す必要はない。……真白は俺の、大事な彼女だから」
「~~っ!」
真白は顔を覆って、机に突っ伏した。
その背中まで真っ赤に染まっているのがわかって、俺は自然と笑みをこぼす。
……こんな日常が続けばいい。
そう思った瞬間――
「おーい、そこのカップル。随分ラブラブだな」
廊下から軽い声が飛んできた。
俺たちは同時に顔を上げる。
ドアの前に立っていたのは、制服を着崩し、片手で携帯を弄りながら余裕の笑みを浮かべた男――
「……っ」
真白の表情が一瞬で固まる。
「よぉ、結城。帰り道、一緒にどうだ?」
それは、学園でも有名な人気者。
だが俺の知る“原作”では、真白を奪う元凶となった男。
――神崎玲央。
(……ついに来たか)
胸の奥でざわつく不安を押し殺しながら、俺は真白の手を強く握った。
制服のシャツは第二ボタンまで外れ、ネクタイは緩め、ポケットにはスマホとイヤホン。
無邪気な笑顔を浮かべているはずなのに、その立ち姿から漂う空気は妙に圧迫感があった。
「せ、先輩……」
真白の肩が小さく震える。
俺はその手をぎゅっと握り返した。
「すみません。今日は俺と真白で帰るんで」
「あぁん?」
玲央の目が一瞬だけ細くなる。
その視線は、冗談では済まされない鋭さを帯びていた。
だが次の瞬間には口角を上げ、俺の肩を軽く叩いてくる。
「はは、そんな怖い顔すんなって。ただの冗談さ」
……そうやって笑顔を貼り付けるところが、何よりも不気味だった。
原作ゲームでの神崎玲央――
あれほどプレイヤーにストレスを与えたキャラクターはいなかった。
表向きは明るく社交的で、男女問わず人気がある学園の中心人物。
だが裏では、気に入った女子を脅し、弱みを握り、逃げ場のない状況へ追い込む。
テキストウィンドウに無機質に流れる「嫌なら断ればいいだろ?」という台詞。
選択肢は出ない。操作も効かない。
プレイヤーはただ、幼馴染が泣きながら奪われていくのを見せつけられるだけ。
無力感と嫌悪感を叩きつけられる、あの悪夢のようなイベント。
「こいつさえいなければ」という思いで、何度胃の中を焦がしたことだろう。
――その張本人が、今、目の前にいる。ゲームのイラストでも胸がムカついて仕方なかったのに、本物の人間になって目の前に現われると台所の黒い悪魔よりも嫌悪感が生理的に募ってくる。
「いやぁ、でも意外だなぁ。結城真白ちゃんに彼氏ができるなんてさ」
玲央は真白を見ながら、にやりと笑う。
「ま、俺も応援してるよ。……本当に“うまくいくといいな”」
軽い口調なのに、背筋に冷たいものが走った。
その声音には、応援どころか「どう転ぶか見ものだな」という含みが滲んでいた。
真白は俯き、小さく「……帰ろ」と呟く。
俺は無言で頷き、彼女の肩を守るように歩き出した。
玲央の視線が背中に突き刺さる。
あのイベントで見せつけられた悪夢の残像が、胸の奥をざわつかせる。
(……こいつは、原作通りなら絶対に真白を狙ってくる。
だけど今度は違う。俺が真白を守り抜く。
二度と、あの悪夢を繰り返させはしない)
俺は真白の手を強く握り込み、心に固く誓った。
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