前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

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第1章 鬱ゲー転生で即決断

第6話「学園日常と、先輩の視線」

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 週明けの教室。
 いつもの喧騒に包まれた中で、俺と真白は並んで席に座っていた。

「おいおい、また一緒に登校してきたのか?」
「くそっ、朝から仲良すぎだろ!」
「はいはい、ラブラブですね~」

 友人たちがニヤニヤしながらからかってくる。
 真白は顔を赤くして俯くが、それでも俺の袖をそっと掴んだまま離さない。
 その姿に胸が熱くなる。
 ――“彼女”という言葉がこれほど自然に馴染むなんて、転生前の俺には想像もできなかった。

「……ほんと、二人って漫画みたい」
「美男美女すぎて眩しいわー」
 女子たちまで混じり、黄色い歓声が飛び交った。

 心臓はばくばくしているのに、不思議と嫌ではない。
 むしろ「みんなの前で真白を隣にできている」ことが誇らしかった。

 昼休み。
 弁当を広げていると、真白が小さな卵焼きを差し出してきた。

「……はい、あーん」
「お、おい真白! ここ教室だぞ!」
「だって……彼氏だから」

 教室が一瞬シーンとした後――爆発したような歓声。
 真白は恥ずかしそうに視線を逸らしながらも、フォークを引っ込めようとはしなかった。
 その小さな勇気が、胸の奥にじんわり沁みる。

 俺は観念して口を開け、卵焼きを受け取った。
 ――ふわりと甘い味が広がり、心まで柔らかくなる。

(ゲームの中では、こんな日常は一度も見られなかった。
 けれど今の俺には、その続きを描く権利がある)

「おー、今日も仲いいな」

 背後から軽い声。振り向くと、神崎玲央が教室の入り口に立っていた。
 笑顔で手を振るその姿に、クラスは「キャー!」と盛り上がる。

 だが――その瞳が俺と交わった一瞬、冷気を孕んだ視線が突き刺さった。
 蛇のようにじっとりとした光。
 周りがどれだけ彼を“優しい先輩”と讃えても、俺だけは知っている。あれは狩人の目だ。

「ま、仲良くしろよ。応援してるから」
 軽やかにそう言い残して玲央は去っていく。

 教室に再びざわめきが戻る。
 けれど俺の耳には、真白が机の下でそっと握ってくれた手の温もりだけが残っていた。

(……大丈夫。怖がらなくていい。俺はここにいる)

 視線を交わすと、真白は小さく頷いて笑った。
 その笑顔を見ただけで、不安でざわついていた心が静まり返っていく。

 ――未来がどう転ぶかはまだわからない。
 けれど今、この瞬間の真白の笑顔だけは、何より確かだった。

 ◇◇◇

 午後の体育。
 俺たちのクラスはグラウンドでバスケットボールをやることになった。

「おいおい、カップルは同じチームだな!」
「反則級の連携プレイじゃん!」

 からかいの声が飛ぶ中、俺と真白は自然と同じチームになった。
 真白は運動が苦手だが、必死にボールを追う姿は可愛らしくて――つい見惚れてしまう。

「わっ……!」
 真白が足をもつれさせそうになった瞬間、俺は咄嗟に腕を伸ばして支えた。

「だ、大丈夫か!?」
「……うん。ありがと」

 真白の頬が赤くなり、視線をそらす。
 その表情にチームメイトの女子たちが「キャーー!」と黄色い歓声を上げ、男子たちは「また惚気かよ!」と頭を抱えた。

 試合はほとんどドタバタ喜劇と化し、点数なんて誰も気にしていなかった。
 でも――その空間がやけに温かく感じられた。

 授業が終わり、汗を拭きながら教室に戻ると、友人が小声で耳打ちしてきた。

「なぁ……聞いたか? 神崎先輩、また誰かに声かけてたってよ」
「……誰に?」
「さぁ? でも“断れない子を狙う”って噂は前からあるからな」

 心臓がどくりと鳴る。
 周囲のざわめきの中で、俺だけがその言葉に背筋を冷やしていた。

(……やっぱり、ただの軽い先輩なんかじゃない。あいつは狙ってる)

 窓際で頬杖をつく真白が、無邪気にこちらへ手を振ってくる。
 その笑顔はどこまでも眩しく、守りたいと思うほどに胸が締めつけられた。

 ……それでも、噂の残響は頭から離れない。

 ――楽しげな日常の裏に、確かに何かが忍び寄っている。





 放課後の教室は、クラス対抗フェスタの準備でいつも以上に熱気に包まれていた。

 それはゲーム内で行なわれる文化祭のようなもので、夏休みが終わった9月の初期に行なわれる。

 にも関わらず、秋口に体育祭があり、その後には文化祭が控えているので、実質的に年に2回も文化祭があるようなものだ。

 これは玲央という存在が真白にちょっかいをかけていく一連の流れのために用意されたイベントらしく、ネットでも突っ込みの嵐だった。

 恐らくゲームのシナリオ段階で調整ミスがあり、文化祭イベントを2回入れて開発を進めてしまったのではないかと推測されている。

 普通は年に2回も文化祭をやったりはしない。ゲーム世界ならではのおかしな学校行事とも言えた。

 窓の外では夕陽が沈みかけ、オレンジ色の光が差し込み、散らかった机や舞い散るリボンの切れ端を照らしている。
 笑い声やガムテープを引きちぎる音、イスを引きずる騒がしい音が入り混じり、教室はまるで祭りの前夜のようだった。

「ねぇ、このリボンどう思う?」
 真白が机いっぱいに布を広げ、俺に問いかけてきた。
 黒髪は少し汗で頬に張りつき、指先には細かな糸屑がついている。
 それでも瞳はきらきらして、楽しそうに揺れていた。

「すごく似合うと思う。……真白がつけたら完璧だ」
「なっ……! ちょっと、からかわないでよ!」

 恥ずかしそうに手を振る真白。
 だがその仕草がまた愛らしく、つい笑みがこぼれる。
 すると近くにいた女子たちが「きゃー!」と騒ぎ出し、男子たちは「もう見てらんねぇ!」と頭を抱えて大騒ぎだ。


(……こんな賑やかしの中で、真白と笑い合える。それだけで十分幸せだ)

 転生前、灰色の毎日をただ流されるように過ごしていた俺には想像もできなかった光景だった。

「おー、盛り上がってるな」

 軽い声とともにドアが開く。
 神崎玲央が片手をポケットに突っ込み、もう片手でひらひらと手を振って入ってきた。
 逆光の中で微笑むその姿に、クラスは一斉に湧き立つ。

「先生に頼まれてさ、ちょっと手伝いに来たんだ」
「ほんとですか!? 助かります!」
 女子も男子も声を上げ、自然と玲央の周りに人だかりができた。

 彼は荷物を軽々と運び、さりげなく冗談を飛ばし、場を盛り上げていく。
 ……その姿だけを見れば、まさしく“頼れる先輩”。

 だが。

 机に荷物を置いたとき、一瞬だけ俺と視線が交わった。
 その奥に潜んでいたのは、蛇のように粘つき、冷たく値踏みする光。
 周囲には決して見せない、狩人の目。

 背中を汗が伝った。
 教室のざわめきが急に遠ざかり、耳に響くのは自分の心臓の音ばかりになる。

(……やっぱり。あいつは狙っている)

 無意識に、俺は真白の手を握った。
 驚いた彼女がこちらを見るが、すぐに安心したように微笑んでくれる。
 その笑顔に胸が少しだけ軽くなる。

 だが不安は消えない。

 賑やかなクラフェス準備の中で笑顔を交わしながらも、
 心の奥底には、確かに冷たいざわめきが残り続けていた。


 クラフェス前の教室は、画用紙やカラーテープでごった返していた。
 窓から差し込む午後の光が紙くずを照らし、床一面に散らばった色彩はまるで祭りの落とし物のようだ。

「そこ、もうちょっと上に貼ったほうがいいかも!」
 脚立の上から友人が叫ぶ。

「じゃあ俺、こっち支えるよ」
「ありがとー!」

 わいわい騒ぎながら準備は進んでいく。
 俺と真白は、模擬喫茶の看板に飾りをつける担当になっていた。

「……ここ、リボンどうする?」
 真白が指先で飾りの位置を迷い、俺に見せてくる。
 黒髪が肩からさらりと垂れ、至近距離で覗き込まれると心臓が跳ねた。


「こっちに寄せたら……ほら、真白の方がセンスいいだろ」
「ち、ちょっと! またそうやって……」
 頬を赤らめる真白。
 すると周囲から「おーっと、カップル共同作業だー!」「青春かよ!」と冷やかしの声。

 真白はますます赤くなり、でも小さく笑って「……一緒に頑張ろうね」と囁いた。
 その言葉に胸が温かくなり、作業の時間が宝物のように感じられる。

「お、いい感じじゃん」

 不意に背後から声がした。
 振り向くと――神崎玲央が腕を組み、飾り付けを眺めていた。

「さすがだな。二人でやると、やっぱ息が合ってるわ」
 にこやかに褒める声に、クラスは「先輩まで公認かー!」と盛り上がる。

 だが。

 俺と視線が交わった瞬間、玲央の目が一瞬だけ細くなった。
 笑みの奥で、冷たい何かが潜んでいる。
 周囲には爽やかさしか見せないのに、俺だけには蛇のように粘つく光を覗かせる。

(……やっぱり、こいつは俺を試してやがる)

「手が足りなきゃ言えよ。俺も手伝うから」
 玲央はそう言い、真白の近くに歩み寄る。
 真白が小さく身じろぎしたのを、俺は見逃さなかった。

(……真白も気づいてるのか? “断れない優しさ”があるからこそ、余計に不安だ)

 俺は自然を装いながら一歩近づき、真白の隣に立った。
 彼女はほっとしたように俺を見上げ、小さく微笑む。

 教室は依然として賑やかで、笑い声が響いている。
 けれどその喧騒の中で、俺の心臓だけが強く脈打っていた。

 ――幸福なざわめきの裏に、別の音が確かに混じっている気がした。

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