前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

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第1章 鬱ゲー転生で即決断

第8話「幕引きの直前に」

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 クラフェスも終盤。
 模擬喫茶の客足はようやく落ち着き、教室の喧騒も少しずつ和らいできた。
 テーブルの片付けをしている真白の頬は赤く、額には小さな汗が滲んでいる。

「……ふぅ。いっぱいお客さん来たね」
「お疲れ。すごく頑張ってたな」
「ありがとう。でも……楽しかったよ」

 真白は微笑む。
 その笑顔に、疲れが見えていてもどこか充実感が宿っていた。

 ――そのとき。

「おー、真白ちゃん。今日は大活躍だったな」
 教室の隅から声が飛んできた。
 振り向くと、神崎玲央がテーブルにもたれ、片手でペットボトルの水を回していた。


「無理してないか? 喉乾いてるだろ。ほら」
 差し出された水。
 周囲からは「さすが先輩!」「気配りが神!」と歓声が上がる。

 真白は一瞬手を伸ばしかけて――俺を見た。
 その瞳に、わずかな迷いと戸惑いが浮かんでいた。

(……やっぱり来やがったか。どこにでも現われる暇人め……)

 胸の奥がイヤな熱量で熱くなる。
 みんなの前では“優しい先輩”の顔。
 だがその視線の奥に潜むのは、俺にしかわからない粘つく蛇の光だ。

「ありがとうございます。でも――」
 真白が言い淀んだ瞬間、俺はすっと前に出た。

「気持ちはありがたいですけど、片付けは俺と一緒にやりますから」
 俺は水を受け取らず、真白の肩に軽く手を置いた。
 玲央の笑みが一瞬だけ凍りつく。

「……そうか。彼氏くん、なかなか頼もしいじゃん」
 爽やかな声に混じって、冷たい棘が潜んでいた。

(……上等だ。遠回しに試すつもりなら、いくらでも受けて立つ)

 教室の笑い声と歓声に包まれながら、
 俺と玲央の視線だけは、静かにぶつかり合っていた。


 ◇◇◇

 クラフェスが終わり、校舎には打ち上げの歓声と後片付けの音がまだ響いていた。
 だが俺と真白は、少し早めに教室を抜けて帰路についた。

 夕暮れの空は茜色に染まり、校門を出た瞬間、熱気に包まれた一日の余韻がすっと遠のいていく。
 人混みから離れた道を二人で歩くだけで、不思議と胸が落ち着いていった。

「……お疲れさま」
「うん。蒼真君もね。今日は、ほんとに大変だった」

 真白は小さく笑いながら、制服の袖をぎゅっと握る。
 その笑顔には疲れが滲んでいたけれど、同時に満たされた輝きもあった。

「人気者だったな、真白。みんなお前を見てた」
「えっ、そ、そんなこと……」
「いや、間違いない。ちょっと嫉妬したくらいだ」

 ぽろりと出た本音に、真白は目を丸くして――次の瞬間、頬を真っ赤に染めた。
「……そ、それって……嬉しい」
 小さな声でそう呟き、俺の腕にそっと寄り添ってくる。

 心臓が跳ね、胸がじんわり熱くなる。
 今日一日、冷やかしや騒動の中で揺さぶられ続けたけれど――この瞬間だけで全部報われる気がした。

 けれど。

 背後の校舎を振り返ったとき、窓越しに一瞬、神崎玲央の姿が目に映った。
 片付けを手伝うふりをしながら、こちらを見ている。
 表情は笑っていたが、その目だけは氷のように冷たかった。

(……やっぱり、終わりじゃない)

 真白は気づかず、俺の腕に寄り添ったまま安らかな笑みを浮かべている。
 俺はその温もりを強く感じながら、背筋に走る悪寒を振り払うように夜空を仰いだ。

 ――祭りのあと、確かに残った甘い時間。
 だが同時に、次の嵐の予兆が静かに迫っていた。

 クラフェスの片付けも終わり、クラス全員で集まった打ち上げは、賑やかさと達成感でいっぱいだった。
 教室の机を端に寄せ、持ち寄ったお菓子やジュースを囲んで、みんなが笑い合っている。

「乾杯ー!」
「クラフェス、大成功ー!!」

 紙コップを打ち合わせる音とともに、歓声が響く。
 笑い声と拍手の中で、真白が隣に座り、柔らかく微笑んだ。

「ね、すごく楽しかったね」
「……ああ。お前が一番輝いてた」
「も、もう……またそういうこと言って……」

 頬を染めて俯く真白。
 それを見たクラスメイトたちが「惚気かー!」「はいはいイチャイチャ禁止!」と茶化す。
 笑い声に包まれながら、俺は胸の奥にじんわりとした温かさを覚えていた。

 だが。

「真白ちゃん、こっちの席空いてるぞ」
 声をかけたのは神崎玲央だった。
 笑顔のままジュースを片手に、自然な調子で真白に手招きしている。

「先輩……」
 戸惑う真白の横顔に、わずかに影が差した。

(……また来やがった。本当にしつこい野郎だ)

 俺は立ち上がろうとしたが、その瞬間――
 友人に呼ばれて少しだけ後ろを向いた。
 ほんの一瞬のこと。

 振り返ったときには、玲央がすでに真白のすぐそばに座っていた。

「今日はお疲れ。無理してないか?」
「……あ、はい。大丈夫です」
 真白は小さく頷くが、その表情は張り詰めていた。

(くそ……この隙を突きやがったか)

 教室は笑いと歓声で賑やかだ。
 誰も気づいていない。
 だが俺の目には、玲央の視線が“優しさ”を装いながら、蛇のように真白を絡め取ろうとしているのが見えた。

 胸の奥に冷たい焦燥が走る。

(絶対に、ここで好きにさせてたまるか……!)

 一瞬すら油断できないハイエナ野郎の好き勝手にさせる訳にはいかない。

 紙コップを強く握りしめながら、俺は立ち上がった。
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