前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

文字の大きさ
9 / 101
第1章 鬱ゲー転生で即決断

第9話「初めての言葉」

しおりを挟む
 玲央は当然のように真白の隣に腰を下ろし、紙コップを指先でくるくると回していた。
 周囲の笑い声に溶け込むような軽い仕草――だが俺の目には、それが蛇が舌を覗かせる前触れにしか見えなかった。

「いやぁ、本当に助かったよな」
 玲央はにやりと笑みを浮かべ、真白へ視線を向ける。
「真白ちゃんが看板娘してくれたおかげで、クラス全体が盛り上がった」

「そ、そんなこと……みんなが頑張ったからで……」
 真白は小さく笑ったが、瞳は落ち着かず、肩もわずかにこわばっていた。
 ――彼女は気づいている。玲央がただの“優しい先輩”ではないことを。
 けれど断れない。真白の優しさが、彼女自身を縛っている。

 玲央はその揺れを楽しむかのように目を細めた。
「謙遜するなって。……でも、無理してないか? クラフェスって疲れるだろ」

 軽やかな声。
 けれどその目は――まるで氷のように冷たい。
 表向きの笑顔と裏腹に、俺にしか見えない蛇の光を、真白に突き刺していた。

(……ちょっと黙ってろよ、偽善者め。気遣うふりなんざ、反吐が出る。
 お前の言葉一つ一つが、真白の足を縛る鎖にしかならないって気づいてんのか?)

 俺の心臓が早鐘を打つ。
 一度だって忘れたことはない。
 ゲーム画面の向こうで、彼女が無理やり笑顔を作らされ、次第に表情を失っていったあの瞬間を。
 泣き崩れる姿。肩を震わせながら「ごめん」と呟いた、あのトラウマのCGを。

(……二度と繰り返させるか。俺がここにいる限り――絶対に)

 玲央の手が、真白の肩へ伸びかける。
 その瞬間、俺の体は考えるより早く動いていた。

「すみません、そこ俺の席なんで」

 割り込むように腰を下ろし、二人の間を断ち切った。
 一見すると冗談めかした笑みを浮かべながら、だが視線は一歩も逸らさない。

「真白のことなら、俺が一番わかってますから」

 空気が変わった。
 教室の賑やかな声が遠のいたように感じる。
 真白が小さく息を呑み、玲央が瞳を細める。
 刹那、その瞳の奥で冷たい光が閃いた。

 すぐに――また爽やかな笑顔へと戻る。
「はは、さすが彼氏くん。独占欲強いなぁ」

「……当然ですから」
 俺は穏やかに返すが、言葉の裏に乗せた意思は鋭く尖っていた。

 互いに一歩も退かない。
 表面上は軽口のやり取り。
 だが俺と玲央の間には、確かに火花が散っていた。

「おーっと、カップル漫才か?」
「はいはい、そこイチャイチャ禁止!」
 周囲のクラスメイトが笑い、緊張を茶化すように盛り上がる。

 けれど俺には、その笑い声が遠い雑音にしか聞こえなかった。
 全神経はただ、目の前の男を睨み据えることに注がれていた。

 ――これはただの冗談なんかじゃない。
 真白を守るための戦いの、最初の一歩だ。
 俺はその事実を、誰よりも深く理解していた。

 ◇◇◇

 クラフェスの喧騒がようやく幕を閉じ、校舎の明かりがひとつ、またひとつと落ちていく。
 夜風に旗の残り布が揺れ、遠くからはまだ片付けの笑い声が聞こえていた。

 俺と真白は、校門を出て帰路についていた。
 祭りの余韻を背に、二人きりで歩く道はどこか非日常的で、心臓が不自然に高鳴っていた。

「……ふぅ。やっと終わったね」
 真白が小さく息をつく。
 黒髪が夜風に揺れ、街灯の光に照らされて艶やかにきらめいていた。
 白いエプロンはもう外していたが、クラフェスで見せたあの姿の余韻が、まだ瞳の奥に残っている。

「お疲れ。真白、本当に頑張ってたな」
「ううん。私より、あなたのほうが大変だったんじゃない?」
「俺は……全然。むしろ楽しかった」

 正直な気持ちだった。
 どれだけ忙しくても、彼女が隣で笑っていてくれるだけで、心は軽くなっていた。

 しばらく歩いたあと、真白が立ち止まった。
「……あのね」

 街灯の下で振り返った彼女の顔は、少し曇っていた。
 さっきまでの笑顔の裏に隠していた不安が、ようやく顔を覗かせたように見えた。

「さっき……玲央先輩が、隣に来たとき……」
 彼女は胸の前で指を絡め、声を震わせた。
「正直……怖かった」

 息が詰まった。
 真白の大きな瞳がわずかに揺れ、普段なら見せない弱さをさらけ出している。
 その言葉は、俺が最も恐れていた現実の一端でもあった。

(……やっぱり。真白も感じてるんだ。あの男の影を。
 優しいふりして近づく、蛇みたいな視線を――)

 胸の奥に、焦燥と怒りがせり上がる。
 クラフェスの騒がしさの中ではごまかせても、こうして二人きりになれば、彼女の心に残る恐怖はごまかしようがない。

「……でも」
 真白は小さく笑みを作り、俺の袖をぎゅっと掴んだ。
「あなたがすぐ来てくれたから……安心できた」

 その一言に、胸の奥がじんわり熱くなる。
 彼女は俺を信じてくれている。
 ――だからこそ、絶対に守らなきゃならない。

「ごめんな。怖い思いさせて」
 俺は彼女の手を握り返した。
「でも安心してくれ。あんな奴の思い通りには絶対させない」

「……うん」
 真白はかすかに頷き、俺の肩に額を寄せてきた。
 その小さな温もりが、心の奥まで届いてくる。

(大丈夫だ。絶対に、守り抜く。
 二度と――ゲームの中のような結末にはしない)

 夜風に吹かれながら歩く道。
 街灯に照らされた彼女の横顔はどこか儚げで、それが逆に俺の決意をさらに強くさせていた。

 ……ただ。

 背後の校舎の上階で、一瞬だけ影が動いたように見えた。
 気のせいかもしれない。
 けれど、あの蛇のような視線を思い出すだけで背筋が冷える。

 甘い余韻と、冷たい予兆。
 相反するざわめきが胸の奥でせめぎ合いながら、俺たちは夜の道を歩き続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

家から出ない女優の幼馴染を連れ出したら、いつの間にか伝説になっていた件。

Memu(メム)
恋愛
学校に行かない引きこもりの国民的女優――水宮小鞠。 女の子に間違われる地味男子――白雲凪。 俺に与えられた役目はひとつ。 彼女を、学校へ連れて行くこと。 騒動になれば退学。 体育祭までに通わせられなくても退学。 成功率ほぼゼロの無理ゲーだ。 距離は近い。 でも、心は遠い。 甘えてくるくせに、本音は隠す幼馴染。 それでも―― 俺は彼女の手を引く。 退学リミット付き登校ミッションから始まる、 国民的スター幼馴染とのドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...