前世ゲーマーの俺、最悪の寝取られルートをハッピー学園ラブに改造中

かくろう

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第4部 クリスマスとお正月

第56話「小さな違和感」

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 冬休みが明けた放課後の教室は、どこか浮き立った空気に包まれていた。
 黒板には新年の予定が書かれ、窓際にはまだ取り外されていないクリスマスの名残りの飾りがぶら下がっている。クラスメイトたちは冬休みの出来事を持ち寄って、机を寄せ合い、笑い声を弾ませていた。

「でさ、その時にスキー板が外れちゃって――」
「やば、それ転ぶやつじゃん!」
「ほんとだってば! めっちゃ雪に突っ込んでさ……!」

 わいわいと盛り上がる輪の中心に、千佳の姿もあった。
 明るい声で身振り手振りを交えて話す彼女に、周囲は楽しそうに笑っている。いつもの千佳らしい――クラスの空気を和ませる“ムードメーカー”の姿だ。

 だが、その笑顔の奥に、一瞬だけ陰りが差した。

「……私なんかが、ここにいていいのかな」

 ほんの独り言のように零れたその言葉は、ざわめきにかき消されそうになるほど小さかった。
 すぐに千佳は「なーんてね!」と慌てて笑い飛ばし、隣の女子に話題を振る。誰も気づかないように見えた。

 ――ただ一人を除いて。

 俺はその瞬間を見逃さなかった。
 いつも快活なはずの千佳の、伏し目がちな横顔。
 唇の端が僅かに震え、目の奥が揺れていた。

(今の……冗談、じゃないよな)

 胸の奥に、ひっかかりが残った。
 けれど、すぐに「どうしたんだ?」と聞けるほど俺は器用じゃない。下手に突っ込めば、彼女はもっと笑顔で取り繕うだろう。

「蒼真君、聞いてる?」
「え、ああ……ごめん」

 真白に袖を引かれて我に返る。クラスの輪は再び明るい笑い声に包まれていた。
 ただ、その笑顔の中で、千佳の心だけが少し遠くにあるような気がしてならなかった。

(……気のせいならいい。でも、もし本当に悩んでるなら……)

 胸の奥で重く沈んだ疑念を抱えながら、俺は窓の外の冬空を見上げた。
 白い雲が流れていく。
 その一瞬の違和感が、これから何かを告げる兆しのように思えてならなかった。




◇◇◇

 夕暮れの通学路。
 冬の風が頬を刺し、吐く息は白く漂う。学校帰りの道を、俺と真白は並んで歩いていた。

「蒼真君、今日の授業、眠そうだったよね」
「……バレてたか。冬休み明けって、やっぱり体が鈍ってるな」
「ふふ、私もそうかも」

 そんな他愛のない会話をしていると――背後から明るい声が飛んできた。

「おーい! 二人とも、待って!」

 振り返ると、千佳が鞄を肩にかけ、駆け足で追いかけてきた。
 頬は赤く、笑顔はいつものように快活だ。

「やっと追いついた~! 一緒に帰ろ!」
「あ、うん。いいよね、蒼真君」
「もちろん」

 3人で並んで歩き出す。
 だが、その道中で交わされる言葉の端々に、俺は微かな違和感を覚え始めた。

「真白って、ほんとすごいよね。勉強もできるし、絵も上手だし、男子からも女子からも人気あるし」
「えっ、そ、そんなことないよ」
「いやいや、あるって! ましろんはクラスの“ヒロイン”だもん。私なんかとは大違いだよ」

 軽口のように言って笑う千佳。
 真白は苦笑して「そんなこと言わないで」と返すけれど、彼女自身は気に留めていないように見える。

 だが、俺の胸はざわついた。

(……やっぱり昨日のあれ、気のせいじゃなかった)

 千佳の「私なんか」という言葉。
 軽い冗談のように聞こえるかもしれない。けれど、そこに滲む陰りは隠せていない。
 無理に明るく振る舞えば振る舞うほど、その隙間から「本音」が漏れ出しているように思えた。

「……でも、私も頑張らないとね。クラスの端っこで“空気”になっちゃったら悲しいし」
「そんなこと、絶対ないよ」
 真白が強く言い返す。
「千佳だって、みんなとたくさん話してるし……私よりずっと場を明るくしてると思う」
「……ありがと。ましろんは優しいなぁ」

 千佳は笑ってみせたが、その声色にはどこか影が差していた。

(真白には冗談に聞こえてるんだろう。でも――あれは違う。冗談じゃなく、心の奥から出た言葉だ)

 胸の奥で確信に変わっていく。
 俺は、横を歩く千佳の笑顔を盗み見ながら、どうすればいいのか答えの出ないまま、ただ沈黙していた。

 冬空に伸びる三人分の影は、長く長く地面に落ちていた。

◇◇◇

 校門を出たあとも、俺の胸にはあの違和感が残っていた。
 千佳の「私なんか」という言葉。あれは、どう考えても冗談では済まされない。

「……蒼真君、さっきから静かだね」
 隣を歩く真白が、不思議そうに覗き込んでくる。
「あ、いや……ちょっと考え事してただけ」
「考え事?」
「……千佳のこと」

 その名を口にした瞬間、真白は小さく瞬きをしてから、少し寂しげに笑った。

「やっぱり気づいてたんだね」
「真白も……?」
「うん。今日の千佳ちゃん、ちょっと変だった。『私なんか』とか『真白はすごい』とか、そういう言葉が多くて……」

 真白は歩調を落とし、足元を見つめる。
 冬の夕暮れ、彼女の黒髪が風に揺れ、心の揺らぎをそのまま映しているようだった。

「私ね……千佳ちゃんにそう思わせちゃってるのかなって、少し怖くなった」
「真白が? そんなはずないだろ」
「でも……私と一緒にいることで、千佳ちゃんが“自分と比べちゃう”って思ったら……どうしようって」

 その声は震えていた。
 優しい彼女だからこそ、友達の心の影を、自分のせいにしてしまうのだろう。

「……真白」
 俺は立ち止まり、正面から彼女の瞳を見た。
「真白が悪いわけじゃない。むしろ、真白がいるから千佳は頑張れてるんだと思う」
「……そうかな」
「そうだよ。ただ――その頑張りが、少し無理になってるのかもしれない」

 真白はしばらく黙り、やがて小さく頷いた。
「……そっか。蒼真君がそう言うなら、信じる」
 彼女の声はまだ不安を含んでいたけれど、それでも俺の言葉で少しだけ落ち着いたように見えた。

(千佳……何を抱えてるんだ? そして俺は、どうすればあいつを支えられる?)

 答えはまだ出ない。
 けれど、真白の隣で歩きながら、その疑問が胸の奥で強く響き続けていた。

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